プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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6年生 1学期 4月

大槌の戦士

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「惑星ウォルナミスを救うだと? フン!」

 〝蘇毬そまりの戦士〟が眠るお墓の前で、その子孫、里久雄りくおさんは、仁王立ちしている。
 こんなに〝仁王立ち〟が似合う人は、なかなか居ないと思うよ。

「ワシを倒す事が出来たら、好きにするがいい」 

「……だそうだ、戦士ユーリ」

 美土里みどりさんは私をチラリと見て、ヤレヤレと、両手を上げる。
 
「私は一応、忠告したからな? どうなっても責任は取らないぞ?」 

 そう言いつつ、少し口角を上げている時点で、美土里みどりさんが〝計画通り〟とか思っているのは間違い無い。
 私としては、出来れば穏便に済ませたかったんだけど。

「いい加減にしなよ里久雄りくお!」

帰里江きりえは黙ってろ」

 帰里江きりえさんの言葉も、里久雄りくおさんには届かない。

「本当に強情だね、アンタは……」

 帰里江きりえさんも困り顔だよー。

「どうした小娘。どこからでも掛かって来い」

 里久雄りくおさんは、こちらの気も知らないで、腕を組んだまま、ガハハと豪快に笑う。
 まったく。しょうがないなあ。
 私は里久雄りくおさんの前に歩み出た。

「……ん? どうした。早く武装せんか!」

 あれれ?
 そっか、待ってくれてたんだ!
 なんか〝問答無用〟っぽいのに、そういうトコは律儀なんだね。でも……

「やー。要らないよ。このままで十分」

「なっ?! 何を言っているんだ?」 

「だから! 武装しなくても 平気だよ。私がガジェットを身に着けたら、きっと〝ズルした〟みたいになっちゃうから」 

 里久雄りくおさんが、ワナワナと怒りに打ち震える。

「フン! まあいい。お前も戦士の端くれなら、そう簡単には死なんだろう」

 端くれっていうか、一応私、戦士の頂点なんだけどなあ。

「偉大なる〝蘇毬そまりの戦士〟の怒りを思い知るがいい! 〝 魔神のつち!〟 」

 里久雄りくおさんは、背中に背負っていた巨大なハンマーを両手に握り締めた。

「おー? ガジェットの装備は〝剣〟だけじゃないんだなー!」 

 ありゃ? 大ちゃんは〝魔神の剣〟だけしか見た事が無かったんだっけ。

「師匠。ガジェットの標準装備は、剣以外にもあるんですよ。〝蘇毬そまり〟の戦士は、あの大きなつちを使っていたので、この地方のレプリカ・ガジェットにも多く採用されています」

 そう言えば、最近の人たちは、みんな剣を使ってるような気がするよ。
 ……おっと、戦闘時は集中集中。

「喰らえい! 〝竜滅りゅうめつ鉄槌てっつい〟っ!」

 私の頭上から〝 魔神のつち〟が、真っ直ぐに振り下ろされる。
 さらに、その側面から4つの噴射口が飛び出して、ジェット噴射が始まった。
 ゴウッ! という風切り音と共に加速し、ズシン! という鈍い音が辺りに響いた。

「ちょっと里久雄りくお! アンタ何て事を?!」

 帰里江きりえさんの叫び声がこだまする。

「むう……けられなんだか。殺すつもりは無かったんだがな……」

 里久雄りくおさんは、少し残念そうにつぶやいた。

「にゃー。いやいや、強いね里久雄りくおさん。思わず耳が出ちったよ」 

 腰まで、地面にメリ込んじゃったし。
 あと、受け止めた左手が痺れてる。伊達だてに〝戦士候補〟だったってワケじゃにゃいみたい。

「な、何だと?!」

 こりゃユーリちゃん、ちょっと反省だにゃあ。

「よいしょ、と」

 埋まった両足を……わわ。ズボンが汚れちったよ。
 ボコボコと、足を引っこ抜く。

「し、信じられん……ワシの攻撃を、か、片手で……?!」

里久雄りくおさん。手加減してくれてありがと! あと、ちょっと見くびってゴメンにゃさい」

 今の一撃、本気じゃにゃかった。
 本当は、優しくて強い人にゃんだね。よっし! それじゃ……

「私、本気出すよ。だから里久雄りくおさんも、本気で来て!」

 この人も、地球を守るために〝戦士〟を目指した、同志だもんね。
 そして今は、自分の信じる〝誇り〟を守ろうとしている。

「にゃー! ここで本気出さなきゃ、ダメだよにゃあ」

 ホッペを両手でパン! と叩き、ポケットからガジェットを取り出した。

「ガジェット? 師匠。武装しなくても、戦士ユーリは負けないでしょう」

「ああ。多分な。だがユーリは里久雄りくおさんを〝戦士〟と認めたんだ。だから、全力でその〝想い〟と向き合うつもりだぜー」

 さっすが大ちゃん。分かってくれてる!

「武装!」

 まばゆい光が辺りを照らす。
 一瞬で、視界がガジェットしの物に変わり、右上に、いつものアナウンス……ガジェットのコンディション、周囲の気温、気圧、風向きと風速、体温、血圧、心拍、今日の運勢が流れていく。
 最後に一言〝お前は独りじゃない〟の赤文字が表示されて消えた。
 にゃはは。愛があふれてるにゃあ!

「な、何だ? そのガジェットは?!」

 里久雄りくおさんは、数歩後退あとずさってつちを構え、戦闘態勢を取り直した。
  そりゃ驚くよにゃー。このガジェット、原型とどめてにゃいもん。

「これが、私の戦装束いくさしょうぞく。大ちゃんの愛の証にゃのさー!」

「いやいやいや、ヤメろユーリ! そういう事を外で叫ぶんじゃない!」

 もー! 大ちゃんったら……

「……照れてるんじゃないからな? 恥ずかしがってるんだぜー?」

 むむむ。さすが大ちゃん。読心術と先読みがスゴい。
 っていうか、照れるのと恥ずかしがるのは、ドコが違うんかにゃー?
 ……ま、いいか。

里久雄りくおさん。私も手加減にゃしで行くよ! 〝魔神の爪〟」 

 私の両腕から爪が飛び出した。
 あっと、いっけねぇ。右手を使うと、ノームの〝追加効果〟が発動しちゃうから左だけで。
 ……あれ? それって〝手加減〟かにゃ?

「ぬう……その威圧感。伊達だてに戦士を名乗っては居ないという事か」

 里久雄りくおさんは、つちを頭上でグルリと回してから、両手で中段に構え直す。

「だが、ワシは負けん! 負ける訳にはいかんのだ!」

 ゴウッ! という音が響き、土煙が舞った。
 スゴいにゃあ! あの重そうなつちを振り被りながら、あのスピードで間合いを詰めて来るにゃんて。
 でもね。私も、負けられにゃいんだ。惑星ウォルナミスを……みんにゃを助けるって約束したから!

「砕け散れ! 〝終末しゅうまつ打鐘だしょう〟っ!!」

 ロケット噴射で勢いを増したつちが、里久雄りくおさんを軸にクルリと回転して真横から迫る。
 これが里久雄りくおさんの、本気!

「にゃああああああっ!」
 
 私の爪が、つちを起点に里久雄りくおさんのガジェットを切り刻んだ。

「な、何ぃいいいいいい?! う、うがああああああっ!!」

  里久雄りくおさんの体が宙を舞い、ズタズタに引き裂かれたガジェットの破片が周囲に転がっては、粒子となって消えてゆく。

「く、クソッ……! 無念だ。ワシは戦士の墓を……誇りを、守れなかった……!」

 大の字に寝そべって、里久雄りくおさんは悔しそうな顔をしている。

「にゃー。〝蘇毬そまりの戦士〟を尊敬しているのは分かるよ? けど、過去に縛られて未来を見ないのはダメだよ」

「過去に……縛られて?」

  里久雄りくおさんが、ハッと目を見開く。

「私たちが守らなきゃならないのは〝今まで〟じゃなくて〝これから〟だから。ね?」

「なるほど……そうか。お前は、本物の〝ウォルナミスの戦士〟だったのだな」

 そう言った後、 里久雄りくおさんは静かに目を閉じて、もう一言だけ続けた。

「敵うはずが無い」

 悔しそうな声。だけど、その表情は、とても晴れやかだった。

「あーあ。大破ってもんじゃ無いな。これはもう直せないぞ」

 美土里みどりさんが、大きなため息をついたあと、粉々になった 里久雄りくおさんのガジェットの欠片かけらを拾い上げて、苦笑いしている。

「あー。そのレプリカ・ガジェットは、もう必要無いと思うぜー?」

「え? 師匠、どういう意味ですか?」

 大ちゃんの言葉を聞いて、美土里みどりさんは不思議そうな顔をしている。
 やー、大ちゃんの言う通りだよ。きっと里久雄りくおさんには、もうは要らないと思う。





 >>>





 墓石を退けると、そこには小さな〝つぼ〟が置かれていた。
 これが〝蘇毬そまりの戦士〟の遺骨か。 

「戦士よ……」

 てのひらの土をはたく私の隣には、里久雄りくおさんは神妙な顔をして立っている。
 全員で手を合わせた後、そっと〝壺〟を持ち上げると、その下の窪みに、ガジェットが置かれていた。

「大ちゃん。どうかな?」

 もしこのガジェットを、過去に誰かが分解しようとしていれば〝トラップ〟が発動して、修復不可能になっているかも知れない。

「ああ。大丈夫だ。直せそうだぜ!」

 やった! 良かったよー! これでまた一歩、惑星ウォルナミスの解放に近付いたんだ!

「よし。それでは早速持って帰って、修理を……」

「待て」

 美土里みどりさんの言葉の直後に、墓石を元に戻し終えた里久雄りくおさんがボソリと言った。 

「願わくばワシにも、そのガジェットが生まれ変わるさまを、見せてもらいたい」

「やれやれ。機材も何もないこんな田舎で、修理など出来るワケ無いだろう」 

 里久雄りくおさんの言葉を聞いた美土里みどりさんは、呆れ顔で首を横に振った。
 けど、大ちゃんは里久雄りくおさんに向き直ると、ニッと笑って言ったんだよ。

「いいぜー! 今すぐ直すからなー!」

「師匠っ?!」

 美土里みどりさんが驚いている。
 やはは。大ちゃんなら、そう言うと思ったよー。 

「今ここで修理するのですか?! 危険です師匠! こんな屋外で精密なガジェットの修理など……クリーンルームとは言わないまでも、せめて室内で……」

「あー、全然大丈夫だ。チャッチャッとやっちまうぜー」

 大ちゃんはリュックサックから、工具といくつかの小箱を取り出すと、ガジェットの分解を始めた。 
 相変わらずスゴい手の動き。
 私の動体視力でも、何をやってるのかさっぱり分からない。 

「なんと見事な……!」

「あんた、スゴいんだね」

 里久雄りくおさんと帰里江きりえさんは、目を見開いて驚いている。

「おー、でっかいハンマーだなー! こりゃスゴいぜ!」

 分解されたガジェットを、大ちゃんが目を細めて見ながら言う。
 武装前で展開されていないのに、どうして大槌おおつちが見えるんかな?

「折角だから、強度を上げて、取り回しを良くしておくぜ。あとは、自己修復機能もあった方がいいな」

「スゴいです、師匠! 何回見ても惚れ惚れします! ああっ?! あハァアアン! そこを……そんな風にイジって?!」 

 美土里みどりさん、よだれ! よだれ!

「よーし。出来たぜ! あとは……ユーリ、任せた!」 

「やー、任せて!」

 いつの間にかふたが戻されたガジェットを受け取る。
 ふっふっふ。これは、美土里みどりさんだって絶対に邪魔できない。
 私と大ちゃんだけの共同作業なのさ!

「目覚めて。ウォルナミスの欠片かけら!」

 大ちゃんのてのひらに乗ったウォルナミス・ガジェットが、オレンジ色に輝く。

「やー! これでガジェットは、間違いなく復活したよー!」

 ガジェットから、ウォルナミスの欠片の、温かい躍動が伝わって来る。

「…………そのガジェット、ワシに寄越よこして貰おう」

 突然、里久雄りくおさんが右手を差し出して言った。
 そっか……やっぱりそうなんだね。

「な、何なんだ?! しつこいぞ! まだそんな事を言ってるのか?!」

 美土里みどりさんが、焦った口調で里久雄りくおさんに詰め寄る。

里久雄りくお! それを墓に戻して蘇毬そまりの戦士が喜ぶと、本気で思っているのかい?!」

 帰里江きりえさんも、怒鳴るような口調でまくし立てる。
 でもね? きっと、さっきまでの里久雄りくおさんとは違うんじゃないかな。

「そうではない」

「なに? では、何のつもりだ?! このガジェットは、惑星ウォルナミスを守る戦士に渡す物だ。長老命令は聞いたのだろう!」

 食って掛かる美土里みどりさんに、里久雄りくおさんが穏やかな表情のまま続ける。

「ワシが行く」

「……は?」

 美土里みどりさんが、口を開けたままフリーズしてしまった。

「人手不足なのだろう? だから、惑星ウォルナミスにはワシが行ってやる」

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