プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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6年生 1学期 4月

酒宴

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 いや、飲んでないからな? もちろん、お酒は二十歳になってからだ。
 俺だぜ。岩手県に出張中の九条大作くじょうだいさくだぜー。
 蘇毬そまりの里で、ガジェットを手に入れた俺たちは、自称〝墓守〟の里久雄りくおさんと和解したんだ。

「……で、こうなるんだよなー」

 俺の目の前では、大波神社でよく見掛ける〝大宴会〟が繰り広げられていた。

「にゃっははは! 大ちゃん、飲んでるー?」

「コーラを少々な? っていうかユーリ……お前、オレンジジュースで、よくそんなにテンション上げられるなー?」

 俺には無理だ……って、いやいや。〝お酒を飲んだら俺のテンションがどれだけ上がるか〟なんか知らないぜ? 俺は生まれてこの方、一滴も飲んだこと無いからな。
 だが好都合な事に、分かりやすい酔っぱらいの見本なら、この宴会場にいっぱい居る。この町に住んでいるウォルナミス関係者が、ほぼ全員集まって来ているらしいからな。
 で、その人たちが既に、出来上がっちまってるんだ……おいおい。みーんな、耳が出ちまってるじゃんかよ。
 ……ウォルナミスの人たちって、どうしてこう〝ドンチャン騒ぎ〟が好きなんだろうな。 

「大ちゃん、楽しんでる?」

「ああ、帰里江きりえさん。こんなに盛大に歓迎してもらって嬉しいぜ。ありがとなー!」

 今日の宴会は、俺とユーリの歓迎会、美土里みどりさんの帰郷記念、そして里久雄りくおさんの〝出征しゅっせい〟を祝して……だそうだ。

「お腹いっぱい食べてね! まだまだいっぱいあるから!」

 そう言って、帰里江きりえさんは、パタパタと台所の方へ行ってしまった。
 ……あー。まだまだ、いっぱいあるのかー。

うわさは聞いてたけど、想像以上だなー」

 次から次へと運ばれて来るのは、色とりどりのもち
 岩手には〝餅振もちふい〟っていう、もてなし方があるんだぜ。お客さんには、ありとあらゆる種類のもちが、惜しみなく振る舞われるんだそうだ。
 ……いや、何だか俺の知ってる風習と、ちょっと違うような気がするんだが。

「さあ、次はこちらの、ひき肉をたっぷり包んだもちを!」

「このもちは、蜂蜜に3年間漬け込んでから、かえでの樹液で12時間も煮詰めて……」

「九条さん、そのもちには、ターメリックやガラムマサラなど、37種類のスパイスをブレンドしておりまして……」

 岩手の人に怒られるな。
 ……お? このもちはパッと見た感じ、普通だなー。

「あ、違いますよ! それは、周囲の餅を丁寧にがしてから、中のチョコレートをお召し上がり下さい!」

 それ、もうもちじゃないだろー?

「どんどん食べて下さいね! 今日は町の青年団が、庭でもちをついてくれてますから」

 ……おー! そう言えば、さっきからペッタンペッタン聞こえて来ているぜ。

「これは〝もちつき〟の音かー」

「あ、師匠。ご覧になりますか?」

 もちをモシャモシャと頬張ほおばっていた美土里みどりが、立ち上がって俺の手を引く。
 ……ってお前の食ってるの、さっきの蜂蜜楓ハニーメイプル餅だろ! あーあー。手がベッタベタになっちまったぜー。

「こっちです!」

 ふすまをひとつ、ふたつと開け、美土里みどりが案内してくれた先は縁側えんがわ
 そこでは、埴輪はにわが2体、巨大なきねに大きなつちを振り下ろして、もちをついていた。
 なるほど! この地方ならではのガジェット装備〝大槌おおつち〟を使った餅つきか。これなら、しっかりとした良いもちがつけそうだ……って!

「いやいやいや! ダメだろー!」

 ペタンペタンと餅をついている、レプリカ・ガジェットに身を包んだ地元の青年団員が2人。
 そして、はい、はい、と合の手を入れつつ、慣れた手つきでリズミカルに餅をひっくり返している女性も、まさかのガジェット姿。
 そこそこ広い道路に面している庭は、低い垣根かきねで隔たれていて、つまりは……

「道から丸見えかよー!」

 どうなってるんだー? 確か入り口は立派な門と高い塀があったよなー?! なんで裏はガードが甘々なんだ?!
 ガジェット姿の青年たちを横目に、笑顔で通り過ぎて行く通行人。

「おお、精でっこだな。おぎゃくさんだが?」

「んだ。神奈川がらだ」

 そんな気さくに?! どういう事だよー!
 ……ああ! そうか。なるほど、なるほど。

「あの通行人たちも、ウォルナミス人なんだな」

「いえ師匠。あれは全くの一般人です。混じりっけ無しの地球人ですよ」

 やっぱダメじゃんかよおおおおお?!
 どう見ても、でっかい埴輪なんだぜ? 何で大騒ぎにならないんだー?

「あはは! ここいらじゃあ、ガジェット姿なんて珍しくも何とも無いんだよ。まあ〝なまはげ〟みたいなもんだね」

 帰里江きりえさんが愉快そうに笑う。よく見たら、やっぱこの人里久雄りくおさんに似てるよなー。さすがは双子。
 いや、っていうか〝なまはげ〟だって珍しいだろー? もし秋田に行って、町中まちなかを〝なまはげ〟が歩いてたら……ん? いや、別に変じゃないな。少なくとも、通報はしないかもしれないぜ。

「ガハハ! 食ってるか、大作君!」

 そこへ、豪快に笑いながら里久雄りくおさんが近付いて来た。やっぱり似てるぜー。 
 右手に一升瓶いっしょうびん、左手には餅を5~6個鷲掴わしづかみだ。何でそれが似合うんだ、この人は。

「しかし……本当に行くのかい、里久雄りくお

「ガハハハハ! こんな狭い星にゃ、ワシの活躍ができる場所は無さそうだからな!」

 縁側から夜空を見上げて、里久雄りくおさんは鼻の頭をちょっといてから、ニッと笑って続ける。

「ちょっと星でも救ってやるわ! ガッハッハ!」 

 帰里江きりえさんは、小さなため息を一つ。そして……

「まったく。言い出したら聞かないんだから」
 
 やれやれといった表情で里久雄りくおさんを見つめて、静かな優しい口調で言ったんだ。

「私は、付いて行ってやれないよ?」

「分かっとる。蘇毬そまりの里の事は頼んだ」

 とても穏やかな表情の2人。
 そこへ、ワイワイと酔っ払った男女が現れた。
 おいおい。全員、耳が出ちまってるなー。 

里久雄りくお! お前、ガジェットを貰ったそうじゃないか!」

「ガハハ! いや、長老の正式な許可は貰って無いぞ! 暫定だ、暫定!」

 ちょっと照れたように、里久雄りくおさんが笑う。
 でもなー? もうサイズも仕様も、里久雄りくおさん用に仕上げちまったんだよなー。 
 〝声紋判定〟も、里久雄りくおさんのでなきゃ、動作しないんだぜ? 
 ……まあ、簡単に作り直せるんだけど。 

「見せてくれよ里久雄りくお! 俺たちが夢見た、戦士の姿を!」

「そうだそうだ! 勿体振らずに、武装しろ! 武装!」

 なんだかなー。もしかして〝一曲歌え〟くらいのノリなのかー。
 この荒々しいというか、雑な感じ……やっぱりこの人たちも、ウォルナミスの血を引いた〝戦士〟の一族なんだなー。 
 猫耳の大人たちは、少年少女のように瞳をキラキラさせながら〝武装っ! 武装っ!〟と、物騒な声を上げている……あ、いや。なんかダジャレっぽいけど違うからな? 

「ガハハ! 仕方が無い。そいじゃあ一発、披露してやるか!」 

 そう言うと里久雄りくおさんは、縁側から庭へと飛び降りて、ガジェットを取り出した。 

「おーい、みんな! 里久雄りくおが武装するぞ!」

「何だって?! ちょっと待って! 待ってってば!」

里久雄りくおさんの新しいガジェットですって! 早く早く!

 ぶは! やっぱり〝おい、アイツが歌うぞ!〟みたいなノリじゃん。
 老若男女、猫の耳が付いた面々が、酒や餅を手に、ワラワラと集まって来る。

「よっしゃ! 見てろよ! これがワシの新しいガジェットじゃあ! 武装!」

 里久雄りくおさんは、ガジェットを頭上高く掲げて叫んだ。
 瞬間、まばゆい閃光が闇夜を照らした。舞い散る光の粒子が里久雄りくおさんに纏わり付き、戦士の姿を形成して行く。

「スゲェ! な、何だよ、それ?!」

「……か、カッコイイ!」

 もちろん、俺の改造にスキは無いぜー?
 カラーリングは、一緒に戦う里人りひとくんと同じ、白を基調に黄色と赤のラインが入った色鮮やかな仕上がり。
 里久雄りくおさんに合わせたビッグサイズだが、空力抵抗を極力抑えた流線型のボディは、近未来的でスタイリッシュ。
 肩に用意したシールドには〝RIKUO〟と文字を入れておいた。

「こ、こんなガジェット、見た事ないぞ」

「素敵っ! とっても強そう!」

 ギャラリーのみんなも、気に入ってくれたみたいだなー! 
 ……んー? 里久雄りくおさんが、全然動かないぜ。どうしたんだ?

「おい、里久雄りくお? どうしたんだ?」

「腹でも痛いのか、里久雄りくお

 猫耳の男性たちが里久雄りくおさんに声を掛けるが、返事は無い。
 腕を組んでうつむいたまま、微動だにせず立ち尽くしている。
 ……そして、しばらくの沈黙の後。

「みんな、聞いてくれ!」

 突然、里久雄りくおさんが顔を上げて叫んだ。

「ワシは、この星のために戦った、蘇毬そまりの戦士を、心の底から誇りに思っている。だから、この地で戦士の墓を守って暮らす事こそが、ワシの使命だと思っていた」

 分かるぜ。もちろん俺だって、命懸けで地球を守ってくれたウォルナミスの人たちを尊敬している。

「……だが今日、ワシは戦士ユーリの言葉で気付いたのだ。偉大なる蘇毬そまりの戦士が守ってくれたのは、この星であり、それはつまり、ワシらだ! 戦士はワシに〝墓守り〟をさせるために戦ったのか? ……違う! 断じて違う!」

 里久雄りくおさんは拳を握り締め、それを高々と突き上げる。

「だからワシは、蘇毬そまりの戦士が〝命を懸けた理由〟となるために、宇宙へ行く! ワシが惑星ウォルナミスを救えば、それは蘇毬そまりの戦士が惑星ウォルナミスを救ったという事になるのだ!」

 拍手と歓声が沸き起こる。帰里江きりえさんと美土里みどりも、笑顔を浮かべて手を叩いているぜ。
 伝説の戦士に箔を付けるために宇宙へ行くなんて、さすがウォルナミスの一族はスケールがでっかいよなー! 
 
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