6 / 252
第一章 色無しの魔物使い
006 色無しの魔物使い(前編)
しおりを挟むマキトが判定されたのは【色無し】の魔物使い。
【色】がない――すなわち才能がないと見なされて当然を意味する。この結果は決してあり得ない話ではない。しかし、何百人に一人の確率でしか現れないとも言われているのだ。
まさに悪い意味でのレアケースとも言える。
故にレスリーは笑い飛ばしていた。
まさかここまで下の者がいたとは思わなかった――そんな驚きとともに。
「ひゃーっはっはっはっ! マジでウケるぜ、まさか【色無し】なんてよぉ!」
もう何回このような言葉を繰り返されただろうか。レスリーの笑いは未だ止む様子を見せない。涙を流して指をさしながら笑い続けるその姿を、マキトは無表情かつ無言で見据えていた。
そこにはどんな感情が込められているのか、そもそも感情があるのか。
それは他の誰も知らないことだった。ついでに言えば、知ろうとすらしていないほどであった。
色がない子供が現れた――それだけで噂話のネタは、十分に事足りるからだ。
「聞いた? 【色無し】の子ですって!」
「一体どこの子かしら?」
「こんなことってあるんだな。【色無し】なんて初めて聞いたぞ!」
「哀れなもんだな。夢が絶たれちまうなんてよ」
あちこちから聞こえてくる囁き声。口では哀れんでいるが、それはあくまで、本人たちが満足しているだけ。
人の気持ちを想う――それを言い訳にしている都合のいい姿そのもの。その言葉一つ一つが、武器となって容赦なく突き刺さることを、果たして周りはちゃんと気づいているのだろうか。
そんな中マキトは、どこまでも無表情であった。
我慢している様子はない。体も手も全く震えておらず、肩に力も入っていない。
未だ嘲笑っているレスリーの姿を、ただ見ているだけであった。
「よぉ、レスリー」
その時、彼の名を呼ぶ声が聞こえた。
「どうしたってんだ? そんなに大声で笑っちまってよ」
「兄ちゃん!」
レスリーが勢いよく振り向くと、冒険者のブルースが、ドナやエルトンを引き連れて立っていた。
(兄弟か……)
マキトは無表情のまま、そう分析する。しかし興味は示していなかった。無言で事の成り行きを見守っていると、レスリーがブルースに耳打ちしている。
しっかりと嘲笑を含めた視線をマキトに向けた上で。
「――ハハッ! おいおいマジかよ? よりにもよって【色無し】とはなぁ!」
ブルースが傑作だと言わんばかりに大声で笑い出す。彼の後ろに控えている仲間二人もまた、クスクスと笑っていた。
正直、マキトは途轍もなくうんざりしていた。
あと何回これを繰り返し見なければならないんだ、いい加減帰りたい――そんな気持ちとともに顔をしかめる。
しかしブルースは、それをマキトの悔しさと感じ取ったらしく、更にニンマリと唇を釣り上げた。
「なんだよ、その表情は? ボウズが才能なしと判断されたのは事実だろ? ならばそれをしっかりと受け取って然るべきだろうが」
「そーだそーだ。センパイである兄ちゃんに歯向かうんじゃねぇよ!」
兄の後ろに隠れながら調子に乗る弟――まさに典型的な構図とも言えるだろう。
無論、マキトからすれば『何言ってんだコイツらは?』程度でしかなく、そもそも彼らの相手をするつもりすらない。ただ単に、立ち去るタイミングを完全に見失っているだけであった。
ついでに言えば、無言でいるのも反論が面倒なだけである。
誰から何を言われようが知ったことではない――それほどまでに、マキトは目の前の相手に対して興味も関心もなかった。
「マキト!」
そこにアリシアが駆け寄ってくる。手持ち無沙汰になって散歩していたら、マキトの噂を聞きつけて、慌てて戻って来たのだった。
軽く息を切らせており、相当心配していたことがよく分かる。
もっともマキトからしてみれば、どうしたんだろうという疑問以外の何物でもなかったのだが。
「――マキトに何してるんですか?」
アリシアはブルースに対し、キッと強い視線で睨みつける。しかしブルースは、どこまでも涼しい笑みで受け流していた。
「そこの【色無し】クンに、先輩である俺から現実を見ろと教えたまでさ」
「そーだそーだ。外野は引っ込んでろってんだーっ!」
またしてもレスリーが野次を飛ばすが、アリシアはそれに反応せず、マキトのほうを振り向く。
「ねぇ、マキト。この人たちに何もされてない?」
「別に」
マキトは淡々と答える。我慢している様子もなかったため、恐らく本当だろうとアリシアは思った。
そこに――
「おいおい、流石にその態度はないだろ? お前みたいな【色無し】じゃギルドに登録することもできないって、ちゃんと教えてやろうとしてるんだ。むしろ親切だと思ってほしいくらいなんだがねぇ」
ブルースが大げさに肩をすくめながら、演技じみた口調で言う。
「冒険者の立場ってのは、なにより【色】に左右される。まぁ言い換えれば、どんなに望んだ職業を得られなかったとしても、【色】さえ良ければ大抵どうとでもなっちまうもんだ。そしてその逆もまた然りってな」
要するに、職業と自身の【色】が噛み合っていなければ、どんなに頑張っても空回りしてしまうことが多くなり、ギルドの中でも立場が上がり辛い――ブルースはそう言っているのだ。
命を懸けることが基本となる冒険者は、そう簡単になることはできない。死人を簡単に出したくないからだ。
そのためにギルドは、冒険者登録をする際に、その者の【色】を確認する。
【色】次第では、どんなに良さげな職業の適性を得ていたとしても、ギルド側からお断りという名のお祈り言葉をもらい受けてしまう。
それは決して珍しくないことであり、ある種の避けては通れない第一関門とも言われているのだった。
「そこの【色無し】ボウズは、どんなに頑張ってもギルドに登録はできない。これは意地悪とかじゃねぇ。正式なルールなんだ。悪いことは言わないから、潔く夢を見るのは諦めたほうがいいと思うぜ?」
「そーだそーだ。優秀な冒険者である兄ちゃんがこう言ってるんだぞ!」
レスリーがまたもや調子に乗って叫ぶ。完全に楽しんでいる様子であり、もはやマキトたちは真面目にそれを聞くつもりはなかった。
しかし――
「大体、魔物使いは魔物をテイムしてこそナンボだろ! お前みたいな【色無し】にそれができるってのかよ!」
その言葉だけは、しっかりと耳に届いた。
言われてみれば確かにと、周りも次々と共感を示していく。
そもそも【色無し】に魔物を従えることができるのか――そんな素朴な疑問が新たに生まれ、再びマキトに注目が集まる。
「どーなんだよ? 答えてみろよ! この【色無し】の魔物使いヤロウが!」
レスリーの挑発じみた言葉には興味なかったが、正直マキトもそれについては確認したいところであった。
ひとまずここはどう答えるべきか――それを考えていたその時だった。
「――ポヨッ!」
聞いたことのある鳴き声が聞こえてきた。
10
あなたにおすすめの小説
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
異世界での異生活
なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。
最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
病弱な僕は病院で息を引き取った
お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった
そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した
魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる