透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

文字の大きさ
16 / 252
第一章 色無しの魔物使い

016 大空の散歩

しおりを挟む


 ばっさ、ばっさ、ばっさ、ばっさ――――
 ドラゴンが大きく翼を羽ばたかせ、やがてその大きな体が宙に浮かぶ。背に乗ったマキトとラティは、突然の浮遊感に驚きを隠せない。ディオンが後ろに乗って支えてくれているとはいえ、やはりどうしても不安を感じてしまう。

「下を見るな。上だけを見ていろ」

 後ろから聞こえてきたディオンの言葉に、マキトは反射的に上を向いた。
 段々と空が近づいてくる。森の木々がまるでトンネルのようであり、不思議な感覚に包まれていた。
 そして遂に――木々を抜けた。

「わぁ……!」

 その広大な世界に、マキトは目を見開いた。
 この数日間、ずっと森の中でしか過ごしてこなかった。否――そもそもこれまでの人生で、こんなにも広がっている世界を見たことがあっただろうか。
 ずっと木々や建物に遮られた空間でしか生きてこなかった。
 その先に何があるのかと考えても、答えが出てくることは全くなかった。
 故に考えることを止めていた。どうせ見れることはないのだからと。ずっと見上げながらその場で留まり、過ごしていくのだろうと。
 正直、異世界に来てからも、それは変わらないと思っていた。
 新しい出会いにワクワクこそしてきたが、そこから先が全く見えてこない。魔物たちに囲まれて森で楽しく過ごす――そしてどうなっていくのかが、頭の中に浮かんでこないのである。
 マキトはそれを疑問に思ったことすらない。
 何故なら本人からしてみれば、当たり前なことだからだ。
 自分の足で前に進む、諦めてその場に留まる――もはやそれ以前の問題。そもそもそう言ったことを考えたことすらあるのかどうかが、怪しいほどに。
 だからこそ、言えることがある。
 マキトが何かに対して、ここまで言葉を失うほど感動することは、もしかしたら生まれて初めてなのかもしれないと。
 何も考えられず、目を輝かせて夢中となる。
 それがマキトにとって、どれほど珍しいことなのか――残念ながら今、それを理解できる者は、当の本人を含めてこの場にはいないのであった。

「うわー、スゴイのですスゴイのですー♪」

 ラティもラティで率先してはしゃいでいるため、マキトの見たことがない笑顔に気づいていなかった。
 それどころではないと言ったほうが正しいのかもしれない。
 目の前に広がる光景が、マキトにとってもラティにとっても、壮大極まりないレベルであったのは間違いないのだから。

「ずっと森が広がってるのかと思ってましたけど、平らなところとか山とかもたくさんあるのですー♪」
「なんだ、ラティ君は知らなかったのか?」
「森から出たことないので」
「あ、そゆこと」

 ディオンはアッサリと納得する。どんなに当たり前のことでも、全く触れないまま過ごしてきたのならば、当たり前でなくなるのは仕方がないことだ。
 当たり前なら誰もがしている――そうとは限らないのだと、認識するべきだ。

(文化の違いってのも、結構多いからなぁ)

 実際、ディオンもそれで戸惑った経験は、数えきれないほどにある。そこから恥ずかしい出来事に発展したことも、決して少なくない。
 ふとここで、ディオンはマキトも感激の表情を浮かべていることに気づく。

「マキト君もどうだ? 大空から見る光景は凄いだろう?」
「うん、凄い!」

 まるで幼い子供の如く叫ぶ。大人しいかと思いきや、こんな一面もあったのだとディオンは思わされた。
 すると――

「ずっと森が広がってるのかと思ってたけど、そうでもなかったんだ」

 マキトは周囲を見渡しながら言う。まるで初めてその事実を知ったと言わんばかりの口調であり、それがどうにもディオンは引っかかる。

「キミも、この森から出たことがないのか?」

 差し当たりのない質問のつもりだった。それ自体は珍しくもないだろうし、育った環境も人それぞれだからだ。あくまで小さな確認に過ぎない。
 すると――

「出たことないってゆーか……そもそもよく知らないって感じかな」
「マスターはこっちの世界に来たばかりですもんね」
「あぁ」

 大空の光景に夢中となっていたせいか、マキトとラティは、ありのままのやり取りを交わしてしまう。
 ディオンが言葉を失うと同時に、マキトも気づいた。

「あっ――これ、あまり言わないほうが良かったかもな」
「ふや? えっと……あぁっ! そーいえばそうだったのですー!」

 その瞬間、ラティが慌てた表情と化して、後ろのディオンに詰め寄る。

「お願いなのです。今のはどうか聞かなかったことにしてほしいのですぅ!」
「……すまん。それは流石に無理だ」

 まさに時すでに遅し。マキトが訳ありなのは、恐らく間違いないだろうとディオンは思っていた。
 このまま聞かなかったことにするべきか――そう考えていた矢先に、マキトのため息が聞こえていた。

「まぁ、いいや。ディオンさんにはホントのことを話してしまおう」

 そうマキトが独り言の如く提案すると、ラティが戸惑いの様子を見せた。

「い、いいのですか?」
「ここまで来たら隠すの面倒だし」
「……ゴメンなさいなのです」
「気にすんな。多分、どっかで俺も喋っちゃってたよ」

 マキトがラティの小さな頭を優しく撫でる。吹き付ける冷たい風も、なんとなく心地いい気がしていた。
 そこに黙ってやり取りを聞いていたディオンが、口を開いてくる。

「話してくれるのか?」
「まぁ、信じてもらえるかどうかは分からないけど」
「それは俺が決めさせてもらう。とりあえず話せるところまで話してくれ」
「りょーかいっす」

 マキトは頷き、そして語り出した。自分が違う世界からやってきたことを。
 何故そうなったのか――それ自体が全く判明していないため、話す部分も自ずと少なくなる。故に割と短い話で終わってしまった。
 聞き終えたディオンも、重々しい表情で目を閉じていた。

「うーむ……とりあえず事情は分かったが、なんとも理解しがたいな」

 正直、疑いの気持ちはある。しかしマキトたちが嘘を言っているようには、全く感じられなかった。
 説明したくとも、説明のしようがないくらいに分からない――それが逆にリアルさを引き出しているようにも感じられる。異世界召喚も存在していることは確かであるため、信じられないと断言はできなかった。
 なによりも――

(こないだの強い魔力の正体は、恐らくマキト君で間違いないな。まさか異世界召喚とは思わんかったが)

 ディオンがわざわざこの森に訪れたのも、数日前の光の柱の正体を突き止めるためだったのだ。知り合いに会いに来たというのもまんざら嘘ではないが、あくまでついでのつもりでしかない。
 つまり、彼の疑問が早くも解決したということになるのだが、更なる疑問が彼に降りかかることとなり、再び頭を悩ませてしまう。

(どっかの国がこっそり異世界召喚儀式を執り行ったのか? そんな形跡はどこにもなかったはずだが……いずれにしても、ただの少年ではなさそうだな)

 ディオンはそう自己完結しつつ、マキトたちに改めて告げる。

「マキト君、そしてラティ君。この件はあまり人には話さないことを勧める。場合によっては厄介なことになりかねんからな」
「そうですよね。アリシアにも同じことを言われてたのです」
「ならば尚更だな。これからは気を付けるように」
「は、はい……」
「分かったのです」

 やや戸惑い気味にマキトとラティが頷いたところで、ディオンもよろしいと再び笑みを浮かべた。

「話はここらへんにしておこう。大空の散歩の仕切り直しといこうじゃないか」

 そしてディオンは、明るい声でそう叫びながら、相棒に合図を送る。
 ドラゴンが大きく旋回し、再びマキトとラティに大きな感激と心地良さが届けられていくのだった。
 マキトとラティは改めて教わった。
 世界というのはどこまでも広く、そしてどこまでも続いていくのだと。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...