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第一章 色無しの魔物使い
022 結果の果て
しおりを挟む「すげぇ……呼吸も落ち着いて来てるし、本当になんとかなっちまった……」
エドワードは体を震わせ、そして目に涙を溜めたまま、再びガバッと跪きながら頭を下げる。
「本当にありがとう、アリシア! キミは仲間の命の恩人だ!」
「いえ。今回は偶然に助けられただけですから。同じことをやれと言われても、恐らくできないと思います」
謙遜ではなく本気だった。ラティの魔力が必要なことに加え、あの時はラティもあり余った力を発揮していたからこその成功だった。もし普通の状態でそれができるかどうか――今の段階では想像もつかない。
「それでも、感謝してもしきれんことに変わりはないさ! アリシア、キミは本当に凄い錬金術師だ。俺はキミのことを見直したよ!」
「はぁ、それはどうもです」
評価を得られたことは確かに良かったのだが、やはりどうしても嬉しい気持ちが湧いてこない。
抱いているとすれば、戸惑いと疑問ばかりであった。
しかし、いくら考えても、アリシアの中で答えがまとまることはなかった。
(分かんないなぁ……一体どうして、こんな結果が得られたんだろ?)
この結果は、魔力枯渇の仕組みに関係していた。
魔力を持つ者は、その体内に魔力を蓄える『器』が存在する。ウィンストンの器はまだ鍛えきれてないが故に脆く、無茶な転移魔法によって壊れてしまい、体内に魔力が蓄えられなくなってしまっていたのだ。
これこそが、魔力枯渇の仕組みである。
その原因とも言える器が、特殊な魔力ポーションにより『修復』されたのだ。
ウィンストンは無事に魔力を蓄えられるようになり、九死に一生を得る結果を得たのである。
間一髪であることは確かであった。
あと少し遅ければ、間違いなく手遅れとなっていたからだ。
エドワードの目から涙が出る。大切な仲間が助かったことが、今はとにかく嬉しくて仕方がなかった。
(とにかくまぁ、助かってなによりだわ。今はそれで良しとしておこうかな)
そう思いながらアリシアは、もう一つの小瓶を取り出し、泣いて喜ぶエドワードの元へ持っていく。
「後でこれを飲ませてください。魔力と体力を回復させる魔力ポーションです」
「お、おぉ!」
新しい子瓶を手渡されたエドワードは、それを大事に両手で受け取る。
「ここまで世話になって、何も返さないわけにはいかないなぁ。でも――」
エドワードは悔しそうに顔を歪め、ギュッと目を閉じる。
「生憎今の俺たちは、スッカラカン状態もいいところでなぁ……」
「別にそんなの気にしなくても――あっ!」
遠慮しようとしていたアリシアだったが、あることを思いつき笑顔を見せる。
「それなら一つ、お二人に頼みたいことがあります。今渡した魔力ポーションを、他の冒険者さんたちに宣伝してほしいんです」
「え? そ、そんなことでいいのか?」
ポカンと呆けるエドワードに、アリシアはニッと笑う。
「それこそが新しいポーションの成果なんですよ。量産も可能だから、後でいくつか錬金して渡しますね」
「――あぁ、それならお安い御用だ。実物があるなら話も早い。任せてくれ!」
「よろしくお願いします」
アリシアとエドワードがガッチリと固い握手を交わす。
その様子を見ていたマキトとラティ、そしていつの間にか彼の足元に来ていたスライムが、嬉しそうな表情で笑い合うのだった。
その後――アリシアの錬金した新作の魔力ポーションが広まることとなる。
魔法を扱う冒険者たちを中心に良い評価が集まり、魔力持ちであるアリシアだからこそできる錬金だと再評価を受けることにも繋がっていった。
持ち腐れだった宝が活用できるようになった――それを驚く声も出ており、中には良かったねと声をかける冒険者の姿も見受けられた。
アリシアにとって、今回の一件は大きな一歩となったことは間違いない。
しかしそれは、厄介な出来事の第一歩にも繋がってしまうことを、彼女たちはまだ知る由もないのだった。
◇ ◇ ◇
「くそぉっ! 何でこんなことになっちまうんだよおぉーっ!!」
ダンッ、とテーブルを拳で叩きながら、ブルースが激しく憤慨する。
「取引は白紙とさせてもらうだと? 後は本契約するだけだったってのに!」
「その原因はコレだな」
目の前に座るエルトンが、とある新聞記事を差し出した。
「森で暮らす錬金術師が魔力ポーションを生み出し、それが大きく評価された。量産の声も相次ぎ、今の森で暮らしている錬金術師だけでは足りず、ポーションを作れる錬金術師を外部から募集中だとさ」
「そうなれば必然的に、たくさんのポーションが生み出されるワケだから、何も外部からポーションを取り入れる必要性もなくなる、ってコトね……」
ドナも頬杖をつきながらため息をつく。
本当にあと一歩だった。商人が契約書類にハンコを押そうとしたその瞬間、今回の知らせが飛び込んできてしまったのである。
商人からすれば、危ないところだった以外の何物でもない。
少し考え直させてくれと言われ、そのたった数時間後に白紙撤回の知らせと謝罪が送られたのだった。
せめてものお詫びに行商のアイテムをいくつかサービスしてくれたが、寸前で空振りになってしまった喪失感を埋め尽くすには、到底足りなかった。
しかし、それ以上に――
「アリシアのヤツ……腹立たしいったらありゃしないわ!」
ドナが激しく怒りを燃やしていた。
新聞記事に名前こそ出ていなかったが、冒険者たちのウワサ話を耳にし、アリシアが生み出した張本人という答えに辿り着いたのである。
ブルースとエルトンも、邪魔をされた恨みこそ抱いていたが、ドナの激しい怒りのおかげで、幾ばくかの冷静さが残っていた。
「年下の嬢ちゃん相手に大人げないかもしれないが……流石に邪魔をしてくれた落とし前の一つくらいは、なぁ?」
「あぁ。立派な許容範囲と言えるだろう」
ブルースの言葉にエルトンも頷く。折角の実績が台無しになった怒りは、やはり相当なレベルだったのだ。
そこに――
「話は聞かせてもらったぜ」
突如、第三者の声が割り込んできた。ブルースたちが見上げると、鋭い目をした男がそこに立っていた。
「俺は魔物使いのダリル。ソイツらには借りがあってな。一枚噛ませてくれ」
「――ほう」
ブルースとダリルの視線が交錯する。余計な言葉は必要ない。手を組むにふさわしい相手であると、理屈抜きに認めることができる。
「面白いじゃねぇか。とりあえず座れや」
ブルースがニヤリと笑うと、ダリルも待ってましたと言わんばかりに、唇を釣り上げるのだった。
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