透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第一章 色無しの魔物使い

029 グリーンキャットの不思議な現象

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「わーい♪」

 タタタタタッと走り、ピョンピョンとジャンプする。実に見事な『二足歩行』をこなしていた。そして再び『四足歩行』を行い、それはそれで問題なく行えていることがよく分かる姿であった。

「これは流石に予想外にも程があるぞ……」

 グリーンキャットが走り回る姿を見つめながら、長老スライムは呆然とする。

「アリシアよ。お前さんはなんちゅうモンを生み出してしもうたんじゃ?」
「……私にもよく分かりません」

 それは本音だった。まさに偶然の産物であり、むしろアリシアのほうが、どうしてこうなったのかを問いただしたい気持ちでいっぱいだった。
 そこにグリーンキャットが、二足歩行でアリシアの元へ駆けてくる。

「アリシア、アリシア!」

 両手――というより、両腕を広げながら叫ぶグリーンキャット。体は小さな子猫であることに変わりはないため、なんとも不思議な光景に見えてならなかった。

「ね、ね、アリシアはぼくの言ってること、わかるようになったんだよね?」
「あー、うん。そうね。私もなんでだか知らないけど」
「しかも足二本だけで立てるようになったよ! アリシアのおかげだね!」
「そうなるみたいね」
「でもすっごいフシギなんだ。全然ヘンだとは思わないんだよ。まるで最初からこうだったんじゃないかって思うくらいなの」
「確かにそれは不思議ね」
「でしょー?」

 ご機嫌なグリーンキャットに対し、アリシアはどこまでも淡々としている。
 頭の整理が追い付かず、とりあえず流されておかなければ、色々と混乱してしまいそうになっていた。

「アリシアよ――」

 そこに、長老スライムが神妙な表情と口振りで話しかけてきた。

「お主の気持ちはよく分かる。ワシも同感と言えるじゃろう。しかしこれは紛れもない現実じゃ。それだけは受け止めねばなるまいて」
「……ですよねぇ」

 アリシアはガクッと項垂れる。そこにグリーンキャットが、心配そうな表情で近づいてきた。

「どうしたのー、アリシア? どこかいたいの?」
「ううん。大丈夫よ。なんでもないわ」

 即座に笑顔を取り繕い、そのもふもふな頭を撫でながらアリシアは思った。確かにこの触り心地の良さは現実に違いないと。
 もはや現実逃避に等しかったが、それを責めることはできないだろう。
 長老スライムも彼女の気持ちは重々察しており、ひっそりと厳しい表情で目を閉じながらうんうんと頷いていた。

「どうじゃ、アリシア? 気分転換にもう一度だけ錬金を行ってみては?」
「あ、ぼくもそれみたーい♪」

 長老スライムの勧めにグリーンキャットも笑顔で乗る。そして二足歩行でアリシアの足にしがみつくのだった。

「ねーねー、アリシアー。もう一回れんきん見せてー!」
「あぁ、はいはい。分かったから」

 結局、グリーンキャットにせがまれる形で、アリシアは再び錬金を行うことに。再び泉の水と水辺の草を採取。今度は分量や作業手順にも気を配り、新しい錬金をする覚悟で挑んだ。
 錬金を始めた瞬間、アリシアの表情から戸惑いが抜け落ちた。
 そのスイッチの切り替えは、もはや別人に見えた。グリーンキャットはポカンと呆けており、長老スライムも目を見開いている。
 程なくしてアリシアは、今度こそ液状の錬金物を完成させたのだった。

「ほう、それが例の魔力ポーションとやらか。今回は上手くできたようじゃな」

 どこか嬉しそうに頷く長老スライムだったが――

「できたと言えば、できたんですけどねぇ……」

 アリシアの表情は微妙であった。あからさまに何か疑念を抱いている。その様子を見た長老スライムの体が、ピクッと揺れた。

「なんじゃ? また何かしでかしたのか?」
「いえ、ポーションではあるんですけど……問題はその効果でして」

 尋ねられたアリシアは、どうにも言いづらそうな口調で答える。

「膨大な魔力を帯びた素材で錬金したため、特殊中の特殊に仕上がった――としか分からないんです」
「……失敗とは違うのか?」
「魔力ポーションであることに間違いはないみたいです」
「ふむ、なんとも理解しがたいのう」

 ハッキリとしない結果に、長老スライムも判断のつけようが見つからなかった。
 ちなみに、アリシアが自宅で錬金した魔力ポーションと色は同じなのだ。しかしその効果が明らかに違う。それを確かめるには――

「じゃあそれ、ぼくがのんでみるー♪」

 実際にそうするのが一番であり、グリーンキャットの申し出に間違いはない。
 しかし――

「ダ、ダメよっ!」

 得体の知れない代物であることも確かであり、アリシアは拒否した。
 ましてや今しがた、ある種のとんでもない結果が出たばかりで、これ以上グリーンキャットに変な影響を出させたくなかった。
 当の本人――本猫と言うべきか?――はとても嬉しそうにしているため、なんとも複雑な気持ちでもある。
 現にグリーンキャットは、アリシアに拒否されてむくれていた。

「えー、なんでー? アリシアにきょーりょくしようと思ったのにー!」
「それは嬉しいけど今回は遠慮させて! お願いだから!」
「ぶーぶー!」

 抗議するグリーンキャットに、アリシアは少し可愛いと思ってしまったが、それに釣られるわけにはいかないと首を左右に振る。
 そして錬金した魔力ポーションを、ポーチの中にしまうのだった。

「……それが一番じゃな」

 アリシアの行動に、長老スライムも納得して頷く。そして改めて、泉の中央のそれをジッと見つめるのだった。

「これもまた、魔力スポットの力というヤツなのかのぉ」
「えぇ。普通の素材とは全然違う感じでした」

 簡易錬金セットを片付けながら、アリシアも泉の中央に視線を向ける。
 同じ水や草でも、場所の環境によって大きく質が異なる。それ自体はアリシアも散々学んできたことだった。しかし今、それを改めて思い知った。
 まさかここまで極端な違いを味わえるとは、想像すらしていなかったが。

「これでよし、っと……」

 バッグの中に簡易錬金セットをしまい、アリシアがそれを背負った時だった。

「キィーキィーッ!」
「あれ? スライムくんの声だよー?」

 慌てた鳴き声にグリーンキャットが反応する。確かに一匹のスライムが慌ててこちらにポヨポヨと飛び跳ねてきていた。

「キ、キィキィ……」

 そのスライムが長老スライムに向けて、何かを伝えようとした瞬間――後ろから炎が放り込まれる。
 ――ぼぉんっ!!
 直撃を受けたスライムが吹き飛ばされてしまった。
 あっという間の出来事に、アリシアたちは呆然とする。しかしすぐに、どうしてこうなったのかが理解できるのだった。

「よぉ、アリシア。こんなところで会えるとは、また奇遇なもんだなぁ?」

 現れたのはブルースたちであった。さっきの炎はドナが発動したのだと、アリシアはすぐに察する。
 そして――

「こないだは世話になったな。あの魔物使いのガキはいねぇのか?」

 魔物使いのダリルが、血走った目とともにニヤリと笑みを浮かべてきた。

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