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第二章 ガーディアンフォレスト
044 いざ、ユグラシアの元へ!
しおりを挟む――何故、自分はこの世界へ降り立ったのか?
――【色無し】なのに、何故【色】の違う魔物たちをテイムできたのか?
――スライムなどのありふれた魔物がテイムできないのは何故なのか。
これらの『何故』が一気に吹き飛んでしまうほどの疑問が、ここに来て降りかかってきた。
しかしながら、あまりにも突拍子もなさ過ぎる内容であることも確かであった。
「いや……エルフ族の血が流れてるってのは、流石にないだろ」
現にマキトはすぐに我に返り、深いため息をついていた。
「そもそも俺、この世界の人間じゃないんだしさ」
「あ、そう言えばそうでしたよね」
ラティもようやくそれを思い出し、納得の頷きを示す。
「確認なのですけど、マスターのいた世界にエルフさんは……」
「見たことない」
「ですよねぇ。やっぱりこれって、何かの冗談とかじゃないのですか?」
ラティとマキトが揃って首をかしげるが――
「でも、ディオンさんが冗談を言うような人とは思えないわ」
神妙な表情でアリシアが言う。彼の人となりを知るマキトとラティも、その意見については全くもって反論の余地がなかった。
「しかもこの手紙、ちゃんと封蝋もされているし」
アリシアがそう指摘すると、マキトが封筒の剥がしたそれに注目する。
「この固まった糊みたいなヤツのことか? そんなに大事なの?」
「うん。それだけ重要な話が書かれてますよ、っていう証拠みたいなモノだから」
「へぇー」
改めてマキトは剥がした封蝋をマジマジと見つめる。確かに凄い紋章が付けられているなぁとは思っていたのだ。
その正体が蝋燭の蝋であることは、まだ理解できていなかったが。
「にしてもアレだな。この森に賢者さまなんていたんだ?」
「そういえば、まだ話してなかったっけ」
アリシアは苦笑しながら、簡単な説明を始める。
「ユグラシア様は森の賢者と呼ばれていて、この森の長的な存在なの。だからこの森の名前も、『ユグラシアの大森林』って呼ばれてるのよ」
「へぇ、そうなんだ」
「わたしも森の名前は初めて知ったのです」
「キュウ」
ラティやロップルも軽く驚きながら頷いていた。森の外から来た形となるロップルはともかくとして、森で暮らしていたラティですら知らなかったことに、アリシアは少しだけ驚いてしまう。
しかしすぐに、あり得なくはないかとも思えていた。
森で暮らしている者は、基本的に森の名前を口にすることはない。故に知らなかったという可能性は、十分にあり得るだろう。
たとえ当たり前のことでも、知る機会がなければ知りようがないのだから。
「マスター、マスター」
ラティがワクワクした表情でマキトに呼びかける。
「森の賢者様に会いに行きましょうよ! マスターのことが色々と分かるチャンスでもあるのです! あと、個人的にお会いしてみたいですし」
「……最後のが一番の理由なんじゃないのか?」
しょうがないなぁと言わんばかりに苦笑しつつ、マキトも自然と前向きな気持ちとなっていった。
ラティの言うとおりであることに、間違いはないからだ。
「けどまぁ、そうだな。その賢者さまとやらに、会いに行ってみようか」
「わーい♪」
「キュキュウー♪」
両手を広げながら喜ぶラティに、ロップルも嬉しそうに鳴き声を上げる。お出かけが嬉しいのだろうと、マキトは思った。
すると――
「ユグラシア様か……そういえばもう、ずっと会ってないわね」
アリシアの呟く声が聞こえた。マキトが振り向くと、頬杖をつきながらどこか遠くを見ているような彼女の横顔が見える。
「何? アリシアは賢者さまと知り合いなの?」
「知り合いっていうか――」
マキトの問いかけに答えつつ、アリシアは小さな笑みを零す。
「小さい頃、私はその人に面倒見てもらってたのよ」
アリシアは自分の生い立ちを軽く明かした。赤ん坊の時に捨てられ、ユグラシアに保護されて幼少期を過ごしたことを。
彼女にとって、ユグラシアは育ての親であった。
たくさんの愛情を注いでもらい、たくさんの笑顔をもらってきた。
しかし、ユグラシアは森の賢者と呼ばれ、魔法を扱う者たちにとっては、憧れの存在でもあった。それ故に嫉妬の炎を向けられることも多く、嫌がらせを受けたことも少なくなかったのである。
「こないだ、隠れ里を襲ってきたブルースさんたちの中に、ドナっていう魔導師のお姉さんが一人いたでしょ? あの人もまさにその一人だったのよね」
「そういえば……なんかアリシアに、あーだこーだ文句を言ってたような……」
「うん。昔から凄い目の敵にされてたのよ」
「そうだったのか」
なんとなくアリシアにばかり突っかかっているとは思っていたが、そんな理由があったとは――改めて知った事実に、マキトは軽く驚いた。
「とにかくいい機会だし、私も一緒に行くわ」
アリシアが立ち上がりながら言う。
「ヴァルフェミオンからスカウトが来たってことも、ちゃんと報告しないとね」
まだ迷いは晴れていなかったが、その瞬間に見せたアリシアの表情は、紛れもなく明るい笑顔であった。
◇ ◇ ◇
森の神殿――森の賢者ユグラシアが暮らしている、森の奥深くにある聖域。
しかしそれも、人々が勝手にそう呼んでいるだけに過ぎず、当の本人たちは恥ずかしいとさえ思うほどであった。
それも長年続けば、いい加減に慣れてしまうとも言えていたが。
「さてと、もうすぐあの子たちも来るし、準備を進めていかないとね」
籠いっぱいの新鮮な果物を運び、神殿内の廊下を大掃除したりと、今朝から忙しなく動いているユグラシア。
黙って佇めば、性別問わず誰もが見惚れるほどの美女も、今では単なる忙しい専業主婦にしか見えない。
「…………」
そんな彼女の様子を、両手でホーンラビットを抱きながら、ジーッと無表情で見つめる姿があった。
十歳にも満たない見た目の少女は、サラサラの銀髪と白い肌をしており、顔立ちも整っている。まさに『お人形さん』という言葉がピッタリであると、知る人はこぞってそう述べているのだが、本人は知る由もない。
「そんなに張り切る必要……ある?」
無表情のまま、ボソリと小さな声で少女が問いかける。しかし廊下に声が反射してよく響いたためか、忙しそうに動き回るユグラシアの耳にも、しっかり届いていたのだった。
「えぇ、アリシアとも久々に会うのだし、張り切ってお出迎えしなくっちゃ!」
「……そう」
少女は短くそう答えた。その返事にどんな感情が込められていたのか、表情や声から読み取るのは、限りなく難しい。
それに対してユグラシアは、なんてことなさげに笑みを浮かべて振り向いた。
「ノーラ。あなたも手伝ってくれる?」
「ん」
ユグラシアにそう問いかけられ、ノーラと呼ばれた少女はコクリと頷く。
腕の中に抱き留めていたホーンラビットを下ろし、傍にあった小さな籠を両手で持ち上げる。
ホーンラビットは興味がないのか、そのまま外に続く廊下の道を駆けだした。
ノーラもユグラシアも、一瞥して視線をすぐに戻す。
「それじゃあ、薬草を摘んできてもらえるかしら? このメモのとおりにね」
「――ん」
薬草の種類がリスト化されたメモ用紙を受け取りながら、ノーラは頷く。そして裏口に続く廊下の道を歩き出していった。
その後ろ姿に対し、ユグラシアは特にこれといって心配はしていなかった。
神殿で暮らし、魔物たちと過ごし、森の中もかなり探索している。薬草の場所は全て頭の中に網羅されていることは間違いない。だからノーラに対して、余計な心配をする必要もないのだった。
故にユグラシアも、娘同然の来訪に備え、準備に集中できる。
もう数年ほど会っていないため、久々に顔が見れるということが、嬉しくて仕方がないのだった。
そして――
「早く会いたいわ……十年前に消えた、彼らの忘れ形見であるあの子に」
アリシアが保護している魔物使いの少年に対しても、顔を合わせるのが楽しみでならないユグラシアであった。
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