透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第二章 ガーディアンフォレスト

070 キングウルフ

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「――ロップル!」
「キュッ!」

 マキトがそう叫んだ瞬間、ロップルが防御強化を発動させる。キングウルフの鋭い牙に咬まれるも、鋼鉄のような硬さと化した体には、傷一つ付かなかった。
 すかさず距離を置くキングウルフ。同時に防御強化の効果も切れる。
 攻撃を防ぐことに成功したが、マキトの表情は苦々しい。ロップルの能力は立て続けに発動させることができないのだった。それだけまだ経験値が足りていないことを意味しており、不足故の厳しさを味わう羽目にもなっている。
 更に言えば、ロップルができるのは、あくまで防御のみ。相手に攻撃することは全くできないのも欠点と言える。
 能力で強化された体に攻撃して、その硬さがカウンターとなって自滅してくれるのを期待したくなるのだが、そう上手いこともいかない。現にキングウルフも、様子見と言わんばかりに軽く咬みついただけであり、マキトたちの状況が最悪であることに変わりはなかった。
 なんとかして攻撃しなければ、間違いなく負けてしまう――それはマキトだけでなくラティも同じことを考えていた。
 しかし――

「うぅ~!」

 ラティが悔しそうに唸り声を出す。

「何で変身できないのですか! こないだはちゃんとできたのに~!」

 隠れ里のときと同じように、ラティは戦おうとした。しかし今回は、どう力を込めても大きな姿に帰ることはできなかった。
 無理もない話である。あの時はアリシアの調合した魔力ポーションを間違えて飲んだからこそ成し遂げられたようなもの。いわば偶然の賜物だ。いきなり素の状態からやろうとして、一発で上手くいけば苦労もしない。
 実際、隠れ里から帰ってきてからも、ラティはこっそりと練習をしていた。
 自分もマスターの役に立てることが分かり、とても嬉しかったのだ。
 しかしそれ以来、全く変身できることはなかった。今はできなくともピンチの状況であればできるかもしれない――そんな淡い期待を抱いていたのだが、結果は御覧の有様である。

(ヤバいな……ロップルの力で守る以外、打つ手がない……)

 のしかかってくる重たい絶望感に、マキトは顔をしかめる。
 ラティが魔法で攻撃する手もあると言えばあるが、キングウルフを撃退させるほどの威力は期待できない。ラティもそれをよく分かっているが故に、変身して戦おうとしたのだ。

「――グルゥ!」

 キングウルフが一鳴きしつつ、視線をわずかに傾ける。
 その先には――

「あの狼さん、霊獣ちゃんを狙っているのです!」
「マジかよ」

 舌なめずりをしているキングウルフを見て、マキトは思った。恐らく霊獣を食べようとしているのだと。
 霊獣もそれに恐怖しているのか、ブルブルと震えて動けなくなっていた。

「グルル――グルァアッ!!」

 キングウルフが再び飛び出し、霊獣に向かって鋭い牙を開く。

「させるかっ!」

 マキトもすかさず動き、頭の上に乗るロップルが防御強化を発動。しかしキングウルフも、先ほどの攻撃で学習したのか、軽く咬んだだけで即座に飛び退く。
 そして間を置かずに、再び霊獣目掛けて飛びついた。

(くそぉっ!)

 もはや考える間もなくマキトは動く。そして――

「ぐ、うぅっ――!」

 霊獣を抱きかかえ、身を挺する形でキングウルフに咬まれた。庇った腕の部分に鋭い牙がぐっさりと刺さっており、そこから赤い血がみるみる流れ落ちる。

「マスター!」
「だ、大丈夫だ!」

 ラティの叫びに、マキトが痛みに耐えながらも答える。キングウルフとマキトの視線が交錯し、互いに睨み合う形となった。
 敵意剥き出しにしてくる魔物が目の前にいる――本気で恐ろしいと感じた。
 しかしマキトは、ここから一歩も引くつもりはなかった。

「にゅー……」
「安心しろ」

 不安そうに見上げてくる霊獣に、マキトは無理やり笑みを浮かべる。

「お前は俺が、絶対に守る!」

 明らかに苦悶の表情であった。しかしその気持ちは、誰が何を言おうと揺るがない強さを秘めていた。

「グルルルル……グルゥッ!」

 キングウルフもそれを感じ取ったらしく、腕から牙を放して距離を置く。
 マキトの腕から血が流れ続けるが、彼自身はそれを気にも留めず、霊獣を抱きかかえたまま、キングウルフから目を離そうとしない。

『――どうして?』

 その時、どこからか声が聞こえてきた。

『どうしてぼくをたすけるの? ぼくはずっとこわがっていたんだよ?』

 聞こえるというより、頭の中に直接響いてきている――そう言ったほうが正しいような気がした。
 とにかくそれは確かに聞こえていた。
 切羽詰まっている状況故に、マキトもそれを不思議に思う余裕はなかった。

「どうしてもこうしてもないよ」

 ただ、無意識に理解はできた――この霊獣が話しかけてきていると。

「俺が助けたいと思った。どんなに嫌われようとも……ただ、それだけだ」

 感情的にならず、淡々とマキトは言い切った。確かな力強さを添えて。
 視線はずっとキングウルフに向けられ、霊獣のことを一瞥たりともしていない。笑顔を見せるなどをして、下手な機嫌を取ろうとしているわけではないと、嫌でも分かってしまう。
 それ以前に霊獣は、不思議な気持ちに包まれていた。
 今まではマキトに近づこうとも思わなかった。一緒にいるのも逃げるため。それ以上でもそれ以下でもなかった。
 マキトの顔を見る度に、何故か蘇る光景――それが苦痛で仕方なかったから。
 しかし今は違う。こうして抱きかかえられているにもかかわらず、嫌な光景がちっとも浮かんでこないのだった。
 その代わり、新たな光景が頭の中に浮かんできていた。
 ――どんなに嫌われようと、俺はお前を愛し続けてやるからな。
 自分の知らない声が、脳内に響き渡る。マキトを見ていると何故か、その言葉がハッキリと再生されてしまう。
 苦痛ではない。嫌だとも思わない。むしろ心地いいくらいだ。
 ずっとずっと待っていた。その声を聞きたかったと、長い夢の中で願い続けていたような――そんな気がしていた。

「わたしも同じ気持ちなのです!」

 ラティがマキトの隣に並びながら叫ぶ。

「マスターにばかり傷つけさせはしないのです。わたしも戦うのですっ!」
「キュウキュウーッ!」

 マキトの頭の上で、ロップルもそうだそうだーと小さな手を突き上げながら、精いっぱい鳴き声で示してきた。
 皆で霊獣を守る――その気持ちが改めて一致した瞬間でもあった。
 そしてそれは、霊獣にも伝わっていた。
 またしても不思議な感覚に包まれ、口を開きかけた瞬間――

『な……なに?』

 新たな光景が浮かび上がる。そのフラッシュバックは、これまでのそれとは明らかに何かが違っていた。
 今と殆ど変わりのない光景であった。自分は誰かに抱きかかえられている。その誰かは自分を見下ろし、そして――笑っていた。
 ――必ずお前を助けるからな。
 それは間違いなく、マキトの声ではない。しかし聞いたことのある声だった。
 他の魔物たちも一緒に、自分を守ってくれようとしている。皆が自分を気にかけてくれている。
 遠い昔に感じたその温かさが、今――ここに蘇る。

『――ぼくが』

 気がついたら動こうとしていた。何をするべきなのかも、自分に『何が』できるのかも全て、自分の奥底にある見えない何かが、勝手に理解している。

「お、おいっ!?」

 暖かな腕の中から、霊獣は飛び出した。マキトの驚く声は聞こえていない。ただ目の前の敵をジッと見据えていた。
 体の震えは不思議とない。今はただ、それをするだけのことであった。

『ここは……ぼくが!』

 霊獣が集中し、全身に力を込める。その瞬間、森がざわめいた。
 光の粒子が木々から噴き出し、それは全て一直線に、霊獣へと集まってくる。やがてそれは霊獣を包み込み、光とともに姿形を変えていく。
 光が晴れ、新たな姿となった霊獣に、マキトたちは驚きを隠せない。

「へ、変身……したのか?」

 キングウルフに負けないほどの巨大な狼と化した霊獣は、マキトの呟き声に答えるかの如く、凄まじい雄たけびを上げた。
 流石にこの展開は、キングウルフも予想外だったのだろう。驚きを隠せず、大いに戸惑いながら霊獣を凝視していた。
 ――ここから反撃開始だ!
 そう言わんばかりに唸り声をあげ、霊獣が勢いよく飛び出そうとした。

「そこまでです!」

 しかしその瞬間、どこからか待ったの声がかけられる。
 緊迫した空気が一瞬にして散ってしまい、霊獣もマキトたちも、何事かと周囲をキョロキョロと見渡していた。
 一方、キングウルフは驚くこともなく、噴き出していた敵意も完全に収める。
 そして歩いてきた人物を、黙って出迎えるのだった。

「ご苦労様でした。よく務めを果たしてくださいましたね」
「ウォフッ♪」

 その人物に頭を撫でられ、キングウルフは嬉しそうに鳴き声を上げる。それはそれで驚きなのだが、それ以上にマキトたちは、現れたその人物の正体に対して、驚かずにはいられなかった。

「ジャ、ジャクレン……さん?」

 ラティが引きつった声で呼びかけると、その人物ことジャクレンが、申し訳なさそうに振り向きながら苦笑し、会釈をしてくるのだった。

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