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第三章 子供たちと隠れ里
088 講演ティータイム
しおりを挟む「美味しー♪」
「何、このクッキー? サクサクふわふわなんだけど!」
「紅茶ってこんなに美味かったのか! マジで知らなかったぜ!」
「シュトル王国の高級クッキーよりも美味しいわ」
子供たちの表情は、笑顔に満ち溢れていた。その姿にユグラシアは、とても嬉しそうな微笑みを浮かべている。
「喜んでもらえたみたいでなによりだわ。遠慮しないでね」
『はーいっ♪』
元気よく返事をする子供たちの声が、講堂内に響き渡る。
講演という名のティータイムは、子供たちを大いに戸惑わせていたが、いざ始まって時間が経過すれば、たちまち楽しく暖かな空気と化していた。
これこそが、ユグラシアの大きな狙いであった。
子供たちに対する講演は、必ずこうでなければいけないと、心から決めているほどでもあった。
(明らかに普通でないことは承知の上――こうでもしなければ、子供たちがリラックスできないことも確かなのよね)
毎年のように、ユグラシアは冒険者候補の子供たちに対し、講演を行ってきた。しかし森の賢者というネームバリューが、大きな弊害となってしまっていた。
――王族に等しい存在であるため、粗相は許されない。
周りの大人たちから厳しくそう言われてきているが故に、毎年訪れる子供たちは緊張しっぱなしであるか、違和感満載な礼儀正しさを見せつけてくるか――大概そのどちらかであった。
ユグラシアはどちらも自ら望んだことなど、一度たりともない。
周りが勝手にそう思い込み、吹き込んでいるだけの話だ。
むしろユグラシアからしてみれば、それはどうなのかと苦言を申し出たいくらいであった。冒険者という世界は決して甘くはない――それを厳しく叩きこむという考え自体は賛成だが、それと自分に対する接し方とは別問題だろうと、そう思えてならなかった。
――私は王族でも貴族でもない、ただの森の守り人です。そこまでかしこまる必要はどこにもありませんよ。
そう気さくに言ったこともあるのだが、相手側は聞き入れなかった。森の賢者に失礼があってはいけませんから――その一点張りで。
(私に対する気遣いに聞こえるけれど、本命はそこじゃないんでしょうし……)
それを言い訳に、自分たちの身の安全――すなわち周りからの評価が下がることを避けるためにユグラシアを気遣い、持ち上げようとしている。
更に言えば、森の賢者から礼儀正しいなどの評価を与えられでもしたら、それは大きなアピールポイントにも繋がることは必至。むしろそれを狙っている節が強いとも言えていた。
いずれも相手側の大人たちが、目論んでいることである。
子供の中にも賢者に気に入られようとする考えを持つ者もいるが、大人に比べれば全然可愛いほうだと、ユグラシアは断言する。
(森の賢者と崇めておきながら、実際のところは、自分たちの評価向上の道具と見なしている……要は私を利用しているだけに過ぎないのよね)
それならそれで好きにすればいい――そう思ってはいるものの、ただ利用されっぱなしなのも面白くはない。
ユグラシアは長年、そう思ってきていた。
そこで策を練って仕掛けたのが、この『講演ティータイム』である。
(言葉でダメなら態度で示せ――ホント実践した甲斐があったというモノだわ)
クッキーなどの茶菓子もユグラシアの手作り。紅茶に利用した茶葉も、ユグラシアが特別にブレンドした非売品であった。
そんなおもてなしを、他ならぬ子供たちに与える。全ては子供たちと楽しく話したいからだと、ユグラシアは毎年欠かさず全力で表現してきた。
おかげで毎年のように子供たちを、そして周りの大人たちを驚かせてしまう。
それをまた彼女は、しめしめと思い楽しんでしまうのだ。
そんな子供っぽい姿もまた、惜しみなく子供たちにさらけ出している。それも子供たちの緊張を解くキーカードとなっているのだから、ある意味で質が悪いと言えてしまうだろう。
「それでは、皆も落ち着いたところで、一つお話をしていきましょうか」
ユグラシアがそう切り出し、子供たちを注目を集めた上で語り出す。
物語のようでありながら現実に起こっている出来事を語っていき、そこから導き出されるユグラシア自身の見解と事実、そして人々がこれからするべきことを、子供たちにも分かりやすいよう、言葉を選んで話していく。
これこそが、ユグラシアの『講演』であった。
子供たちは夢中になって聞いていた。甘いクッキーを食べるのも忘れ、紅茶が冷めることすらどうでも良くなる。それだけユグラシアが、子供たちの心を掴み取っている証拠であった。
ちなみに講演といっても、堅苦しい話だけではない。
中にはユグラシアが茶目っ気を利かせた面白い内容も展開されていった。
そして時折、ユグラシアが冗談交じりでウィンクなどをすると――
「はうぅっ!」
ずきゅうぅーん、と男子たちが衝撃を受けるのだった。
「ユ、ユグラシア様が僕にウィンクを……」
「バカを言うんじゃない! アレは俺に対してだ!」
「あぁ、賢者様はなんとお美しい」
「ぼくちゃんメロメロになっちまったよぉん♪」
そんな男子たちが目をハートマークにしている姿を、女子たちはしっかりと見ているわけであり――
「やぁねぇ。これだから男子ってば!」
「男の子ってバカね」
「さいってー。同じ国の出身って思われたくないし!」
冷たい視線で睨みつけるのだった。
しかし全ての女子がそうとは限らないことも、また確かであった。
「――森の賢者様のウィンク、なんてお美しいのかしら♪」
「あたし、なんだかイケない道にハマりそうだわぁ♪」
ぽやぁん、と頬を染めながらウットリと目を細くする女子たちも存在しており、それに気づいた女子が「しっかりしてー!」と声を上げる姿も出てきていた。
そしてそんな様子を、エステルは遠巻きから眺めつつ苦笑していた。
(やれやれ……アレは殆ど確信犯でしょうねぇ)
自分たちのときも確かこうだった――エステルは過去の記憶を掘り起こし、懐かしい気持ちに駆られていた。
ユグラシアはいつまでも変わることはない。
何年経とうと、何十年経とうと、森の賢者は変わらず、全てを包み込むような暖かい優しさを醸し出す。
改めてそう思わされる講演は、実に大盛り上がりであった。
子供たちのほうから自ら手を挙げ、ユグラシアに質問をする姿も、少しずつながら出てきていた。
やがてその質問タイムは、子供たちのグループディスカッションと化していく。それもまた、毎年のように繰り返される流れであり、ユグラシアが敢えて狙っていた展開であることも、エステルは知っていた。
「ではここで、シュトル王国宮廷魔導師であるエステルさんにも、ディスカッションにご協力をお願いしましょう!」
ユグラシアが突如そう言ってきた。急に何を言い出すのか――目を丸くしながらそう思った瞬間、エステルは思い出した。
そう言えば自分たちのときも『そうだった』と。
(なるほど……これもまた、繰り返してきたことだったということですか)
エステルは苦笑しながら頷き、ゆっくりと立ち上がる。宮廷魔導師自らが、ディスカッションにて話をする――それもまた、子供たちにとっては、またとない貴重な機会であることは間違いなかった。
(去年までは宮廷魔導師もいませんでしたし、情報不足は否めませんね)
そんな言い訳を心の中で呟きながら、議題についての見解を、エステルが子供たちに語り出していくのだった。
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