透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

文字の大きさ
111 / 252
第三章 子供たちと隠れ里

111 別れはあっという間に

しおりを挟む


 リリーのポーションで回復したアースリザードは、そのまま大人しく頭を下げ、隠れ里から去っていった。
 ここで暮らしても構わんぞと長老ラビットは言ったのだが、自分を鍛え直すとだけ言っていたと、ラティの通訳により判明した。

「驚いたな……」

 アースリザードの去って行った方向を見つめながら、アレクが呟いた。

「暴れることしかできないと思っていた魔物が、あそこまで変わるなんてさ」
「だな。これも新しい発見ってヤツか?」

 ジェイラスも腕を組みながら、フッと小さく笑う。そこにメラニーがニヤッとからかうような笑みを浮かべ、下から覗き込むように近づいてきた。

「そーゆーアンタも、なかなかに変わったんじゃないの?」
「あぁん? なんだその言い方は? 俺に喧嘩を売るつもりか、テメェは?」
「べっつにぃー」
「このアマ……」

 ギリッと歯を噛み締め、拳を震わせるジェイラス。ここだけ見れば、やっぱりいつもと変わらないのかと思われる場面である。
 しかし――

「キィキィーッ♪」
「おっと」

 今、この場にいるのは彼らだけではない。嬉しそうに飛びついてきたスライムに反応したところで、ジェイラスの怒りは一気に鎮まった。

「なんだよ。俺とまた勝負してぇってのか?」
「キィ、キキキィーッ!」
「相変わらず何言ってんのかは分からねぇよなぁ。まぁ仕方ねぇことだが」

 ポヨポヨと跳ねるスライムを見下ろし、楽しげに笑うジェイラス。もうすっかり魔物と接する姿が自然と化しており、幼なじみ組からすれば、なんとも不思議に思えてならなかった。

「ジェイラスのヤツ……なんか変わったな」
「キミも大概だと思うけどね」

 呆然としているアレクに、サミュエルが肩をすくめながら近づいてくる。

「あれほど強情に助けようとしなかったのに、最後はちゃんと来てくれたじゃん」
「……空気に呑まれただけだよ」
「本当にそれだけなら、キミは動いたりしないでしょ? 一度言い出したら聞かない頑固さは、ジェイラス以上といっても過言じゃないんだから」

 ケタケタと笑うサミュエルに対し、アレクは表情を引きつらせた。

「サミュエル。それは、僕に対して言っているのか?」
「うん、そうだよ」
「……そんなに僕は頑固か?」
「頑固だね。皆もそう思うでしょ?」

 サミュエルがそう呼びかけると、傍で聞いていたメラニーとリリーが、揃って苦笑を浮かべた。

「そーね。あたしも同感。リリーもそう思ったことあるよね?」
「うん。たまに暴走してヒヤヒヤしていたし」
「……そんなにか」

 知らなかったのは本人だけ――それを思い知ったアレクは、大きなショックを受け項垂れてしまう。
 冗談だよと言われるのをひそかに期待していたが、何も言われないため、本当にそうなのかと改めて思い知り、深いため息をつくのだった。

「少年たちよ」

 そこに長老ラビットが、アレクに声をかけてくる。

「お主たちのおかげで、余計な騒ぎを広めずに済んだ。オマケにヒトとの交流が、魔物たちの評価も色々と変えてくれたようじゃ。長として礼を言うぞ」

 長老ラビットの後ろでは、魔物たちが揃って笑顔を向けている。アレクたち五人のことを、改めて歓迎している印であった。
 魔物たちに認めてもらったことを、五人は嬉しく思っていた。
 しかし――

「礼なら、マキトたちに言ってください。僕は何もしてませんから」

 だからこそアレクは、その礼を受け取れないと思っていた。
 自分だけが、最後の最後までくすぶっていた。ジェイラスたちに比べれば、とても協力したとは言えないと。
 するとジェイラスが、アレクの肩にポンと手を置いた。

「別にお前が受け取ってもいいんじゃねぇのか? リーダーなんだし、最後はちゃんと一緒に頑張ってただろ?」
「それは……でも……」

 ジェイラスの優しさは嬉しかったが、やはり納得はできなかった。
 そこにサミュエルが、しょうがないなぁと言わんばかりの苦笑を浮かべながら、肩をすくめつつ歩いてくる。

「僕たちは五人で一つのチーム――だろ? だったらキミも入ってなきゃ、何の意味もないよ」
「あたしも同感。アンタ一人を除け者にするワケにはいかないわ」
「うん。私たちはこれからも、アレクにリーダーでいてほしいと思っているから」

 メラニーとリリーも歩いてきた。気がついたら四人が、アレクを囲むようにして立っていた。
 追い詰めているのではなく、優しく包み込むように。

「皆……うん、ありがとう」

 流石にここまでされて、突っぱねることなどできなかった。下手なプライドを捨てて素直に受け取る――ただそれだけじゃないかとアレクは思ったのだった。

「アレクよ。お主は幸せ者じゃな」

 長老ラビットが、改めてアレクに声をかける。

「ここまで皆がついて来ようとするリーダーは、そうそういるモノではないぞ?」
「――はい!」

 素直にありがたい言葉として受け取った。もうアレクの中には、魔物だからとかそういった考えはなかった。
 時には厳しく、そして時には優しく諭してくれる――そこにはヒトも魔物も関係ないのだと、勉強させられた気がした。

「あっ、そういえば……」

 ここでふと、リリーが思い出した。

「私たち、課外活動をこっそり抜け出してきたままだったような……」
「「「「……あっ!!」」」」

 アレンたち四人の表情が、ピシッと引きつった。そして次第に、それぞれ青ざめた表情と化していく。

「ヤ、ヤベェよな、流石によ……」
「森の集会所を抜け出して、もうかなり時間が経過してるからねぇ」
「バレているどころか、大騒ぎになってるだろうな」
「そんなぁ~」

 ジェイラス、メラニー、そしてアレクが立て続けに放った発言に、サミュエルが情けない声を出しながら項垂れる。
 やっと全てが片付いて清々しい気分を味わっていただけに、その気分が一気に削がれてしまっていた。

「帰ったらメチャクチャ叱られるだろうなぁ」
「叱られるだけで済めばいいが……」
「うおぉい、リーダー! お願いだから怖いこと言わないでよ!!」
「だー、もう、うっさいわね!」

 すっかり腰が引けて泣き顔と化しているサミュエルを、メラニーが一喝する。

「いちいち情けない声出してんじゃないわよ、ヘタレ坊主が!」
「な、なにおうっ!?」

 泣き顔から一転、いつものように声を張り上げるサミュエル。涙が浮かんでいるのが如何せん格好悪さを引き立てていた。
 するとここでアレクが、表情を引き締めて呼びかける。

「とにかく、もういい加減に戻らないとマジでヤバい。急ぐぞ、皆!」
「おう!」

 ジェイラスが威勢よく応え、他の三人も頷く。そしてアレクたちは、揃ってマキトたちに近寄った。

「マキト。それに魔物君たちやノーラも。本当に世話になった。ありがとう!」
「またどこかで会おうぜ!」
「今度会ったら、僕の凄い魔法を見せてあげるよ!」
「あたしもたくさん美人になるからね♪」
「本当にありがとう。マキト君たちに会えて良かったよ」

 五人がそれぞれ言葉をかけ、マキトは笑みを浮かべて頷く。するとそこに、ジェイラスと過ごしていたスライムが近づいてきた。

「キィーッ!」
「またな。立派な冒険者になって、必ず会いに来るぜ」

 ジェイラスがしゃがみ、軽く拳を突き出すと、そこにスライムが頭突きをする。彼らなりの別れの挨拶を交わしたのだ。
 そしていざ、五人が歩き出そうとしたところに、長老ラビットが言う。

「村への近道なら、魔物たちが知っておる。道しるべになってくれるじゃろう」
「ありがとう。恩に着ます!」

 アレクが爽やかな笑顔で礼を述べ、四人を引き連れて走り出す。魔物たちに見送られながら、アレクたちは隠れ里から去っていくのだった。
 あっという間に五人がいなくなったところで、マキトは不思議な気分となる。
 なんだか一気に静かとなった。今日一日、ずっと賑やかな時間を過ごしていたことに気づかされる。
 それはノーラやラティたち魔物も、同じ感想であった。

「マキト。ノーラたちも神殿に帰る」
「あぁ、そうだな。もうすぐ夕方になっちまうし」

 少しだけ色づき始めた西の空を見上げながら、マキトが同意する。隠れ里での用事はとっくに済んでいるため、これ以上滞在する理由はない。

「ならば、この里の別の出口から帰るがよい。神殿への近道になるぞ」
「そんなのあるんだ?」

 目を見開くマキトに、長老ラビットは笑顔で頷く。そこにノーラが、マキトの服の裾をくいくいと引っ張りながら言う。

「ん。逆に言えば、その道を通れば、この隠れ里にすぐ来れる」
「そっか。それはいいな!」
「またいつでも遊びに来れますね♪」
『やったーっ♪』
「キュウッ!」

 ラティたちの喜ぶ姿に、マキトも笑みを浮かべる。そして改めて、皆に声をかけるのだった。

「よし、じゃあ俺たちも帰ろうぜ!」

 その掛け声に、ノーラやラティたちが威勢よく応える。長老ラビットや里の魔物たちに手を振りながら歩き出し、隠れ里を後にしたのだった。

(にしても……賑やかなヤツらだったよなぁ)

 心の中でそう呟きながら、マキトはひっそりとほくそ笑んでいた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

異世界での異生活

なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。

最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
 病弱な僕は病院で息を引き取った  お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった  そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した  魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

処理中です...