透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第四章 本当の親子

121 親子に見えません

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 アリシアは別の意味で戸惑っていた。
 自分の出生について、粗方の事情は理解できた。産んだ張本人であるセアラが涙を流すこと自体も確かに分かる。
 しかし――正直な気持ちとしては、微妙の一言であった。
 何せ全くと言っていいほど実感がないのだ。無論、驚きこそしてはいるが、本当にそれだけである。そこから自分を産んでくれた人に対して、何か特別な気持ちが湧いてくるかと思いきや、特にそういうのもない。
 嫌いとか恨んでいるとかもない。むしろ『それ以前の問題』だろう。

(そもそも、実の家族云々について知ったのも、ついこないだのことだもんねぇ)

 アリシアはひっそりとため息をつきながら思い返す。
 実の家族の存在なんて、メイベルと出会うまで考えたこともなかった。ちゃんと血が繋がっていると数日前に発覚した時も、確かに驚きはしたが、どこか他人事のようにも思えていたのだ。
 それも全ては、アリシアがユグラシアに愛されて育ったからこそだろう。
 もし、最悪な環境の中で育ち、家族という存在に飢えていれば、セアラの涙も嬉しく思えたのかもしれない。しかしアリシアは、この森でそれなりに幸せな生活を送ってきていたのだ。
 魔力持ちの錬金術師という点で、確かに周りから多少なり奇怪な目で見られたことはあったかもしれないが、それでも幸せに生きてきたという自負はある。

(それに、マキトたちと会ってからは……)

 チラリと視線を向けてみる。粗方聞き終えて満足したのか、マキトもユグラシアの用意したクッキーに手を付け始めていた。
 最後の一枚を取り合うフォレオとロップルを仲裁し、ノーラが残しておいた一枚を餌にしてロップルを抱きかかえる。またこの展開かと言わんばかりにロップルはげんなりしているが、やはり本気で嫌がっている様子ではなかった。
 それを羨ましく思ったのか、フォレオもノーラにすり寄る。それだけノーラにも懐いていることが分かる。
 ノーラはしょうがないなぁと言わんばかりの態度で――それでいて嬉しそうな小さな笑みを浮かべ、フォレオを片手で抱きあげた。

「むふー♪ 満足なり」
「最初から狙ってたんじゃないのか、この展開?」
「何のことかよく分からない」
「ノーラらしいな」
「ですね」

 モフモフと楽しそうに魔物たちを抱きしめるノーラを、マキトとラティが微笑ましそうに見つめる。
 数ヶ月前は自分もその場にいたのだと、アリシアは改めて思った。

(……いいなぁ)

 羨ましい――そんな気持ちが心に宿っていることに気づく。
 確かにヴァルフェミオンの生活は厳しいけれど楽しい。メイベルを始めとする友達もできたし、魔力を利用した錬金術の研究も、大いにやりがいがある。
 しかしその一方で、ふと森で暮らしていた時のことを懐かしく思えてしまう。
 ずっと誰とも会わずに、一人で黙々と錬金釜の液体をかき混ぜるだけの、まるで灰色のような日々。それが色鮮やかと化したきっかけは、やはり目の前にいる少年と魔物たちであると断言できる。
 数ヶ月ぶりに会ったけど、全くと言っていいほど変わっていない。
 それがアリシアにとっては非常に嬉しく、そして傍にいたいという欲求が奥底から湧き上がってきてならない。
 無論、今はメイベルやセアラとの問題のほうが先だ。
 それはそれで分かっているつもりなのだが――

(なんだろう……改めて見ても、やっぱりなんとも思わないなぁ)

 生き別れた実の母と妹が目の前にいるというのに、全くと言っていいほど心が揺らがない。むしろ一体どんなふうに思えばいいというのか、いくら考えたところで答えが見えてこないのだ。

「もう、お母さんってば、そんなに泣かなくても」
「だ、だってぇ」

 メイベルが泣きじゃくるセアラを宥めている。その姿は確かに仲睦まじい親子に見えるのだが、アリシアからすれば、やはり他人の姿にしか見えない。
 羨ましいとか混ざりたいとか、そんな気持ちは微塵にも湧いてこなかった。

(そういえばこないだも、まさにこんな感じだったっけ……)

 アリシアは空気を仰ぎながら、セアラと初対面した時のことを思い出していた。


 ◇ ◇ ◇


 それは先日――ヴァルフェミオンの応接室でのことだった。

「アリシア。この人が私のお母さんで……あなたを産んだ人だよ」

 メイベルからそう紹介され、アリシアは呆然としながらその人物を見つめる。
 その見た目の若さに、メイベルの姉なのではと思うほどであった。ちなみに美貌に関しては、ユグラシアが基準となっているアリシアにとって、結構な美人さんだなぁと軽く思う程度でしかない。
 この数日後、帰省した際に森の神殿でマキトが全く同じ考えを抱くのだが、当然ながらアリシアは知る由もないことである。

「あの、えっと……初めまして」

 とりあえずアリシアはそう言って、ペコリと頭を下げた。するとセアラは、困ったような笑みを浮かべる。

「そ、そうね。あなたからすれば初対面になるもの、ね……」

 アリシアは顔を上げつつ、どうしたんだろうと首を傾げる。軽くショックを受けていることはなんとなく分かるのだが、何故そんな反応を示すのかが、全く理解できていないのだ。
 とりあえず助けを求めるために、アリシアはメイベルのほうを向いた。

「ねぇ……私、何か変なこと言ったかな?」
「あ、いや、うん……まぁ、無理もないとだけ言っておくよ」
「うん?」

 やはり意味が分からず、アリシアは再び首を傾げる。
 自分が間違ったことを言ったつもりはなかった。初めて会った相手なのだから、初めましてというのは当然なのではないかと。
 もっともこれについては、至って無理もないことと言えるだろう。
 セアラにとっては、十六年ぶりとなる待ちに待った我が子との再会となる。しかしアリシアからしてみれば、殆ど流されるがままに迎えた『知らない人』との初めましてに過ぎないのだ。
 つまりそれだけ、両者の気持ちに大きな差があるということだ。
 無論、アリシアはそれを知る由もない。

「それよりもお母さん。アリシアに話したいことがあって来たんでしょ?」
「――あっ、そ、そうだったわね」

 メイベルに促されて、ようやくセアラは我に返る。そしてコホンと一つ咳ばらいをして、アリシアに向き直るのだった。

「率直に言わせてもらうわ――アリシア、私の家で一緒に暮らさない?」

 それを聞いた瞬間、アリシアは目を見開いた。急に何を言い出すんだと言わんばかりの無言に、セアラは申し訳なさそうな笑みを浮かべながら続ける。

「勿論、あなたが魔法学園を卒業してからの話よ? メイベルも一緒に、親子三人で暮らしたいと思っているの」
「え、あの、そう言われましても……」

 物凄く答え辛そうに視線を逸らすアリシア。それを見たセアラは、ハッと何かを察したような反応を示す。

「家のこととかは気にしなくていいのよ? 私はただ、あなたとの時間を――血の繋がった親子としての時間を、少しでも取り戻したいだけなの! お父さんは亡くなってしまったけど、きっと天国から見守ってくれてるし、喜んでくれるわ!」

 セアラが必死に呼びかける。お願いだから気持ちが届いてほしいと、そんな切実な願いを込められていることは間違いない。
 それ自体はアリシアも、なんとなく察してはいた。
 しかし――

「いや、あの……そんなこと急に言われても困るんですけど……」

 アリシアは戸惑うばかりであった。完全に目を逸らされてしまい、セアラはショックを受けた表情を浮かべる。
 するとここで、セアラの隣に座っていたメイベルが、小さなため息をついた。

「お母さん落ち着いて。ここで詰め寄っても、アリシアを困らせるだけだから」
「メイベル! で、でも私は……」
「アリシアの気持ちも少しは考えてあげなっての! こないだまで本当に何一つ知らないままだったんだから」
「うぅ……」

 娘に説教され、しょんぼりとするセアラ。今にも泣き出しそうなその姿に――

(えっと……私は一体どうすればいいんだろう?)

 アリシアは途轍もなく、居心地の悪さを感じたのだった。


 ◇ ◇ ◇


(――正直ちょっと不安だったけど、こないだよりはマシなほうかな?)

 先日のようなゴリ押しを、ユグラシアにも仕掛けるのではないか――そうアリシアは思っていたのだ。
 しかし、流石にそれは自重してくれたのだと思い、胸を撫で下ろす。
 それでも全く話していないわけではなく、やんわりとながら先日アリシアに話したような内容を、セアラはユグラシアにも持ち掛けていた。
 ユグラシアは今のところ黙って聞いているだけだが、果たして彼女が今後どのような反応を示すか分からない。
 油断はできない――アリシアが顔をしかめながら思った、その時だった。

「てゆーかさぁ……」

 突如、マキトが声を上げた。アリシアが視線を向けると、頬杖をつきながらセアラと自分を交互に見てきていることに気づく。
 その表情は、どこか不思議だと言わんばかりであった。

「アリシアとセアラさんって、ホントに親子なのか? 全然そうは見えないけど」

 悪気なくかつ、容赦なく放たれたその一言に、場の空気がピシッと固まった。

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