透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第四章 本当の親子

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「お、かあさん……わ、私が?」

 流石のユグラシアでも、驚かずにはいられなかったのだろう。驚きが降り切れてしまい、軽い混乱状態に陥ってしまっている。
 それは誰が見ても明らかなほどだった。
 アリシアも大きく戸惑っているなぁと思ってはいたが、それよりも自分の気持ちを伝えることを優先させたかった。

「はい。ユグラシア様をお母さんと呼びたいです。親子みたいな関係じゃなくて、本当の親子として」

 改めてハッキリとそう告げた。実に分かりやすい率直な答えが、ユグラシアだけでなく周りにも響き渡る。
 アリシアはそう決断した――それがよく伝わってきた。
 故に心の底から納得できない者は、大きな戸惑いを抱くこととなった。

「ど、どうして? 本当の母親は、私のほうなのに……」

 セアラが軽く手をかざし、フラフラと体を揺らす。どうやらアリシアに向けて手を伸ばしているつもりのようだが、戸惑いと混乱から力が出ておらず、言ってしまえば変な格好を晒す羽目になってしまっていた。
 そんなセアラの心情は、アリシアもなんとなく感じ取っていた。
 仕方ないなぁと言わんばかりに苦笑しつつ、アリシアはセアラのほうを向き、落ち着き払った表情でハッキリと告げる。

「正直、私はセアラさんのことを、お母さんと呼ぼうとしたこともあったんです」
「……えっ?」

 セアラは目を丸くした。それに対してアリシアは、肩をすくめながら苦笑する。

「産んでくれた人には違いないですからね。特に恨みもないですし、そう呼ぶのが正しいのかなぁって、最初は思ってたりしたんですよ?」
「だ、だったら!」
「けど――」

 詰め寄ろうとするセアラを、アリシアの一言がせき止める。

「いざそうしようとした瞬間……浮かんできたのは、この人だったから」

 そしてアリシアは、改めてユグラシアに視線を向けた。

「私がそう呼びたい人は、この人だった……それだけのことなんです。他に細かい理由なんて、一切ありません」

 明るいを通り越して眩しい笑顔を浮かべ、アリシアは堂々と言い切った。それだけ意志が固いということを示しており、セアラも何も言えず崩れ落ちる。

「わ、私のことは……お母さんとは呼べないと?」
「はい。私を産んでくれた人であることは認めますけど、お母さんと呼びたい人ではありませんから」
「アリシア……で、でも!」

 納得できないと言わんばかりに、セアラはあがこうとする。そこにメイベルが、しょうがないなぁと呟きながら近づき、優しくポンと肩に手を置いた。

「お母さんの負けだよ。アリシアを想うなら、ここは素直に受け入れよう?」

 セアラは呆然としながら娘を見る。その表情は「どうして?」と言われているようにメイベルには見えたが、とりあえずスルーを決め込む。

「正直言うとね。今回の一件で私も、お母さんに対しては失望したよ」
「メイベル……」
「まぁ、それでもさ――」

 噴き出すように苦笑しながら、メイベルは優しい口調で言う。

「やっぱり私にとっては、たった一人のお母さんだからね。切っても切れないもんなんだって、改めて実感させられた気がするよ」

 その言葉にセアラは何も言えなかった。自身の愚かさを呪っているのか、どこか青ざめた表情で、段々と視線が地面のほうに向けられていく。
 そんな中メイベルは、アリシアとユグラシアに明るい表情を向けた。

「アリシアにとって、それはユグラシア様だったってことでしょ?」
「――うん!」
「そっか」

 メイベルが納得したと言わんばかりに、明るい表情を見せる。しかしその隣で、セアラは涙ぐみながら俯いていた。

「わ、私だって……私だってお母さんと呼ばれるよう頑張ったのに……」
「だからその気持ちが空回りし過ぎてるんだよ」

 ため息交じりにメイベルが言い放つ。まるでバッサリと切り落とすかのように、口調からして全く容赦がない。
 現にセアラもビクッと背筋を震わせていたが、そんな母親に対して、メイベルは今更容赦するつもりなど全くなかった。

「この際だからハッキリ言うけど、アリシアがお母さんと初めて会った時から、こりゃ望みは薄そうだなぁって思ってたもん」
「……えっ?」
「だってアリシア、全然お母さんに対して乗り気じゃなかったし。むしろお母さんが押せば押すほどすっごいドン引きしてたよ? マジで気付かなかったの?」
「そんな……」
「それにね」

 メイベルはピッと人差し指を立て、それをセアラの顔に近づける。ショックを受けていたセアラの表情が驚きに切り替わったのを見計らい、メイベルは一番のポイントとなりそうな部分に踏み込んでいく。

「本当にある意味でだけど、今回の一件がアリシアの背中を押した結果になったのは間違いないよ。もっともその前に、背中を押した子がいたみたいだけどね」

 メイベルがチラリとマキトのほうを向く。いきなり視線が来たマキトは、意味が分からず首を傾げるばかりだった。
 別に反応してほしかったわけでもないため、メイベルはすぐに視線を戻す。
 そこにあったセアラの表情は、酷く青ざめていた。

「こ、今回の件って……」
「だから言葉のとおりだよ。要はお母さんが色々と動いたおかげで、アリシアが決断しちゃったってこと」
「ウソ……ウソよ、そんなの! からかうのもいい加減にしなさいっ!」
「こんな時にからかいの言葉なんて、流石にかける気もないよ」

 呆れた表情でメイベルがしれっと言い放つ。それを受けたセアラは、衝撃を受けたかのように放心してしまう。
 受けとめきれない事実を受けとめたことで、脳の処理が追い付かないのだ。
 それはメイベルも察していたが、それでもまだ娘として言わなければならないことが残っているため、心を鬼にして――もう十分なっていると思われるが――母の顔を見据えた。

「お母さんがアリシアを振り向かせたかったのはよく分かるけど、ちょっとばかしやり方を間違えちゃったね。名家の当主としては、ぶっちゃけ失格もいいところなんじゃないかな?」
「わ、私は、そんなに?」
「まだ首が繋がっているだけ、運が良かったと思わないとね」

 肩をすくめながら苦笑するメイベル。それを聞いたセアラは、フッと力が抜けてしまったらしく、その場に膝をついてしまった。

「なんか、ちょっとかわいそうなのです」

 悩ましそうな表情で呟くラティに、マキトも頬をポリポリと掻いた。

「かもしれないけど、しでかしたあの人もあの人だし……」
「ん。フォローのしようもない。ついでに言うと、ノーラたちは何の関係もない」
『おなかすいてきたねー』
「キュウッ」

 ノーラも無表情のままバッサリと切り落とすように言い放つ。その傍らでフォレオとロップルが項垂れていた。本当に空腹というのもあるのだろうが、それ以上にこの話題に飽きたと言ったほうが極めて正しい。
 もっとも、無邪気な魔物たちらしいと言えばそれまでだが。

「アリシア……」

 一方、ユグラシアは未だ戸惑いに満ちていた。希望がなかったわけじゃない。しかしいざ直面すると、どうしても衝撃のほうが大きかったのだ。
 こんな気持ちは初めてであった。故にどう反応していいか分からない。
 それでも、ちゃんと答えなくてはいけない。
 長年愛しく思って来た存在が、真正面から思いを伝えてきてくれたのだ。逃げたり誤魔化したりするなど、以ての外もいいところだろう。
 震えが止まらない唇をなんとか開き、ユグラシアは問いかける。

「本当に……私なんかで、いいのかしら?」
「はい。あなたがお母さんじゃないと、私は絶対に嫌です」

 しっかりと顔を上げ、視線を定めた上でアリシアは頷いた。それ以外の答えなんてあり得ないと、表情がそう告げていた。
 やがてユグラシアの瞳に、じんわりと涙が浮かぶ。

「――アリシアっ!」

 感極まった勢いで、ユグラシアは抱き着く。その温かさの全てを自分のものにするかの如く、ギュッと腕に力を強める。
 止めどなく溢れる涙が、大粒の雫となって零れ落ちていく。

「ありがとう。私からもお願いよ。どうか……どうか私の娘になって。私も、あなたの母親になりたかったの」
「うん……うんっ!」

 アリシアの瞳からも涙が浮かび上がる。それは頷きにより揺れ動き、やがて雫となって零れ落ちる。
 たくさんの雫が光に照らされ、それは輝いては消える。
 その繰り返される姿は、なんとも美しい姿と言えるものであった。

「ありがとう――お母さん」

 あやふやな関係から、本当の関係に生まれ変わる。その瞬間を二人は心の底から実感していく。
 アリシアとユグラシアは笑顔であった。
 そんな二人の姿を、マキトたちは微笑ましそうに見守っていた。

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