透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

文字の大きさ
152 / 252
第五章 迷子のドラゴン

152 ドラゴンとオランジェ王国

しおりを挟む


 起き抜けに飛び出していったマキトたちが無事に帰ってきて、ユグラシアはホッと安心した表情を見せた。
 しかしそれは、すぐさま驚きに切り替わった。
 この森にはいないはずの魔物を、マキトが抱きかかえて戻ってきたからだ。
 流石のユグラシアも、ドラゴンの子供は予想外だったらしい。
 それでもマキトたちから簡単な事情を聞くうちに、なんとかいつもの落ち着いた優しい表情に戻っていった。

「なるほどねぇ、事情は分かったわ」

 ユグラシアは澄ました笑みとともに頷いた。

「ディオンに連絡を取ってみましょう。何か知っているかもしれないから」

 そう言いながらユグラシアは、便箋を一枚取り出す。そしてすぐさまそこに、サラサラとペンの音を立てながらしたためていく。
 やがてそれを封書にし、赤い蝋でしっかりと封蝋をする。そしてユグラシアが念じるような仕草を見せたその瞬間――封書が消えた。

「えっ、なっ……」

 それを目の当たりにしたマキトは、思わず驚きの声を上げてしまう。それに対してユグラシアは、悪戯が成功したかのような笑みを浮かべた。

「転送魔法の要領よ。魔力が施されている特殊な便箋のおかげで、送り先へ一瞬で届けられる優れモノなの」
「そ、そうなんだ……」

 とりあえず理解はできたが、まだ驚きが抜けないマキト。
 なにはともあれ、これで確実に相手の元へ連絡ができることは間違いない。しかし問題はそこからであった。

「もっとも、すぐに都合は付けられないでしょうけれどね」
「どれくらいかかるのでしょうか?」
「そうね……数日は見るべきじゃないかしら」

 ラティの問いかけに、ユグラシアが人差し指を口に添えながら答える。

「彼もああ見えて、世界中を飛び回っている腕利きさんだもの」

 ドラゴンライダーのディオンという名は、世界の貴族や王族からも頼りにされているほどである。
 それはマキトたちも、前に少しだけ聞いたことがあった。
 割とこの森に降り立つことが多いのも、全ては仕事の一環。少し立ち寄ってユグラシアや森の冒険者たちに報告ないしアドバイスを一言二言伝えたら、すぐさま飛び立つというのが基本であった。
 少なくとも、ゆっくりとお茶を飲んで休憩していく場面は、ありそうでなかった気がするとマキトは思う。
 無論、例外もちゃんとあるのだが、マキトたちはそれを知る由もない。

「連絡が来るまでは、そのドラゴンちゃんはここで面倒を見る形になるわね」
「くきゅ?」

 どういうこと、と言わんばかりに子ドラゴンが首を傾げながら、抱きかかえているマキトの顔を見上げる。
 するとマキトが苦笑しながら視線を下ろした。

「つまり、しばらくは俺たちと一緒に暮らすってことだな」
「……くきゅーっ♪」
「わぷっ!?」

 子ドラゴンが突然顔にしがみつき、マキトはよろけて倒れそうになる。なんとか踏ん張って体制を立て直しつつ、顔から子ドラゴンを引き剥がした。

「くきゅくきゅ、くきゅっ♪」
「あはは……マスターと一緒にいられるのが嬉しいみたいなのです」
「うん。それはもう、見りゃ分かるよ」

 一応通訳してくるラティに、マキトが疲れたような声を出す。驚きに加えて地味にエネルギーを使ったせいであった。
 しかし、小躍りするかの如く嬉しそうな様子を見せる子ドラゴンに、マキトの表情も自然と笑みが宿る。

「まぁ、しばらくの間かもしれないけど、よろしくな」
「くきゅっ♪」

 子ドラゴンは元気よく返事し、そのままマキトの肩に飛び乗る。そして長い首を頬にスリスリと擦り付け、甘え出してきた。
 もうすっかり心を許したらしく、このまま子ドラゴンはマキトに任せるのが一番だということは、誰が見ても明らかな状態であった。
 すると――

「……むぅ、ドラゴンちゃんばかりズルいのです!」

 ラティが頬を膨らませ、子ドラゴンの反対側からマキトにしがみつく。

「マスターの独り占めは許さないのです!」
「キュウッ!」
『そーだそーだー!』

 ロップルとフォレオも軽く憤慨しながら、マキトにそれぞれ飛びついていった。子ドラゴンも含めて合計四匹の魔物たちが一気にしがみつく形となり、流石のマキトも体勢が崩れそうになる。

「分かった! 分かったから、お前ら少し落ち着けって!」
「ん。ついでにノーラもくっつく」
「えぇー?」

 更にノーラまで腰に抱き着いてきて、遂にマキトは尻餅をついてしまう。しがみついてどこまでも懐いてくる姿に、マキトも怒る気力は完全に失せ、苦笑を浮かべるのだった。
 そんな和気あいあいとした彼らの姿を、ユグラシアは笑顔で見守っていた。

「すっかり仲良しさんね。それにしても……」

 ユグラシアの視線が、マキトの首に巻きつくような形で懐いている子ドラゴンに向けられる。

(ドラゴンの子供は大人のそれ以上に気難しくて、人にはまず懐かないとすら言われているのだけど……流石はマキト君と言ったところかしら?)

 それこそ今更な事実としか言えない姿に、ユグラシアは改めて苦笑せずにはいられなかった。


 ◇ ◇ ◇


「くきゅーっ♪」
「こっちなのですよーっ!」
「キュウ!」
『わーいわーい!』

 神殿の裏庭で、子ドラゴンとラティたちが楽しそうに遊んでいる。森の魔物たちも混ざり、鬼ごっこが大いに盛り上がっていた。
 そんな賑やかな光景を、マキトとノーラが離れた位置から見守っている。

「あのチビスケ、なんかもうすっかり馴染んじゃってるな」
「ん。最初に見せていた緊張がウソみたいな感じ」
「全くだ」

 子ドラゴンの楽しそうな姿に、二人して苦笑する。ひとまずの安心は得たが、考えなければいけない問題はたくさんあった。
 マキトが表情を引き締め、魔物たちを見つめたまま切り出す。

「そんなことより、あのチビスケのことだけど……」
「ん。あの子がどこから来たのか」
「そこだよな」

 待ってましたと言わんばかりに頷くノーラに、やっぱりそれを考えていたかと、マキトも思っていた。

「この近くにドラゴンはいないんだろ?」
「いない。いるとしたら、ここから遠くにあるオランジェ王国あたり」
「オランジェ王国って?」
「魔人族の国」
「へぇー。ディオンさんみたいなのが、いっぱいいるってことか」
「ん。そんな感じ」

 マキトの例えに対し、特に訂正の必要性も感じなかったノーラは頷いた。オランジェ王国に対する認識としては、ノーラも似たような感じであった。

「ドラゴンと言えばオランジェ王国。そう言われているくらい、向こうにはドラゴンが当たり前のようにたくさん飛んでたりする」
「やけに詳しいな。行ったことあるのか?」
「ない。本で読んだだけ」

 軽く目を見開きながら視線を向けるマキトに、ノーラは首を左右に振る。

「ノーラは個人的にも、ドラゴンに興味津々だから」
「そっか。とにかくあのチビスケは、そこから来た可能性が高い感じか?」
「普通に考えれば。でも……」

 ノーラはスッと目を細くした。

「あんな小さな子が、一匹で遠い距離を飛んで来れるワケがない。何か悪い出来事に巻き込まれている可能性大」
「マジか……近くにアイツの親が飛んでいるとか……」
「もしそうなら、もうとっくに嗅ぎつけて、ここに降りてきているハズ。ドラゴンの目と耳はそれだけ鋭い」
「そんなに凄いのか」
「ん。ノーラたちの想像だけで判断するのは、明らかに危険なほど」
「へぇ。ディオンさんが連れてるドラゴンを見てると、そうは思えないけどな」
「あれは飼い慣らされてるだけ」
「というと?」
「野生のドラゴンはどれも狂暴。出会ったら最後、死あるのみ」
「ヤバいじゃん、それ」
「ん。ノーラの読んだ本にはそう書いてあった」

 ノーラの言葉を聞いたマキトは、改めて遊んでいる子ドラゴンを見つめる。
 あれもいずれは大きくなって狂暴化するのかと思った。今の段階だけ見れば信じがたい話ではあるが、動物の子供と大人では大きく違うことは、地球でも同じであることぐらいマキトも知っている。
 故に魔物も同じなのだろうと改めて思った。
 それを踏まえても、やはり驚かずにはいられなかった。

「ディオンさんのドラゴンを見て、それなりに知ったつもりでいたけど……」
「あんなの知った内に入らない……って、ディオンが言ってた」
「なるほどな」

 深いため息をつくマキト。まだまだ知らないことだらけだったのだと、改めて知ったような気がした。

「それにしても、アイツ凄い元気になったよな。倒れてたのを見つけた時は、どうなるもんかと思ってたけど」
「ん。ノーラ的にはそれも不思議の一つ」
「何が?」

 マキトが尋ねると、ノーラがいつもの無表情を向けてくる。

「魔物の中には、その土地じゃないと生きられないのもたくさんいる。国によって自然の環境は大きく違うから」
「ドラゴンも例外じゃないってこと?」
「ん。特に子供のドラゴンは、環境が変わるだけで病気になったりもする」
「病気って……」

 不穏な言葉を聞いたマキトは、軽く目を見開きながら子ドラゴンのほうを向く。そこには変わらず元気にはしゃぎ回っている姿があった。

「アイツ見てると、そんな感じには見えないぞ?」
「ん。だから不思議と言っている」
「なるほど」

 ノーラの言いたいことはなんとなく分かるマキトだったが、ここであれこれ考えたところで何も浮かばないのも確かであった。
 ここでマキトは、当初考えるべき問題に話を戻すことに決める。

「とりあえず、アイツがどうしてこの森に落ちてきたのかを、ちゃんと俺たちも知っておかないとだよな」
「ん。ノーラたちにはラティとフォレオがいるから、あとで聞いてみる」
「あぁ、そうしよう」

 マキトは表情を引き締め、ノーラと頷き合う。
 昼食後にでも、改めて子ドラゴンから、ラティの通訳を通して詳しい経緯を聞き出そうと思うのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...