透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第五章 迷子のドラゴン

153 迷子になった経緯

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 昼食を終えたマキトたちは、改めて裏庭に移動していた。
 詳しい事情を聞きたいというマキトからの願いに、子ドラゴンもラティの通訳を通して、話すことを快く承諾したのだった。
 ユグラシアも交えて、皆で子ドラゴンの話を聞いた。

「うーん、なんか大変な感じだよなぁ……」

 粗方聞き終えたところで、マキトは腕を組みながら唸り声を出す。

「要するにチビスケは、遠い山の頂上で親や群れの皆と暮らしていたんだけど、ある日突然、そこから追い出されちまったってことか」
「くきゅっ!」

 そのとーり、と言わんばかりに子ドラゴンが強く頷いた。ちなみにその子ドラゴンは今、マキトの腕の中にすっぽりと納まり、心地良さそうにしている。

「しかも悪いことは何もしていない。山が変な感じになっていた気がする、とのことだったわね」

 ユグラシアが顎に手を添えながら考える。

「その山で何かが起きて、危ないと判断した親御さんが、せめて我が子だけでもと思って無理やり山から追い出した……その可能性が一番自然に思えるわ」
「ん。ノーラも同感」

 ノーラも大きく頷いた。

「でも不愉快。なんでそれからすぐ悪い人たちに見つかるのか」

 子ドラゴンは山から追い出された後、どうしようかと平原をウロウロしていた。そこをたまたま通りかかった怖いヒトの集団に見つかってしまい、あっという間に捕まってしまったのだという。
 そしてそのまま、長い距離を渡って来たとのことだった。

「その『怖いヒト』というのは、恐らく盗賊か何かね」

 殆ど確信に等しい推測をユグラシアは語り出す。

「竜の子供が一匹だけで平原をうろついていたとなれば、盗賊が捕まえてしまうのも無理はないわ」
「何で?」
「希少価値が高い――つまりとても珍しくて、高い値段で取引されるからよ」

 首を傾げるマキトにユグラシアが答えた。

「竜の子供は基本的に独り立ちするまで親から離れることはない。たとえ離れているように見えたとしても、手の届く範囲に親が存在しているのが基本なの。それこそ万に一つの奇跡でも起こらない限り、例外はないと言われているわ」
「ん。つまり今回、その例外が起こってしまった」
「そういうことになるわね」

 ノーラの言葉に頷くユグラシアを見ていたマキトは、ここである一つの可能性が頭に思い浮かぶ。

「山で何かが起きたとか言ってたよな? 盗賊たちがそれを仕組んだとかは?」
「なくはないでしょうけど、可能性は限りなく低いでしょうね」

 少し考える素振りを見せるユグラシアだったが、実際は殆ど断言できるレベルで思っていることだった。

「野生のドラゴンは、外からの危機察知能力にも非常に長けているわ。盗賊たちの策略にまんまと嵌められるとは、正直全く思えない」
「だとしたら、偶然に偶然が重なった不運、という感じなのでしょうか?」
「えぇ、ラティの言うとおりだと思うわ」

 ユグラシアは小さなため息をついた。そして小さな笑みを浮かべ、子ドラゴンに視線を落とす。

「けど、幸運も訪れたわね。アクシデントで檻が壊れ、逃げ出せたのだから」

 頑丈な檻に閉じ込められたまま、ずっと長い距離を運ばれ、とうとう見知らぬ山奥までやってきてしまった。
 しかしその途中、巨大な猪が襲い掛かってきて、その騒ぎで檻が壊れた。
 子ドラゴンはチャンスだと思った。
 必死に翼を羽ばたかせて飛び上がり、その場から逃走したのだった。
 小さな体と空を飛べるアドバンテージが、子ドラゴンを上手く逃げさせた。うっそうとした山に道は殆どなく、沢山の木々が視界を妨げたのも、子ドラゴンにとっては都合が良かった。

「そして運悪く平原に出たかと思いきや、虎の魔物に出くわして騒ぎになったと」

 苦笑するマキトに釣られ、ユグラシアも笑みを浮かべる。

「多分、それはキラータイガーね。さぞかし激しく怒ったことでしょう」
「ん。ノーラもマヌケな姿を見てみたかった」

 無表情ながら、どこか優越そうな感じを醸し出すノーラに、マキトも思わず苦笑してしまう。
 そして改めて子ドラゴンに視線を向け、その小さな体を優しく撫でた。

「それからお前は、そのどさくさに紛れて逃げだして、体力が尽きて落ちたのが、たまたまこの森だったってところか」
「――くきゅっ」
「ハハッ、正解みたいだな」

 マキトは嬉しそうに笑う。考えが当たったこともそうだが、それ以上に子ドラゴンが自分に笑いかけてくれたことに対して、素直に嬉しく思ったのだった。
 するとラティが、何かに気づいたような反応を示す。

「もしかしたらその時に叫び声かなんか出して、それを寝ているわたしたちが、たまたま耳にしたのかもですね」
「そーゆーもんか?」
「助けてとか危ないとか、そう言った叫びはよく聞こえますから」
「あぁ……」

 それなら納得できるかもしれないと、マキトは思った。
 誰かが叫べば、無意識に振り向いてしまう。そこに救援を求めたり危険を知らせるような言葉が入り混じれば、尚更だと言えるだろう。
 ヒトには単なる鳴き声でしかなくても、ラティたち魔物には、普通の声として聞こえているのだから。

「そう考えれば、この子は本当に運がいいと言えそうね」

 ユグラシアが優しい表情で子ドラゴンの体を撫でる。マキトでなくとも、拒否する態度を見せることはなくなっていた。

「いくらこの森に倒れたとはいえ、マキト君たちが都合よく見つけてくれる可能性は高くなかったと思うわ。下手をしたら他の魔物たちに見つかって、更に大変な目にあってたかも」
「偶然に偶然が重なったみたいな?」
「えぇ。まさにそれよ」

 首を傾げるマキトにユグラシアが笑顔で頷く。

「都合よくこの森に落ちただけでも、救いと言えるわ。ここなら盗賊も、無暗に侵入することはできないから」
「確かに。ここは迷いの森みたいなもんだからな」
「くきゅっ♪」

 マキトが苦笑すると、子ドラゴンも真似をするかのように笑う。そしてマキトの胸元に幸せそうにすり寄るが――

「くきゅ……くきゅくきゅきゅ、くきゅ~」

 急に寂しそうな表情を浮かべて鳴き声を上げ始める。それがしばし続くと、ラティもしょんぼりとした表情で子ドラゴンのことを見つめていた。

「お父さんのいる山に帰りたい、って言ってるのです」
「……やっぱそうだよな」

 マキトは重々しそうな表情で納得する。ずっと一緒にいた家族と急に離れ離れになったのだから、むしろ自然なことだろうと思っていた。

「できればすぐにでもそうしてやりたいけど、肝心の場所が分からないしなぁ」
「ノーラの見立てでは、オランジェ王国のどこかの山の可能性大」
「それは私も思ったけれど、やっぱり確かな証拠がないと動きようがないわ」

 ユグラシアの言うことはもっともであった。世界は広い。闇雲に探したところで見つかるわけがないのだ。

「仮に何かしらの情報を得たとしても、その山で異変が起きている可能性が高いとなっていれば、無暗に近づくのは危険極まりないもの。だから今の時点で、私たちにできるのは待つことぐらいよ」
「やっぱりそうなるか」

 子ドラゴンを膝の上に置き、マキトは両手をついて体ごと空を仰ぐ。ふんわりとした大きな白い雲が、青空の中をゆったりと流れていた。

「一応、ディオンからも、手紙の返事自体は届いたのだけど……」

 ユグラシアが一枚の便箋を開き、マキトたちに広げて見せる。

「彼は今、別のお仕事が忙しいみたいでね。それを片付けてからでないと来れないって書かれていたわ」
「……ホントだ」
「まぁ、お仕事の都合なら、仕方がないのですよ」

 マキトもラティも、一応の理解は示した。ドラゴンの子供の件は、仲間にも知らせて調べてもらっている――そう便箋には書かれていたため、放ったらかされているわけではないことが分かる。
 それだけでもありがたいと判断するべきなのは、流石のマキトたちにも理解できることであった。

「となると……焦ってもしょうがないってことになるんだろうな」

 マキトがため息交じりに呟くと、ノーラもコクリと頷く。

「ん。チビはしばらくここでのんびり過ごすべき」
「くきゅっ♪」

 ノーラに体を撫でられ、子ドラゴンは嬉しそうな鳴き声を返す。その姿を見て、ユグラシアは微笑ましそうな笑みを浮かべた。

「見たところ体調も良さそうだし、ドラゴンちゃんにとってこの森の環境は、思いのほか合っているのかもしれないわね」
「ん。それはノーラも思ってた。何か秘密があるのかも」
「どうかしらね」

 そしてユグラシアも、優しく子ドラゴンの背中を撫でてみる。気持ち良さそうに身をよじらせる子ドラゴンが、なんとも可愛らしく思えて仕方がない。
 やがて子ドラゴンはくすぐったさから解放されるべく、マキトの胸元へ迷わず飛びつくのだった。
 両手で受け止めるなり、マキトは楽しそうな笑みを向ける。

「しばらくの間、俺たちと森で楽しく遊ぼうな」
「――くきゅーっ♪」

 子ドラゴンの大歓迎と言わんばかりの返事に、ロップルやフォレオもつられて嬉しそうな様子を見せるのだった。

(そうだ……折角だから、魔物たちの隠れ里にでも連れてってみようかな?)

 マキトはそんなことを考えながら、楽しそうにじゃれ合う子ドラゴンと魔物たちの姿を見つめていた。

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