透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

文字の大きさ
175 / 252
第五章 迷子のドラゴン

175 ヴァルフェミオンと疑惑

しおりを挟む


「ヴァルフェミオンって、あんな感じなのか」

 手を水平にして目の上にかざし、遠くに見えるその島をマキトは見つめる。

「まさかこんなところで見れるとは思わなかったな」
「結構近くまで来てたのですね」
「ん。それだけノーラたちが、遠くまで旅をしてきた証拠」

 ラティとノーラが感慨深そうに言う。ちなみにロップルとフォレオは、子ドラゴンとともに、その広がる景色を純粋に楽しんでいた。
 そんなマキトたちの後ろで、ディオンが腕を組みながら表情を引き締める。

「こうして肉眼でも確認できるくらいの距離だ。ヴァルフェミオンの魔導師なら、ちょっと行って帰ってくるぐらいのことはできると、俺は思うんだが……」
「私も同感だよ」

 リスティも厳しい表情で、ヴァルフェミオンがある島を見つめていた。

「転移魔法には膨大な魔力が必要。だからこそ特別な魔法具で補助するのが一般的だと言われている。けどここは魔力スポット。魔力の補充は至って簡単だから、確かにあり得る話だろうね」

 恐らく、帰る分の魔力を補充してから、魔力を汚染させて帰ってきた――リスティはそう読んでいた。
 そんな中、ディオンは神妙な表情で周囲を見渡していた。

「この周囲に妙な気配は何も感じない。ドラゴンが目的なら、犯人が近くに潜んでいて然るべきなんだが……」
「つまりもう、犯人からすればここに用なんてない」
「あぁ。魔力スポットに異変が生じた時点で、目的を達成したということだろう」

 ディオンが頷いたところで、リスティが深いため息をついた。
 つまり犯人の狙いは、魔力スポットに対する実験。手を加えることで、嫌な魔力が発動するかどうかを見たかっただけ。山やドラゴンの異変は、ほんのついでに過ぎなかったのだと。

「この山やドラゴンがどうなろうが、犯人からしてみれば、知ったこっちゃないってところだったんだろうな」
「なんともはた迷惑な……どこまで身勝手なことをしてくれるんだか……」
「まぁ、こんなことするような輩に、常識を求めるほうがそもそもの間違いだ」
「そりゃあ、そーかもだけどさ」

 不本意だが納得するしかない――そう思わなければやってられなかった。しかしそれならそれで、リスティは少し気になることがあった。

「でも、犯人はどうして、ここに魔力スポットがあるのを知ってたんだろ?」

 魔力スポットというのは、この世界に存在していること自体は知られている。しかし詳しい場所までは殆ど知られていないのが基本なのだ。
 理由は色々あるが、人が滅多に立ち入らない場所というケースが一番多い。
 ユグラシアの大森林にある魔力スポットが、まさにその一例だ。
 近距離で二つも存在する数少ない例でもあるが、そのどちらも結界魔法により、特定の者以外が立ち入ることは許されない。
 ここ、竜の山も似たようなものだ。
 出入りこそ自由だが、頂上に行けば魔物の中でも最強に部類されるドラゴンたちの巣が待っている。そこに好き好んで入り込もうとする者は、基本的にいない。
 魔力スポットからしてみれば、まさに安全な場所そのものだった。
 ドラゴンたちが結界の役割を果たしてくれており、そう簡単に魔力スポットが脅かされることはなかったのだ。
 そう――今回の件が起こるまでは。

「まぁ、普通に考えれば、誰かがこの場所を教えたんだろうけど……」
「いずれにせよ、オランジェ王国が裏で繋がっていることは、間違いないだろう」
「うん。私もそれは思ってた」

 ディオンの意見にリスティは同意する。

「こんなへんぴな場所、別に有名な観光地でもなんでもないからね。外部の人がピンポイントで目をつけるなんて、正直考えられないし」

 いずれにしても確証がないことに変わりはないため、リスティもこれだと断定することはできない。
 そしてディオンもまた、彼なりに思っていることがあった。

「あまり考えたくはないことだが、俺と同じドラゴンライダーの誰かって可能性も十分にあり得る。そうではないことを願って、探ってみることにするよ」
「いいの? ドラゴンを愛する大切な仲間たちなんでしょ?」
「だからこそさ」

 気遣うリスティに対し、ディオンは厳しい表情を見せる。

「ドラゴンを愛し、パートナーとしているからこそ、ドラゴンを陥れるような輩を認めるわけにはいかないんだ。これはドラゴンライダーとして、絶対に譲れない部分でもある」
「……そっちはお願いね。私もお父様たちに、改めて報告した上で相談するから」
「あぁ」

 神妙な表情で、リスティとディオンが頷き合う。山の異変は消えたが、疑惑は消えていない状態である。まだ大団円とするわけにはいかない。
 すると――

「へぇー、そうなのですか!」

 ラティの驚くような声が聞こえてきた。リスティが振り向くと、子ドラゴンから話を聞いているマキトとノーラ、そして魔物たちの姿がそこにあった。

(……どーりで話にちっとも参加してこないと思った)

 呆れた視線を向けるリスティだったが、マキトたちがそれに気づくことはない。いつの間にか自分たちの話に興味をなくしていたことに、少しばかり思うところはあるのだが、もうそれを言う気力すらなかった。

「ハハッ、全くマイペースな子たちだ」

 するとディオンが、腕を組みながらケタケタと笑い出す。そんな彼の反応が、リスティからすれば以外であった。
 故に思わず、率直に尋ねてしまう。

「怒らないの?」
「あぁ。あの子たちの目的は、既に達成しているからな」

 そしてディオンも、あっさりと答えた。

「迷子だった竜の子供を送り届け、無事に親子の再会を果たさせた。山の異変を取り払ったのは、あくまでそのために過ぎない」
「言われてみれば、確かに……」
「だろ? だから俺が怒る理由なんて、どこにもないんだよ」
「なるほどね」

 言われてみればそのとおりだと、リスティは思った。ここから先の問題は、あくまで犯人に対する疑惑を突き止めることであり、山やドラゴン親子とは、なんの関係もない話なのだ。
 故に、マキトたちがこれ以上関わる理由も、全くないのである。
 リスティは開き直ったようにスッキリとした笑みを浮かべ、ディオンと顔を見合わせ頷き合う。
 この話はあとで改めて話そう――そんな無言のやり取りが行われた。

「ここの魔力スポットから溢れる魔力は、さぞかし綺麗だったのでしょうね」

 ラティの言葉からして、どうやらこの山にあった魔力スポットについて話を着ていたのだと、ディオンたちは読み取る。
 するとここで子ドラゴンが、申し訳なさそうに落ち込んだ表情を見せた。

「くきゅー……」
「見れなかったのは仕方ないのです。気にしなくて大丈夫なのですよ」
「くきゅ、くきゅくきゅー」

 ラティに励まされ、子ドラゴンは再び笑顔を見せる。しかしその代わりに、今度はフォレオが残念そうにガクリと項垂れた。

『でも、ざんねんだなぁ』
「どうかしたのか?」

 マキトが尋ねると、フォレオは項垂れたまま答える。

『だってぼく、まりょくすぽっとでぱわーあっぷしたかったんだもん』
「なんだ、そんなに強くなりたかったのか?」
『うん。どらごんになって、そらをとんでみたかったの』

 そう言いながらフォレオは空を見上げる。マキトたちもつられて、一緒に視線を上に向けた。
 そこには青空が広がっていた。流れる真っ白な雲は実にふんわりとしている。

「くきゅー?」

 子ドラゴンがフォレオの視界に入ってきた。翼を羽ばたかせているのだ。
 それをジッと見つめるフォレオの姿に、マキトは苦笑する。

「なるほどね……チビスケが羨ましくなったんだな」
「ん。気持ちは分かる」
「キュウ!」

 ノーラに続いてロップルも頷く。ラティも頷こうとしたところで、脳内に一つの疑問が浮かんできた。

「フォレオ? わたしもこうして飛んでるのですけど、わたしには羨ましいとかそういうのはなかったですよね?」
「あ、そういえばラティにはなかったな」

 ラティの疑問を聞いて、マキトも初めて気づいた。ノーラやロップルも、そういえばと言わんばかりに顔を見合わせている。
 するとフォレオが、あっけらかんとした表情でラティを見た。

『ただとぶのとはちがうの。ますたーたちをのせてそらをとびたいんだもん!』

 子ドラゴンが空を飛んでいるのを見て、ずっと羨ましく思っていた。いつか大きくなってマキトを乗せる――子ドラゴンはそう言っていたのだ。
 それを聞いて、フォレオは闘争心を燃やしていた。
 自分も大好きなマスターを乗せて、空を飛べるようになりたいと。
 大きな獣姿に変身することができるのだから、翼を持つドラゴンに変身することもできるのではないかと、そんな願望を抱き続けてきたのだ。
 竜の山には魔力スポットがある。そこの魔力を吸収させてもらえば――そう思っていたのに、見事当てが外れてしまった。
 山に平和が戻ったのだから、とやかく言えないことも分かりつつ。

「あぁ、そーゆことだったのですね」

 フォレオの気持ちを察し、ラティは苦笑する。ロップルもなるほど、とノーラの腕の中で頷いていた。
 すると――

「くきゅーっ!」

 子ドラゴンがフォレオに力強い笑みを浮かべてきた。そしてそのまま、フォレオに勢いよく語りかける。

「くきゅくきゅ、くきゅくきゅくきゅきゅ、くきゅーっ!」
「えっと……」

 子ドラゴンの言葉を、ラティがいつものように聞きとる。しかし今回は、なにやら戸惑っている様子であった。
 そしてゆっくりと、マキトたちのほうを振り向く。

「フォレオのパワーアップができるかもしれない……だそうなのです」
「……へっ?」

 マキトは思わず、素っ頓狂な返事をしてしまうのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

異世界での異生活

なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。

最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
 病弱な僕は病院で息を引き取った  お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった  そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した  魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

処理中です...