透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第五章 迷子のドラゴン

180 幕間~とある魔族王子の奮闘・疑惑~

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 ここは、オランジェ王国。
 竜の山で発生した騒動から数日が経過しており、一時は騒がしかった王宮も、今ではすっかり落ち着きを取り戻していた。
 ちなみに騒がしかった原因は、リスティことクリスティーンである。
 王女である彼女が勝手に城を抜け出した挙句、騒動の中心部へ単身で飛び込もうとしていたのだ。
 もっとも正確に言えば、彼女が抜け出したことにより、あっという間に冷静さを吹き飛ばしてしまった者がいたからであった。

(全く……無事に収束させて戻ってきたから良かったものの、一歩間違っていればどうなっていたか分からなかったぞ!)

 リスティの兄である、オランジェ王国王子のカルファーイ――通称カイは、王宮の長い廊下を歩きながら顔をしかめていた。
 妹がドラゴンに乗って、王宮へ帰ってきた時のことを思い出したのだ。
 普段はクールで長身でイケメンで優しいと、メイドや貴族令嬢たちからは熱を込めた視線を向けられているカイ。更に剣や魔法の腕も強く、実戦経験も豊富ということもあって、騎士や兵士たちからも絶大な人気を誇っている彼だが、今は彼に近寄ろうとする者は男女問わず一人もいない。
 それぐらい、今の彼から噴き出しているオーラが凄まじいのである。
 更にその理由も明らかである以上、尚更だと言えていた。

(かすり傷で済んだのは、むしろ奇跡なほうだ……いや、そのかすり傷でさえ嘆かわしいことだが)

 勝手に飛び出しておきながら、のこのこと笑顔で帰ってきたリスティを、当然の如くカイは盛大に説教をした。
 もっともある意味、これはいつものことであった。
 それだけリスティが色々とやらかすタイプのお姫様ということを意味する。
 故に周りも、あぁやっぱりかと言わんばかりの反応しか示さず、父親である国王ですらもため息をつくばかりであった。
 もっとも国王の場合、父親として一つビシッと気合いを入れていたのだが、カイの凄まじい気迫に押され出番を失ってしまう始末であった。
 それを当のカイは、知る由もなかったが。

(私の説教がどれほど効果があるのか、正直あまり期待はできない。不本意だが、いつものことだからな。まぁ、それはそれとして――)

 本当は置いておきたくないが、なんとか強引に頭の片隅へ考えを追いやる。何故ならもう一つ、気がかりなことがあったからだ。

「くきゅ、くきゅーっ♪」
「はいはい。ちょっと待ちなさいな」

 中庭を通りかかると、楽しそうな声が聞こえてきた。リスティが紅茶とクッキーでティータイムを楽しんでいるのだ。
 そして彼女の傍らにいるのは、竜の子供だ。
 リスティが差し出したクッキーを美味しそうにモシャモシャと頬張っている。その幸せそうな姿に、リスティもフニャッと表情を蕩けさせていた。
 もはや見慣れた光景だ。どこへ行くにもリスティは、子ドラゴンを必ず連れて移動している。
 最初は周りも驚いていたが、もう誰も気にしていないほどだ。
 先日もメイドが子ドラゴンにお菓子を与えている姿を、カイはその目でしっかりと見たほどである。
 それはそれで思うところがないわけではないが、彼が一番気にしているのはそこではない。

(アイツがあれを連れて帰ったときは、それはもう驚いたものだったな。しかも自分が育てると言い出すとは……)

 それ自体は別に、カイも最初から反対するつもりはなかった。
 むしろよくそこまで持ち込めたものだと、驚いたほどだ。
 ただでさえ人に懐きにくいドラゴン。しかもその子供となれば、絶対に懐かないとさえ言われているそれを、さも当たり前のように手懐けてしまったとなれば、むしろ驚かないほうが不思議というものであった。
 流石はクリスティーン王女様――そう褒め称える者も続出している。
 その多くが彼女に取り入ろうとする貴族の者たちであることは否めないが、彼女の評判そのものが上がったことに変わりはなく、なにより本人が全くもってそれを気にしていない。
 故にそれも特に問題視する理由は、カイにはなかった。
 では、彼は何を気にかけているというのか――そのキーカードが子ドラゴンであることもまた、確かではあった。

(問題は、あの竜の子供を従える際に協力してもらった者がいる、という点だ)

 ドラゴンライダーのディオンではない。リスティはそう断言していた。
 あまりにもキッパリと言い放つ彼女の姿に、思わずカイは目を丸くしていたが、少なくとも嘘ではないと判断した。
 しかしそれならば、一体誰が協力したというのか。
 ただでさえ気難しい竜の子供とリスティを引き合わせるなど、普通の者では絶対に不可能なことだ。つまり、何かしら特殊な者と知り合った可能性が高いと、カイは睨んでいる。
 そしてそれは、大正解だと言えていた。

(まさか……魔物使いの『少年』が加担していたとはな)

 秘密裏に調査をさせ、掴み取った情報であった。リスティよりも年下であるその少年は、ユグラシアの大森林にいるという。
 できれば名前も知りたかったが、そこまでの情報は入ってこなかった。

(リスティに聞いたところではぐらかされるのは明白。ならばこちらで調べるまでだと思ったものの、意外と情報らしい情報が入ってこないとは、予想外だった)

 それも致し方ない話ではあった。何せ冒険者ギルドに登録されている名簿に、それらしき少年の情報が何一つなかったのだから。
 つまり、ギルドに登録していない可能性が非常に高い。加えて冒険者や町の人々との交流も殆どしなかったという。
 何かと当てが外れてしまった形となったが、最低限の情報は得られた。
 その情報が、カイを動かす燃料になってしまっていた。

(リスティよりも少し年下の『少年』か……)

 少年、という言葉を強調させるカイ。その際に彼は思い出す。
 妹が先日、その少年らしき存在のことを子ドラゴンと話しており、とても楽しそうな表情を浮かべていたと。
 ――いつか一緒に旅をする日が来るのが楽しみね♪
 そんなことを言っていたのだった。しかも頬を軽く染めながら。

(我が妹があんな顔をするとは……一体何者だというのだ、その少年は!)

 正直カイは、妹のそのような表情を、これまで見たことがなかった。
 男の子の友達は今までにもいなかったわけではない。しかし王女という立場が邪魔をしてしまうのか、打算めいたお近づきしかなかったのも事実。それ相応に仲良くなっても、今みたいに嬉しそうな笑顔を浮かべたことはない。

(まさか……まさかまさか、つまりは『そーゆーこと』なのかっ!?)

 カイの心が着々とかき乱されていく。
 調査の報告によれば、その少年は他国から来た故、リスティのことは全く知らなかったという。王女だと明かされた際には驚きこそしたが、それでも彼女に対する態度を変えることもなかったらしい。
 それがリスティにとって嬉しかったことは明白であった。
 そこからその少年に対し、特別な存在として認識するようになったとしても、何ら不思議ではない。

(アイツが竜の子供を引き取って育てる決意をしたのは、確か『友情の証』とか言っていたな。しかしそれは本当なのか? 建前という可能性も十分にあり得る。だとしたらそれが意味することは――)

 もはやカイの思考は、暴走という名の局面に突入していた。
 妹と『少年』のキャッキャウフフな桃色展開が、彼の脳内で繰り広げれる。それはもう実に楽しそうな声とともに。

(……これはもう、私が自分で動くしかない)

 カイは表情を引き締め、踵を返す。王宮の長い廊下をスタスタと、わき目もふらず射貫くような鋭いまなざしで、前を見ながら一直線に進む。
 たまたま通りすがったメイドや兵士たちは、こぞって驚き戸惑っていた。
 今の殿下は危険だ。触れてはいけないと王宮中に通達せねば――そんな無言のやり取りが、当たり前のように展開されていく。
 そしてそんな一連の姿を、大きな書籍を抱えながら通りかかった大臣が、なんとも冷めた視線で見ながらため息をついた。

「やれやれ……もうそろそろだと思ってはいたが……」

 特に慌てる様子もなく、大臣は去りゆくカイの背中をジッと見据えていた。

「殿下は王女のことになると、決まってああなる。アレさえなければ、紛れもなく完璧な方なのだがな」

 人は誰しも欠点の一つや二つはある。それは王族も決して例外ではない。
 容姿端麗で優れた才能を持ち、なおかつ努力を怠らず、将来の王としての自覚も実に申し分ない――妹に対して過剰な愛情を注ぐことを除けば。
 家族を愛するという意味では確かにいいかもしれない。しかし何事も、行き過ぎは良くないのも確かである。
 カイに至ってはまさにそれであり、それが唯一の欠点でもあり、周りの大きな悩みでもあるのだった。

「……国王様に報告しておくか」

 深いため息をつきながら、大臣は国王の元へ向かうべく、踵を返した。
 修羅のような表情でドラゴンにまたがり、カルファーイ殿下が王宮から飛び出したという報告が飛んできたのは、それからすぐのことであった。

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