透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

文字の大きさ
193 / 252
第六章 神獣カーバンクル

193 マキトのお爺ちゃん

しおりを挟む


「面影があると思ってはおった……まさか本当にワシの孫じゃったとはな」

 クラーレは目を閉じながらしみじみと話す。その目からは、うっすらと涙が浮かび上がっていた。
 一方、孫と称されたマキトは、ただただ戸惑っていた。

「……本当に俺のじいちゃんなのか?」
「お前さんがリオとサリアの息子ならば、十中八九当たりじゃよ」

 確固たる証拠はない。あくまで面影と聞いた話の整合性を取った末に、導き出した推測に過ぎない。
 それでもクラーレは確信していた。目の前にいる少年が、決して赤の他人ではないことを。
 一目見た時から不思議な気持ちに駆られていた――その謎が解けた気がした。

「魔物使いとして魔物に懐かれる才能、そしてその顔立ちも、どことなくリオの雰囲気が出ておるわい。そして……」

 未だ気持ち良さそうに眠っているフォレオたちに、クラーレは視線を向ける。

「妖精や霊獣ばかりをテイムできるというのは、恐らく母親譲りじゃろう」
「そういえば、カーバンクルが言ってたな」

 サリアについて自慢げに語っていたのを、マキトは思い出す。

「なんか精霊と仲良くなれる能力がどうとかって……」
「ん。確かに言ってた」
「ですね」

 ノーラとラティも頷く。同時にこれまで解明できていなかった謎の一つが、ようやく分かったような気がしていた。

「俺が普通の魔物をテイムできない理由は、そこにあったってことか」
「お母さんから受け継いだ才能が、そうさせていたのですね」
「恐らくな」

 血は争えないと思いながら、クラーレは笑みを深める。

「精霊と仲良くなる――恐らくは精霊を司る妖精や霊獣を意味するんじゃろう。ただしあくまで、魔物使いではなかったそうじゃがな」
「本当に単なる特殊能力ってことだったんだ。珍しい才能ってあるんだな」

 マキトが腕を組みながら感心する。魔物使いとはまた違う能力の存在に、少なからず興味を抱いていた。

「ん。でも納得できる部分はある」

 そこにノーラが、別の角度から納得を示してきた。

「サリアは異世界召喚されてきた人物。普通では身に付けられない能力を持っていたとしても、不思議じゃない」
「うむ。恐らくその線で間違いはないじゃろう」

 クラーレも同意を示す。しかしその直後、申し訳なさそうに眉を下げた。

「もっともワシが知っていることは、それぐらいのもんじゃ。あまり話せることがなくて済まんな」
「それは別にいいけど……じいちゃんもロクに知らないってことになるのか?」
「うむ。思えば情けない話になるんじゃが――」

 クラーレは軽くため息をつき、そして表情を引き締め、顔を上げる。

「ワシがリオとサリアの関係を本格的に知ったのは、それこそ十年前に起きた、例の事件のときだったんじゃよ」

 十年前――シュトル王国で発生した、異世界召喚儀式の失敗。
 そこでクラーレは初めて、自分にリオという名のハーフエルフの息子がいることを知ったのだった。
 彼がまだ若かりし頃、とあるエルフ族の女性とひと夏の恋に燃え上がった。
 季節が変わってすぐに二人は別れ、それっきり会うことはなかった。

「自分に孫はおろか、息子がいたことすらも、ワシは知らんかった。それを知ったのは全てが終わった後じゃった」

 幼い男の子が儀式の暴走に巻き込まれ、姿を消した。そして程なくして、新国王の怒りの刃によって、一人のハーフエルフの青年の命が消え去った。
 直後――新国王の言葉により、クラーレは全てを知った。

「ワシは本当に……何もできんかったのじゃ」

 重々しい口調でクラーレは言う。俯かれている顔からは、どんな表情を浮かべているかまでは分からない。

「見知らぬ幼子と若い男の哀れな姿――そうとしか思っておらんかった。まさか自分の息子と孫じゃったとは……今でもあの瞬間のことが、瞼の裏に鮮明な形で蘇ってくるわい」

 全てを知ったクラーレは、大声で叫んだ。まるで壊れた玩具のように、正気を失った声を、王都中に響かせる形で。

「ユグラシア殿が止めてくださらなければ、ワシはあのまま死んでおった。生きている価値があるのかと、今日までずっと考え続けておった。しかし――」

 クラーレはマキトに視線を向ける。

「まさか、孫が生きておったとはな……」

 そしてその目には、溢れんばかりの涙が浮かび上がっていた。体を震わせ、ぽろぽろと地面に雫を零しながら、クラーレは嗚咽を漏らす。

「生きていてくれて……元気でいてくれて……ワシは、ワシは嬉し……うぅっ!」
「じいちゃん……」

 目の前の老人の体が、マキトにはえらく小さく見えていた。
 マキトはゆっくりと立ち上がり、恐る恐るクラーレに近づいていき、彼の目の前に膝をつく。
 そしてその小さな背中に、手を回したのだった。

「おぉ……おぉっ……」

 クラーレの口から漏れ出る呻き同然の声を、マキトは黙って受けとめていく。
 余計な言葉はいらない。ただ抱き締めているだけで十分だった。
 震える体は途轍もなく弱弱しく思えた。ほんの少し力を込めるだけで、あっという間に崩れてしまいそうな気がした。
 最初に見せていた力強さは、幻だったのではないかと思えてしまうくらいに。
 そんな二人の後ろ姿を黙って見ていたノーラとラティが、互いに顔を見合わせ微笑みを浮かべる。
 泉の流れる音とともに、嗚咽の漏れる音はしばらく流れ続けるのだった。


 ◇ ◇ ◇


「――もう大丈夫じゃ。情けない姿を見せてしまって、済まんかったな」

 スッキリとした笑顔でクラーレは言う。瞼は少し腫れていたが、その晴れやかな表情は、心からの清々しさを醸し出していた。

「キュウ……」
『ふわあぁ~ぅ』
「んにゅう……あー、よく寝たぜー」

 そこに、三匹の魔物たちの寝起きな声が聞こえてくる。たっぷり寝たおかげで、こちらもスッキリとした目覚めを迎えたようだった。
 ノーラが自然な動きでロップルを抱き上げ、マキトはフォレオを抱える。これはいつものことなので、魔物たちも特に大きな反応は示さない。
 そして、残ったカーバンクルはというと――

「んー……しょっと!」

 マキトの背中に飛び乗り、器用によじ登って肩に掴まるようにしてもたれる。突然のことで驚いたが、その体は驚くほどの軽さであり、マキト自身に負担がかかることはなかった。

「な、なんだよいきなり?」
「オレだけ抱っこされないなんて寂しいからな。除け者は許さねーぜ♪」
「いや、別にそんなつもりはないけど……」
「なら問題ねぇな」

 笑顔でそう断言するカーバンクルに、マキトはツッコミを入れる気力が失せた。

「……分かった分かった。もう好きにしとけ」
「おうっ♪」

 ため息をつきながら投げやりに言うマキトに対し、カーバンクルはご機嫌な声で返事をしつつ、肩に掴まる力をギュッと込める。
 そう簡単には離れてやらねーぞと、そう言わんばかりであった。

「ホッホッホッ、こりゃまた随分と懐かれたもんじゃのう」

 そんなマキトたちの様子を、クラーレは微笑ましく思っていた。そしてここで、あることを思いつく。

「よし、お前さんたち、今日はワシの家に泊まっていきなさい」
「いいのですか!?」
「無論じゃ」

 表情を輝かせるラティに、クラーレは笑顔で頷いた。

「良ければこれまでの出来事などを、是非ともワシに教えておくれ」
「ん。分かった。マキトもいいよね?」
「えっ? あ、あぁ……」

 どこか押しの強い声のノーラに、マキトは反射的に頷いてしまう。しかし断る理由が全くないのも、また確かではあった。

(――まぁ、いいか)

 そう思いながらマキトは、クラーレに視線を向ける。

「じゃあ、じいちゃん。今夜は世話になるよ」
「うむ。堅苦しくせんでええぞ。気楽にのんびりしていきなさい」
「ありがとう」

 かくしてマキトたちは、クラーレの家で一夜を明かすことが決定した。思わぬ決定に対し、それぞれが嬉しさを醸し出している。

「おじーちゃんの家でお泊り……楽しみなのです♪」
「キュウキュウッ」
『うん、ぼくもたのしみー♪』
「オレも楽しみだぜ!」

 魔物たちもすっかりはしゃいでおり、盛り上がりを見せている。まるで自分の子供たちが喜んでいるみたいだと、クラーレも受け入れていた。

「では、早速ワシの家に向かうとしよう。今日は豪華な夕食をご馳走するぞ」

 その声に、改めて魔物たちは喜びの声を上げる。マキトやノーラも、嬉しそうな表情を浮かべながら、クラーレの後に続いて歩き出した。


 ◇ ◇ ◇


 そして、魔力スポットに誰もいなくなった、数分後のこと――

「……よっし、無事に到着したかな?」

 魔法陣の光とともに、一人の少年が降り立った。
 小柄で痩せ型で、分厚い眼鏡をかけた坊ちゃん刈りの黒髪は、傍から見れば真面目そうな雰囲気を醸し出している。
 そんな少年が周囲をキョロキョロと見渡し、そして目の前の泉を見て、嬉しそうな笑みを浮かべた。

「やった! ヴァルフェミオンの学生カミロ、無事に目的地に到着――ってね♪」

 少年ことカミロは、小さなガッツポーズを見せる。そして目の前にある泉から、すぐに目を逸らしてしまった。

「さて、と……確かこの近くにあるハズなんだけどなぁ……」

 カミロは何かを探すように、魔力スポットの周辺をウロウロと歩き出す。最初は余裕感のある落ち着いた様子を見せていたのだが、それは次第に、焦りの色を濃くしていった。

「……おかしい。なんでどこにもないんだ?」

 独り言を呟きながら、カミロは慌てふためく。近くの茂みをガサガサと乱暴に漁ってみるが、目的のものは見つからない。

(ここのどこかにあるハズなんだ……神獣カーバンクルの祠が!)

 その祠はマキトたちが封印を解いてしまったため、既に存在しない。
 無論、そのことを知らない少年は、それからありもしない祠を一生懸命探す羽目に陥ってしまっていた。
 しばらくそのまま探し続けるが、当然の如く見つからない。
 疲れて跪いてしまうも、カミロの目は燃えていた。

(学園には黙って抜け出してきているんだ! 絶対に見つけるまでは帰れないし、帰るつもりなんかないぞ! 何せ――)

 両手で草むらをギュッと力強くつかみながら、カミロはギリッと歯を鳴らす。

(これには僕の……僕の落第がかかってるんだぁーーっ!)

 心の叫びを解き放ちながら、カミロはここまでやってきた経緯を、脳内で思い出していくのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...