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第六章 神獣カーバンクル
192 魔力スポットの番人
しおりを挟む「なるほどのう――それでお主たちは、魔力スポットを求めてやって来たのか」
改めてクラーレと互いに軽く自己紹介をした後、泉の前の地面に向かい合わせる形で腰を落ち着け、話をすることになった。
マキトから経緯を聞いたクラーレは、頷きながら納得する。
その際にライザックと言う名前は伏せられていたが、クラーレはそれに対し、疑問を抱くようなことはなかった。
むしろ、申し訳なさそうに力のない笑みを浮かべていた。
「お主らのような子供が、魔力スポットを荒らす悪党なワケがない……ワシとしたことが、早まったことをしてしまったもんじゃ」
湧き出る水の流れる音が響き渡る中、クラーレがしみじみと語っていた。
「周りに妙な気配もせんし、恐らくお主らは魔物の力を借りて、ここまで旅をしてきたのじゃろうな。疑ってしまって、本当に申し訳ない」
「あ、いや、別に何も気にしてないから」
深々と頭を下げてくるクラーレに、マキトは慌てて手を左右に振る。実際に驚きこそしたが、それだけだ。特に不快な気持ちを抱いたとかは、本当に全くない。
「そんなことより、じいちゃんってこの近くに住んでるのか?」
「さっき、魔力スポットの番人とか言ってたのです」
「ん? おぉ、そのとおりじゃよ」
マキトとラティの言葉に、クラーレは笑みを浮かべながら頷く。
「ワシはずっと、ここの魔力スポットを守る役割を担ってきておった。とは言ってもまぁ、個人的にそうしたいからしておるだけじゃがの」
「へぇー、そうだったんだ」
マキトは膝元ですやすやと眠っているフォレオの頭を撫でる。その隣では、ノーラの膝元でロップルも同じように、気持ち良さそうな寝息を立てていた。
「にゅう~」
『ふにゅ……』
その可愛らしい寝言に、クラーレも頬を綻ばせる。
「よく寝ておるのう。きっと長旅で疲れたんじゃろうな」
「さっきまで思いっきり遊んでたけどな」
「ん。多分それで燃料切れの状態」
「ロップルたちに至っては、よくあることなのです」
ラティがツンツンと、ロップルのモフモフな頬を突きながら笑う。完全に熟睡しているらしく、身じろぎするだけで起きる様子はない。
「それにしても、マキトよ……お前さんは実に不思議な子じゃな」
クラーレが興味深そうにマキトを見つめる。
「ワシもかつては冒険者として、それなりに多くの魔物使いを見たことがある。しかしお前さんのようなケースは殆ど見たことがない」
「それって、【色無し】云々のこと?」
「うむ」
首を傾げるマキトに、クラーレは大きく頷いた。
改めて自己紹介をした際に、マキトの魔物使いに対する事情も、クラーレに軽く説明したのだ。
ラティたち妖精や霊獣を立て続けにテイムした【色無し】の魔物使い。
その裏に潜んでいるであろう『憶測』については、クラーレも大いにあり得ると思っていた。
「じゃがそれも【色無し】ではなく、【透明色】となれば合点がゆく。冒険者ギルドが才能溢れる若者を見逃し続けておるのは、今でも変わっておらんようじゃな」
嘆かわしいと言わんばかりに、クラーレが目を閉じながら首を左右に振る。そんな彼の言葉に対し、マキトは一つの疑問が湧きあがった。
「そーゆーじいちゃんって、昔はどんな冒険者だったんだ?」
「まぁ、なんじゃ……ワシもあの頃は若くてのう」
クラーレは少し恥ずかしそうに苦笑する。
「好き勝手に暴れて暴れまくり、それが運良く評価され、それなりの立場を得ておったこともある。全ては遠い昔の話じゃがの」
目を閉じながらしみじみと語るクラーレ。果たしてそこに、どんな思いが秘められているのか――それはマキトたちにも分からない。
するとクラーレは、はたと思い出す。
「お前さんたち、確かユグラシアの大森林から来たと言うとったな? ユグラシア様は元気にしておるかね?」
「ん。元気も元気。最近は娘もできたから、より元気がみなぎっている感じ」
「なんと!」
ノーラの淡々とした言葉に、クラーレは目を見開いた。
「風のウワサでそのようなことを聞いてはいたが、まさか本当じゃったとはな」
「今じゃただのデレデレなお母さんだよ」
マキトは苦笑しながら肩をすくめる。その隣でラティも、うんうんと頷いた。
「お仕事のときは、ちゃんとした森の賢者さんなのですけどね」
「そうか……なるほどな」
クラーレは納得したかのように、笑みを深める。
「ユグラシア様はそれだけ、お主たちに心を許しておるということじゃな」
「そうなのかな?」
「ん。よく分からない」
首を傾げ合うマキトとノーラを見て、クラーレは軽く噴き出すように微笑む。
「むしろそれ以外にあり得んじゃろうて。他人には決して見せない本当の姿を見せておるのじゃからな」
「それが、心を許しているってことになるのか?」
「無論じゃとも。つまり――」
クラーレは深々と頷き、そして改めてマキトたちを見据える。
「ユグラシア様はお主たちのことも、立派な『家族』と見なしておる――ワシにはそう思えてならんよ」
マキトとノーラは、呆然とした表情を浮かべていた。ラティも同じくであった。
実際、そう深く考えたことなどなかった。マキトたちとユグラシアの関係性を知っている人が、周りにいるようで、あまりいないのも大きいだろう。
少なくともこうして、マキトたちとユグラシアの関係性を知った上で、客観的な分析をしてハッキリと伝えてくれたのは、クラーレが初めてだ。
故にマキトたちは驚いたのだ。
こうして言ってくれる人に初めて出会えた。新鮮で仕方がなかったのだ。
もっともクラーレからすれば、なんてことない感想に過ぎず、マキトたちがそこまで感じていることは、それほど気づいてもいなかった。
「そんなことより、ワシはもう一つ驚いておることがある」
クラーレは話を切り替えつつ、カーバンクルのほうに視線を向けた。
マキトたちもつられて視線を向けてみると、丸まって心地良さそうに寝息を立てている姿が、視界に飛び込んできた。
その可愛らしい姿に、マキトは思わず表情を綻ばせる。
「やけに静かだなぁと思った……」
「無理もあるまい。封印が解けたばかりで、回復しきれてなかったんじゃろう」
クラーレも微笑みつつ、話を元に戻させてもらうがと前置きし、改めて真剣な表情を浮かべた。
「まさか、神獣カーバンクルの封印が解かれるとはな。そう簡単に解かれるような仕組みではないと聞いておったんじゃが……」
「どんな仕組みだったのですか?」
「ふむ――」
ラティの質問に頷き、クラーレは語り出す。
「十数年前、とある少女が魔法とも違う特殊な力を使い、封印したそうじゃ。それと同じような力を持つ者でなければ、封印を解くのは不可能ともな」
「なんだか壮大なのですねぇ」
「まぁ、特別な魔法を扱える神獣だからこそじゃと、ワシは思っておったがの」
クラーレがケタケタと笑いながら言う。するとノーラが、マキトの服の裾をくいっと引っ張りだした。
「ねぇ、マキト」
「んー?」
「その『とある少女』って、もしかしてサリアのことじゃない?」
「あ、うん。俺も同じこと思ってたわ」
「だよね」
マキトの頷きに、ノーラは嬉しそうな表情を見せる。そんな二人を前に、クラーレは心から驚いたように、目を見開いていた。
「――お主ら、サリアのことを知っておるのか?」
「知っているも何も、マスターの実のお母さんなのですよ」
「なんと!」
あっけらかんと答えるラティに、クラーレは更に驚いてしまう。明らかに予想すらしていなかったらしく、流石のマキトとノーラも、一体何事だろうかと戸惑いを浮かべていた。
そんな中クラーレは、マキトに恐る恐る尋ねる。
「つかぬことを聞くが……その父親の名は、もしや『リオ』ではないのか?」
「そうだよ。といってもまぁ、俺もユグさんから聞いただけで顔も知らないし、会ったこともないけどね」
あの時は俺もビックリしたなぁと思いながら、マキトは苦笑する。
一方クラーレは、神妙な表情で俯き――
「やはり、そうじゃったのか」
小さな声で呟いた。そして軽く震えながら顔を上げ、改めてマキトを見る。その目は心なしか潤んでいるように見えた。
「リオの息子は……ワシの孫は、生きておったということか!」
その震えた声に、今度はマキトたちが、口を開けて驚く番であった。
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