220 / 252
第七章 魔法学園ヴァルフェミオン
220 祖父と母親、そして姉
しおりを挟む「いつまでここに閉じ込めておく気じゃ! せめて事情くらい話さんかい!!」
ガンガンガン――扉を叩きつける音が空しく響き渡る。いくら叫んでも答える声は一つも返ってくることはない。
クラーレは、深いため息をつきながら、叩く手を止めてしまう。
分かってはいるのだ。いくら叫んだところで、いくら暴れたところで、周りは自分たちのペースでしか動かないことを。
(ワシは別にどうなっても構わん。マキトたちだけは、無事でいてほしい!)
もはやそれ以外に願うことはなかった。何が目的で連れてこられたのかは、まだ全く判明していない。碌な理由でないことは察しがついているが、もう殆どどうでも良くなっている感じであった。
クラーレは項垂れながら、備え付けの椅子に座る。
窓のない小さな部屋の中をいくら見渡しても、得られる情報は殆どない。
できれば今すぐにでも、ここから飛び出したいところだ。
全力で魔法を放ち、周りの壁は天井、そして床の全てを破壊して脱出しようかと考えてみた。
しかしそれは悪手だと思った。
ここがどのような場所か分からない以上、迂闊に動いたり手を出したりするのは危険過ぎる。
結局のところは、待つしかない――それがクラーレの出した結論であった。
(それにしても、一体いつまでワシはここに……むっ?)
――ゴオオォォーーッ!
クラーレがひっそりとため息をついたその瞬間、重々しい音が響き渡る。振り向いてみると、部屋の扉が開いていた。
そしてその先には――
「ほう? どうやら大人しくしていたようだな、元・宮廷魔導師殿」
ヴァルフェミオンの理事を務めるウォーレスが立っていた。
「キサマ……っ!」
そのニヤついた笑みに対し、クラーレは険しい表情で立ち上がる。
ウォーレスの後ろに控えている二人の女性に気づかず、そのまま噛みつく勢いで立ち向かっていった。
「黒幕はキサマか! ワシをこんなところへ連れてきてどうする気じゃ!?」
「はぁ……少しは落ち着いてほしいモノだな」
臆することなく呆れを示すウォーレス。それに対してクラーレは、更なる苛立ちを募らせていく。
「何を言うか! 人をいきなりこんなところへ閉じ込めおってからに――」
「少しは人の話を聞きたまえ。森の賢者も見ているぞ?」
「――なんじゃと?」
ウォーレスが自身の後ろを促し、クラーレもそれにつられて視線を向ける。確かに森の賢者と言われるユグラシアがそこにいた。そしてその隣には、恐らくハーフエルフであろう少女の姿も。
ユグラシアは困ったような笑みを浮かべ、軽く会釈をする。
何故、彼女がこの場に連れてこられたのかについては、確かにクラーレも気になるところではある。
しかしながら、今はそれよりも尋ねたいことが、彼の中にはあった。
「その前にワシの質問に答えろ! マキトたちは一体どこへ飛ばしたのじゃ!?」
「……何?」
今度はウォーレスが疑問を浮かべる番だった。軽く室内を見渡してみるが、確かにクラーレと自分たち以外の人物や魔物たちの姿はいないと、ウォーレスもしっかりと確認する。
故に、首を傾げずにはいられなかった。
「どういうことだ? 魔物使いの少年たちも一緒に転移させたハズだが……」
「しらばっくれるでないわ!」
しかしクラーレからしてみれば、ウォーレスの態度は全て演技にしか見えず、更に怒りを燃やしてしまう。
「この期に及んで見苦しいぞ! もしあの子たちに何かがあれば、このワシが直々にキサマを成敗して――」
「あ、あのっ! ちょっと待ってください!」
その時、クラーレの言葉を遮るようにして、アリシアが声を上げた。
「もしかして、マキトたちもここに来てるんですか?」
「むっ? お主は……」
「あ、私はアリシアと言いまして、マキトたちの……まぁ、姉みたいな者です」
「アリシア……おぉ、そうか! お主がそうじゃったか」
名前を聞いたクラーレは、ようやく怒りを収め、小さな笑みを浮かべる。
「マキトから話は聞いておったよ。それであの子たちじゃが……確かに転移されるときは、皆で一緒の状態だったハズなんじゃ。しかし気がついたら、ワシが一人でこの部屋にいる形でな」
「なるほど、そうでしたか……」
呆然とするアリシアの隣で、ユグラシアが納得しながら頷く。
「恐らく転移されてきたというのは本当でしょう。しかし何故かあの子たちだけ、別な場所に飛ばされた。そして恐らくそれは……」
ユグラシアが、未だ戸惑いを見せているウォーレスに視線を向ける。
「ウォーレスさんも、想定外のことだったみたいですね」
図星を突かれた彼だったが、それを表に出すことはしなかった。代わりに小さなため息を一つ付き、目を閉じながら肩をすくめる。
「どうやら転移魔法に誤差が生じたようだな。まぁ、別にそれならそれで、どうとでもなるから構わんがね」
負け惜しみにしか聞こえない言い訳を述べつつ、ウォーレスは右手を掲げる。
「キミたちには、もう少しここで大人しくしていてもらおう。今は夜中だ。特にこれと言った手出しをするつもりはないから、安心して眠ってくれたまえ」
パチンッ――と指を鳴らした瞬間、部屋の扉が開く。ウォーレスが部屋の外に出ようとしているのだ。
(部屋を出るなら、今がチャンスじゃ!)
クラーレがそう思いながら、ウォーレスを倒すべく動き出す。しかしその瞬間、ウォーレスはニヤリと笑いながら右手を掲げ、再びパチンと指を鳴らした。
すると――
「ぐっ、うぅっ!!」
後ろから苦しそうなうめき声が聞こえた。クラーレが振り向くと、アリシアが胸を抑えながら崩れ落ちている。
「アリシア!」
ユグラシアが駆け寄り、彼女を解放しようとする。これはどういうことだと、クラーレは無言のままウォーレスのほうを見た。
「ハハッ。まぁ見てのとおりだよ、クラーレ殿。余計なことはしないほうがいい」
ウォーレスは再び、指をパチンと鳴らす。アリシアの胸から苦しみが解除され、同時に扉も閉まってしまった。
再び閉じ込められる形となってしまったクラーレたち。
しかしクラーレの表情に絶望はなく、苦しみを与えてしまった少女に対し、心配と申し訳なさを込めた表情を浮かべていた。
「……なにやら、事情がありそうじゃな」
「はい。ちょうどいい機会なので、全てをお話しますわ」
ユグラシアはここに来るまでの経緯を、クラーレに粗方話した。そしてそれを聞き終えたクラーレは、椅子に座りながら重々しくため息をつく。
「――そうでしたか。それはまた、随分と因縁深いことですなぁ」
ウォーレスとアリシアの関係だけでも驚かされたが、それ以上に自分の孫との関係性について、しみじみと頷いてしまう。
「アリシアさんとマキトも、過去でそれ相応の繋がりがあろうとは……世間というのは広いのか狭いのか、よく分からんモノですわい」
「えぇ。それについては同感です」
ユグラシアも優しい表情で頷いた。ずっと交わることのなかった関係が、ここにきて急に繋がりを持つとは、運命的な何かを感じてならない。
その全てが偶然によって発生したのだから、尚更と言えるものだった。
「私も驚きました。クラーレさんがマキトのお爺ちゃんだったなんて……」
アリシアも少々の戸惑いを込めた笑みをクラーレに向ける。
「神獣の封印を解いただけでなく、テイムまで……ホントあの子ったら、一体どこまで行くつもりなんだろ?」
「フフッ、でもマキトくんらしいことだわ。アリシアもそうは思わない?」
「……まぁね」
苦笑しながらアリシアは頷く。そんな母娘のやりとりに対して、クラーレは嬉しさを覚えていた。
今のマキトたちには、立派な『家族』がいるのだと。
祖父として、それがなによりであった。故に今回の事態を、尚更見過ごすわけにはいかないと思った。
するとその時、アリシアがはたと思い出したような反応を示す。
「でも、ノーラや魔物ちゃんたちが一緒なんですよね? だったらきっと、無事でいると思いますよ?」
その口調は、明らかに相手を宥めようとしているそれであった。それに気づいて目を見開くクラーレに、アリシアはニッコリと笑う。
「魔物ちゃんたちも強くなってますし、ノーラもかなり肝が据わってますから」
「――そうね。アリシアの言うとおりだわ」
ユグラシアも笑顔で賛同した。
親子だと名乗る二人は、明らかに血の繋がりがないことは分かる。しかしその強さを秘めた笑みは、どことなく似ているような気がした。
マキトたちが見せていた笑みも含めて。
(そうか……この者たちは信じておるんじゃな。あの子たちが無事であると)
こんなシンプルな答えに、どうして今まで辿り着かなかったのかと、クラーレは少しだけ恥ずかしくなってくる。
心配するばかりで信じることをしていなかったと、改めて気づかされたのだ。
マキトの祖父を名乗るなら、それくらいのことはするべきだろうと。
(ワシも一つ、しっかりせねばならんな)
クラーレはフッと笑みを深め、そしてしっかりと目を開き、顔を上げる。
「今は、とにかくチャンスを待ちましょうぞ。体を少しでも休めて、いざというときに備えるべきですじゃ」
「――えぇ」
「はい!」
クラーレの言葉に、ユグラシアとアリシアが強く頷いた。
気を持ち直したその表情は、とても芯が強く、そう簡単には崩れない。そして下を向くこともない。
来るべき時に備えて、三人は壁を背もたれにして、目を閉じるのだった。
一方、その頃――――
メイベルが夜の学園内を、まるで彷徨うかの如く歩き回っていた。
0
あなたにおすすめの小説
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
異世界での異生活
なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。
最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
病弱な僕は病院で息を引き取った
お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった
そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した
魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる