透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第七章 魔法学園ヴァルフェミオン

242 ネルソンとエステル、罠にかかる

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「室長……私たちは夢でも見ているのでしょうか?」

 研究員の男性が呆然としながらモニターを見つめる。魔力をエネルギーとして映し出されているそれは、神竜が捕らわれていた魔力スポット。つまり、そこで行われた出来事を全て見ていたということだ。
 マキトたちが神竜を説得し、多少なりの信頼を得て行動を共にする姿を。

「神様も同然の存在である神竜が、あんな子供たちの言うことに従うなんて、いくらなんでも信じられません!」
「あ、あぁ……それは確かに同感だがなぁ……」

 室長は呆然としながら、誰もいなくなった魔力スポットの映像を見つめる。

「問題は、この状況をどう打開するかということだ」

 神竜は解放され、止める手段が存在せず、この地下の存在が日の目を浴びるのも時間の問題であることを、嫌でも実感せざるを得ない。
 そうなれば自分たちがどうなるか――室長は想像してもしきれなかった。

「ウォーレス理事が消えてしまわれた今、俺たちでどうにかするしかない! 何かいい手立てを皆で――」
「考える必要なんざないから、安心するがええぞ」

 突如、割り込んできた第三者の声に、室長が背筋をビクッと震わせる。そのまま恐る恐る振り向いてみると、四人の部外者が入り込んでいた。
 青年二人と老人一人、そして美しい女性が一人。
 なんともアンバランスな組み合わせを誇るその合計四人の姿に、室長の表情は完全に硬直してしまう。

(あ、これ詰んだかも……)

 瞬時にそう思えた。というより、状況的にそうとしか思えなかった。
 勢いでウォーレスに報告の通信をした際、確かにモニターの中で目の前にいる四人の姿があった。
 詳しい話こそ聞かされていないものの、ウォーレスから言われてはいたのだ。連れてくるから丁重にもてなせと。
 その中の二人が不敵な笑みを浮かべて立っている。
 自分たちがどのような状況に置かれているか分からないほど、馬鹿になったつもりはないと室長は思っていた。

「お主、先ほどウォーレスに通信をかけておったな?」

 老人ことクラーレが、一歩前に出ながら問いかけてくる。

「恐らく全てではなかろうが、ある程度のことは知っておるじゃろう。ウォーレスの企みなど、ワシらに聞かせてほしいんじゃがな」
「誤魔化そうったって、そうはいかねぇぞ? ここへ来るまでにも、何人かのヤツらに色々と聞いてきたもんでな」

 青年のうちの一人――ネルソンが、ニヤリと笑いながら言ってくる。その鋭い目つきが、腕っぷしの強さを感じさせてならない。

「ついでに、あなた方の上司についても、お聞かせ願えませんかねぇ?」

 物腰の柔らかそうなもう一人の青年――エステルが、室長に低姿勢を見せる。しかしその目が「有無を言わさない」という強さを誇っており、誰よりも明らかに追い詰めてきているように感じられていた。

「……上司なら、今しがた神竜の光に呑まれて消えたよ」

 室長が目を逸らしながら答えると、エステルが首を傾げる。

「どちらの方がですか?」
「あなたが何を言ってるのか分からないな。上司は上司としか言いようがない」

 今は一言でも、余計なことを喋らないに限る――室長はそう思った。しかしエステルは表情をピクリとも変えない。
 まるで、最初から想定していたと言わんばかりに肩をすくめる。

「別にいいですがね。誰が亡くなられたのかは見てましたし」
「っ! やはりお前たちも、ウォーレス様が消える瞬間を見てたんだな?」

 所長が声を荒げて言い放ったその瞬間、エステルがニヤリと笑みを深める。

「なるほど、ウォーレスのほうですか」
「なっ――カマかけたのか? なんという卑怯な手を!」
「先に誤魔化そうとしてきたあなたに言われたくはないですねぇ」

 エステルは肩をすくめ、後ろに控える女性――ユグラシアに視線を向けた。

「ユグラシア様、先生。ここをお願いできますか? どうやらもう一人の方は、ここにはいないようですので」
「分かったわ。後のことは任せてちょうだい」
「しっかりと決着をつけるんじゃぞ?」
「――はい!」

 ユグラシアとクラーレの強い目に、エステルは励まされた気がした。そしてネルソンと頷き合い、二人で部屋を飛び出していく。
 それを見送ったところで、クラーレが改めて部屋の中を見渡す。

「さて、改めて話を聞かせてもらおうかの。一応言っておくが、余計なことはしないほうが身のためじゃぞ? トシのせいかどうにも加減ができなくてのう」

 クラーレの両手に大きな魔力が生み出される。にこやかな笑みとセットとなっているその姿が、なんとも恐ろしさを感じずにはいられない。
 研究員たちはこぞって、抗う気力が失せていた。
 もう聞かれたことには何でも答えようと――かなり本気でそう思っていた。


 ◇ ◇ ◇


(参ったわね……まさか転移魔法具が使えなくなっているなんて)

 地下の長い廊下を歩きながら、サリアは顔をしかめる。
 神竜が動き出したことで、魔力の波動のバランスが大幅に崩れてしまった。普通に魔法を扱う分には全く問題ないのだが、精密さを誇る一部の魔法具が使用不可能となってしまったのだ。
 魔法を扱えないサリアにとって、魔法具は重要なアイテムである。
 本当ならば転移魔法具で即座にその場所へ行くはずが、こうして自分の足で向かわなくてはいけなくなった。

(まぁ、いいわ。大広間まではすぐそこだし、そこへ行けば――)

 この十年で進めてきた研究の全てが待っている。全ては元の世界へ帰るため、全てを尽くして頑張ってきたのだ。

(計算は大幅にズレているとはいえ、チャンスはチャンス。これを逃したら、もう二度と『アレ』を使えなくなってしまう!)

 それだけは避けなければと、サリアは思っていた。
 成功するかどうかなんて考える必要はない。失敗したらそれはそれ。迷っている時間なんてないのだからと。

「――見つけたぜ、サリア!」

 その時、後ろから男の声が聞こえてきた。チラリと振り向くと、二人の青年が経っているのが見えた。

「くっ!」
「な、おい! 待ちやがれえぇーっ!」

 サリアは即座に走り出した。後ろから追いかけてくる音も聞こえてくる。
 それが誰なのかは全く分からないし、もはやどうでもいい。もうすぐこの世界からおさらばするのだから、気にする理由なんてない。
 だが、追いかけられている以上、放っておくこともできない。
 捕まってしまえば、致命的なタイムロスとなってしまう。そうなれば、せっかくのチャンスを棒に振るばかりか、悲願の目的を二度と達成できなくなってしまうかもしれないのだ。
 故にこの状況を、どうにかして打開しなければならない。
 そしてその方法について、サリアは既に頭の中で考えていたのだった。

「くそっ! 何気に足が速いぞ、アイツ……エステル!」
「任せてくださいネルソン!」

 エステルと呼ばれたもう一人の青年が、魔法を解き放ってくる。それはサリアの足元をギリギリで狙い、床に着弾した衝撃で足元のバランスを崩してきた。

「きゃあっ!」

 その目論見どおり、サリアは転倒する。ネルソンとエステルは、しめたと思いながらニヤリと笑みを浮かべた。
 サリアが起き上がろうとしたが、既に二人は近づいてきていた。

「いい加減観念してもらうぜ、サリア。お前さんには色々と聞きてぇことがある」
「あなたが魔法を使えないことは知っています。これ以上の足掻きは、無駄を増やすだけだと思いますよ?」

 追い詰めたと思い込んでいるのか、ネルソンもエステルも、気持ちにわずかな余裕が現れているようであった。
 無論、完全に油断しているわけではない。
 しかしながら、ごく小さな『隙』が生まれていることも確かだ。
 それこそがサリアの狙いであることに、二人は全く気づいていなかった。

「――それはどうかしらね?」

 突如、不敵な笑みを浮かべるサリア。同時にスッと、壁に手のひらをあてる。
 その瞬間、ネルソンとエステルの足元に、魔法陣が出現した。

「なっ!」
「こ、これは――!?」

 二人は瞬時に、良くないことが起きると判断する。しかし時すでに遅し。光り出す魔法陣が、二人の姿を消してしまった。
 誰もいなくなった目の前の光景に、サリアは笑い声を零す。

「上の学園に転移させる装置――これが生きていてくれて助かったわ。他の魔法具に比べると、単純な構造だったからかな?」

 魔法が専門でないサリアにとって、予想することしかできない。いずれにせよ、彼女にとって窮地をしのげたことに変わりはなかった。

「さぁて、さっさとこんなところからオサラバしないとだよね♪」

 サリアは立ち上がり、意気揚々とその場所に向けて、気合いを入れながら駆け出していくのだった。

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