242 / 252
第七章 魔法学園ヴァルフェミオン
242 ネルソンとエステル、罠にかかる
しおりを挟む「室長……私たちは夢でも見ているのでしょうか?」
研究員の男性が呆然としながらモニターを見つめる。魔力をエネルギーとして映し出されているそれは、神竜が捕らわれていた魔力スポット。つまり、そこで行われた出来事を全て見ていたということだ。
マキトたちが神竜を説得し、多少なりの信頼を得て行動を共にする姿を。
「神様も同然の存在である神竜が、あんな子供たちの言うことに従うなんて、いくらなんでも信じられません!」
「あ、あぁ……それは確かに同感だがなぁ……」
室長は呆然としながら、誰もいなくなった魔力スポットの映像を見つめる。
「問題は、この状況をどう打開するかということだ」
神竜は解放され、止める手段が存在せず、この地下の存在が日の目を浴びるのも時間の問題であることを、嫌でも実感せざるを得ない。
そうなれば自分たちがどうなるか――室長は想像してもしきれなかった。
「ウォーレス理事が消えてしまわれた今、俺たちでどうにかするしかない! 何かいい手立てを皆で――」
「考える必要なんざないから、安心するがええぞ」
突如、割り込んできた第三者の声に、室長が背筋をビクッと震わせる。そのまま恐る恐る振り向いてみると、四人の部外者が入り込んでいた。
青年二人と老人一人、そして美しい女性が一人。
なんともアンバランスな組み合わせを誇るその合計四人の姿に、室長の表情は完全に硬直してしまう。
(あ、これ詰んだかも……)
瞬時にそう思えた。というより、状況的にそうとしか思えなかった。
勢いでウォーレスに報告の通信をした際、確かにモニターの中で目の前にいる四人の姿があった。
詳しい話こそ聞かされていないものの、ウォーレスから言われてはいたのだ。連れてくるから丁重にもてなせと。
その中の二人が不敵な笑みを浮かべて立っている。
自分たちがどのような状況に置かれているか分からないほど、馬鹿になったつもりはないと室長は思っていた。
「お主、先ほどウォーレスに通信をかけておったな?」
老人ことクラーレが、一歩前に出ながら問いかけてくる。
「恐らく全てではなかろうが、ある程度のことは知っておるじゃろう。ウォーレスの企みなど、ワシらに聞かせてほしいんじゃがな」
「誤魔化そうったって、そうはいかねぇぞ? ここへ来るまでにも、何人かのヤツらに色々と聞いてきたもんでな」
青年のうちの一人――ネルソンが、ニヤリと笑いながら言ってくる。その鋭い目つきが、腕っぷしの強さを感じさせてならない。
「ついでに、あなた方の上司についても、お聞かせ願えませんかねぇ?」
物腰の柔らかそうなもう一人の青年――エステルが、室長に低姿勢を見せる。しかしその目が「有無を言わさない」という強さを誇っており、誰よりも明らかに追い詰めてきているように感じられていた。
「……上司なら、今しがた神竜の光に呑まれて消えたよ」
室長が目を逸らしながら答えると、エステルが首を傾げる。
「どちらの方がですか?」
「あなたが何を言ってるのか分からないな。上司は上司としか言いようがない」
今は一言でも、余計なことを喋らないに限る――室長はそう思った。しかしエステルは表情をピクリとも変えない。
まるで、最初から想定していたと言わんばかりに肩をすくめる。
「別にいいですがね。誰が亡くなられたのかは見てましたし」
「っ! やはりお前たちも、ウォーレス様が消える瞬間を見てたんだな?」
所長が声を荒げて言い放ったその瞬間、エステルがニヤリと笑みを深める。
「なるほど、ウォーレスのほうですか」
「なっ――カマかけたのか? なんという卑怯な手を!」
「先に誤魔化そうとしてきたあなたに言われたくはないですねぇ」
エステルは肩をすくめ、後ろに控える女性――ユグラシアに視線を向けた。
「ユグラシア様、先生。ここをお願いできますか? どうやらもう一人の方は、ここにはいないようですので」
「分かったわ。後のことは任せてちょうだい」
「しっかりと決着をつけるんじゃぞ?」
「――はい!」
ユグラシアとクラーレの強い目に、エステルは励まされた気がした。そしてネルソンと頷き合い、二人で部屋を飛び出していく。
それを見送ったところで、クラーレが改めて部屋の中を見渡す。
「さて、改めて話を聞かせてもらおうかの。一応言っておくが、余計なことはしないほうが身のためじゃぞ? トシのせいかどうにも加減ができなくてのう」
クラーレの両手に大きな魔力が生み出される。にこやかな笑みとセットとなっているその姿が、なんとも恐ろしさを感じずにはいられない。
研究員たちはこぞって、抗う気力が失せていた。
もう聞かれたことには何でも答えようと――かなり本気でそう思っていた。
◇ ◇ ◇
(参ったわね……まさか転移魔法具が使えなくなっているなんて)
地下の長い廊下を歩きながら、サリアは顔をしかめる。
神竜が動き出したことで、魔力の波動のバランスが大幅に崩れてしまった。普通に魔法を扱う分には全く問題ないのだが、精密さを誇る一部の魔法具が使用不可能となってしまったのだ。
魔法を扱えないサリアにとって、魔法具は重要なアイテムである。
本当ならば転移魔法具で即座にその場所へ行くはずが、こうして自分の足で向かわなくてはいけなくなった。
(まぁ、いいわ。大広間まではすぐそこだし、そこへ行けば――)
この十年で進めてきた研究の全てが待っている。全ては元の世界へ帰るため、全てを尽くして頑張ってきたのだ。
(計算は大幅にズレているとはいえ、チャンスはチャンス。これを逃したら、もう二度と『アレ』を使えなくなってしまう!)
それだけは避けなければと、サリアは思っていた。
成功するかどうかなんて考える必要はない。失敗したらそれはそれ。迷っている時間なんてないのだからと。
「――見つけたぜ、サリア!」
その時、後ろから男の声が聞こえてきた。チラリと振り向くと、二人の青年が経っているのが見えた。
「くっ!」
「な、おい! 待ちやがれえぇーっ!」
サリアは即座に走り出した。後ろから追いかけてくる音も聞こえてくる。
それが誰なのかは全く分からないし、もはやどうでもいい。もうすぐこの世界からおさらばするのだから、気にする理由なんてない。
だが、追いかけられている以上、放っておくこともできない。
捕まってしまえば、致命的なタイムロスとなってしまう。そうなれば、せっかくのチャンスを棒に振るばかりか、悲願の目的を二度と達成できなくなってしまうかもしれないのだ。
故にこの状況を、どうにかして打開しなければならない。
そしてその方法について、サリアは既に頭の中で考えていたのだった。
「くそっ! 何気に足が速いぞ、アイツ……エステル!」
「任せてくださいネルソン!」
エステルと呼ばれたもう一人の青年が、魔法を解き放ってくる。それはサリアの足元をギリギリで狙い、床に着弾した衝撃で足元のバランスを崩してきた。
「きゃあっ!」
その目論見どおり、サリアは転倒する。ネルソンとエステルは、しめたと思いながらニヤリと笑みを浮かべた。
サリアが起き上がろうとしたが、既に二人は近づいてきていた。
「いい加減観念してもらうぜ、サリア。お前さんには色々と聞きてぇことがある」
「あなたが魔法を使えないことは知っています。これ以上の足掻きは、無駄を増やすだけだと思いますよ?」
追い詰めたと思い込んでいるのか、ネルソンもエステルも、気持ちにわずかな余裕が現れているようであった。
無論、完全に油断しているわけではない。
しかしながら、ごく小さな『隙』が生まれていることも確かだ。
それこそがサリアの狙いであることに、二人は全く気づいていなかった。
「――それはどうかしらね?」
突如、不敵な笑みを浮かべるサリア。同時にスッと、壁に手のひらをあてる。
その瞬間、ネルソンとエステルの足元に、魔法陣が出現した。
「なっ!」
「こ、これは――!?」
二人は瞬時に、良くないことが起きると判断する。しかし時すでに遅し。光り出す魔法陣が、二人の姿を消してしまった。
誰もいなくなった目の前の光景に、サリアは笑い声を零す。
「上の学園に転移させる装置――これが生きていてくれて助かったわ。他の魔法具に比べると、単純な構造だったからかな?」
魔法が専門でないサリアにとって、予想することしかできない。いずれにせよ、彼女にとって窮地をしのげたことに変わりはなかった。
「さぁて、さっさとこんなところからオサラバしないとだよね♪」
サリアは立ち上がり、意気揚々とその場所に向けて、気合いを入れながら駆け出していくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
異世界での異生活
なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。
最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
病弱な僕は病院で息を引き取った
お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった
そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した
魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる