透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第七章 魔法学園ヴァルフェミオン

245 決別の証と哀れな少女

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 ――何でこんな簡単な答えに気づかなかったんだろう?

 思わず笑いたくなる気持ちが、リウの中で湧き上がってきていた。同時にそれまでかかっていた靄が、一気に晴れた気もしていた。
 過去は過去、今は今――そう言っていたのは自分ではないか。
 本当につまらないことで悩んでいた。あまりにも馬鹿馬鹿しくて、顔が熱くなってきてしまう。
 だからもう迷わない。
 今、確かに自分は決意を示したのだから。

「ようやく思い知ったぜ……もうオレの知っているサリアは、本当にどこにもいねぇんだってことがな」

 リウはハッキリとそう言った。顔を上げて、未だ呆然としながら体を震わせている女性に向けて、これまでの全てを断ち切らんばかりの強い意志を見せて。
 山奥で見せていた強がりな言葉とは違う。
 心の底からの言葉で決別しようとしているリウの姿に、マキトたちは驚きを隠せないでいた。

「……やっぱり、ずっと迷っていたのですね?」
「あぁ。でももう吹っ切れたぜ!」

 ラティの問いかけに、リウは笑みを浮かべて強く言い切った。

「俺はあるじと一緒に生きていくんだ! そのためにも、目の前にいるサリアを乗り越えてやるぜっ!」
『おぉー、かっこいいーっ』
「キュウーッ」
「その意気なのですよ!」

 はっきりと決別を示すリウに、魔物たちがこぞって応援する。そんな姿に、神竜も興味深そうにふんすと息を鳴らした。

「あの小さな神獣も、なかなか言うではないか」
「ん。それも全てはマキトのおかげ」
「――えっ?」

 マキトは思わず呆気に取られる。まさか急に矛先が向けられてくるとは思わなかったのだ。
 目を丸くしながら隣を見下ろすと、ノーラが優しい笑みで見上げてきていた。

「マキトがいたから、ラティたちもリウも、あそこまで堂々とできている。マキトがいなかったら、多分リウは今でも迷ったままだった」
「うむ。それは我も思っておった」

 ノーラの言葉い神竜も頷く。

「単なる魔物を従えるだけの力ではない。主は魔物たちの心をも突き動かす、類稀なる存在なのかもしれぬ。主という存在そのものが、あの神獣を一歩前に踏み出させたのだと、我にはそう見えるぞ」
「俺という存在……」

 神竜の言葉が、胸にスッと入ってきたような気がした。
 マキトは特に自覚してはいない。そうしたつもりなんて一切ない。けれどもし、そうだとしたら――それは素直に嬉しいことだった。

「ただ、一緒にいただけだと思ってたけど……そうじゃなかったのかな?」
「ん。マキトはもっと自信を持つべき」
「娘の言うとおりだ。我もお主に秘めている大きな何かを、とても興味深く思っているからな。あまり情けない顔をするでないぞ」

 ノーラと神竜から視線を向けられる。どちらもビシッと言ってきたが、その表情はどこか優しいように見えた。
 故にマキトも、自然とその言葉を受けとめながら――

「うん――ありがとう」

 笑みを浮かべて頷くことができたのだった。そして改めてリウに視線を向け、その小さな体を抱きかかえる。

「リウは凄いな。あんなにハッキリ言うなんてカッコ良かったぞ?」
「へへー、そうだろそうだろー? もっとオレを褒めてくれてもいいんだぜ♪」
「あぁ、偉い偉い」

 胸元に顔を擦り付けてくるリウに、マキトも愛おしさを感じながら、その小さな頭を優しく撫でる。獣特有の毛並みの感触が、なんとも心地良い。

「なんでよ……なんでなのよ?」

 そこに、ブツブツと重々しい声が聞こえてきた。サリアが俯きながら、まるで呪文を唱えるかのように呟いているのだ。
 その目からは、小さな雫が零れ落ちていく。開きっぱなしの目は、瞬きをする気配すら全く見られない。
 なんとも不気味な光景であった。
 マキトたちは揃ってドン引きしており、数分前まであからさまな敵意を噴き出させていたリウでさえ、近づきたくないと言わんばかりに、ひしっとマキトの胸元に身を寄せている。

「やっと……やっと地球に帰れると思ったのに……十年も頑張ったのに……」

 涙を流したまま顔を上げるサリア。完全なる放心状態となっており、もはや何も考えられなくなっている。
 その声は、微妙に距離が離れているマキトたちには、あまり聞こえていない。
 どうしてそうなっているのかも分からない。
 黒焦げと化した物体の正体も、それとサリアの大きな結びつきも、彼らは未だ知る由もないことだった。

「もう、いやだ……いっそこのまま、一思いに消してよぉ……」

 無意識に漏れ出る声は、紛れもないサリアの心の言葉であった。
 どうせそんな願いが叶うことなんてない。神様は自分を見捨てたのだと、サリアは本気で思っていた。
 しかし――

「……えっ?」

 その瞬間、サリアの体が光り出した。誰かが魔法を使ったのかと思われたが、魔導師たちは既に逃げ出しており、他の魔導師たちもいない。
 流石に意味が分からず、マキトは大いに戸惑う。

「な、何なんだ? もしかしてまた、何かしでかそうとしてるのか?」
「それにしては様子がオカシイのです!」

 ラティも慌てながら叫ぶ。他の魔物たちも、そしてノーラと神竜も、この事態に対して警戒心を高める。
 それほどまでに意味不明の現象が発生しているのだ。

「あっ! こ、これってもしかして……」

 ここでサリアは思い出す。この光の感じは前にも体験したことがあると。

「異世界しょうか――」

 言い切る直前に、サリアは忽然とその場から姿を消してしまう。
 大広間にはマキトたち以外誰もいなくなった。一体何が起こったのか、周りが呆然と立ち尽くしている中、神竜は何かを察したかのように、鼻息を鳴らした。

「今のは単なる転移魔法ではない。時空を超える極めて特殊なそれだ」
「時空を超える?」
「そうだ」

 マキトの問いかけに神竜は大きく頷いた。

「異世界召喚――いや、異世界転移と言えば、分かりやすいか」
「っ!」

 マキトは思わず息を飲んだ。ノーラも目を見開いており、魔物たちもこぞって驚きを示している。
 そんな中、神竜は至って冷静さを崩さずに、頭の中で立てた憶測を語り出す。

「誰かが魔法を使ったというよりは、魔法の効き目が切れた時のケースとよく似ておる感じではあったな。あの女、前に強力な魔法を受けたのではないか?」
「いや、そんなこと言われてもなぁ……」

 そもそもサリアのことなど殆ど知らないのに――というのが、マキトの正直な感想であった。
 一応、実の母親ではあるのだが、彼の中にそんな気持ちは欠片もなかった。

「……異世界召喚」

 ここでノーラが、ポツリと呟くように言った。

「サリアは別の世界から、異世界召喚魔法でこの世界に来たって聞いた」
「おぉ。では恐らくそれだろうな」

 謎は解けたと言わんばかりに、神竜も納得を示す。

「その異世界召喚魔法とやらが不完全なモノだったのだろう。長い年月をかけて、ようやく今になって効き目が切れたのだ」
「ん。マキトのときと同じ」
「俺の……あぁ、そういえば!」

 ノーラに言われて、マキトもようやく思い出した。自分も突如、地球から異世界召喚されたのかと思っていたら、実は全くの逆だったことを。
 つまり、今しがたサリアが消えたのも、それと同じなのだとするならば――

「サリアは地球に帰った……要はそんな感じか?」
「ん。完全にマキトの逆パターン。特に何もしなくても、待っていればそのうち帰ることはできていた」
「なるほどねぇ」

 ノーラのその言葉に、マキトは腕を組みながらふむふむと頷く。そこに神竜が、どこか遠い目をしながら呟いた。

「したがって、我を痛めつけるようなことをする必要もなかったということだ」
「――あ、確かにそうなるか」

 改めてその事実に気づき、マキトは慌てて神竜を見上げる。怒り狂って八つ当たりでもするのではないかと思ったのだ。
 しかし神竜は、特に怒っている様子もなく、大きなため息をついていた。

「さしずめ、ムダな人生を過ごした哀れな『少女』と言ったところか」
「……少女?」
「いや、気にするな。単なる戯言だ」

 首を傾げるマキトだったが、神竜は明確に答えようとはしなかった。そして誤魔化すように視線を周囲に動かしていく。

「そんなことより、我々を邪魔する者たちはいなくなった。ここから出るぞ」
「出るって言われてもなぁ……肝心の出口は見つかってないけど」
「なければ作るまでだ」
「――へっ?」

 マキトは思わず素っ頓狂な声を上げる。ノーラやラティたちも目を丸くする中、神竜はある壁を見つめる。
 そして――光のブレスを勢いよく解き放つのだった。

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