245 / 252
第七章 魔法学園ヴァルフェミオン
245 決別の証と哀れな少女
しおりを挟む――何でこんな簡単な答えに気づかなかったんだろう?
思わず笑いたくなる気持ちが、リウの中で湧き上がってきていた。同時にそれまでかかっていた靄が、一気に晴れた気もしていた。
過去は過去、今は今――そう言っていたのは自分ではないか。
本当につまらないことで悩んでいた。あまりにも馬鹿馬鹿しくて、顔が熱くなってきてしまう。
だからもう迷わない。
今、確かに自分は決意を示したのだから。
「ようやく思い知ったぜ……もうオレの知っているサリアは、本当にどこにもいねぇんだってことがな」
リウはハッキリとそう言った。顔を上げて、未だ呆然としながら体を震わせている女性に向けて、これまでの全てを断ち切らんばかりの強い意志を見せて。
山奥で見せていた強がりな言葉とは違う。
心の底からの言葉で決別しようとしているリウの姿に、マキトたちは驚きを隠せないでいた。
「……やっぱり、ずっと迷っていたのですね?」
「あぁ。でももう吹っ切れたぜ!」
ラティの問いかけに、リウは笑みを浮かべて強く言い切った。
「俺はあるじと一緒に生きていくんだ! そのためにも、目の前にいるサリアを乗り越えてやるぜっ!」
『おぉー、かっこいいーっ』
「キュウーッ」
「その意気なのですよ!」
はっきりと決別を示すリウに、魔物たちがこぞって応援する。そんな姿に、神竜も興味深そうにふんすと息を鳴らした。
「あの小さな神獣も、なかなか言うではないか」
「ん。それも全てはマキトのおかげ」
「――えっ?」
マキトは思わず呆気に取られる。まさか急に矛先が向けられてくるとは思わなかったのだ。
目を丸くしながら隣を見下ろすと、ノーラが優しい笑みで見上げてきていた。
「マキトがいたから、ラティたちもリウも、あそこまで堂々とできている。マキトがいなかったら、多分リウは今でも迷ったままだった」
「うむ。それは我も思っておった」
ノーラの言葉い神竜も頷く。
「単なる魔物を従えるだけの力ではない。主は魔物たちの心をも突き動かす、類稀なる存在なのかもしれぬ。主という存在そのものが、あの神獣を一歩前に踏み出させたのだと、我にはそう見えるぞ」
「俺という存在……」
神竜の言葉が、胸にスッと入ってきたような気がした。
マキトは特に自覚してはいない。そうしたつもりなんて一切ない。けれどもし、そうだとしたら――それは素直に嬉しいことだった。
「ただ、一緒にいただけだと思ってたけど……そうじゃなかったのかな?」
「ん。マキトはもっと自信を持つべき」
「娘の言うとおりだ。我もお主に秘めている大きな何かを、とても興味深く思っているからな。あまり情けない顔をするでないぞ」
ノーラと神竜から視線を向けられる。どちらもビシッと言ってきたが、その表情はどこか優しいように見えた。
故にマキトも、自然とその言葉を受けとめながら――
「うん――ありがとう」
笑みを浮かべて頷くことができたのだった。そして改めてリウに視線を向け、その小さな体を抱きかかえる。
「リウは凄いな。あんなにハッキリ言うなんてカッコ良かったぞ?」
「へへー、そうだろそうだろー? もっとオレを褒めてくれてもいいんだぜ♪」
「あぁ、偉い偉い」
胸元に顔を擦り付けてくるリウに、マキトも愛おしさを感じながら、その小さな頭を優しく撫でる。獣特有の毛並みの感触が、なんとも心地良い。
「なんでよ……なんでなのよ?」
そこに、ブツブツと重々しい声が聞こえてきた。サリアが俯きながら、まるで呪文を唱えるかのように呟いているのだ。
その目からは、小さな雫が零れ落ちていく。開きっぱなしの目は、瞬きをする気配すら全く見られない。
なんとも不気味な光景であった。
マキトたちは揃ってドン引きしており、数分前まであからさまな敵意を噴き出させていたリウでさえ、近づきたくないと言わんばかりに、ひしっとマキトの胸元に身を寄せている。
「やっと……やっと地球に帰れると思ったのに……十年も頑張ったのに……」
涙を流したまま顔を上げるサリア。完全なる放心状態となっており、もはや何も考えられなくなっている。
その声は、微妙に距離が離れているマキトたちには、あまり聞こえていない。
どうしてそうなっているのかも分からない。
黒焦げと化した物体の正体も、それとサリアの大きな結びつきも、彼らは未だ知る由もないことだった。
「もう、いやだ……いっそこのまま、一思いに消してよぉ……」
無意識に漏れ出る声は、紛れもないサリアの心の言葉であった。
どうせそんな願いが叶うことなんてない。神様は自分を見捨てたのだと、サリアは本気で思っていた。
しかし――
「……えっ?」
その瞬間、サリアの体が光り出した。誰かが魔法を使ったのかと思われたが、魔導師たちは既に逃げ出しており、他の魔導師たちもいない。
流石に意味が分からず、マキトは大いに戸惑う。
「な、何なんだ? もしかしてまた、何かしでかそうとしてるのか?」
「それにしては様子がオカシイのです!」
ラティも慌てながら叫ぶ。他の魔物たちも、そしてノーラと神竜も、この事態に対して警戒心を高める。
それほどまでに意味不明の現象が発生しているのだ。
「あっ! こ、これってもしかして……」
ここでサリアは思い出す。この光の感じは前にも体験したことがあると。
「異世界しょうか――」
言い切る直前に、サリアは忽然とその場から姿を消してしまう。
大広間にはマキトたち以外誰もいなくなった。一体何が起こったのか、周りが呆然と立ち尽くしている中、神竜は何かを察したかのように、鼻息を鳴らした。
「今のは単なる転移魔法ではない。時空を超える極めて特殊なそれだ」
「時空を超える?」
「そうだ」
マキトの問いかけに神竜は大きく頷いた。
「異世界召喚――いや、異世界転移と言えば、分かりやすいか」
「っ!」
マキトは思わず息を飲んだ。ノーラも目を見開いており、魔物たちもこぞって驚きを示している。
そんな中、神竜は至って冷静さを崩さずに、頭の中で立てた憶測を語り出す。
「誰かが魔法を使ったというよりは、魔法の効き目が切れた時のケースとよく似ておる感じではあったな。あの女、前に強力な魔法を受けたのではないか?」
「いや、そんなこと言われてもなぁ……」
そもそもサリアのことなど殆ど知らないのに――というのが、マキトの正直な感想であった。
一応、実の母親ではあるのだが、彼の中にそんな気持ちは欠片もなかった。
「……異世界召喚」
ここでノーラが、ポツリと呟くように言った。
「サリアは別の世界から、異世界召喚魔法でこの世界に来たって聞いた」
「おぉ。では恐らくそれだろうな」
謎は解けたと言わんばかりに、神竜も納得を示す。
「その異世界召喚魔法とやらが不完全なモノだったのだろう。長い年月をかけて、ようやく今になって効き目が切れたのだ」
「ん。マキトのときと同じ」
「俺の……あぁ、そういえば!」
ノーラに言われて、マキトもようやく思い出した。自分も突如、地球から異世界召喚されたのかと思っていたら、実は全くの逆だったことを。
つまり、今しがたサリアが消えたのも、それと同じなのだとするならば――
「サリアは地球に帰った……要はそんな感じか?」
「ん。完全にマキトの逆パターン。特に何もしなくても、待っていればそのうち帰ることはできていた」
「なるほどねぇ」
ノーラのその言葉に、マキトは腕を組みながらふむふむと頷く。そこに神竜が、どこか遠い目をしながら呟いた。
「したがって、我を痛めつけるようなことをする必要もなかったということだ」
「――あ、確かにそうなるか」
改めてその事実に気づき、マキトは慌てて神竜を見上げる。怒り狂って八つ当たりでもするのではないかと思ったのだ。
しかし神竜は、特に怒っている様子もなく、大きなため息をついていた。
「さしずめ、ムダな人生を過ごした哀れな『少女』と言ったところか」
「……少女?」
「いや、気にするな。単なる戯言だ」
首を傾げるマキトだったが、神竜は明確に答えようとはしなかった。そして誤魔化すように視線を周囲に動かしていく。
「そんなことより、我々を邪魔する者たちはいなくなった。ここから出るぞ」
「出るって言われてもなぁ……肝心の出口は見つかってないけど」
「なければ作るまでだ」
「――へっ?」
マキトは思わず素っ頓狂な声を上げる。ノーラやラティたちも目を丸くする中、神竜はある壁を見つめる。
そして――光のブレスを勢いよく解き放つのだった。
0
あなたにおすすめの小説
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
異世界での異生活
なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。
最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
病弱な僕は病院で息を引き取った
お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった
そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した
魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる