透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第七章 魔法学園ヴァルフェミオン

247 騒ぎの収束、そして新たなる道へ

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 ヴァルフェミオンの地下で起きた騒ぎの収束は、実に早かった。
 既に学園長が把握していたことが大きく、地下から帰還した森の賢者や元宮廷魔導師を名乗る老人の声も、かなりの効果があったことは確かだと言える。
 それでも、この騒ぎが公になることはない。
 何の関係もない学生たちを巻き込むわけにはいかない――というのが理由だが、それはあくまで表向き。ヴァルフェミオンという大きなブランドに、世間からの余計な傷を与えたくないというのが本音だ。
 しかしながら、ある意味もっともな考えとも言える。
 騒ぎは起きないに越したことはない。
 この件に関わった者たちも、そんな学園長の意見には大いに納得しており、無暗に外に広めないことを固く誓い合うのだった。

「――簡単に言えば、こんなところじゃな」

 傷の手当てを受ける魔導師たちに、クラーレが簡単な説明を施す。黙って話を聞いていた者たちは、皆揃って信じられなさそうであった。
 しかしそれが真実なのだと、認識しつつもあった。
 かつて、シュトル王国で宮廷魔導師を務めていたクラーレという存在もまた、魔導師たちにとっては憧れの的だったのだ。
 引退して十年経っても、まだ自分を知っていてくれていたのか――クラーレがひっそりとそんなふうに驚いていたのは、ここだけの話である。

「ということは、私たちが見たあの少年たちは……」
「うむ。あの子は魔物使い。珍しい魔物を連れていたが故に目を付けられ、巻き込まれてしまったんじゃ」
「そうでしたか……彼らには、本当に申し訳ないことをしました」

 心から後悔している様子を見せる魔導師。それに対してクラーレは、手で髭をいじりながら、小さなため息をついた。

「それについてはなんとも言えんな。お前さんたちは、職務を全うしていただけに過ぎんからのう」
「しかし、無関係の子供たちに、問答無用で襲い掛かったことは事実です」

 ギュッと拳を握り締める魔導師の体は、少しだけ震えていた。果たしてそれが怒りなのか、それとも別の感情なのか。それは当の本人も分からないことだった。

「それにしても、理事たちがそのような悪だくみを……理事たちのことは、我々も信じていたというのに……」
「いや、それは少し違うじゃろ」

 嘆く魔導師の言葉を、クラーレはバッサリと斬り落とす。

「お前さんたちは見て見ぬフリをしておっただけじゃ。自分たちに危害がなければそれでいい――そんな考えとともにな」

 魔力スポットのある場所で、神竜を強引に操ろうとしていた。とても二人の理事だけで行えるようなスケールではない。地下の研究員たちは勿論のこと、その周りにいた魔導師たちも全く知らないのは流石に無理がある。
 そんなクラーレの予想も、全くの的外れではなさそうであった。
 ばつの悪そうな表情で視線を逸らす魔導師たちの様子が、それを大いに物語っているように見えたからだ。

(まぁ、その理由もなんとなく察しはついておるがの――)

 彼らはここでの暮らしが崩れることを、無意識に恐れていた。今更ここから外へ出たところで、どうやって生きていけばいいのか、まるで分からないが故に。
 その気持ち自体は、クラーレも分からないわけではない。
 だからといって、『仕方がない』の一言で済ませられる問題でもない。
 クラーレに指摘された彼らも、それなりにそのことについては、心の中で感じているようではあった。

「――そこらへんも含めて、これからの身の振り方を考えていくことじゃな」

 クラーレは後ろに手を回しつつ、踵を返す。

「もう理事二人はいないんじゃ。ヴァルフェミオンも、これから大きく変わっていかざるを得なくなる。これまでどおりというのは、不可能じゃろうて」
「……はい」

 去りゆくクラーレに向かって、魔導師は小さな声とともに頷くのだった。


 ◇ ◇ ◇


「おじい様がお亡くなりになったなんて……正直ピンとこないわ」

 寮の部屋に戻ってきたメイベルが、ベッドに背中から勢いよく飛び込む。

「しかも神竜の放ったブレスであっけなくだもんねぇ。あれじゃあ、本人も死んじゃうことすら気づかなかったでしょ」

 まるで見ていたかのような物言いをするのには、理由がある。
 と言っても大したことではない。その様子がちゃんと魔力を利用した映像として残されていたからだ。
 学園長から、その映像を全て見せてもらった。
 メイベルは悲しむ様子も、涙一つ流すこともなかった。ただ哀れだと言わんばかりの表情で、深いため息をついていた。
 そして部屋に戻ってきたメイベルをアリシアが出迎えたわけだが、これまた普通の笑顔を浮かべていた。
 もしかしたら無理をしているのかも――そう思ったアリシアだったが、メイベルの声や態度は至って自然なもの。祖父が消えたことに対しては、ショックこそ受けたようだが、それほど悲しみを抱いていないようであった。

「そりゃー確かに驚いたけど、むしろいつかはこうなるんじゃないかなー、とは思ってたかもね」
「メイベル……」

 明るく務めている妹に対して、アリシアは言葉が浮かばなかった。どう取り繕ったところで、どうにもならないことは明白だからだ。
 そんな微妙そうな表情を浮かべていると、メイベルが慌てて手を振り出す。

「あぁ、ゴメンゴメン。別に悲しいとかそういうのはないんだよ。ただ、一つどうしても分からないことがあってね」
「分からないこと?」
「うん……結局おじい様ってば、何がしたかったんだろうなぁって……」

 確かにそれは、アリシアも考えていたことではある。けど地下にいた時も、それがはっきりと明かされたことはなかった。

「詳しいことって、何も分かってないんだっけ?」
「さーっぱり。多分どこを探しても、見つからない可能性が高そうだわ」

 肩をすくめるメイベル。もはやこれ以上調べたところで、まともな答えなんて出てこないだろうと諦めていた。
 結果は見事な有耶無耶となってしまうだろう。当の本人がいない以上、出てきた答えを証明する手段もないに等しく、憶測の域は出ないのだから。

「そんなことよりも、実家が少し荒れそうで怖いんだよねぇ」
「ウォーレスさんが亡くなったから?」
「うん。先代とはいえ、おじい様の声の強さが健在だったのは確かだし」

 現当主のセアラも影響力が低いわけではない。ウォーレスが強すぎたのだ。こればかりはひっくり返すのも非常に難しいと言われており、それも含めてメイベルは思っていたのだ。
 きっといつかは、このようなことになるだろう――と。

「ま、なんとかやってやるよ。次期当主としての力を見せてやるわ!」
「メイベルならきっと上手くできるよ。私は信じてるからね」
「ありがと、お姉ちゃん♪」

 姉妹が笑い合い、ひとまずの話に区切りがつく。そこでアリシアもまた、少し考えていたことを口に出す。

「私もこれからどうしよう……てゆーか、どうなるんだろうなぁ?」
「何が?」
「だって私がこの学園にスカウトされたのって、結局はウォーレスさんが手を回したからだったもん。でもその本人がいなくなっちゃったから……」
「あー……確かにそりゃ問題だわ」

 メイベルは改めて納得する。アリシアからすれば、後ろ盾が消滅してしまったも同然ということなのだ。
 そもそもアリシアは錬金術師。いくら魔力があるとはいえ、魔法学園とは畑違いもいいところ。理由を付けて置いておく意味は、果たしてあるだろうか。

「まぁ、辞めさせられるとしても、別にいいけどね」
「そうなの? やけにアッサリしてるじゃん」
「私がここに来た目的は、粗方達成しちゃった感じだし」

 一つはメイベルとの関係を明らかにすること。そしてもう一つは、自身の錬金術に対して、新たな可能性を見出すこと。
 前者は完全に達成しているし、後者も割と固まってきたほうではある。
 アリシア自身、無理にこの学園に留まる理由はないと言えばない。

(お姉ちゃんがここからいなくなっちゃう、か……)

 それはそれで凄く寂しい。しかし決まってしまえば抗えないし、アリシア自身も既にそうなることを覚悟している。
 やっとの思いで寮も同室になれたのに、また離れ離れになってしまうのか。
 自然と浮かない表情をメイベルが浮かべていたところに――コンコンと部屋のドアがノックされる音が聞こえてきた。

「はーい」

 アリシアがいそいそと向かい、扉を開ける。そこにはブリジットとセシィーの二人が立っていた。
 ブリジットがニコッと笑みを浮かべ、一通の封書を差し出してくる。

「やぁ、アリシア。キミに手紙だよ」
「読んでみるといいですわ。悪い内容でないことは、恐らく間違いないですよ」
「う、うん……」

 訳が分からないまま封書を受け取り、アリシアは部屋に戻る。ブリジットたちも一緒に部屋へ入ってきて、メイベルと一緒に三人で、アリシアが封を開けて中身を読むのを見守る。

「――これって!」

 アリシアは目を見開く。それは、新しい研究室へのスカウトであった。
 ヴァルフェミオンのとある研究室長が、彼女の魔力ポーションについて研究させてほしいと名乗り出てきたのだ。
 そこには、シュトル王国の宮廷魔導師であるエステルの名前も載っていた。

「その研究室長が、エステルさんの後輩なんだってさ」
「話を聞いて是非とも誘いたいそうですわ。アリシアが受ければ、今までどおりこの学園で過ごせるということです」

 ブリジットとセシィーの言葉に、メイベルが目を見開く。そしてアリシアも、少し照れくさそうな表情で妹に視線を向けた。

「メイベル」
「え?」
「なんかもうちょっとだけ、この学園で勉強することになりそうかも」
「――お姉ちゃん!」

 メイベルはベッドから飛び起き、その勢いで姉に思いっきり抱き着く。アリシアはそんな妹を受けとめ、しょうがないなぁと苦笑しながら優しく頭を撫でた。

「良かったねぇ……二人とも」
「えぇ、本当に」

 友人二人もまた、仲良し姉妹の光景がもうしばらく見れることを、心から嬉しく思うのだった。
 しかし、このままのんびりとそれを眺めていることもできない。
 何故なら二人にはもう一つ、通達しなければならないことがあるからだ。

「ところでメイベル。学園長からもう一つあるんだけど」
「なに? 宿題なら絶賛取り組み中だよ?」
「それもそうなんだけど、それとは別件で、ちょっと手伝ってほしいんだって。アリシアも一緒に」

 ブリジットからそう言われたメイベルとアリシアは、顔を見合わせ、コテンと首を傾げ合うのだった。

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