駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ

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第五章 ミナヅキと小さな弟

第百六話 再会、竜の親子

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 ギルドを後にしたミナヅキたちは、バージルの案内で王都の郊外にある丘へと足を運んでいた。最初はバージルの誘いを断ろうとしたミナヅキだったが、彼の熱意ある押しに根負けしてしまったのである。
 丘の頂上では、大きなドラゴンが佇んでおり、その傍には二人の母娘の姿も確認できた。
 それに対してレノが、即座に反応する。

「キュルゥーッ!!」

 レノが叫びながら飛んでいく。すると大きなドラゴンが、即座に反応して振り向いてきた。

「グルアァーッ!」
「キュルゥ♪」

 大きなドラゴンの顔の周りをレノが嬉しそうに飛び回る。どうやら感動なる親子の再会であることは分かるのだが――

(こうしてみると、ドラゴンって大人と子供じゃ、大きさが全然違うなぁ)

 ミナヅキはどこか冷静に心の中で呟いた。大きさというのは無論、ドラゴンの大人と子供における見た目そのものについてである。
 七歳のリュートの肩にしがみつけるくらいの大きさでしかないレノが、いずれは目の前にいるドラゴンのように、大人や子供数人を平気で乗せられるくらいの大きさに成長するということか。
 バージル曰く、レノは至って普通の飛竜とのことであるため、サイズ的には別に何もおかしい部分はないのだろう――しかしそこまで考えたところで、ミナヅキはあることに気づいた。

(そーいや動物とかでも、人間とは年の取り方も成長速度も全然違うんだっけ)

 身近な例でいえば犬や猫。一年から二年ほどで人間でいう成人した年ぐらいに成長するのだ。生まれた赤ん坊があっという間に大きく成長する――そんな動物の生態系が魔物にも該当することは十分考えられる話だ。
 ミナヅキ自身、そういったことは今まで考えたこともなかったのだが、恐らくそうなのだろうと自己完結する。

「レノ、無事だったのね!」
「良かったわ、本当に」

 母娘らしき二人もレノに駆け寄ってくる。ミナヅキがバージルのほうを向くと、彼はコクリと頷いた。
 そしてミナヅキたちは母娘とドラゴンの元へ歩いていき、改めてバージルから母娘二人に対して、事の次第が説明されるのだった。

「妻のミルドレッドと娘のベラ、そしてレノの父親であるジェロスです。こちらはレノを保護してくださった、ミナヅキさんとリュート君だ」
「初めまして。調合師のミナヅキと申します」

 ミナヅキが会釈すると、ミルドレッドが笑顔を向けてくる。

「こちらこそ。ウチのレノを助けてくださって、感謝してもしきれませんわ」
「いえ。全ては弟のおかげですよ」

 ミナヅキがリュートの頭に手を乗せながら視線を下ろす。ミルドレッドとベラが驚きの表情を見せる中、ジェロスの周囲を飛び回っていたレノが、リュートのほうへと飛んできた。

「キュルゥ♪」

 そしてレノはリュートの背中から回り込み、肩にしがみついて嬉しそうな笑みを浮かべながら頬ずりする。リュートが小さな頭を撫でると、更に気持ち良さそうな反応を示した。

「こ、これは……」
「凄い……」

 その光景にミルドレッドとベラが目を見開く。バージルはしてやったりと言わんばかりに笑みを浮かべた。

「驚いただろ? 私も最初見た時は信じられなかった。ドラゴンの子供はとても気難しいから、竜の一族でもない限り、懐くことはないと思っていたからね」
「ねぇ、もしかしてリュートくんもあたしたちと……」

 同じ竜の一族なのではないか――ベラがそう予測したが、バージルは静かに首を左右に振った。

「リュート君は竜の一族とは関係ない魔物調教師だ。しかしその才能は、私たちの想像を超えるモノだと思っているよ」
「へぇ、確かにもうスライムを連れてるもんね」

 そう言いながらベラが、リュートのほうへトコトコと近づいていく。

「あたしはベラ。よろしくね」

 笑顔で手を差し出してくるベラ。しかしリュートは少しビクッとしてしまい、戸惑いを見せながらもなんとか握手をしようとした。
 その時――

「もう! 早くこうするの!」
「わわっ!」

 業を煮やしたベラがリュートの手を無理やり掴んで握手させた。すると――

「ポヨーッ!」
「キュルゥ、キュルキュルルゥーッ!!」
「きゃっ!?」

 スラポンとレノが激しく抗議してきて、思わずベラは驚いて手を離す。そして未だ威嚇し続けてくる二匹を見て、今度は彼女が戸惑う様子を見せた。

「な、何で? あたし変なことしてないのに……てゆーかレノまでどうして?」
「キュルアァーッ!!」
「ひぃっ?」

 再び威嚇されてしまい、ベラは尻込みをしてしまう。ずっと家族として一緒にいたのに、すっかり敵視されてしまうこの状況が、まるで飲み込めていない。
 そんな様子を見ていた大人たちは、温かそうな苦笑を浮かべていた。

「……すみません。ウチの弟、人見知りするタイプでして」
「いえいえ。お気になさらないでください。娘も少し強引でしたから」

 申し訳なさそうにしているミナヅキに対して、ミルドレッドが手のひらを左右にパタパタと振りながら、明るく言った。
 そして小さなため息とともにベラに言う。

「ベラ、その辺にしときな。無理強いは良くないよ」
「……はぁい」

 渋々ながら頷くベラ。するとそこに、ジェロスが首を伸ばして、リュートに顔を近づけてくる。
 大人たちやベラは驚いていたが、リュートは驚かずに振り向くだけだった。

「グルゥ……」
「キュルキュルゥ、キュルルゥー」

 一鳴きするジェロスに、レノが羽ばたきながら鳴き声を上げる。父親に一生懸命何かを話しているようであった。
 そして――

「グルルゥ、グルルグルゥ」

 ジェロスはリュートに頭を下げてきた。まるで何かを伝えているような鳴き声ではあったが、当然ながらリュートはそれを理解できない。

「息子を助けてくれてありがとう、とジェロスはお礼を言ってるんだよ」

 バージルがそう告げると、リュートは驚きながら見上げる。

「言ってることが分かるの?」
「あぁ。私はドラゴンの言葉が分かるんだよ。竜の一族として、若い頃から特殊な訓練を積み重ねてきたおかげでね」

 バージルの言葉に、ミナヅキは心当たりがあるのを思い出す。

「そういえば聞いたことあるな。竜の一族は、ドラゴンと会話ができる特別な存在とかなんとかって」
「フフッ。厳密には少し違いますわ」

 ミルドレッドが含み笑いをしながら話す。

「意思疎通能力があるかどうかは、生まれつきの問題です。夫の場合は、その素質が高かったが故に、身に付けることが出来たのですわ」
「つまり素質がなければ、いくら修行しても意味がないってことですかね?」
「えぇ。魔力を持たないにもかかわらず、魔導師の修行をしたところで意味がないのと一緒ですよ」
「なるほど」

 分かりやすい例を挙げられ、ミナヅキは納得する。ここでバージルが、補足説明をするべく口を開いた。

「そもそも私は竜の一族の生まれではなく、ミルドレッドの家系に婿入りした外部の立場なんですよ」
「えっ、そうなんですか?」

 ミナヅキが驚きの反応を示すと、バージルは笑顔で頷く。

「魔物との意思疎通は、竜の一族にとって特に重要視される能力ですからね。一族を絶やさないよう、積極的に外部の人間との交流も深めてるんですよ」
「一族の中だけじゃ限界があるってことですか」
「そんなところです」

 バージルは軽く肩をすくめる。そしておもむろに視線を向けると、リュートを挟んでベラがレノを必死に説得しようとしていた。

「レノぉ、さっきはあたしが悪かったから、機嫌直してよ~」
「キュルッ」

 ベラは手を差し伸べながら必死に呼びかけるも、レノは聞く耳持ちませんと言わんばかりにプイッと視線を逸らす。

「そんなぁ~」

 当然ながらベラはしょんぼりと落ち込む。それを見かねたリュートは、肩にしがみつくレノに話しかけた。

「ねぇ、ぼくはもう大丈夫だから許してあげてよ」
「キュルゥ?」
「仲が悪いままなんてぼくもイヤだもん」
「……キュルルッ」

 しょーがないなぁと言わんばかりにレノは鳴き声を上げ、リュートの肩からベラのほうへと飛んでいく。
 そして彼女の肩にしがみついて頬ずりをした――かなり投げやりな形で。

「うっ、ちょ、い、いたいってば」

 グリグリと鱗付きの頬で強くすり寄られるベラは、難色を示す。しかしレノは、どこまでもすましたような態度でいた。

「キュルキュルッ」
「許すんだから我慢してって……もう、それ許してないでしょ!」
「キュールッ」
「しーらない、じゃなくてぇ~」

 そっぽを向くレノにベラは情けない声で叫ぶ。そんな様子をミナヅキは、不思議そうな表情で眺めていた。

「娘さんも意思疎通できるんですね」
「えぇ。といっても、まだレノ相手だけですけど」

 そう答えるミルドレッドは嬉しそうであり、誇らしげでもあった。

「あの子は生まれつき、意志疎通の能力を持っていたんです。普通は成長とともに何かしらの拍子で覚醒するんですが、あの子の場合は最初からだったみたいで」
「そりゃ凄いですね。よくあることなんですか?」
「いえ、確率としては稀らしいです」

 ミナヅキの問いに答えたのはバージルであった。

「ですから娘は、他の竜の一族からも一目置かれている存在でして……全く親としても鼻が高い限りなんですよ」

 バージルもまた、誇らしげに腕を組みながら笑顔で頷いた。それに対してミルドレッドは、やや意地悪な笑みを浮かべる。

「あーら? つまりあの子にその手の適性がなかったら、今頃ないがしろにしていたってことかしら?」
「そんなワケがないだろう!」

 やや声を荒げながら、バージルは即答した。

「たとえあの子にその適性がなかったとしても、大切な私たちの子だ。たっぷりと愛情を注いであげるに決まっているさ!」
「うむ。ならば良し!」

 それを聞いたミルドレッドは、満足そうに笑う。もっとも想定していたのか、驚く様子も全くなかった。
 ミナヅキもその様子にひっそりと苦笑していると、リュートがベラの肩に乗るレノに話しかける場面を目撃する。

「レノ。もっと優しくしてあげて。乱暴はダメだよ!」
「……キュルゥ」

 すると渋々ながらではあるが、レノはリュートの言葉に頷いた。そして今度はベラに対して、優しく頬ずりをする。
 それを見たリュートは、嬉しそうな笑みを浮かべるのだった。

「そうそう。痛がることは良くないからね?」
「キュルッ」
「うん。いいこいいこ」
「キュルルゥ~♪」

 恐らく完全な意思疎通はできていないだろう。しかしやり取りはできている。しかもリュートの言葉に、レノは完全に従っているとしか思えない。
 改めてバージルとミルドレッドは、その様子を見て唖然としてしまう。

「……ねぇ、あなた? レノってあんな素直に言うことを聞く子だったっけ?」
「いや、むしろヤンチャな盛りで手を焼いていたほうだったが……」

 信じられない――そんな気持ちが夫婦二人の頭の中をグルグルと渦巻く。
 すると――

「キュルッ」
「わっ、と……」

 レノがベラの肩から離れ、リュートの頭の上に乗った。

「重いよレノ~」
「キュクゥ」

 リュートの文句を軽く聞き流し、レノはすっかりくつろぎ始めてしまう。

「そこが気に入ったの?」
「キュルルゥッ」
「少し休んだら下りてよー? 重いんだから」
「キュルッ」

 重いといっている割にどこか嬉しそうなリュート。そして至福ですと言わんばかりに羽を休めるレノ。完全にお互いに心を許し合っている様子であった。少なくとも昨日出会ったばかりにはとても見えない。

「なんかもうレノがリュート君のパートナーにしか見えなくなってきたわね」
「奇遇だな。私もだよ。もしかしたらあの子は、下手な竜の一族よりも、凄い素質を持っているかもしれんぞ」

 ミルドレッドとバージルが率直な気持ちを呟いた瞬間、それを聞き取ってしまったベラがクワッと目を見開きながら振り向いた。

「あたしだって負けないもん! もっとレノと仲良くなるんだから!」

 しまった――バージルは心の中でドキッとした。
 普段は確かに活発ながらも心優しい子だ。しかしながら、竜の一族としてのプライドも人一倍高く持つ。それがベラという女の子なのだ。
 それは親としてよく知っていたハズなのに、驚いていたせいで思わず刺激するようなことを口走ってしまった。
 そんな後悔の波が押し寄せてくる中、バージルは必死に宥めようとする。

「お、おぉ、そうだったな。うん、パパたちはちゃんと分かっているぞ」
「いーや分かってない。パパってばリュートくんのことベタ褒めしてたもん。絶対にアッと言わせてやるんだから!」

 もはや時すでに遅しであった。一度言い出したら聞かないベラは、こうなってしまってはなかなか落ち着きを取り戻すことはない。
 その後も文句を言い続けるベラに対し、バージルは項垂れながらも大人しく耳を傾けていた。チラリと視線だけを向けてみると、ミナヅキとミルドレッドは、さりげなく少しだけ距離を取っている。
 ――逃げないで助けてくれ!
 バージルはそんな視線を送るも、ミルドレッドはゴメンねと片手を立てながら、会釈するばかりであった。
 そんな中、ミナヅキは腕を組みながら苦笑していた。

「なかなか勇ましいお嬢さんですね」
「いーえ、アレはただ単に元気過ぎるだけですよ。はぁ……」

 ミルドレッドが深いため息をつく。その隣でミナヅキは、ベラたちから距離を取るべく、コッソリとジェロスの元へ向かうリュートのほうに視線を向けた。

(魔物調教師の適性が高いってのもあるんだろうが……リュートの場合、もしかしたらそれだけじゃないのかもしれないな)

 リュートがこの世界に来る前、ユリスから何らかの加護をもらっていた。それがどんな加護だったのかは聞かず仕舞いであったが、魔物とのコミュニケーション能力の方向に覚醒したとしても、何ら不思議ではない気がした。

(何にしても、現時点でリュートに大きな可能性があることは確かだ。化け方によってはどうなるか――確かに期待かもしれないな)

 ジェロスも交えて楽しそうに魔物と遊び出すリュートの姿に、ミナヅキは優しい笑みを向けていた。


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