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「…ん?」
体に軽い浮遊感を感じて目を覚ました。まだ眠い目をこすりゆっくりと体を起こすと今まさに俺の体が地面へと降りるところだった。右を見て左を見て後ろも確認するがその場にいるのは俺一人…なんでだよという気持ちを飲み込みちょっとよく考えて見ることにする。
確かみんなで魚を焼いて食べた後クリーンというスキルを使用してみんなを綺麗にし、焚火を消してフェンリル母さんにもたれるように寝付いたはず。だけどどうだろうか? 今この場にいるのは俺一人で、しかも焚火の火は明るくあたりを照らしている。
「母さんたちはどこへ…そうだっ 気配察知」
スキルを使用し周辺に感じる気配を読み取ることにした。魔素を魔力へと変換し、薄く延ばすように範囲を広げる。母さんの気配はすぐ近くには感じられない。もちろん子フェンリル、クロの気配もないみたいだ。もっと範囲を広げればわかるだろうか? だけどその前にこの場所へと近づいてくる気配が3つ…これは誰だ?
右前の草むらの方から音がして何かが近づいてくる。どう見てもすでに俺がここにいるのは気がつかれており、多分逃げることは出来ない。そしてそんな俺には一切攻撃スキルがない…かなり積んでいる状況だと思う。だけどここで慌ててもどうにもならないのも事実で、緊張と恐怖でこわばる体に鞭を打つかのように動くんだと命令を出す。
かろうじてその場から立ち上がることが出来た俺が顔をあげると向かってきた何かの姿が確認できた。人だ…鎧や武器などで武装した。よしっ これならまだ何とかなる!
「::;@pkj?」
え…これはもしかして言葉が通じない? 姿を現した人物が何かを言ったみたいだけど俺にはわからなかった。おかしいな…俺を捨てた人の言葉はわかったのに。もしかしてそれっきりだったから俺が言葉を忘れてしまったのか?
「ydjjs@:~」
目の前に現れた男は何かを言いながら後ろを見ている。多分後ろにいる2人に何かを言っているんだろうが…俺にはそれくらいしかわからない。
「llmgkzzs?」
後から現れた女性が俺に近づきながら何かを言っている。そっと手を伸ばし触れようとしてきたので俺は驚いてびくりと体を震わせ数歩下がった。
ピロンッ
スキル【異世界言語】を獲得しました
「あー怖かったわね~ 大丈夫よお姉さんたちが助けにきたからね」
「おい、怖がられてるじゃねぇかよ」
「何よ、じゃああんたがやりなさいよね」
「いや…俺の方が怖がらせるかもしれんだろうがっ ほら…なあ?」
「なあって、まああんたの顔はちょっと子供には怖いかもしれないけども」
「ちょっと2人とも保護対象の前でもめないで~ 脅かしてごめんね~? 僕たちは君を助けにきたんだよ~わかるかな?」
…よかったスキルが生えた。これで何が言いたいのかはっきりとわかる。というか…助ける? 保護?? どういうことなんだ。だって俺は捨てられて3年も放置されていたんだぞ? 普通生きているなんて思わないだろうし、そんな生死もはっきりしないまま探すはずもない。
『これでお別れだ』
そんなことを考えているとフェンリル母さんの声が聞こえてきた。
「戦闘態勢!」
「うそっ この森こんなやばい奴がいるの!?」
「君はこっちへ!」
「え…?」
保護対象がどうとか言っていた男が俺の手を引いた。それと同時に大きな声が響き渡る。
「グウワォォォォォ~~~~~ンッ」
「うわっ 各種シールド、各種強化まとめてかけたよ!」
「よし、保護対象を守りつつ撤退を!」
「「はい!」」
この3人が見ている方に視線を向けるとフェンリル母さんがこちらへと向かって来ていた。
『やっと迎えがきたんだ、お前は人の元へと戻りなさい』
やっとって…何? もしかして母さんがこの人たちが来るように仕向けたの?? そのことに気がつくと目元が熱くなってくるのを感じた。うすうす気がついていたがどうやら体に精神が引きずられているようで、この感情を抑えることが出来ない。涙があふれてきて止まらなくなった。
「あーそうだよね~ 怖いよね~ 大丈夫だからね~」
そう言って男は俺の頭をなでてくる。そしてそんな俺を抱え上げ走り出した。どんどん母さんが遠ざかる…そして涙も止まらない。俺はまた捨てられたのか? ずっと一緒にいられると思っていたのにっ
「うわああああああああああん」
「ああっ 消音!」
何やらスキルだか魔法だかを使われ俺の声が聞こえなくなる。それをいいことに俺は気がすむまで声を張り上げ泣くのだった。
*****
静かになった森の中で私はじっとそのさらに向こうを眺めていた。そんな私の足元に小さな影がすりよる。私の息子がまるで私を慰めるかのように身を寄せているのだ。
『かーちゃ…さみしい』
『そうかい』
『うん』
どうやら自分がさみしくて身を寄せていただけだったらしい。それでもその行動はこのぽっかりと開いてしまった胸の奥を少しだけ温めてくれる。
『あんたも無茶なことするね~』
『そうでもないさ。人は人の下ですごすもんだ』
『まあそりゃ~ そうだろうがね』
『最近森も物騒になってきたようだしね』
『ああそれで…』
私の肩に降りてきた1羽の黒い鳥が話しかけてくる。言った通りだ。人は人の下で過ごすべきだし、森は人が過ごすのには危険が過ぎるんだ。今まで無事だったことの方が奇跡なくらいだから。
『まあ何でもいいが俺はあっちについていくぜ』
『そうしてやってくれ。そのほうがありがたい』
『僕も…』
『お前はだめだ。せめてもっと強くなってからにしなさい』
『強く?』
『ああ強く。自分の身がちゃんと守れないようでは人のもとになど向かうことすらできないよ』
『強く…』
息子はそういうと私と同じように森の奥に視線を向けた。きっとあの子のことを忘れないように心に刻み込んでいるんだろう。
『んじゃ俺はいくよ』
『ああ頼んだ』
私の肩から黒い鳥が飛び立った。これで少しだけ安心だね。いきなり一人は流石にかわいそうだ。それにしても本当にこの暗闇でよく空をとべるものだと感心してしまう。
『かーちゃ、どうやったら強くなれる?』
『そうだね~ これから一緒に色んな事をして強くなっていこうかね』
『かーちゃも?』
『ああそうだよ。私もまだまだ強くならないと』
足元にいる息子の頭をなめあげると私は歩き出した。その後ろを息子がついてくる。
『まずはしっかりと寝ることからだね』
『寝ると強くなる?』
『もちろんさ。体を休めることも必要だからね』
『わかった』
『起きたらしっかりと体を動かし体力づくりだ』
『うん、早く強くなって今度は僕が迎えに行くよ』
『ああそれがいい』
この息子の言葉に私は少しだけ悲しくなった。強くなればなるほど多分会うのが困難になるだろう。だからと言って弱いままではもっとだめだ。どうしたものかと考えながら私達は巣へと戻っていった。
*****
フェンリルと別れた俺は空を飛びながら足元に広がる森を見つめた。これだけ暗いと生き物の姿はスキルを使ってもはっきりと見えることはないのだが、まあ使わないよりはましなので視界を広げあたりを見まわす。それと同時に魔力の動きを追い探し物を見つける。そこらに散らばっている魔力から探し出すというのは中々難しいことなのだが、幸いあの人間どもはまとまって移動しているのかとても分かりやすかった。
『あれか?』
いくつも魔力の塊はあるが、さっきから移動を続けている魔力の塊は一つしか見当たらない。だから間違いないだろう。その魔力の塊を目指し高度を下げ俺は近づいた。ある程度近くまで降りると姿が見えてきた。後ろをちらちらと気にしながら走っている姿は中々愉快だ。すでにフェンリルは追って来ていないのにまだ警戒態勢は解除していないらしい。
『おや?』
あの子が大人しく抱きかかえられたままなのが気になりもう少しだけ近づいて見る。あーなるほどね。どうやら泣きつかれて眠ってしまったようだ。まあね、何の前触れもなくいきなりの別れだ。今までの毎日を考えれば辛いものなのだろう。
さて、森を抜けるまではまだまだあるがこいつらはどうするつもりなんだろうか。あの子を連れてるんだからあまり無茶をしないでおくれよ。俺じゃあ守り切れないんだからな? そんなことを考えながら俺は人間たちの様子を観察するのだった。
体に軽い浮遊感を感じて目を覚ました。まだ眠い目をこすりゆっくりと体を起こすと今まさに俺の体が地面へと降りるところだった。右を見て左を見て後ろも確認するがその場にいるのは俺一人…なんでだよという気持ちを飲み込みちょっとよく考えて見ることにする。
確かみんなで魚を焼いて食べた後クリーンというスキルを使用してみんなを綺麗にし、焚火を消してフェンリル母さんにもたれるように寝付いたはず。だけどどうだろうか? 今この場にいるのは俺一人で、しかも焚火の火は明るくあたりを照らしている。
「母さんたちはどこへ…そうだっ 気配察知」
スキルを使用し周辺に感じる気配を読み取ることにした。魔素を魔力へと変換し、薄く延ばすように範囲を広げる。母さんの気配はすぐ近くには感じられない。もちろん子フェンリル、クロの気配もないみたいだ。もっと範囲を広げればわかるだろうか? だけどその前にこの場所へと近づいてくる気配が3つ…これは誰だ?
右前の草むらの方から音がして何かが近づいてくる。どう見てもすでに俺がここにいるのは気がつかれており、多分逃げることは出来ない。そしてそんな俺には一切攻撃スキルがない…かなり積んでいる状況だと思う。だけどここで慌ててもどうにもならないのも事実で、緊張と恐怖でこわばる体に鞭を打つかのように動くんだと命令を出す。
かろうじてその場から立ち上がることが出来た俺が顔をあげると向かってきた何かの姿が確認できた。人だ…鎧や武器などで武装した。よしっ これならまだ何とかなる!
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え…これはもしかして言葉が通じない? 姿を現した人物が何かを言ったみたいだけど俺にはわからなかった。おかしいな…俺を捨てた人の言葉はわかったのに。もしかしてそれっきりだったから俺が言葉を忘れてしまったのか?
「ydjjs@:~」
目の前に現れた男は何かを言いながら後ろを見ている。多分後ろにいる2人に何かを言っているんだろうが…俺にはそれくらいしかわからない。
「llmgkzzs?」
後から現れた女性が俺に近づきながら何かを言っている。そっと手を伸ばし触れようとしてきたので俺は驚いてびくりと体を震わせ数歩下がった。
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「あー怖かったわね~ 大丈夫よお姉さんたちが助けにきたからね」
「おい、怖がられてるじゃねぇかよ」
「何よ、じゃああんたがやりなさいよね」
「いや…俺の方が怖がらせるかもしれんだろうがっ ほら…なあ?」
「なあって、まああんたの顔はちょっと子供には怖いかもしれないけども」
「ちょっと2人とも保護対象の前でもめないで~ 脅かしてごめんね~? 僕たちは君を助けにきたんだよ~わかるかな?」
…よかったスキルが生えた。これで何が言いたいのかはっきりとわかる。というか…助ける? 保護?? どういうことなんだ。だって俺は捨てられて3年も放置されていたんだぞ? 普通生きているなんて思わないだろうし、そんな生死もはっきりしないまま探すはずもない。
『これでお別れだ』
そんなことを考えているとフェンリル母さんの声が聞こえてきた。
「戦闘態勢!」
「うそっ この森こんなやばい奴がいるの!?」
「君はこっちへ!」
「え…?」
保護対象がどうとか言っていた男が俺の手を引いた。それと同時に大きな声が響き渡る。
「グウワォォォォォ~~~~~ンッ」
「うわっ 各種シールド、各種強化まとめてかけたよ!」
「よし、保護対象を守りつつ撤退を!」
「「はい!」」
この3人が見ている方に視線を向けるとフェンリル母さんがこちらへと向かって来ていた。
『やっと迎えがきたんだ、お前は人の元へと戻りなさい』
やっとって…何? もしかして母さんがこの人たちが来るように仕向けたの?? そのことに気がつくと目元が熱くなってくるのを感じた。うすうす気がついていたがどうやら体に精神が引きずられているようで、この感情を抑えることが出来ない。涙があふれてきて止まらなくなった。
「あーそうだよね~ 怖いよね~ 大丈夫だからね~」
そう言って男は俺の頭をなでてくる。そしてそんな俺を抱え上げ走り出した。どんどん母さんが遠ざかる…そして涙も止まらない。俺はまた捨てられたのか? ずっと一緒にいられると思っていたのにっ
「うわああああああああああん」
「ああっ 消音!」
何やらスキルだか魔法だかを使われ俺の声が聞こえなくなる。それをいいことに俺は気がすむまで声を張り上げ泣くのだった。
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静かになった森の中で私はじっとそのさらに向こうを眺めていた。そんな私の足元に小さな影がすりよる。私の息子がまるで私を慰めるかのように身を寄せているのだ。
『かーちゃ…さみしい』
『そうかい』
『うん』
どうやら自分がさみしくて身を寄せていただけだったらしい。それでもその行動はこのぽっかりと開いてしまった胸の奥を少しだけ温めてくれる。
『あんたも無茶なことするね~』
『そうでもないさ。人は人の下ですごすもんだ』
『まあそりゃ~ そうだろうがね』
『最近森も物騒になってきたようだしね』
『ああそれで…』
私の肩に降りてきた1羽の黒い鳥が話しかけてくる。言った通りだ。人は人の下で過ごすべきだし、森は人が過ごすのには危険が過ぎるんだ。今まで無事だったことの方が奇跡なくらいだから。
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『そうしてやってくれ。そのほうがありがたい』
『僕も…』
『お前はだめだ。せめてもっと強くなってからにしなさい』
『強く?』
『ああ強く。自分の身がちゃんと守れないようでは人のもとになど向かうことすらできないよ』
『強く…』
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『もちろんさ。体を休めることも必要だからね』
『わかった』
『起きたらしっかりと体を動かし体力づくりだ』
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『ああそれがいい』
この息子の言葉に私は少しだけ悲しくなった。強くなればなるほど多分会うのが困難になるだろう。だからと言って弱いままではもっとだめだ。どうしたものかと考えながら私達は巣へと戻っていった。
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フェンリルと別れた俺は空を飛びながら足元に広がる森を見つめた。これだけ暗いと生き物の姿はスキルを使ってもはっきりと見えることはないのだが、まあ使わないよりはましなので視界を広げあたりを見まわす。それと同時に魔力の動きを追い探し物を見つける。そこらに散らばっている魔力から探し出すというのは中々難しいことなのだが、幸いあの人間どもはまとまって移動しているのかとても分かりやすかった。
『あれか?』
いくつも魔力の塊はあるが、さっきから移動を続けている魔力の塊は一つしか見当たらない。だから間違いないだろう。その魔力の塊を目指し高度を下げ俺は近づいた。ある程度近くまで降りると姿が見えてきた。後ろをちらちらと気にしながら走っている姿は中々愉快だ。すでにフェンリルは追って来ていないのにまだ警戒態勢は解除していないらしい。
『おや?』
あの子が大人しく抱きかかえられたままなのが気になりもう少しだけ近づいて見る。あーなるほどね。どうやら泣きつかれて眠ってしまったようだ。まあね、何の前触れもなくいきなりの別れだ。今までの毎日を考えれば辛いものなのだろう。
さて、森を抜けるまではまだまだあるがこいつらはどうするつもりなんだろうか。あの子を連れてるんだからあまり無茶をしないでおくれよ。俺じゃあ守り切れないんだからな? そんなことを考えながら俺は人間たちの様子を観察するのだった。
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