異世界でかけあがれ!!

れのひと

文字の大きさ
3 / 29

3

しおりを挟む
「…ん?」

 体に軽い浮遊感を感じて目を覚ました。まだ眠い目をこすりゆっくりと体を起こすと今まさに俺の体が地面へと降りるところだった。右を見て左を見て後ろも確認するがその場にいるのは俺一人…なんでだよという気持ちを飲み込みちょっとよく考えて見ることにする。

 確かみんなで魚を焼いて食べた後クリーンというスキルを使用してみんなを綺麗にし、焚火を消してフェンリル母さんにもたれるように寝付いたはず。だけどどうだろうか? 今この場にいるのは俺一人で、しかも焚火の火は明るくあたりを照らしている。

「母さんたちはどこへ…そうだっ 気配察知」

 スキルを使用し周辺に感じる気配を読み取ることにした。魔素を魔力へと変換し、薄く延ばすように範囲を広げる。母さんの気配はすぐ近くには感じられない。もちろん子フェンリル、クロの気配もないみたいだ。もっと範囲を広げればわかるだろうか? だけどその前にこの場所へと近づいてくる気配が3つ…これは誰だ?

 右前の草むらの方から音がして何かが近づいてくる。どう見てもすでに俺がここにいるのは気がつかれており、多分逃げることは出来ない。そしてそんな俺には一切攻撃スキルがない…かなり積んでいる状況だと思う。だけどここで慌ててもどうにもならないのも事実で、緊張と恐怖でこわばる体に鞭を打つかのように動くんだと命令を出す。

 かろうじてその場から立ち上がることが出来た俺が顔をあげると向かってきた何かの姿が確認できた。人だ…鎧や武器などで武装した。よしっ これならまだ何とかなる!

「::;@pkj?」

 え…これはもしかして言葉が通じない? 姿を現した人物が何かを言ったみたいだけど俺にはわからなかった。おかしいな…俺を捨てた人の言葉はわかったのに。もしかしてそれっきりだったから俺が言葉を忘れてしまったのか?

「ydjjs@:~」

 目の前に現れた男は何かを言いながら後ろを見ている。多分後ろにいる2人に何かを言っているんだろうが…俺にはそれくらいしかわからない。

「llmgkzzs?」

 後から現れた女性が俺に近づきながら何かを言っている。そっと手を伸ばし触れようとしてきたので俺は驚いてびくりと体を震わせ数歩下がった。

ピロンッ
スキル【異世界言語】を獲得しました

「あー怖かったわね~ 大丈夫よお姉さんたちが助けにきたからね」
「おい、怖がられてるじゃねぇかよ」
「何よ、じゃああんたがやりなさいよね」
「いや…俺の方が怖がらせるかもしれんだろうがっ ほら…なあ?」
「なあって、まああんたの顔はちょっと子供には怖いかもしれないけども」
「ちょっと2人とも保護対象の前でもめないで~ 脅かしてごめんね~? 僕たちは君を助けにきたんだよ~わかるかな?」

 …よかったスキルが生えた。これで何が言いたいのかはっきりとわかる。というか…助ける? 保護?? どういうことなんだ。だって俺は捨てられて3年も放置されていたんだぞ? 普通生きているなんて思わないだろうし、そんな生死もはっきりしないまま探すはずもない。

『これでお別れだ』

 そんなことを考えているとフェンリル母さんの声が聞こえてきた。

「戦闘態勢!」
「うそっ この森こんなやばい奴がいるの!?」
「君はこっちへ!」
「え…?」

 保護対象がどうとか言っていた男が俺の手を引いた。それと同時に大きな声が響き渡る。

「グウワォォォォォ~~~~~ンッ」
「うわっ 各種シールド、各種強化まとめてかけたよ!」
「よし、保護対象を守りつつ撤退を!」
「「はい!」」

 この3人が見ている方に視線を向けるとフェンリル母さんがこちらへと向かって来ていた。

『やっと迎えがきたんだ、お前は人の元へと戻りなさい』

 やっとって…何? もしかして母さんがこの人たちが来るように仕向けたの?? そのことに気がつくと目元が熱くなってくるのを感じた。うすうす気がついていたがどうやら体に精神が引きずられているようで、この感情を抑えることが出来ない。涙があふれてきて止まらなくなった。

「あーそうだよね~ 怖いよね~ 大丈夫だからね~」

 そう言って男は俺の頭をなでてくる。そしてそんな俺を抱え上げ走り出した。どんどん母さんが遠ざかる…そして涙も止まらない。俺はまた捨てられたのか? ずっと一緒にいられると思っていたのにっ

「うわああああああああああん」
「ああっ 消音!」

 何やらスキルだか魔法だかを使われ俺の声が聞こえなくなる。それをいいことに俺は気がすむまで声を張り上げ泣くのだった。





*****





 静かになった森の中で私はじっとそのさらに向こうを眺めていた。そんな私の足元に小さな影がすりよる。私の息子がまるで私を慰めるかのように身を寄せているのだ。

『かーちゃ…さみしい』
『そうかい』
『うん』

 どうやら自分がさみしくて身を寄せていただけだったらしい。それでもその行動はこのぽっかりと開いてしまった胸の奥を少しだけ温めてくれる。

『あんたも無茶なことするね~』
『そうでもないさ。人は人の下ですごすもんだ』
『まあそりゃ~ そうだろうがね』
『最近森も物騒になってきたようだしね』
『ああそれで…』

 私の肩に降りてきた1羽の黒い鳥が話しかけてくる。言った通りだ。人は人の下で過ごすべきだし、森は人が過ごすのには危険が過ぎるんだ。今まで無事だったことの方が奇跡なくらいだから。

『まあ何でもいいが俺はあっちについていくぜ』
『そうしてやってくれ。そのほうがありがたい』
『僕も…』
『お前はだめだ。せめてもっと強くなってからにしなさい』
『強く?』
『ああ強く。自分の身がちゃんと守れないようでは人のもとになど向かうことすらできないよ』
『強く…』

 息子はそういうと私と同じように森の奥に視線を向けた。きっとあの子のことを忘れないように心に刻み込んでいるんだろう。

『んじゃ俺はいくよ』
『ああ頼んだ』

 私の肩から黒い鳥が飛び立った。これで少しだけ安心だね。いきなり一人は流石にかわいそうだ。それにしても本当にこの暗闇でよく空をとべるものだと感心してしまう。

『かーちゃ、どうやったら強くなれる?』
『そうだね~ これから一緒に色んな事をして強くなっていこうかね』
『かーちゃも?』
『ああそうだよ。私もまだまだ強くならないと』

 足元にいる息子の頭をなめあげると私は歩き出した。その後ろを息子がついてくる。

『まずはしっかりと寝ることからだね』
『寝ると強くなる?』
『もちろんさ。体を休めることも必要だからね』
『わかった』
『起きたらしっかりと体を動かし体力づくりだ』
『うん、早く強くなって今度は僕が迎えに行くよ』
『ああそれがいい』

 この息子の言葉に私は少しだけ悲しくなった。強くなればなるほど多分会うのが困難になるだろう。だからと言って弱いままではもっとだめだ。どうしたものかと考えながら私達は巣へと戻っていった。





*****





 フェンリルと別れた俺は空を飛びながら足元に広がる森を見つめた。これだけ暗いと生き物の姿はスキルを使ってもはっきりと見えることはないのだが、まあ使わないよりはましなので視界を広げあたりを見まわす。それと同時に魔力の動きを追い探し物を見つける。そこらに散らばっている魔力から探し出すというのは中々難しいことなのだが、幸いあの人間どもはまとまって移動しているのかとても分かりやすかった。

『あれか?』

 いくつも魔力の塊はあるが、さっきから移動を続けている魔力の塊は一つしか見当たらない。だから間違いないだろう。その魔力の塊を目指し高度を下げ俺は近づいた。ある程度近くまで降りると姿が見えてきた。後ろをちらちらと気にしながら走っている姿は中々愉快だ。すでにフェンリルは追って来ていないのにまだ警戒態勢は解除していないらしい。

『おや?』

 あの子が大人しく抱きかかえられたままなのが気になりもう少しだけ近づいて見る。あーなるほどね。どうやら泣きつかれて眠ってしまったようだ。まあね、何の前触れもなくいきなりの別れだ。今までの毎日を考えれば辛いものなのだろう。

 さて、森を抜けるまではまだまだあるがこいつらはどうするつもりなんだろうか。あの子を連れてるんだからあまり無茶をしないでおくれよ。俺じゃあ守り切れないんだからな? そんなことを考えながら俺は人間たちの様子を観察するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

処理中です...