異世界でかけあがれ!!

れのひと

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 馬車に乗り込み腰を落ち着けると軽くため息が漏れた。学園の入学試験…高位貴族は落ちることはないとは聞かされていたが中々に緊張する物だった。なぜかというとこの試験の結果でどのクラスに入ることになるかも同時に決まるから…クラスは成績の評価準。こればかりは高位貴族であろうと関係がなく、結果がすべて。日々の努力を怠っていると下位クラスとなってしまうだろう。それは高位貴族として恥ずかしいこと。少なくとも真ん中よりは上位でなければならない。

「クルーガ、試験どうだった?」

 馬車に乗り込みながら声をかけてきたのは姉のアンネ。今日は模擬戦の対戦相手をするためにと学園へやって来ていた。

「どうだろう? 筆記は問題ないと思うけど、戦闘技能と魔法技能はどんな判定をされるのかわからないし」
「そう、それよ! 今日面白いもの見ちゃってね? 私が対戦相手じゃないことが悔やまれたわ~ あ、むしろ対戦相手じゃなくてよかったのかしら??」

 そんなこと聞かれてもその模擬戦を見ていない俺にはわからないよ。ちょっと呆れた視線を送りつつ俺も今日目にしたものを語る。

「そういえば魔法技能で初めて複合魔法と言うやつをみたよ」
「へ~ あの難しくて魔力の消費も多い実践むきじゃない魔法? まだ私も習っていないからどんな魔法かよくはしらないけど…誰か先生が披露したのかしら」

 アンネの言っていることは俺もよくわかっている。詳しいことは教えられていないが家の方針としてそういった魔法があると言うことぐらいは聞いているからね。そんな話をしていると馬車が動き出した。それほど遠い距離じゃないのに馬車を使うのが中々煩わしいと俺はいつも思う。

「ふぅ…それにしても今日も暑いわね~」
「ちょっ 姉さん! 外から見えないからってはしたないよっ」
「もうクルーガーはかたいんだからっ」

 やっと馬車は動き出したが締め切った馬車内は結構暑く、汗もジワリと肌に張り付く。アンネは軽く服の裾を掴みパタパタと動かしていたのだ。もちろん前生きていた世界でクラスメイトがそんなことをしてても気にもしなかったくらいなんだけど、今は貴族という立場でもあり、姉ということをのぞけば見た目が好みな女の子がそんなことをしていたら流石に動揺もする。このまま大きくなってしまったらと思うと不安でしかない。

「もう…ほら、エアロ」

 風を起こすだけの魔法を使用し、馬車内の空気を動かす。これだけでも少しはましになるはずだ。

「あ~ありがとう…欲をいえばこれがもっと冷たければいいのに~」
「…出来るようになったらね」
「うん、期待して待ってる」

 今日見た複合魔法を思い出した。違う属性の魔法を組み合わせて使う魔法だ。それが出来るようになれば今出しているこの風の魔法が冷たい物や温かい物にも出来るというわけだ。同じ年だと思われる子供が出来たんだ。俺だってきっとできるようになる。





*****




 目を覚ますとロザリが俺のことをのぞきこんでいた。なんで見られているのかわからなくて、視線が合わさっているのにそのまま少しの間動きが固まった。

「ちょっと起きたのならそう言いなさいよねっ」

 じっと見ていたのが恥ずかしかったのか慌てて俺から離れたロザリの顔が若干赤くなる。まあ宿は2部屋しか借りていないので俺とロザリが同じ部屋なのは仕方がないが、ベッドは別だったはずだ。なのにロザリが俺の近くにいるんだから驚いてしまうのもしかたがないだろう。

「それよりも起きてよ。で、パンケーキを焼きましょう」
「ん?」

 なんでパンケーキを焼かないといけないんだ? ここは宿だから自分たちで食事を用意する必要はないんだが。

「だからパンケーキよ」
「なんで?」
「なんでって…作り方を覚えないとこれから食べられなくなっちゃうじゃない!」

 ああ…そう言うことなのか。というかやっと覚える気になったんだね。俺はのそのそと起き上がり身支度を整える。

「ところでどこで作るの?」
「宿の厨房を使わせてもらえるように交渉したわ!」
「ふーん、その報酬は?」
「もちろんそこで作られる料理のレシピよ」
「…まあいいけど」

 俺は若干呆れている。普通交渉に使うものは自分で用意したりすると思うんだ。もちろんパンケーキをこの宿でも作ってもらえるようになるならありがたいけれど。硬いパンよりは断然いいし。

 ロザリと2人で宿の厨房に向かうとすでにクラックとトールが待っていた。2人は宿の人と会話をしている。

「あ、ほら来たぞ今回レシピを教えてくれる先生だ」
「本当に子供ですね。大人が3人もいて子供が食事担当とは…情けないことで」
「自分達でも思うんですが、やっぱり冒険者をしていると作るのが面倒で…」

 宿の人は中々はっきりと物事を言う人らしい。俺の作り方が通用しなくてぼろくそ言われたら泣くぞ。こっちはただの家庭料理人だ。相手は一応プロの料理人…ちょっと気分が下がる。

「すみません朝食時に」
「いえいえ、むしろ味見をする人がこれだけいるのですよ。やりがいがありますね」

 テーブルの方を見ると冒険者だと思われる人たちがこっちを見て手を振っている。どうやらすでに新しいものが食べられると聞かされた状態のようだ。

「はあ…ではまず俺が作りますのでその後皆さんで順番に作ってみてください」

 突如始まる新しい食べ物のお披露目、しかも審査員付き。まだ少し眠く欠伸をしながらパンケーキを焼いた。
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