異世界でかけあがれ!!

れのひと

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 すっと目が覚めた。体を起こすと隣のベッドの方を見る。ロザリはまだ寝ているようなので起こさないように身支度の整え宿の食堂へと足を運んだ。

「早いねシオン」
「おはようトール」

 すでに先に来ていたトールが声をかけてくる。俺は挨拶を交わし同じテーブルへ。それと同時にトールの朝食が運ばれてきた。そこにはパンケーキが…そうそうパンケーキと言えばやっぱりプロは違ったね。俺が教えたことをあっという間に理解しサクッと作り上げたんだ。そして問題のロザリたちはというと…クラックは話にもならなかった。こんなもん焼けばいいとか言い出して炭にするし、ロザリは焼いてる間の待ち時間が待てないのか常に生焼け。トールは一番丁寧に作ってちゃんと作り上げたけど時間がかかりすぎという結果だった。とりあえずクラックじゃなければどっちが作ってもいいんじゃないかなと思う。生焼けはちょっと温めなおせばなくなるからね。

「はいどうぞ~」
「ありがとう」

 トールが食べているのをぼんやりと見ながらパンケーキを作った時のことを思い出していると、俺の前にも朝食が運ばれてきた。ナイフとフォークを手に取り俺も食事を始める。少しするとクラックとロザリもやって来てみんなそろった。なんで起こさなかったのかとちょっとだけロザリにすねられた。

「そういえば今日発表だったか?」
「うん」

 クラックさんがパンケーキを口に運びながら入学試験の結果が今日なのかと聞いてきた。今日で試験を受けてから丁度7日。発表が張り出されるのは午前中のみ。午後からは学園に入るための準備が始まり、今日は王都の店はどこも忙しくなる。といっても大体のものは学園で用意されるのでいるものと言ったら身の回りの物くらい。主に肌着くらいかな? 追加で用意したい家具などがあるのなら買わなければいけないが、贅沢を言わなければ学園で用意されたものだけで足りるそうだ。

「大丈夫、シオンは受かってるわ」

 不安が顔に出ていたのかロザリが俺の頭をポンポンと叩く。

「よし、食事が終わったらみんなで見に行くぞ~」

 クラックの言葉に誰もが頷いた。

 街の中を3人でのんびりと歩きながら学園を目指す。急いで向かったって結果は変らないからね。歩きながらたわいもない話をする。初めて俺たちが出会った時、お互いの勘違いが多くて微妙に会話がかみ合っていなかった。初めて魔法を使った時、あれはちょっと後で思い出すと笑えてくる。大きな氷の塊がテーブルを押しつぶしてみんなでその氷を砕いた事…ぱっと俺が収納にしまうだけで実は片付いたんだよね。お互い慌てていてそんなことすら思いつかなかったし。

「ついたな」

 学園の門の前につく。あたりには結構人がいて喜んでいる人もいればがっかりしている人もいる。どちらかと言えば喜んでいる人は少数か…

 奥の方を見ると何かが書かれている掲示板が置かれていた。多分あれに合格者の番号が書かれているんだろう。その場所に人が集中している。スキルを使用すればここからでも数字は見えるが、どうせならちゃんと普通に結果は見たい。ゆっくりと前へ進むと3人もその後ろをついてきた。

「シオンの番号はいくつだ?」
「クラック、まずは本人が確認してから教えてもらおう」
「あ、そうだな。そのほうがいいか」
「大丈夫シオンなら受かってるよ」

 それぞれの声を背中に受けながら俺はすこしづつ前へと向かっていく。俺の番号は528…見たところ番号は順番に書かれている。つまり受かっていれば俺の番号は一番最後にあるってこと。

「え?」

 俺は何度も番号を見直した。一番最後に書かれている番号は492…俺の番号じゃない。というか500番台が誰も受かっていない? あの筆記試験を受けた時にいた部屋の中の人が…

「どうだ?」
「ん…」

 声をかけてきたクラックに自分の番号札を渡す。申し訳ないという気持ちから自然と視線は足元を見つめている。

「どれどれ…528…へーこれってすでにクラス分けとかもされてんのか」

 …え? クラス分け?? ばっと顔をあげさっき見ていた最後の方から戻ってみるとそこの先頭には5クラスと書かれていた。順番にさかのぼり各クラスの最後の数字を見ていく。

「やったなシオン! やっぱり受かってたぞっ しかも特設クラス…! ちょっと特別なクラスっぽい? 知らんけど」
「やっぱりシオンは特設なんだ…そんな気がしてた」
「特設ってなんなの?」
「簡単に言うと通常の成績に収まらないクラスだね。一点だけ妙に成績がいいとか、他の子達と比べてちょっと違う人達の集まり」

 俺が見つけるよりも早くクラックが見つけた。特設…そこの最後の所に俺の番号528と書かれていた。やばい、落とされてからあげられるとか。6歳の体が耐えられるわけがない。

「あーはいはい。ほんと生意気かと思えばすぐ泣くんだから」
「生意気なのも泣き虫なのも子供ならではだと思うよ?」
「違いねぇ」

 泣き出した俺をロザリがそっと抱きしめる。そんな俺の頭をトールがなでた。クラックは覗き込んで笑っていた。

 受かって嬉しい、試験を無駄にしなくてよかった、そして3人との別れの決定。同時に沸き上がる感情は俺には抑えることが出来なかった。
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