魔王様は退屈過ぎて勇者へと転職する

れのひと

文字の大きさ
2 / 23

第2話 追放された

しおりを挟む
「ほらいくぞ」
「あ、お待ちを…っ」

私が深呼吸をしていると転移ゲートをくぐった時と同じように、彼女に腕を引かれ私と彼女は転職の泉の中へと飛び込んでいたのだった。一瞬だけ感じる息苦しさを通り過ぎると視界はきらきらと輝いており、とても綺麗で思わずその光景に私は見とれる。この経験は2度目のことになるのだけど、やはりまだ2度目。この感動はとてのじゃないけれど表しきれないものなのだと再確認をすることになった。

「わらわは勇者に、そしてこっちは魔王へと転職するのじゃ」
「…あっ 魔王様まだ私は転職すると言っていません!!」
「もう遅いのじゃ…」

すっと魔王様の指先が示している先から光の渦がこちらへと向かってきていた。あれはたしか…前回職業に就いたときに見たことがある光景だった。泉に飛び込み職業を選んだ後…あのような光の渦に飲み込まれ泉の外へと運び出されると魔王の側近という職業をいただいたのでしたっけ? ということはまさか…っ

「そ、そんなぁ~~」

私の叫び声は光の渦に飲み込まれてすぐに聞こえなくなった。ぎゅっと閉じた瞳を開けると私と彼女は泉のふちに立ち尽くしていたのだった。つまり転職が完了したということなのだろう。

「あはっ わらわはちゃんと勇者になっておるぞ。勇者LV1だな」

ブォンとすぐ真横で音がすると彼女は自身のステータスを確認しているようだ。私は頭を抱えつつもそれに見習い同じくステータスを開いて確認することにする。

「魔王LV1…です…」
「いいねぇ…これでやっと対決が出来るってもんだねぇ~」
「よくないですっ」

彼女は不思議そうな顔をして首を傾げているのだけど、何が嬉しくて恩人である彼女と対決しなければならないのか…私は悲しくて仕方がありません。

「そんな顔をするでない。折角の美形がだいなしじゃぞ?」
「でも…」
「まあ何はともあれ無事転職も済んだし、一度我が家に戻ってまずはレベル上げからかのう」

ごそごそと彼女は懐にしまってあった帰還の石を取り出すとそれを足元へ叩きつけた。カッと一瞬だけ眩しく光を放つと私と彼女は転移ゲートをくぐる前にいたいわゆる魔王城へと戻ってきた。

「さてさっ…そく?」

楽しそうに走り出そうとした彼女の動きが止まる。その視線の先には怖い顔をした元魔王様とその奥様が…私の顔が青ざめるのも一瞬であった。

「弱くなっておりますね」
「そのようだな…してどこへ行っておったのだ? …ん?」
「は…母上に、ちちちち父上まで!!」
「どこへ、行ってきた?」

元魔王様の言葉に彼女はガタガタと震え顔を青ざめる。転職をしてレベルも1からになったのだから職業など関係なく、お二人の強さに圧倒されてもしかたがないであろう。私も先ほどから立っているので精いっぱいだ。彼女をかばうべき言葉ですら口に出すことが出来ない。

「せ、精霊の…森へ…」
「ほう…確か精霊の森は転職の泉がある場所だったな。まさか…っ」
「はいっ 転職してきました!」

彼女は元気よく言葉を出した。とてもそれは勇気のいることだったと思う。流石勇者という職業だ。元魔王とすでに会話が出来るとは…

「まあ…では今は魔王ではないということですね?」
「……だ」
「あ、あの…もう一度お願い…します?」

元魔王様の言葉がうまく聞き取れず彼女は聞きなおしを要求した。流石にこの行動に私は驚き身を縮めた。

「追放だー!! 誰かーっ このものらをつまみだせいっ!!」

この言葉に現れた者たちが私と彼女を見るとぎょっとした顔をしつつ、元魔王様と交互に見て困惑している。すごくその気持ちが私にはわかり彼らにとても同情してしまう。

「アルクウェイ…そなたが付いておりながらこれはどういうことかっ」
「………っ」
「いいか? 魔王に戻るまで帰ってくるでないぞ!!」

こうして私と彼女は転移ゲートから再び精霊の森へと追い出されてしまったのであった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...