メリバ短編集Ⅰ

Enfance finie

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第1話【幾望】~満月前夜~

第2章 まやかし

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都内某所。
路上に腰を下ろしながら、行き交う人の群れを眺める男。

『言葉屋―あなたの心に届けますー』

表札代わりに掲げられた段ボールに、視線を落とす者は少ない。

 安住あずみ栄二えいじは、今日も筆を走らせている。
安住は、彼の前に立ち止まった相手がその時必要としている言葉を文字に起こし、口に糊して生きていた。

数年前まで有名医大で臨床心理学を学び、将来を嘱望されていたエリートが、何故このようなことを始めることになったのか?


それは、3年前のある出来事がきっかけだった。

安住は、同じ研究室の後輩に恋の相談をされた。
『あの・・今私には好きな人がいて、でも研究もあるし、告白するかどうか悩んでいて・・。』

安住のアドバイスに背中を押され、大好きだった男の子に告白したその後輩は、残念ながら振られてしまい、あまりのショックで自ら命を絶ってしまった。

安住はその事件に心を痛め、大学も辞め、来る日も来る日も自分を責め続けた。

― 言葉なんて、所詮人を動かせる為に出来た道具だ。言葉なんて、醜い真実を覆い隠す為の、ただのまやかしだ ―

安住は、やさぐれてそこかしこを放浪する旅を始めた。
そして、旅先で様々な人と出会う内に、心境の変化を感じた。

「過去と向き合うしかない。悩んでいる人の悩みが、一瞬でも消えるような言葉を与えられたら・・」その日から街頭で色紙に筆を走らせ言葉を書き始めた。

なけなしの全財産を奪われたこともあれば、気が遠くなるまで殴られたこともある。

しかしながら、その度に立ち上がり「僕は、この辟易する日常に心を痛めている人たちの、精神的な支えになるような言葉を捧げ続けたい。」と、筆を動かせ続けた。

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