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第1話【幾望】~満月前夜~
第3章 幾望
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赤いトレンチコートの女性は、それから頻繁に安住の元を訪れるようになった。
多い時で週に3回、少ない時でも週に1回は顔を合わせるようになっていた。
その女性は、明日美と名乗った。明日美は、安住に自分のこれまでの生い立ちや
恋愛、仕事のこと、そしてこれからの夢のことなど、ありのままに話してくれた。
安住もまた、臨床心理学で学んだ様々な知識を明日美に話して聞かせた。
明日美は、裏表のない人間で、安住のどんな話にも興味を示し、いつも真剣な表情で身を乗り出していた。
あるとき、安住は明日美を映画に誘った。
とある国の王女が、滞在先の外国で知り合った新聞記者と恋に落ちる往年の名作のリバイバル上映だ。
明日美は、映画がクライマックスになると、声を上げむせび泣いていた。その姿を見て安住は、小さく微笑んだ。
その帰り道、安住は、明日美に不意に尋ねた。
「明日美さん、あなたは今、幸せですか?」
「難しい質問ですね。そもそも、幸せの定義って何なのでしょうか。」
「うーん、まぁそれは、自分が決めることですから、定義はあってないようなものだと思いますが。」
「そうであれば、私はいつも幸せです。私は私の人生を生きているから。でも、いつも何か一つ足りないんです。どんなに完璧だと思うまでやっても、何か必ずミスをしてしまう。それが無ければ、胸を張って幸せだと言えると思います。」
「きぼう・・」
「はい?今何かおっしゃいましたか?」
「満月前夜の、ほぼ満月に近い状態のことを幾望(きぼう)と呼ぶんです。」
「そうですか。初めて聞きました。」
「明日美さんは、もう少しで幸せの満月を迎えるところにいる。満月になりそうでならない、少し何かが欠けている状態・・でも、だからこそ、人は明日の満月を渇望し、生き続けられるのではないでしょうか。」
「・・・安住さんって、詩人ですね。」
「ははは。」
「私の名前も明日を夢見続けるように、っていう願いが込められているんです。」
「素敵な名前ですね。私と結婚したらあずみあすみになってしまいますがね。」
「・・・」
「冗談ですよ。」
その日も月のきれいな夜だった。
それからというもの、安住はしばしば明日美を食事に誘うようになった。
2人でいる時間は、安住にとって、かけがえのないものとなっていた。
多い時で週に3回、少ない時でも週に1回は顔を合わせるようになっていた。
その女性は、明日美と名乗った。明日美は、安住に自分のこれまでの生い立ちや
恋愛、仕事のこと、そしてこれからの夢のことなど、ありのままに話してくれた。
安住もまた、臨床心理学で学んだ様々な知識を明日美に話して聞かせた。
明日美は、裏表のない人間で、安住のどんな話にも興味を示し、いつも真剣な表情で身を乗り出していた。
あるとき、安住は明日美を映画に誘った。
とある国の王女が、滞在先の外国で知り合った新聞記者と恋に落ちる往年の名作のリバイバル上映だ。
明日美は、映画がクライマックスになると、声を上げむせび泣いていた。その姿を見て安住は、小さく微笑んだ。
その帰り道、安住は、明日美に不意に尋ねた。
「明日美さん、あなたは今、幸せですか?」
「難しい質問ですね。そもそも、幸せの定義って何なのでしょうか。」
「うーん、まぁそれは、自分が決めることですから、定義はあってないようなものだと思いますが。」
「そうであれば、私はいつも幸せです。私は私の人生を生きているから。でも、いつも何か一つ足りないんです。どんなに完璧だと思うまでやっても、何か必ずミスをしてしまう。それが無ければ、胸を張って幸せだと言えると思います。」
「きぼう・・」
「はい?今何かおっしゃいましたか?」
「満月前夜の、ほぼ満月に近い状態のことを幾望(きぼう)と呼ぶんです。」
「そうですか。初めて聞きました。」
「明日美さんは、もう少しで幸せの満月を迎えるところにいる。満月になりそうでならない、少し何かが欠けている状態・・でも、だからこそ、人は明日の満月を渇望し、生き続けられるのではないでしょうか。」
「・・・安住さんって、詩人ですね。」
「ははは。」
「私の名前も明日を夢見続けるように、っていう願いが込められているんです。」
「素敵な名前ですね。私と結婚したらあずみあすみになってしまいますがね。」
「・・・」
「冗談ですよ。」
その日も月のきれいな夜だった。
それからというもの、安住はしばしば明日美を食事に誘うようになった。
2人でいる時間は、安住にとって、かけがえのないものとなっていた。
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