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51.久しぶりに街へ
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それからクラウスは、いつも救護室の人に面倒くさそうに治癒してもらうのがこちらも辛くなり、小さな怪我があるまま生活することにも慣れてしまったのだった。
こんなことに慣れてはいけないんだが…。
自分でも治癒魔法を使えたらな…。
クラウスは、首に掛けたままの赤い水晶を取り出した。
これは、いわゆる「HP(命)を削ってMP(魔力)を増やす」アイテムで、これのおかげでクラウスは魔法が使えている。
最近気になるのは、どうも水晶の色が澱んできたなぁということだ。前はもっと澄んだ赤だった。
──もしかしたら、使い過ぎてるのかもしれない。
クラウスの頭に、ほんの少し嫌な考えがよぎった。
寝ても疲れが取れないことは、もはや状態化していた。でも、前世でも社畜時代は常にそうだったし、疲れが取れないなんてことは多くの人がそうだっただろう。
だから、これが異常なことなのか、分からなくなっていた。少しずつ、感覚が麻痺していることに気づいていなかったのだ。
クラウスは、以前より痩せて顔色の悪い鏡の中の自分を見つめた。
(卒業するまで、頑張ろう)
リリーに相談しようと思えばいくらでもできたのだが、慢性的な疲労はクラウスを麻痺させた。
(…卒業するまで頑張るにしても、卒業したら俺はどうしたらいいだろう)
クラウスは初級魔法しか使えない。それも、段々使える量を調節しなくてはいけなくなっていた。
こんな状態で、俺は職に就くことができるのだろうか?
リリーからは、卒業後のことは心配しないで、と手紙で連絡が来たが、最近のクラウスの悩みはもっぱらその事だった。
*
「明日は…『収穫祭』か」
3年も終わりに差し掛かった秋の日、俺は休みになり浮かれている学園を見てそう呟いた。
すっかり忘れていた。去年はそんな余裕がなくどう過ごしていたかも忘れた。しかし、今年は最終学年ということもあり、授業日数も減ってきて、クラウス自身も暇であった。
「久しぶりに…王都の都心へ行ってもいいかもしれないな」
クラウスは去年以来全然街へ行っていないことを思い出した。リリーがいた頃は一緒に出かけることも少しはあったのだが、最近の嫌がらせのこともあり、一人で出かける気になれなかったのもある。
ずっと寮に閉じこもっていて、俺も知らずのうちに気分が落ちていたのかもしれない。
気分転換に、街へ出掛けてみよう。久しぶりにリリーと会うのもいいかもしれない。
こうして、クラウスはさっそく魔法速達便でリリーへ連絡をした。
*
リリーはすぐに返事をくれ、一緒に街をまわろうと言ってくれた。彼女がこうした活気のある祭りに行くとすぐ承諾してくれるとは思わず、驚いた。
そして彼女は、当日寮の外まで迎えにまできてくれた。
クラウスがぽかんとしてリリーを見ると、彼女はクスリとして手をあげた。
「行きましょう」
「あなたが街に出るなんて、久しぶりなんじゃないの?」
王都の中心まで移動する馬車の中で、リリーはチラリとこちらを見て言った。
「はは、そうかもな」
「…最近はどう?あなたに嫌がらせをしていた連中は、停学していたそうね。他の者も、最近は学園での暴力に関するルールが強化されて大人しくしていると聞いたけど」
確かに、本当に生徒からの暴力はなくなった。まさか停学している者もいたとは知らなかったが…。
俺が驚いていると、リリーは「気づいてなかったならいいわ。気にしないで」と微笑んだ。き、気になるが…。
「…それにしても、あなたの顔色はあまり良くならないわね。何かあった?」
気が緩んだ時、鋭くリリーに聞かれ、俺はギクリとした。
「え?」
「気づいてないの?前よりも隈もひどいし…」
リリーのひんやりした細い指が、さらりと俺の目の下を撫でる。
思いのほかリリーの顔が近くて俺はドギマギしてしまった。
「あ、ああ。大丈夫。徹夜して勉強しちゃってな、はは」
俺は笑顔を作って元気アピールをした。リリーには心配をかけたくない。彼女だって、まだ魔法研究科に行って一年で、疲れている様子も見受けられたから。
「そう。…なんでも気になることは言ってね」
リリーは一応納得したように見えたが、その後も何度もしつこいくらいに体調を気遣ってくれた。俺はボロが出ないか必死だった。
こんなことに慣れてはいけないんだが…。
自分でも治癒魔法を使えたらな…。
クラウスは、首に掛けたままの赤い水晶を取り出した。
これは、いわゆる「HP(命)を削ってMP(魔力)を増やす」アイテムで、これのおかげでクラウスは魔法が使えている。
最近気になるのは、どうも水晶の色が澱んできたなぁということだ。前はもっと澄んだ赤だった。
──もしかしたら、使い過ぎてるのかもしれない。
クラウスの頭に、ほんの少し嫌な考えがよぎった。
寝ても疲れが取れないことは、もはや状態化していた。でも、前世でも社畜時代は常にそうだったし、疲れが取れないなんてことは多くの人がそうだっただろう。
だから、これが異常なことなのか、分からなくなっていた。少しずつ、感覚が麻痺していることに気づいていなかったのだ。
クラウスは、以前より痩せて顔色の悪い鏡の中の自分を見つめた。
(卒業するまで、頑張ろう)
リリーに相談しようと思えばいくらでもできたのだが、慢性的な疲労はクラウスを麻痺させた。
(…卒業するまで頑張るにしても、卒業したら俺はどうしたらいいだろう)
クラウスは初級魔法しか使えない。それも、段々使える量を調節しなくてはいけなくなっていた。
こんな状態で、俺は職に就くことができるのだろうか?
リリーからは、卒業後のことは心配しないで、と手紙で連絡が来たが、最近のクラウスの悩みはもっぱらその事だった。
*
「明日は…『収穫祭』か」
3年も終わりに差し掛かった秋の日、俺は休みになり浮かれている学園を見てそう呟いた。
すっかり忘れていた。去年はそんな余裕がなくどう過ごしていたかも忘れた。しかし、今年は最終学年ということもあり、授業日数も減ってきて、クラウス自身も暇であった。
「久しぶりに…王都の都心へ行ってもいいかもしれないな」
クラウスは去年以来全然街へ行っていないことを思い出した。リリーがいた頃は一緒に出かけることも少しはあったのだが、最近の嫌がらせのこともあり、一人で出かける気になれなかったのもある。
ずっと寮に閉じこもっていて、俺も知らずのうちに気分が落ちていたのかもしれない。
気分転換に、街へ出掛けてみよう。久しぶりにリリーと会うのもいいかもしれない。
こうして、クラウスはさっそく魔法速達便でリリーへ連絡をした。
*
リリーはすぐに返事をくれ、一緒に街をまわろうと言ってくれた。彼女がこうした活気のある祭りに行くとすぐ承諾してくれるとは思わず、驚いた。
そして彼女は、当日寮の外まで迎えにまできてくれた。
クラウスがぽかんとしてリリーを見ると、彼女はクスリとして手をあげた。
「行きましょう」
「あなたが街に出るなんて、久しぶりなんじゃないの?」
王都の中心まで移動する馬車の中で、リリーはチラリとこちらを見て言った。
「はは、そうかもな」
「…最近はどう?あなたに嫌がらせをしていた連中は、停学していたそうね。他の者も、最近は学園での暴力に関するルールが強化されて大人しくしていると聞いたけど」
確かに、本当に生徒からの暴力はなくなった。まさか停学している者もいたとは知らなかったが…。
俺が驚いていると、リリーは「気づいてなかったならいいわ。気にしないで」と微笑んだ。き、気になるが…。
「…それにしても、あなたの顔色はあまり良くならないわね。何かあった?」
気が緩んだ時、鋭くリリーに聞かれ、俺はギクリとした。
「え?」
「気づいてないの?前よりも隈もひどいし…」
リリーのひんやりした細い指が、さらりと俺の目の下を撫でる。
思いのほかリリーの顔が近くて俺はドギマギしてしまった。
「あ、ああ。大丈夫。徹夜して勉強しちゃってな、はは」
俺は笑顔を作って元気アピールをした。リリーには心配をかけたくない。彼女だって、まだ魔法研究科に行って一年で、疲れている様子も見受けられたから。
「そう。…なんでも気になることは言ってね」
リリーは一応納得したように見えたが、その後も何度もしつこいくらいに体調を気遣ってくれた。俺はボロが出ないか必死だった。
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