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陶酔のローマ
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店を出た後、私たちはタクシーに乗った。
行く先はわからないが、向かっているのはローマの郊外らしい。
やがてどこまでも続く高い煉瓦塀が見えてきて、車は瀟洒な鉄製の門の手前で停まった。
「降りて、亜美さん」
林太郎さんに促され、私は彼と並んで門へと歩み寄る。
Giardino di Felicita
その上に記された飾り文字を目にした時、私は息が止まりそうになった。
「まさか」
「フェリチタ庭園――君が一番好きで、ずっと来たがっていたのは、ここだろう?」
「ええ、だけど今日はお休みのはずじゃ……」
フェリチタ庭園は州の天然記念物に指定されている。そのすばらしい景観を保護するため開園日が決められているし、人気があり過ぎて予約を取るのも本当に難しいのだ。
その時、ジャケットを着た中年の男性が姿を見せ、門を開けてくれた。
「ようこそ、シニョール・ヒガシノ。そしてシニョリーナ・キリシマ。あなた方を心から歓迎いたします」
彼はマッシモと名乗り、フェリチタ庭園の園長だと自己紹介した。
私は園長自ら門を開けてくれたことに驚いたが、なんと彼自身がこれから園内を案内してくれるというのだ。
「本当ですか?」
「なにしろ今日は休園日で、職員はおりませんから」
「えっ?」
どうやら私たちは、閉演しているフェリチタ庭園を貸し切り状態で楽しめるらしい。
(どういうこと?)
私は思わず隣にいる林太郎さんを見上げる。
すると彼は片目をつぶって、「俺にも多少はコネがある」と笑ってみせた。
以前の林太郎さんだったら絶対にしそうもない仕草。
それなのに今はそんな表情が似合い過ぎるくらい似合っていて、私は彼から目が離せなくなってしまう。
「どうした?」
「驚きました。とてもすてきだから」
「わかるよ。ずっと来たかった場所だしな」
「あ、いえ、林太郎さんが」
ほとんど反射的に言葉がこぼれた。考える暇もなかった。
今日の林太郎さんのスーツは落ち着いたブルーグレーで、細いヘアラインストライプが入っている。形はラインがきれいな三つボタンのシンググルブレスト。
シャツは白のシーアイランドコットン製で、タイは薄紫の小さなドット柄。靴は履きやすいと評判のイギリス製のストレートチップだ。
ちょっとだけ色で遊んだ好感度が高いコーディネートだが、彼の場合はとてもセクシーに見える。
もうどこから見ても、一流企業の若きエグゼクティブだ。それなのに、
「ありがとう。亜美さんも……すてきだ、すごく」
頬を赤らめながらそう返され、私も顔が熱くなった。
「いやあ、まったくお似合いのカップルですな」
マッシモさんの笑い声が聞こえて、私たちは思わず顔を見合わせた。
お互いに見惚れ合って、彼の存在をすっかり忘れていたのだ。
「それではご案内を始めてもよろしいですか?」
「は、はい。よろしくお願いいたします」
私と林太郎さんはどちらからともなく手をつなぎ、マッシモさんの後に続いた。
行く先はわからないが、向かっているのはローマの郊外らしい。
やがてどこまでも続く高い煉瓦塀が見えてきて、車は瀟洒な鉄製の門の手前で停まった。
「降りて、亜美さん」
林太郎さんに促され、私は彼と並んで門へと歩み寄る。
Giardino di Felicita
その上に記された飾り文字を目にした時、私は息が止まりそうになった。
「まさか」
「フェリチタ庭園――君が一番好きで、ずっと来たがっていたのは、ここだろう?」
「ええ、だけど今日はお休みのはずじゃ……」
フェリチタ庭園は州の天然記念物に指定されている。そのすばらしい景観を保護するため開園日が決められているし、人気があり過ぎて予約を取るのも本当に難しいのだ。
その時、ジャケットを着た中年の男性が姿を見せ、門を開けてくれた。
「ようこそ、シニョール・ヒガシノ。そしてシニョリーナ・キリシマ。あなた方を心から歓迎いたします」
彼はマッシモと名乗り、フェリチタ庭園の園長だと自己紹介した。
私は園長自ら門を開けてくれたことに驚いたが、なんと彼自身がこれから園内を案内してくれるというのだ。
「本当ですか?」
「なにしろ今日は休園日で、職員はおりませんから」
「えっ?」
どうやら私たちは、閉演しているフェリチタ庭園を貸し切り状態で楽しめるらしい。
(どういうこと?)
私は思わず隣にいる林太郎さんを見上げる。
すると彼は片目をつぶって、「俺にも多少はコネがある」と笑ってみせた。
以前の林太郎さんだったら絶対にしそうもない仕草。
それなのに今はそんな表情が似合い過ぎるくらい似合っていて、私は彼から目が離せなくなってしまう。
「どうした?」
「驚きました。とてもすてきだから」
「わかるよ。ずっと来たかった場所だしな」
「あ、いえ、林太郎さんが」
ほとんど反射的に言葉がこぼれた。考える暇もなかった。
今日の林太郎さんのスーツは落ち着いたブルーグレーで、細いヘアラインストライプが入っている。形はラインがきれいな三つボタンのシンググルブレスト。
シャツは白のシーアイランドコットン製で、タイは薄紫の小さなドット柄。靴は履きやすいと評判のイギリス製のストレートチップだ。
ちょっとだけ色で遊んだ好感度が高いコーディネートだが、彼の場合はとてもセクシーに見える。
もうどこから見ても、一流企業の若きエグゼクティブだ。それなのに、
「ありがとう。亜美さんも……すてきだ、すごく」
頬を赤らめながらそう返され、私も顔が熱くなった。
「いやあ、まったくお似合いのカップルですな」
マッシモさんの笑い声が聞こえて、私たちは思わず顔を見合わせた。
お互いに見惚れ合って、彼の存在をすっかり忘れていたのだ。
「それではご案内を始めてもよろしいですか?」
「は、はい。よろしくお願いいたします」
私と林太郎さんはどちらからともなく手をつなぎ、マッシモさんの後に続いた。
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