ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)

mizumori

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令嬢たち

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「ねえ、ヘルミーナ、わたくしの言ったとおりでしょう」

 せっかくの花香る季節、風も心地よいというのにお母様の声にいらいらします。
だって、ここのところ毎日なんですもの、いくら実の娘にしか話せないとはいえ、そろそろあきてきたんですけれど。お母様のスケジュールは午後にお茶会で情報交換をして、翌日の午前中に娘の私に報告兼言いたいことを言われるという貴婦人とは思えないほど精力的なものです。長年のうっぷんが晴らされたのでそのお気持ちはわからないでもないのですけれど・・・そろそろ落ち着かれてくださいませ。

「それにしてもゴードン様は惜しかったわね。あの方に嫁いでいれば、今頃王宮でときめいていられたのに」

「それは無理ですわ、お母様。お父様のことがありましたから、今頃婚約破棄でどこぞの市井の住まいでわびしく暮らしていたはずですわ」

「そんなぞっとするようなお話・・・本当に離縁できてよかったわ。お兄様には感謝しなくては」

 そうなのです、お母様の子供はわたくし一人。側室の生んだ異母弟が家を継ぐ予定でした。母は正妻というのに肩身狭くあの屋敷で暮らしていたのです。それに母が子供を一人しか持てなかった理由は父のせいでした。今だからこそ分かります。それなりのことをしていなければ、子供は出来ませんわよね。それほどお父様は側室の方を可愛がっていらしたのです。娘の時には分かりませんでしたが、お母様がどれほど嘆き悲しんだか・・・今はとてもよくわかります。

「それでもお母様の手腕はすばらしいですわ。おかげでわたくしも優しいだんな様とのんびりと暮らしていられますもの」

 お母様は兄の侯爵を巻き込んで、なんと離縁を勝ち取ったのです。伯父様も妹である母をないがしろにして、あげくに伯爵家をつぐのが、まったく血の繋がらない側室の息子であることには納得がいかなかったのでしょう、強力に支援してくださり、持参金と慰謝料を合わせた莫大な金額の返還とともに離縁を勝ち取ったのです。素晴らしい手腕でした。陰でお偉い方が手を差し伸べてくださったそうですが、わたくしには知らされてはいません。とにかく結果が一番ですわ。

 訳がわかりませんわよね。最初からお話いたしますわ。わたくしがまだ12歳のころ、宰相のご子息で侯爵家の御曹司のゴードン様と婚約いたしましたの。とてもきらめいていた時代でしたわ。わたくしの望みがかなわないことなどないと思わせるほどには。ゴードン様はそれは素敵な方で頭もよく、最初はうれしいばかりでした。そのころ第2王子の婚約者のセリーヌ様と出会いました。ゴードン様は第2王子の側近だったのです。わたくしたちは自然と仲良くなりお話をするようになっていました。わたくしがセリーヌ様の親友と言ってもいいほどに仲良くなったころ、ゴードン様のお話をささやかれたのです。

「貴女はゴードン様に婚約破棄されるのよ」

「ひどい、なんでそんなことをおっしゃるの・・・」

 わたくしは思わず泣いてしまいました。そう、本当は不安だったのです。あの方はとても素敵で頭もいいし、わたくしでは釣りあわないのではないかと。第2王子と側近方のおられるところはいつもきらきらして、わたくしには似合わないような気がしていたのです。

「あのね、女性も自立しなくては。男性に振り回されるばかりではいけないわ」

 わたくしはきょとんとしました。先ほどの話と何の関係があるのでしょうか?

 セリーヌ様はわたくしたち婚約者の運命を語ります。そして新しい女性のあり方も。最初は戸惑っていましたが、だんだんそれも素敵な考えに思えてきました。もっともお母様にお話したら鼻で笑われてしまったのですけれど。

 とりあえずゴードン様とは少し距離をおくことにしました。そして運命の時、第2王子15歳のときに、男爵令嬢が現れました。わたくしはお母様に思わずすべてを話してしまいました。(といっても婚約破棄をされて、セリーヌ嬢が第3王子にプロポーズされることまで)

 それから・・・特に変わったことはありませんでした。ただ、あの衝撃的な断罪事件のとき、わたくしはお母様に連れ出されて王都のタウンハウスに戻らされました。見ていたかったのに。だからセリーヌ様のお手紙や他のお友達が訪ねてくださった時にお話を聞くだけでした。そこから半年、わたくしは屋敷をでることを禁止されました。お手紙もです。

 その間にあれよあれよという間に、お母様の離縁が決まり、わたくしたちは伯父様の屋敷に移りました。それからまた半年、わたくしは顔も見たことのない子爵、29歳、多少は顔が整っていますが太目の、ゴードン様とはくらぶべくもない方と結婚式を挙げました。

 
 不満で一杯のわたくしを子爵は子供だな~という顔でご覧になっています。そしてお母様は、そうわたくしについていらしたのですが、カントリーハウスの近くの屋敷を手に入れて悠々自適の生活をされています。お金だけは持っていますものね。そのお母様がこんこんとわたくしにお話くださいました。

 お父様はフィーゲル侯爵の派閥の中心にいること。そして第3王子を担ぎ出すだろうこと。わたくしは真っ青になりました。それって反逆罪ですわよね。あれ?王太子がおられるのに?
それにあのドレスです。あの当時は軽くて着やすいし、仲間うちでフリルとかリボンを工夫して楽しかったものです。でも王妃様のドレスに対抗するようなものでしたわよね。まずかったですわ。若くて考え無しとはいえ、まずかったのではないでしょうか。

「ふふ、あれはお兄様のお屋敷にいるときに仕立て直して侍女達に与えたからもうありませんよ」

 お母様流石です。なかったことにはなりませんが、もう2度と身につけることのないものです。

「それに当時フィーゲル派閥の中心にいた私たちはおとなしく田舎でくらしていたほうがいいのです」

 なるほど、それで国のはずれの子爵家なのですね。ここも住めば都といいます。それなりの楽しみを見つければいいでしょう。わたくしは反逆罪との言葉に、おびえてしまいました。

 それから王都には用心していくことはありませんでした。子供ができたのもあります。男の子は手がかかります。わたしはいまではどっぷりと田舎の生活にひたっています。

 でもシーズンになるとお母様は王都で伯父様の屋敷に滞在してお茶会にせっせと出席しています。
昨年はフィーゲルの石鹸が売れなくなったと嬉しそうに話してくれました。ついでに新しく石鹸を販売しているアルバトロス商会の持ち主が第2王子だということも。

 きれいなオレンジの花が浮き彫りになっている石鹸もいただきました。第2王子がとても美しくときめいていることを嬉しそうに話されます。だんだんにフィーゲル侯爵が追い詰められているような気がします。

 でもかつてはわたくしたちに冷たかった第2王子と側近たちをなんでお母様はこんなに応援するのでしょうか。あのときのことはもう忘れてしまったのでしょうか。

「なんといってもジルベスター様をひと目拝見すれば、あの方のお味方にならないなんて考えられないわ。
若い時の過ちなど、誰にでもあるものではなくて」

 お母様が美青年がお好きだとは知りませんでしたわ。

「でもセリーヌ様の婚約された第3王子もすてきだといわれていませんでしたか」

 そう、あの断罪事件のあとセリーヌ様は第3王子に熱烈に申し込まれて、婚約なさったはずです。わたくしはそうやってご自身の望みを叶えていくセリーヌ様のことを感歎の思いで聞いていたのでした。

「やはり妾腹の方はそれなりでしかないのよね。直系の王子の素晴らしさに較べたら月とすっぽんよ(異世界にもすっぽんがいることにしてください)」

 あの、お母様、第3王子のお顔だけはくやしいけれど一番いいといわれていませんでしたか。

「月の神の様に素敵でいらして、ダンスを踊られると羽のようで・・・」

はいはい、そうですか。それにしても妾腹の王子はどうなさるおつもりでしょうか。いまさらながらに、妾腹で王位を狙われるのはむずかしいような気がします。
たとえ伯爵家でも妾腹の子供が跡をつぐのはよくいわれないのです。だからお母様が離縁して側室の方が正妻におさまるという交渉がうまくいったのです。おかげであぶないことをしそうなフィーゲル侯爵と距離をとれ、お金も沢山いただけました。わたくしの持参金もかなりのものだと聞いております。

 そして、とうとうそのときが来ました。王太子暗殺未遂事件です。2度のそれに王家が粛清をおこないました。いままでは噂ではあったのですが、実際に行われれば、反撃されるのは仕方がありません。

 とても素早くて夜会にでていた派閥の貴族は一網打尽。すぐに王都のタウンハウスとアジト、フィーゲル領も制圧されたそうです。

「財産は没収されたそうなの、あの人も、あの女もいい気味ね」

 そういってお母様はだされていたお菓子をつまみます。

「もうこのようなお菓子も、お茶もいただけないのよね。あの女にだけ髪飾りやら、ドレスやら贈られていたけれど、それも身に着けることもできないのよね」

 今にも、オーホホホッと高笑いしそうです。娘のころならそこまで言うのはと思ったでしょうけれど、いまは違います。そうです、お母様、正妻を大事にしない男なんて滅んでしまえばいいのです。

 今わたくしの胸元にはハート型のサファイアのペンダントが輝いています。石がきらきら光ってきれいです。これはゴードン様から遅くなったがお詫びと結婚祝いの品だといって、旦那様の胸元につける飾りピンとおそろいで贈られたものです。これも伯父様が王太子の派閥にいて、旦那様がその伯父様の派閥にいるおかげです。わたくしもおとなになったので、これでゴードン様を許して差し上げます。それにここではまだ誰ももっていない首飾りをお茶会の時につけていくのは楽しみです。

 あのきらきらとした日々も、セリーヌ様のお話も素敵だったけれど、あまり現実味を感じません。遠い先にそのような時が来るのかもしれませんが、いまは夢のようだと感じています。


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