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1話
1-3 (第1話完結)
「…なあヤマモト、これ思いっきり開会式始まってるだろ?俺ら観覧席にのんびり座ってるけど大丈夫なのか?」
「でーじょうぶじゃ。たかが地方戦の開会式じゃ。部員の一人や二人くらい出てなくとも、誰も気付きゃせんわい」
慣れない「お街」を散々さまよった後。
タクとヤマモトがようよう市民体育館に到着した頃には、既に各校の生徒たちは整列を済ませ、眼前で長々と語られる、大会長らしき人物のスピーチを聞くともなく聞いているところであった。
赤に、黒に、緑に、白。
思ったほどの人数ではなかったものの、各校それぞれに統一されたユニフォームで列を形成している様は、上から見下ろすと中々に壮観だ。
「…んん?」
そんな色とりどりの中に、明らかに周りから浮いた一団がひとつ。
・・・いや。一団というか。
「ヤマモト」
「どうひふぁ?」
横を見れば、ヤマモトはどこからともなく取り出した人の顔ほどもある握り飯を、幸せそうな顔をして頬張っているところだった。
「…朝飯か?」
「朝飯じゃ。やらんぞ?」
いや、それはどうでもいいのだ。
「もしかしてだけどさ。うちって、ユニフォームとか無かったりするのか?」
「おお、そうじゃの。ワシらはみーんな体操服じゃ。試合のときも、の。どうかしたか?」
タクは階下を指さした。
青いズボンにライン入り半袖シャツ。まさしく辰陵中学校指定体操着だ。ハイカラなユニフォームがきらびやかに並ぶ中で、その三人組は明らかに異質だった。
「…あれ。うちの学校だよな?」
「んー?」
ぶほっ。と。
指の先を視線で追ったヤマモトが米粒を噴き出す。
「うわ、やべ。部長こっち睨んどる…」
「ああ…あのこーわい顔でこっち見てるの、やっぱ部長さんか」
鬼の形相を見せる辰陵中陰道部部長は、角刈りと眼鏡に筋ばった体躯が合わさり、まさに神経質という言葉を体現したような印象を受けた。
というかめっちゃ睨まれてて怖い。
「もう一人は…あれ。あいつ林じゃん」
見知った顔が、部長の隣で小さく手を振っていた。
少し長めの茶色がかった髪の毛に小柄な体格。何も考えて無さそうなぽわぽわした細目の彼の名前は、林達平。タクとは幼稚園の頃からの仲だったりする。
「あいつも陰道部に入ってたのか」
「なんでも、陰道は小学校から習ってたらしゅうての。二年ながらうちのエースをはっとる」
それは知らなかった。
「小学校から、か…」
自分も小さいうちから何か始めておけば、今みたいな自堕落な生活を送ることはなかったのだろうか。
「どうしたんじゃ、タク」
「いや、なんでも」
小さく首を振る。
「林の隣が…あれは誰?」
「あれが今回欠場になった一年生じゃの。小倉くんじゃ」
「…イケメンだな」
「イケメンじゃろ。ちなみに彼女持ちじゃ」
ちっ。
「はいはいリア充リア充。骨のひとつでも折れればいいのに」
「残念、もう折っとるぞ。右腕じゃ」
よくよく見ると、なるほど、その右手首には白いギプスが嵌められていた。吊ってはいないところをみると、そこまでの大怪我というわけでもなさそうだが…確かに骨折を抱えたまま大会に出場などできないだろう。
「なるほど、それで欠場か」
「うむ。…うわ、部長まだこっち見とる」
うげー、と顔をしかめてヤマモトが呟く。
その様子を見た部長とやらの眉間にもう一本、大きめの青筋が立った。そんな気がした。
部長の人となりすら知らないタクにだって分かる。これはかなり大きめの雷を落とされるパターンだろう。
巻き添えを喰らいたくないので、タクはヤマモトからそっと距離を取っておいた。座席ふたつ分ほど。
『えー…では、一回戦目に出場する選手はこの場で準備を、二回戦目以降出場の選手は二階観覧スペースへの移動を開始して下さい』
と。丁度良いタイミングで開会式が終わったようだ。
部長が真っ直ぐにこちらへやってくる。流れるような足さばきでくるりとヤマモトの背後へ回り込んだかと思うと、次の瞬間にはその両手はパァン!と謎の小気味よい音と共に、ヤマモトの頭蓋を両側から挟み込んでいた。拳で。
抵抗する間もなく締め上げられたヤマモトから苦悶の声が漏れる。
「山本。八時半集合と言っておいたはずだが?何をしていた」
「い、痛いですぶちょいでででででっ」
ヤマモトの眉間にメリメリと潜り込んでいく両こぶしを眺めていると、部長と目が合った。
「…きみが、瀬戸内君か」
じろり、というような視線に、思わず背が伸びる。
「あ、はい。瀬戸内拓海です。よろしくお願いします。すみません、道に迷ってしまいまして…遅くなってしまいました」
「部長の武蝶聡だ。こちらこそ、今日はよろしく頼む。遅くなった件は別に構わん。気にするな」
・・・部長の武蝶。分かりやすいのかどうなのか。ともかく彼の、細長い指はがっしとヤマモトを挟み込んで離さない。実に痛そうだった。
ギリギリギリ。
「ぶっ、部長ぉ…気にしてないならこの両手を離してもらっても構いませんじゃろかぁぁぁああぁ…」
「おお、そうだな」
無造作に両拳を外されたヤマモトはそのまま崩れ落ち、大柄な体を精一杯に縮めて悶えていた。
流石に少し可哀そうになってきたが、いつものことなのだろう。少し遅れて集まってきた部員たちが一瞥すらしない様を見て、タクも気にしないことにした。
「小倉、瀬戸内君に武具一式を貸してやってくれ」
「はい。…一年の小倉です。今日はよろしくお願いしますね」
部長の合図で、小倉が自身の荷物から取り出したあれやこれやを差し出す。
「お、ありがとう…とはいっても俺、これの付け方すらよく分からないレベルで初心者なんですけど。大丈夫ですかね」
「ああ、それに関しては心配せんでええじゃろ。タクにはワシと一緒に『ダブルス』に出てもらうからの。フォローしちゃるから、大船に乗った気持ちで居てもらってええ」
「ヤマモトにそうまで言われると逆に不安になるな」
というかダブルスまであるのか、陰道団体戦。
「えぇ…なんでじゃ」
脱力するヤマモトに同情したというわけでもないのだろうが、部長が補足を入れる。
「まあ、一回戦だからな。そこまで強い学校に当たっているわけでもないし、消化試合くらいに思ってもらっていい」
「あ、それくらいの感じなんですね」
少し、肩の力が抜けたような気がした。知らない間に緊張していたのかもしれない。
「瀬戸内先輩、このベルトを腰に装着してもらっていいですか」
「お。おう…こうかな」
「いえ、こうですね…で、あとはこれを音が鳴るまで押し込んでもらえればオッケーです」
言われるままに腰に巻いたベルトは…スプリングとでもいうのだろうか、正面真ん中に何やらバネの入ったギミックがくっついていて、妙な重量感があった。
「で、あとはこのベルト、本当はベースバンドっていうんですけど、これにこの『シャフト』をつけてもらいます」
小倉くんは涼し気な顔のまま取り出したのは、堅めのゴムで出来た、棒状の何やら。
とにかく非常に長い。六十センチメートルほどもあろうかという長さだ。というか厳つい。なにがどうとは言わないが、形状が厳つい。何かを抉りにいく形をしている。外国人がよく持っている感じのやつだ。…偏見だろうか。少なくとも前に見た洋モノでは持っていた。
「えっ」
「何ですか?」
「いや、何っていうか…。何その、モザイクが必要そうでアレなアレは」
「シャフトです。竿、とも呼ぶこともありますが」
竿。
「…めっちゃでかいペニスバn「シャフトです」
「…。」
「…。」
「ペニs「シャフトです」
「…。…あ、うん、了解…え、着けんの?それを?」
「ええ。時間が無いので、手早くお願いしますね」
階下を見れば、確かに試合の準備を済ませたらしき選手たちが整列を始めているところだった。
「…えー…」
「先輩、お願いします」
「…ええー」
ここにきて軽率に引き受けたことへの後悔がぶり返しはじめたが、結局はしぶしぶながらも装着することにした。ここまで来て、今更帰るもないだろうと思ったのだ。報酬のエロDVD、もといスケベDVDが頭によぎったということもある。
ベルト中央のギミック部分に差し込み、横のネジを捻って固定する。案外、単純な構造ではある。
ペニ…もとい、シャフトから手を離すと、シャフトは緩やかに揺れ始めた。どうやら、ベルト部分に仕込まれたバネがペニスバン…ではなくシャフトの滑らかなスイングを補助してくれているらしい。
無駄に丁寧なつくりをしているのがまたムカつく。
「このベルトの部分は日本陰道協会指定のものなんですが、シャフト部分は個々人でカスタマイズできるんですよ。長さ、太さ、重さ…もちろん、陰道協会が定めた上限下限っていうのはありますけど」
「へえ…」
部長や小倉くんに指導を受けながら軽く股間を振るってみる。初めて扱うはずのこの武具はしかし、まるで身体の一部のようにタクの動きについてきた。
「ふむ。初めてにしてはかなり筋が良いな。今度はそのまま片脚を振り上げてみろ。そしてそのまま股間軸の動きだけでシャフトを振り抜く」
「っ…こうっ、ですかね」
ぶぉん、と音を立てて、タクの股の下からシャフトが逆袈裟に振り上げられる。
「良いぞ。次はそのまま回し蹴りの要領で股間裏から打ち込む!」
びっ、と。今度はタクの背にシャフトが現れた。タクの股下を潜り抜けたシャフトが、突きにも似た一撃を背面に繰り出したのだ。
「その辺りが基本的な陰道の動きになる。そこから発展させた『技』もいくつか教えてやりたいところだが…いかんせんもうそろそろ時間だ。なに、それだけ動ければ十二分にやりあえるだろう」
何やら満足げな部長はうんうんと頷きながら階段を降りてゆく。
「さ、瀬戸内先輩もいきましょう。山本先輩と林先輩ももう先に下で待っています」
小倉くんに背を押されるようにして、タクも階下へ向かう。
階段を降りきり、光に照らされた試合場へ踏み出した瞬間。
周囲の空気の質が、変わった。
「っ…」
ピリピリとした、と言うのだろうか。
周囲に漂っていた空気が、明らかに違う。一種シン、と澄んだ雰囲気の中に、ぶつけ合う闘志により揺らぐ空気の波のようなものが、感ぜられるようだった。
正直に言おう、今まではどこか「陰道」というものを舐めていた節はあった。所詮はおちん●んバトルだろうと。下ネタだろう、と。
実際に試合の会場に立ってみてようやく分かった。
ここに居る、誰もが、本気だ。本気で、闘いに来ている。
ぶるりと身を震わせたのは周りを取り巻く他校選手たちへの本能的な恐れからか、はたまた武者震いか。
そんなタクへ、部長の隣からのんびりとした声がかけられた。
「タク、おはよ」
「…林。お前もこの部活に入ってたんだな」
「まあねー。タクも入れば?結構楽しいよー、陰道」
「生憎、もう入ってるらしいんだよなあ…」
「そうだったねー」
あはは、と笑う林の横腹を小突いて、辰陵中の列に加わる。向かいには、既に一回戦の対戦相手が整列を済ませていた。
赤を基調としたユニフォームには、黄色い太字で「花鳥中学陰道部」と書かれていた。
どいつもこいつも、ラグビー部かというほどにゴツい。170cm超えが何人もいる。本当に陰道部かこいつら…とは口に出さない。怖いので。
と。タイミングよく、ガー、ピー、と運営の方でマイクのスイッチが入る音が聞こえた。
『えー…。皆さん、準備の方はよろしいでしょうか』
「…いよいよじゃの」
また空気が変わる。
先ほどまでのピリついた空気すらない、ただただひたすらに澄み切った静寂が、ドロリと辺りに淀む。
嵐の前の静けさが、タクの身体を、胸を、心臓を、刺すような冷たさをもって包み込んでいた。
『えー、はい。ありがとうございます…。…では、各校の整列が済みましたので、第一回戦の方を開始させていただきたいと思います。』
『…えー。一同、気をつけ』
部長も、林も、小倉くんも、あのヤマモトですらも、鋭い目つきで眼前の対戦相手を捉えて離さない。
じり、と、周囲からの重圧が増した。
『えー…。礼』
瞬間。
辰陵中四本、花鳥中六本、計十本のペニ…シャフトが、タクの視界の内に、びりりと震えた。
「よろしく、お願いしまぁぁああああすっっ!!!!」
陰道高知県大会団体戦、第一回戦。
開幕。
「でーじょうぶじゃ。たかが地方戦の開会式じゃ。部員の一人や二人くらい出てなくとも、誰も気付きゃせんわい」
慣れない「お街」を散々さまよった後。
タクとヤマモトがようよう市民体育館に到着した頃には、既に各校の生徒たちは整列を済ませ、眼前で長々と語られる、大会長らしき人物のスピーチを聞くともなく聞いているところであった。
赤に、黒に、緑に、白。
思ったほどの人数ではなかったものの、各校それぞれに統一されたユニフォームで列を形成している様は、上から見下ろすと中々に壮観だ。
「…んん?」
そんな色とりどりの中に、明らかに周りから浮いた一団がひとつ。
・・・いや。一団というか。
「ヤマモト」
「どうひふぁ?」
横を見れば、ヤマモトはどこからともなく取り出した人の顔ほどもある握り飯を、幸せそうな顔をして頬張っているところだった。
「…朝飯か?」
「朝飯じゃ。やらんぞ?」
いや、それはどうでもいいのだ。
「もしかしてだけどさ。うちって、ユニフォームとか無かったりするのか?」
「おお、そうじゃの。ワシらはみーんな体操服じゃ。試合のときも、の。どうかしたか?」
タクは階下を指さした。
青いズボンにライン入り半袖シャツ。まさしく辰陵中学校指定体操着だ。ハイカラなユニフォームがきらびやかに並ぶ中で、その三人組は明らかに異質だった。
「…あれ。うちの学校だよな?」
「んー?」
ぶほっ。と。
指の先を視線で追ったヤマモトが米粒を噴き出す。
「うわ、やべ。部長こっち睨んどる…」
「ああ…あのこーわい顔でこっち見てるの、やっぱ部長さんか」
鬼の形相を見せる辰陵中陰道部部長は、角刈りと眼鏡に筋ばった体躯が合わさり、まさに神経質という言葉を体現したような印象を受けた。
というかめっちゃ睨まれてて怖い。
「もう一人は…あれ。あいつ林じゃん」
見知った顔が、部長の隣で小さく手を振っていた。
少し長めの茶色がかった髪の毛に小柄な体格。何も考えて無さそうなぽわぽわした細目の彼の名前は、林達平。タクとは幼稚園の頃からの仲だったりする。
「あいつも陰道部に入ってたのか」
「なんでも、陰道は小学校から習ってたらしゅうての。二年ながらうちのエースをはっとる」
それは知らなかった。
「小学校から、か…」
自分も小さいうちから何か始めておけば、今みたいな自堕落な生活を送ることはなかったのだろうか。
「どうしたんじゃ、タク」
「いや、なんでも」
小さく首を振る。
「林の隣が…あれは誰?」
「あれが今回欠場になった一年生じゃの。小倉くんじゃ」
「…イケメンだな」
「イケメンじゃろ。ちなみに彼女持ちじゃ」
ちっ。
「はいはいリア充リア充。骨のひとつでも折れればいいのに」
「残念、もう折っとるぞ。右腕じゃ」
よくよく見ると、なるほど、その右手首には白いギプスが嵌められていた。吊ってはいないところをみると、そこまでの大怪我というわけでもなさそうだが…確かに骨折を抱えたまま大会に出場などできないだろう。
「なるほど、それで欠場か」
「うむ。…うわ、部長まだこっち見とる」
うげー、と顔をしかめてヤマモトが呟く。
その様子を見た部長とやらの眉間にもう一本、大きめの青筋が立った。そんな気がした。
部長の人となりすら知らないタクにだって分かる。これはかなり大きめの雷を落とされるパターンだろう。
巻き添えを喰らいたくないので、タクはヤマモトからそっと距離を取っておいた。座席ふたつ分ほど。
『えー…では、一回戦目に出場する選手はこの場で準備を、二回戦目以降出場の選手は二階観覧スペースへの移動を開始して下さい』
と。丁度良いタイミングで開会式が終わったようだ。
部長が真っ直ぐにこちらへやってくる。流れるような足さばきでくるりとヤマモトの背後へ回り込んだかと思うと、次の瞬間にはその両手はパァン!と謎の小気味よい音と共に、ヤマモトの頭蓋を両側から挟み込んでいた。拳で。
抵抗する間もなく締め上げられたヤマモトから苦悶の声が漏れる。
「山本。八時半集合と言っておいたはずだが?何をしていた」
「い、痛いですぶちょいでででででっ」
ヤマモトの眉間にメリメリと潜り込んでいく両こぶしを眺めていると、部長と目が合った。
「…きみが、瀬戸内君か」
じろり、というような視線に、思わず背が伸びる。
「あ、はい。瀬戸内拓海です。よろしくお願いします。すみません、道に迷ってしまいまして…遅くなってしまいました」
「部長の武蝶聡だ。こちらこそ、今日はよろしく頼む。遅くなった件は別に構わん。気にするな」
・・・部長の武蝶。分かりやすいのかどうなのか。ともかく彼の、細長い指はがっしとヤマモトを挟み込んで離さない。実に痛そうだった。
ギリギリギリ。
「ぶっ、部長ぉ…気にしてないならこの両手を離してもらっても構いませんじゃろかぁぁぁああぁ…」
「おお、そうだな」
無造作に両拳を外されたヤマモトはそのまま崩れ落ち、大柄な体を精一杯に縮めて悶えていた。
流石に少し可哀そうになってきたが、いつものことなのだろう。少し遅れて集まってきた部員たちが一瞥すらしない様を見て、タクも気にしないことにした。
「小倉、瀬戸内君に武具一式を貸してやってくれ」
「はい。…一年の小倉です。今日はよろしくお願いしますね」
部長の合図で、小倉が自身の荷物から取り出したあれやこれやを差し出す。
「お、ありがとう…とはいっても俺、これの付け方すらよく分からないレベルで初心者なんですけど。大丈夫ですかね」
「ああ、それに関しては心配せんでええじゃろ。タクにはワシと一緒に『ダブルス』に出てもらうからの。フォローしちゃるから、大船に乗った気持ちで居てもらってええ」
「ヤマモトにそうまで言われると逆に不安になるな」
というかダブルスまであるのか、陰道団体戦。
「えぇ…なんでじゃ」
脱力するヤマモトに同情したというわけでもないのだろうが、部長が補足を入れる。
「まあ、一回戦だからな。そこまで強い学校に当たっているわけでもないし、消化試合くらいに思ってもらっていい」
「あ、それくらいの感じなんですね」
少し、肩の力が抜けたような気がした。知らない間に緊張していたのかもしれない。
「瀬戸内先輩、このベルトを腰に装着してもらっていいですか」
「お。おう…こうかな」
「いえ、こうですね…で、あとはこれを音が鳴るまで押し込んでもらえればオッケーです」
言われるままに腰に巻いたベルトは…スプリングとでもいうのだろうか、正面真ん中に何やらバネの入ったギミックがくっついていて、妙な重量感があった。
「で、あとはこのベルト、本当はベースバンドっていうんですけど、これにこの『シャフト』をつけてもらいます」
小倉くんは涼し気な顔のまま取り出したのは、堅めのゴムで出来た、棒状の何やら。
とにかく非常に長い。六十センチメートルほどもあろうかという長さだ。というか厳つい。なにがどうとは言わないが、形状が厳つい。何かを抉りにいく形をしている。外国人がよく持っている感じのやつだ。…偏見だろうか。少なくとも前に見た洋モノでは持っていた。
「えっ」
「何ですか?」
「いや、何っていうか…。何その、モザイクが必要そうでアレなアレは」
「シャフトです。竿、とも呼ぶこともありますが」
竿。
「…めっちゃでかいペニスバn「シャフトです」
「…。」
「…。」
「ペニs「シャフトです」
「…。…あ、うん、了解…え、着けんの?それを?」
「ええ。時間が無いので、手早くお願いしますね」
階下を見れば、確かに試合の準備を済ませたらしき選手たちが整列を始めているところだった。
「…えー…」
「先輩、お願いします」
「…ええー」
ここにきて軽率に引き受けたことへの後悔がぶり返しはじめたが、結局はしぶしぶながらも装着することにした。ここまで来て、今更帰るもないだろうと思ったのだ。報酬のエロDVD、もといスケベDVDが頭によぎったということもある。
ベルト中央のギミック部分に差し込み、横のネジを捻って固定する。案外、単純な構造ではある。
ペニ…もとい、シャフトから手を離すと、シャフトは緩やかに揺れ始めた。どうやら、ベルト部分に仕込まれたバネがペニスバン…ではなくシャフトの滑らかなスイングを補助してくれているらしい。
無駄に丁寧なつくりをしているのがまたムカつく。
「このベルトの部分は日本陰道協会指定のものなんですが、シャフト部分は個々人でカスタマイズできるんですよ。長さ、太さ、重さ…もちろん、陰道協会が定めた上限下限っていうのはありますけど」
「へえ…」
部長や小倉くんに指導を受けながら軽く股間を振るってみる。初めて扱うはずのこの武具はしかし、まるで身体の一部のようにタクの動きについてきた。
「ふむ。初めてにしてはかなり筋が良いな。今度はそのまま片脚を振り上げてみろ。そしてそのまま股間軸の動きだけでシャフトを振り抜く」
「っ…こうっ、ですかね」
ぶぉん、と音を立てて、タクの股の下からシャフトが逆袈裟に振り上げられる。
「良いぞ。次はそのまま回し蹴りの要領で股間裏から打ち込む!」
びっ、と。今度はタクの背にシャフトが現れた。タクの股下を潜り抜けたシャフトが、突きにも似た一撃を背面に繰り出したのだ。
「その辺りが基本的な陰道の動きになる。そこから発展させた『技』もいくつか教えてやりたいところだが…いかんせんもうそろそろ時間だ。なに、それだけ動ければ十二分にやりあえるだろう」
何やら満足げな部長はうんうんと頷きながら階段を降りてゆく。
「さ、瀬戸内先輩もいきましょう。山本先輩と林先輩ももう先に下で待っています」
小倉くんに背を押されるようにして、タクも階下へ向かう。
階段を降りきり、光に照らされた試合場へ踏み出した瞬間。
周囲の空気の質が、変わった。
「っ…」
ピリピリとした、と言うのだろうか。
周囲に漂っていた空気が、明らかに違う。一種シン、と澄んだ雰囲気の中に、ぶつけ合う闘志により揺らぐ空気の波のようなものが、感ぜられるようだった。
正直に言おう、今まではどこか「陰道」というものを舐めていた節はあった。所詮はおちん●んバトルだろうと。下ネタだろう、と。
実際に試合の会場に立ってみてようやく分かった。
ここに居る、誰もが、本気だ。本気で、闘いに来ている。
ぶるりと身を震わせたのは周りを取り巻く他校選手たちへの本能的な恐れからか、はたまた武者震いか。
そんなタクへ、部長の隣からのんびりとした声がかけられた。
「タク、おはよ」
「…林。お前もこの部活に入ってたんだな」
「まあねー。タクも入れば?結構楽しいよー、陰道」
「生憎、もう入ってるらしいんだよなあ…」
「そうだったねー」
あはは、と笑う林の横腹を小突いて、辰陵中の列に加わる。向かいには、既に一回戦の対戦相手が整列を済ませていた。
赤を基調としたユニフォームには、黄色い太字で「花鳥中学陰道部」と書かれていた。
どいつもこいつも、ラグビー部かというほどにゴツい。170cm超えが何人もいる。本当に陰道部かこいつら…とは口に出さない。怖いので。
と。タイミングよく、ガー、ピー、と運営の方でマイクのスイッチが入る音が聞こえた。
『えー…。皆さん、準備の方はよろしいでしょうか』
「…いよいよじゃの」
また空気が変わる。
先ほどまでのピリついた空気すらない、ただただひたすらに澄み切った静寂が、ドロリと辺りに淀む。
嵐の前の静けさが、タクの身体を、胸を、心臓を、刺すような冷たさをもって包み込んでいた。
『えー、はい。ありがとうございます…。…では、各校の整列が済みましたので、第一回戦の方を開始させていただきたいと思います。』
『…えー。一同、気をつけ』
部長も、林も、小倉くんも、あのヤマモトですらも、鋭い目つきで眼前の対戦相手を捉えて離さない。
じり、と、周囲からの重圧が増した。
『えー…。礼』
瞬間。
辰陵中四本、花鳥中六本、計十本のペニ…シャフトが、タクの視界の内に、びりりと震えた。
「よろしく、お願いしまぁぁああああすっっ!!!!」
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開幕。
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