はいいろドラゴン

アベンチュリン

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虹色 ★

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 夕食時にお互いの近況報告をし合うのが日課になっている。

 マルクはどんな魔獣と出会ったとか、新しい薬草を見つけたとか、他愛のない話だ。

 ニフリートは最近、精霊について書かれている書物に熱中している。
 海の女神ネレウスが、棲処だった海から逃げだして、レスルク湖に辿りついて棲みつき、その湖の精霊のおさとなった、という伝説がある。

 翡翠色の眸を、爛々と輝かせ「いつか行ってみたい」と意気込むニフリートに、誰が抗えるというのだろう。



 国境付近に座するレスルク湖は、ドラゴンの翼で移動しても一日半かかった。

 その湖付近は、この大陸でもめずらしく、瘴気を感じることはなかった。
 それが起因なのか、蒼く澄んだ空から降りそそぐ陽光は、ギラギラと照りつけて、じわりと汗が滴り落ちる。
 ニフリートの首筋を流れ、鎖骨をとおり、胸元に落ちる雫を視線が追って、ドクンと胸が鳴り、さらに体温が上がったように感じて、マルクは唾を飲み込む。
 

 鬱蒼とした森のなかには、小さな遺跡やほこらが蔦をまとって鎮座していた。
 これじゃ可哀そう、とニフリートが魔法を唱えて、蔦を取り除き歩く。

 森を抜けると、大きな湖が姿をあらわした。
 水面を覗くと、藻が芝生のように、満遍まんべんなく生い茂り、深い緑が鏡面のようにマルクの顔を写し出した。

 湖から孤立した、密林に囲まれた池を見つけると、精霊と話をしてくるとニフリートが、それじゃ俺は薬草探しにいくとマルクが、それぞれ反対方向へと歩きだした。


 その森には珍しい薬草や花々が咲き乱れ、その香りを鼻腔に嗅ぎ入れる。
 なかでも一際、美しい花を見つけた。その花弁は虹色の階調グラデーションで彩られ、おしべ先端のやくが、おのおの色を帯びて階調の円を描いている。 
 
(ニフリートにも見せてあげたい……でも摘んでしまったら色褪せてしまうだろう……)

 思ったマルクは、ニフリートを探しに歩きだす。
 湖が見渡せる場所まで来たが、彼の姿は見えない。
 歩を進め、先ほどの密林に向かった。
 緻密に茂っている林を抜けると、視界に浅葱色の髪を捉えた。
 よく見かける金色こんじきの粒の他に、銀砂ぎんしゃで固めた大きな塔のように見えるものが池から伸びている。
  
 神秘的な景色に目を凝らして見ると、ニフリートは水浴びで池から出たばかりの、あられもない姿をしていた。
 マルクは息をのんで、咄嗟に岩陰に隠れ、その美しい姿を食い入るように眺めた。
 ニフリートが幼少の頃は、いつも一緒に水浴びをしていたが、現在いまは宿屋の風呂も別に使っている。

 長い浅葱色の髪は濡れて左肩に垂らしている。こうじて、その躰の美しい輪郭を、あますことなくうつしている。
 すらりと伸びた手足、細腰の美しい体躯、白磁のように艶やかな透明感のある美しい肌、胸には可愛いらしい桜色の小花が二つ、小ぶりでぷるりとしたやわそうな双丘、下肢の中心にはまっすぐで美しい薄桃色の陰茎が、秘めやかにひそんでいる。
 肌を伝う雫が、陽光に反射し燦然さんぜんと輝いて、この世のすべての美を集めたような、美神を映えさせる。
 
 どこをとっても美しく、まるで絵物語を見ているようだった。
 マルクの心は琴線にふれ、無意識に感嘆の吐息を漏らした。
 
 その音に気づいたニフリートは、湖岸からあがると、慌てて隠すようにタオルで躰を覆った。

 マルクも慌てて背を向ける。

「すまないニフ、きみに見せたい花があるんだ。支度ができたら出ておいで」

 溌剌とした大きな声で、さも何事もなかったかのように声をかけたが、マルクの心臓は壊れてしまいそうなほど高鳴り、しばらく鳴り止むことはなかった。

(これじゃあ、覗きじゃないか……)
 
 心中で嘆いたマルクは、しゃがみ込み、掌を額にあて嘆息した。




 夜半過ぎ、マルクは寝付けずにいた。
 横のベッドで休むニフリートは、すやすやと眠っている。

 最近、頭に浮かぶのはニフリートの事ばかり……、寝顔や笑顔……あの稀有なほどに美しいからだ
 思い出すと、腹に熱を帯びて恍惚となる。そして蓋をしていた、マルクの欲情が溢れ出しそうになる。

……浅葱色の髪に触れ……頬をなぞり……首筋をなぞり……触れた肩を抱き寄せて背中に腕を回す……眸を閉じ……そっと唇を重ねる……なんども重ねた口付けはだんだんと深くなってゆき……

 悶々とした妄想が膨らむにつれて、マルクの手は自身の下生えへと伸びる。
 ニフリートを起こしてしまわないよう、息をころす。

 自身の濡れた先端をなぞり、先走りを纏わせて、優しく握りこんで上下する。

……ニフリートのあえかな声……眦に水分を含んで、上気した表情……朱く染まった肌……

 恋情に全身が震える……、絶頂は直ぐだった。
 直後、脳内で〈決してけがさないように〉と青竜の言葉がリフレインする。

 マルクは胸元にあったニフリートの鱗のペンダントを握りしめた。
 胸が潰れそうなくらい苦しく、布団に包まったまま猫背になって頭を掻きむしり、煩悶はんもんする。

 きみは、俺なんかが穢していい存在じゃないのに……。



──虹色の階調の渦に魅入られるように、少年は堕ちてゆく──
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