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真赤 まあか ニフリート
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大陸の東南に位置する、サナルプ山岳地帯の山深い場所にあるリリクル湿原を越えた先に、精霊が次から次へと生まれ出る霊窟があり、精霊の国ロナは建国された。
マルクは高山にしかない、珍しい薬草を探しに行く。
ニフリートはロナ国に向かう。山道から湿原に入ると平坦になり、辺りは丈の短い草花で一面覆われていて、早春を思わせる花と草木の香りが登ってきて、ニフリートの心を浮き立たせる。
途中、視界に入った滝で休もうと立ち寄る。手を洗おうと滝口を覗き込むと、黒く濁った物体が滝壺に沈んでいるのが分かった。
滝に手を入れても届かず、ニフリートは魔法で取り出すことにした。
重くてぶよぶよのスライムみたいな物体……。それは、この前見たばかりの瘴気の吹き溜まりだった。
「また、何でこんなところにも……」
慎重に水中から取り出すと、かなりの大きさだった。
それを前回同様に【浄化】をかけていく。
時間はかかったが、最後の欠片が蒸発して無くなった瞬間、ニフリートは全身に力が入らなくなり倒れ、意識を失った。
ニフリートが目を覚まし、眼前に広がっていたのは、新緑が犇めき茂った森だった。川のせせらぎの心地よい音が耳に届く。
ニフリートは樹木の間に吊るされたハンモックに寝かされていた。
周りを見回すと、金髪碧眼で色白で痩躯、耳が尖っているエルフ族らしい人々が、川で洗濯をしていたり、薪を割っていたりと家事をこなしている。
ここは何処なのか尋ねようと上半身を上げると、ハンモックがくるっと一回転して身体が草むらに放り出された。
「うわ~!」
ニフリートの声に気づいたエルフ達が集まってきて、口々に「大丈夫?」「目を覚ましたのね」と心配してくれた。
「どうして僕はここへ?」
ニフリートが瞬きをしながら尋ねると、エルフの中で落ち着き払った一人が言った。
「滝の麓で倒れていたのを、私たちがお連れしました。ここはエルフ族の村ミスカです、私はリーシェと申します」
「僕はニフリートです、放浪の旅の途中で、精霊の国ロナを探していまして……」
「滝の瘴気を浄化してくれたのはあなたなのですか?」
「はい、偶々見つけてしまって。まだ浄化には慣れていなくて……助けていただいて助かりました」
「快復されて良かったです。最初は精霊たちが見つけて、彼女たちでは連れて帰るのが難しかったらしく、私達にお声がかかった次第です。滝の瘴気に侵され消えてしまった精霊もいたようで、浄化されたことに大変感謝されていました。体調が宜しければこのままロナ国にお連れしても?」
「ぜひ! 宜しくお願いします」
ニフリートは嬉々として返事をした。
ロナ国は小一時間歩いた場所にあるという。途中、ログハウスや木貼りの背の低い、こじんまりとした住宅ばかりある集落があり、ドワーフの村だと話してくれた。ドワーフとエルフの村は、昔からあまり友好的ではないらしい。
道すがら岩場が多くなってくると私はこの辺りで、と帰るリーシェに感謝を告げて別れる。
暫く歩くと羽根を羽ばたかせて精霊が何人か近づいてくるのに気づいた。
〈あなたは滝の瘴気を払ってくださった聖者様?〉
一人の精霊が透き通った声でニフリートに話しかけた。
「僕は聖者様ではありません。竜人のニフリートといいます」
〈あなたは精霊の言葉がわかるのね、ニフリート。聖者様でなければ救世主様かしら。精霊達は滝で水浴びをするのが好きなの。やっと滝が使えると皆、喜んでいるわ〉
精霊達は、人懐っこくニフリートに話しかける。
今まで会ったどの精霊も、気さくな性格をしているので精霊特有の性格なのかもしれない。
国王が直々に感謝の宴を用意をしているからといわれ、連れが待っていると伝えると伝書鳥のカワセミを遣わせると言ってくれた。
岩場を通り過ぎた先に、大きな岩壁が見えて、その麓に霊窟らしき岩屋があり、今まで感じたことのない魔力を察知する。
その霊窟は精霊サイズの小さな部屋が数多く整然と並んで、それらは個々に装飾されていて生活感を感じた。
国といっても人種族の国とは違い、生まれ落ちた精霊を保護するための施設と言ったほうが近いかもしれない。
宴は霊窟の前の広場で、岩のテーブルに並べられたご馳走は、その場所で採れる果物がメインで、花を遇らいながら塔のように盛られている、竜人の僕に気遣ったのか魔獣の肉を焼いたものもテーブルに並べられ、精霊が好む砂糖菓子もあった。
国王殿下は女姿で凛として優美な方だった、始めに感謝を告げられて、国や精霊について詳しく教えていただいた。
精霊には性別はないと聞いているけれど、男女それぞれに見える姿をしている。
精霊たちは愛情を抱くと、男女でも、同性に見える姿をしている同士でも愛を育むらしい。
精霊は愛情を尊く考えていて、恋話を好んでする。
殿下が中座され、僕も席を移すと近くにいた精霊が話しかけてきた。
〈ニフリートは恋人はいるの?〉
ニフリートは、いきなりの質問にビクッと肩を震わせ口に含んだ果実のジュースを吹き出しそうになる。そして喉を落ち着かせてから話しだす。
「いないけれど……すごく大切で大好きな人はいるよ」
マルクの話をするニフリートの表情は慈愛に溢れていた。
そこから精霊達に囲まれて質問攻めにあい、上手く躱せなかったニフリートは経緯を話した。
〈それでニフリートは彼とどうなりたいの?〉
遠慮なく精霊は質問してくる。
「どう…………って、…………ずっと一緒にいられたらそれだけで充分幸せだよ」
頬を赤らめて俯きながらニフリートは訥々と話した。
〈じゃあ、ずっと一緒にいられるように、ニフリートなしでは生きられない程にしなくちゃね。私たちに良い考えがあるわ! 一晩で仕上げるから待っててね。ちょうど陛下からもお礼の品を渡すようにいわれていたから良かったわ。今晩は泊まっていくでしょ?〉
その精霊はニフリートに向かって片眼を瞑って目配せをすると、早々に精霊達と輪になって打ち合わせを始めた。
ニフリートは何事かと暫く呆然と眺めていたが、他の精霊に入浴を勧められその場を後にした。
夜が明け、朝食もご馳走になって、帰り支度をしていると昨日の精霊が声をかける。
振り返ってみると精霊達は、なんだか窶れていた。
ニフリートは心配そうに目を細めていると。
〈ニフリートおはよう! 約束の物が出来たわよ〉
見た目にそぐわない溌剌とした声で精霊は言い放つ。
精霊が四人がかりで持ってきたものは、精緻に編まれた総レースで、陽光に照らされると玉蟲色に反射したり、透けて見えたりする布状のものだった。
ニフリートはそれを受け取り、不思議そうに見つめる。
〈コホンッ……それはね寝間着よ! ニフリートは綺麗だからコレを着たら、もう……相手は堪らなくなってもっと愛を育めること間違いなしだわっ〉
小さな手でニフリートの肩を叩きながら話す精霊。
その意味を感じ取ったニフリートは、茹で蛸のように顔を真赤にして恥じ入る。
〈これは蚕の精霊が編んだ布でね、ニフリートがもっと魅力的になれるように精霊の加護を付与してあるのよ、絶対成功するからもっと自信を持ってね〉
よく一晩でこれだけ精巧なものを完成させられるな、とニフリートは感心した。
精霊の国ロナを出発すると、精霊達が見送ってくれて〈上手くやんなさいよー〉などと声をかけられ、ニフリートは居た堪れなくなりその場を去った。
──恋慕が羞恥とともに、その美しい少年のかんばせを真赤に染めあげた──
マルクは高山にしかない、珍しい薬草を探しに行く。
ニフリートはロナ国に向かう。山道から湿原に入ると平坦になり、辺りは丈の短い草花で一面覆われていて、早春を思わせる花と草木の香りが登ってきて、ニフリートの心を浮き立たせる。
途中、視界に入った滝で休もうと立ち寄る。手を洗おうと滝口を覗き込むと、黒く濁った物体が滝壺に沈んでいるのが分かった。
滝に手を入れても届かず、ニフリートは魔法で取り出すことにした。
重くてぶよぶよのスライムみたいな物体……。それは、この前見たばかりの瘴気の吹き溜まりだった。
「また、何でこんなところにも……」
慎重に水中から取り出すと、かなりの大きさだった。
それを前回同様に【浄化】をかけていく。
時間はかかったが、最後の欠片が蒸発して無くなった瞬間、ニフリートは全身に力が入らなくなり倒れ、意識を失った。
ニフリートが目を覚まし、眼前に広がっていたのは、新緑が犇めき茂った森だった。川のせせらぎの心地よい音が耳に届く。
ニフリートは樹木の間に吊るされたハンモックに寝かされていた。
周りを見回すと、金髪碧眼で色白で痩躯、耳が尖っているエルフ族らしい人々が、川で洗濯をしていたり、薪を割っていたりと家事をこなしている。
ここは何処なのか尋ねようと上半身を上げると、ハンモックがくるっと一回転して身体が草むらに放り出された。
「うわ~!」
ニフリートの声に気づいたエルフ達が集まってきて、口々に「大丈夫?」「目を覚ましたのね」と心配してくれた。
「どうして僕はここへ?」
ニフリートが瞬きをしながら尋ねると、エルフの中で落ち着き払った一人が言った。
「滝の麓で倒れていたのを、私たちがお連れしました。ここはエルフ族の村ミスカです、私はリーシェと申します」
「僕はニフリートです、放浪の旅の途中で、精霊の国ロナを探していまして……」
「滝の瘴気を浄化してくれたのはあなたなのですか?」
「はい、偶々見つけてしまって。まだ浄化には慣れていなくて……助けていただいて助かりました」
「快復されて良かったです。最初は精霊たちが見つけて、彼女たちでは連れて帰るのが難しかったらしく、私達にお声がかかった次第です。滝の瘴気に侵され消えてしまった精霊もいたようで、浄化されたことに大変感謝されていました。体調が宜しければこのままロナ国にお連れしても?」
「ぜひ! 宜しくお願いします」
ニフリートは嬉々として返事をした。
ロナ国は小一時間歩いた場所にあるという。途中、ログハウスや木貼りの背の低い、こじんまりとした住宅ばかりある集落があり、ドワーフの村だと話してくれた。ドワーフとエルフの村は、昔からあまり友好的ではないらしい。
道すがら岩場が多くなってくると私はこの辺りで、と帰るリーシェに感謝を告げて別れる。
暫く歩くと羽根を羽ばたかせて精霊が何人か近づいてくるのに気づいた。
〈あなたは滝の瘴気を払ってくださった聖者様?〉
一人の精霊が透き通った声でニフリートに話しかけた。
「僕は聖者様ではありません。竜人のニフリートといいます」
〈あなたは精霊の言葉がわかるのね、ニフリート。聖者様でなければ救世主様かしら。精霊達は滝で水浴びをするのが好きなの。やっと滝が使えると皆、喜んでいるわ〉
精霊達は、人懐っこくニフリートに話しかける。
今まで会ったどの精霊も、気さくな性格をしているので精霊特有の性格なのかもしれない。
国王が直々に感謝の宴を用意をしているからといわれ、連れが待っていると伝えると伝書鳥のカワセミを遣わせると言ってくれた。
岩場を通り過ぎた先に、大きな岩壁が見えて、その麓に霊窟らしき岩屋があり、今まで感じたことのない魔力を察知する。
その霊窟は精霊サイズの小さな部屋が数多く整然と並んで、それらは個々に装飾されていて生活感を感じた。
国といっても人種族の国とは違い、生まれ落ちた精霊を保護するための施設と言ったほうが近いかもしれない。
宴は霊窟の前の広場で、岩のテーブルに並べられたご馳走は、その場所で採れる果物がメインで、花を遇らいながら塔のように盛られている、竜人の僕に気遣ったのか魔獣の肉を焼いたものもテーブルに並べられ、精霊が好む砂糖菓子もあった。
国王殿下は女姿で凛として優美な方だった、始めに感謝を告げられて、国や精霊について詳しく教えていただいた。
精霊には性別はないと聞いているけれど、男女それぞれに見える姿をしている。
精霊たちは愛情を抱くと、男女でも、同性に見える姿をしている同士でも愛を育むらしい。
精霊は愛情を尊く考えていて、恋話を好んでする。
殿下が中座され、僕も席を移すと近くにいた精霊が話しかけてきた。
〈ニフリートは恋人はいるの?〉
ニフリートは、いきなりの質問にビクッと肩を震わせ口に含んだ果実のジュースを吹き出しそうになる。そして喉を落ち着かせてから話しだす。
「いないけれど……すごく大切で大好きな人はいるよ」
マルクの話をするニフリートの表情は慈愛に溢れていた。
そこから精霊達に囲まれて質問攻めにあい、上手く躱せなかったニフリートは経緯を話した。
〈それでニフリートは彼とどうなりたいの?〉
遠慮なく精霊は質問してくる。
「どう…………って、…………ずっと一緒にいられたらそれだけで充分幸せだよ」
頬を赤らめて俯きながらニフリートは訥々と話した。
〈じゃあ、ずっと一緒にいられるように、ニフリートなしでは生きられない程にしなくちゃね。私たちに良い考えがあるわ! 一晩で仕上げるから待っててね。ちょうど陛下からもお礼の品を渡すようにいわれていたから良かったわ。今晩は泊まっていくでしょ?〉
その精霊はニフリートに向かって片眼を瞑って目配せをすると、早々に精霊達と輪になって打ち合わせを始めた。
ニフリートは何事かと暫く呆然と眺めていたが、他の精霊に入浴を勧められその場を後にした。
夜が明け、朝食もご馳走になって、帰り支度をしていると昨日の精霊が声をかける。
振り返ってみると精霊達は、なんだか窶れていた。
ニフリートは心配そうに目を細めていると。
〈ニフリートおはよう! 約束の物が出来たわよ〉
見た目にそぐわない溌剌とした声で精霊は言い放つ。
精霊が四人がかりで持ってきたものは、精緻に編まれた総レースで、陽光に照らされると玉蟲色に反射したり、透けて見えたりする布状のものだった。
ニフリートはそれを受け取り、不思議そうに見つめる。
〈コホンッ……それはね寝間着よ! ニフリートは綺麗だからコレを着たら、もう……相手は堪らなくなってもっと愛を育めること間違いなしだわっ〉
小さな手でニフリートの肩を叩きながら話す精霊。
その意味を感じ取ったニフリートは、茹で蛸のように顔を真赤にして恥じ入る。
〈これは蚕の精霊が編んだ布でね、ニフリートがもっと魅力的になれるように精霊の加護を付与してあるのよ、絶対成功するからもっと自信を持ってね〉
よく一晩でこれだけ精巧なものを完成させられるな、とニフリートは感心した。
精霊の国ロナを出発すると、精霊達が見送ってくれて〈上手くやんなさいよー〉などと声をかけられ、ニフリートは居た堪れなくなりその場を去った。
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