はいいろドラゴン

アベンチュリン

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極光色 きょっこう

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「ニフリートが産まれた場所に行ってみないか?」

 マルクがぎこちない笑顔で告げると、ニフリートは静かに頷いた。

 最後の行き先が決まると、マルクは何とも言えない寂寞せきばく感に襲われた。

 いっそこのまま、彼を連れ去って海を渡り、竜が追って来れないくらい遠い大陸へ逃げられたらと何度も思考した。

 そのたび、マルクは頭をふるふると振って、彼は国王となり神の力を得るお方なのだと、おのれを戒める。

 彼はこれから、煌びやかで豪華な衣装に身を包み、平民では食すことはできない豪華な食事に舌鼓を打つ、侈衣美食しいびしょくな生活に身を委ねていくのだ。自分が与えてやれなかった幸福を目一杯うけて……。
 
 綺麗に着飾った彼を、この目で見れないのは残念だ。




 俺たちが出会った国、バチェントロに入る。
 まずは、ミルクの調達でお世話になった牧場の農婦に挨拶をする。
 
「おっきくなったもんだねぇ」

 農婦はニフリートを見るや否や、たまげたもんだわ、と目を見開き驚いていた。
 今までの感謝を告げて、お身体お大事にと伝える。
 マルクが乳搾りをさせてもらった乳牛達も挨拶するかように、モォ~と鳴いた。



 ニフリートが俺を背中に乗せて初めて羽ばたいた場所。
 鳥獣グリンカムビを勇ましく狩って喰らい付いていた場所などを周る。

 ニフリートでも覚えてないことに驚いたり、覚えていても記憶から消し去りたいと紅潮して恥ずかしがる姿は、とても愛らしかった。

 そして洞窟へ。
 湿気はあるけれど、夏は涼しく、冬は寒いけれど焚き火をすれば乾燥知らずの場所だ。

 テーブル代わりにしていた岩も、そのままで…………そう、この場所でニフリートははし打ちして、殻を破ってこの世界に産まれてきてくれた。

「産まれてきてくれて、ありがとう」

 きみがいたから俺は救われたんだ……。
 マルクはニフリートを抱きしめた。

「僕こそ、育ててくれてありがとう。……ほら、マルクは泣き虫だなぁ」

 身体を離すと、知らず流れていた涙を、ニフリートの指で拭われる。


 
 そして二人はミーシアンの丘まで来た。
 奇しくも、今日もまた黒曜石の上空だけは晴れ渡っている。
 春の暖かさに、草木も喜んで咲乱れているようだ。

 黒曜石まであと数メートルという所で、マルクは立ち止まり、繋いでいたニフリートの手を引いた。
 このままニフリートと永訣えいけつしてもいいのだろうか……、心が揺らいだ。

 振り返り、神妙な表情のマルクを見たニフリートは、不思議そうにマルクの顔を覗き込む。
 そして深呼吸するように腕を広げて空気を吸い込んだ。

「綺麗な場所だね」

 暖かい春風が心地よさげに、ニフリートの髪を掬い上げ、美しい笑みを引き立てた。

 キィ──ルルルル──

 どこかで野鳥が鳴いて、心臓がドクンと動き、我に返るマルク。

 穢れを知らない、この美しい彼を守らなければならない……それが俺の使命だ。
 
「さあ、行こう。次は俺たちが出逢った場所へ」



 黒曜石の上で卵を守るため、母竜が懸命に闘っていたことを伝えると、ニフリートは表情を変えず耳を傾けていた。
 黒曜石を回り込んで、卵を発見した場所に立った。

「ここが、ニフリートを見つけた場所だよ」

 マルクは隣にいたニフリートの頬に両手で触れ、憂いを帯びた瞳で見つめると、ニフリートは花が咲いたように頬を染めて、ニコリと微笑む。
 
「大きくなったな……」

 春早手はるはやてが二人の間を、ヒューヒューと吹き抜ける。

「さあ、この黒曜石の上で、昔みたいに綺麗な翼を広げてみせてくれないか」

 ニフリートの翡翠色の眸を、真っ向から見つめて、頭を撫でる。
 仕方ないな、と微笑みながらニフリートは黒曜石に登って竜姿になった。

 成人した竜体は大きく、ゆっくりとその美しい翼を広げる。春陽に照らされた翼は、まるで夜空に浮かぶ極光オーロラのように光り輝いて、神々しかった。
 
 眩しすぎるせいなのか、悲しいからなのか、目に水分が溜まる理由がマルクにはわからなかった。

 ニフリートが立った場所に、金色こんじきの魔法陣が突如現れて、四方八方に光りが飛び交う。
 
「ニフリート……幸せになるんだよ」

 目を細め、悲哀満ちる表情でマルクが告げると、別れを察知したニフリートが泣き叫ぶ。

「嫌だよ、マルク! 一人にしないで!……まだ伝えなきゃいけないことが……」

 竜体が煌めき渡り、ブゥオンッ、という音とともに重力が働いて、そこにいたはずのニフリートが欠片もなく居なくなった。




 マルクは泣いた。よわい十八にもなるのに外聞も気にせず、ひとしきり泣いた。
 
 ニフリートは泣いていた、一人にしないでと……。ニフリートを守るためなんて建前だ、想いが募れば募るほど苦しくて逃げていただけ、ニフリートにあんな顔をさせるなんて……。

 心臓に巻きつけられた強固な鎖が解けたように軽くなって、素直な感情が溢れだした。

「愛している……」

 消え入りそうな声で黒曜石に向かって呟いたその言葉は、ニフリートには届かなかった。




 
──二人の追憶は、鮮美透涼せんびとうりょうな翼に仰がれ、極光きょっこう色の彩りを与えられた──
 
 

 
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