賢者様は世界平和の為、今日も生きてます

サヤ

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捕縛

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 大変不愉快極まり無い。
 今まで多くの旅をこなしてきて、お節介や人助けでトラブルに巻き込まれる事は数え切れない程に体験してきた。
 しかし人助けをして、しかも命を救った事で投獄されるのは初めての体験だ。
 やっぱり、お節介なんて焼くものじゃないな。
 一人放り込まれた狭くて簡素な牢獄の中で、私は大きなため息をつく。
 共に捕まったカメリアと助けた男は別の場所に連れて行かれたようで、近くに人の気配は感じられない。
「さて、どうしたものか」
 動く度に両手を拘束する手錠がじゃりじゃりと鳴り、手錠から壁に向かって伸びる鎖が引っ張られる。
 それよりも、今は何時頃だろう?
 投獄された事よりもそっちの方が気になってしまう。
 夜はの時間だ。
 このまま放っておけばかつて受けた呪いにより、理性は私のままでも姿形は魔王へと変わってしまう。
 魔王が討ち取られてからおよそ五十年。
 流石に魔王の姿を覚えている者などそうはいないが、捕らえていた人間が突然化物に変貌すれば、騒ぎはここだけに留まらないだろう。
 二、三歩も歩けば端から端まで行けるこの狭い牢屋をじっくりと見渡す。
 腕を通すのがやっとの狭い間隔で打ち立てられた鉄柵、壁は大きな石が乱雑に積まれた作りで登れない事はないが、天井には顔すら覗かせられないような申し訳程度の天窓があるのみ。
 そこから僅かに外の様子が窺え、淡い月光が差し込んでいた。
「今日が朔月だったらな」
 魔王の姿になるのは、月の満ち欠けにより微妙に変わってくる。
 満月の日が一番影響が強く、例え日中であっても人の姿を保つ事は出来ず、逆に月が出ない朔月であれば、真夜中になっても魔王の姿になる事は無い。
 今日はそのどちらでも無い。
「う……」
 来た。
 ヒトから化物へと肉体が変化する時は、鋭い痛みに襲われる。
 いつもは独自に開発した痛み止めで凌いでいるが、今は荷物も没収され、久方振りの激痛にひたすら耐えるしかない。
「ぐ、あ……」
 周りに誰もいないのが唯一の救いだ。
「はあ……はあ」
 荒くつく息遣いも、喉元から漏れ出る声色も、いつもと違い野太い。
 夜は嫌いだな。
 昔は好きだった。
 ただの人間として、かつての仲間であるエヴァン達と各地を巡っていたあの頃は、星を眺めるのも、月明かりを頼りに読書をするのも大好きだった。
 それなのに今は、夜の訪れが恐ろしい。
 月明かりに照らされ、鈍く光る己の醜い姿が嫌で、私は影へと身を潜める。
「魔に属する者は、闇がお似合いだ」
 皮肉めいた笑みを零し、ひたすら夜が明けるのを待った。


 夜が明けて暫くしてから、誰かが階段を降りてくる足音がした。
夜中の間に誰かが来ても騒ぎが起きないよう、辺りに幻惑の結界を張っていたのだが、どうやらここは扉を一枚隔てた地下牢のようでそれは無駄骨だったようだ。
 足音は複数。その人物達はすぐに現れた。
 それぞれ片手剣や短槍、弓など様々な武器を所持しているが、腕や足は剥き出しのキラキラと輝くスケイルアーマーを皆一様に身に着けている。
 どこかの軍隊にしては装備があまりにもお粗末だな。蛮族か?
 そんな事を考えながら相対していると、先頭に立つ男が牢屋の扉を開け、壁に繋がれていた鎖を外した。
「出ろ」
「うわっ」
 言葉だけで言ってくれれば良いものを、男は背中を蹴り飛ばし、私はつんのめるようにして牢屋から出た。
 それを見ていた周りの男達はニヤニヤと意地汚い笑みを浮かべている。
 何て品の無い奴らなんだ。
 きっと睨み付けるが特に反撃はせず、大人しく従う。
 今はまず、この状況を把握するのが先だ。カメリアの無事も確認しないといけないし。
 カメリアがこの敷地内の何処かにいる事は、夜中の内に把握済みだ。
 魔王の姿をしている間、ただ影に潜んで怯えていたわけでは無い。
 あの姿になっている間は、本来の魔法が使えなくなる代わりに、様々な事が出来た。
 その内の一つが、契約を交わした眷族の居場所を把握出来る、所謂マーキングだ。
 本来どのような用途で使うかは知らないが、この力のおかげで私はカメリアの位置を把握する事が出来ている。
 だが無事とは限らない。直接会って確かめねば。
 大人しく付いて行きつつも、建物の地形を頭に叩き込んで行き、複雑な交差路にはバレないように印を落とす。
 後ろから付いて来る兵士達に気付かれないよう慎重にと気を詰めていたが、彼らは昨日捕った獲物の話に夢中なようで、その必要も途中から無くなった。
 やる気の無い奴らだな。だから脱走なんかされるんだ。
 彼らの警戒心の無さから、昨日助けた男の事を思い出す。
 あれから何処に連れて行かれたのか知る由も無いが、こんな調子ならいつかまた脱走の機会はあるだろう。
 生きていればの話だが。
 そうこうしているうちに、目的の場所に着いたのか、先頭を歩く男がある扉の前で歩みを止めた。
「お頭、例のヤロウを連れて来やした」
「入れ」
 中から許可が降り、男は扉を押しつつ中へと入る。
 彼に続いて入室したそこは、ちょっとした広間のようだった。
 これといった調度品等は無く、照明器具と広間の殆どを埋め尽くす長テーブルと等間隔に並ぶ椅子だけの簡素な部屋。
 私と対する形で座っている一人の男と目が会った。
 恐らく彼がお頭だろう。
 端正な顔立ちに、強い光を宿した碧い瞳。
 身に纏う鎧も、私をここまで連れてきた者達と違い、より強固なプレートアーマーだ。
 胸元に何かしらの紋章が描かれているのが見える。
 あの紋章、何処かの国のマークかな?となると、彼らは軍隊?……もしくは、戦場から鎧を失敬したのか?
 魔族との大きな争いは無くなったとはいえ、世界から戦争が消える事は無い。
 対象が同族に変わっただけだ。
 そんな事を考えながらしげしげと観察していると、彼も同じ事をしていた様で再び目が会う。
「貴様が報告にあった魔法使いだな。神の御業は扱えるのか?」
 不躾に、単刀直入に尋ねてくる。
 神の御業とは、希少な魔法使いの中でも扱える者が極僅かしかいない、回復系魔法の事だ。
「いえいえ。こんな格好をしてはいますが、私が扱えるのは精々薪を燃やす程度の火ぐらいです。神の御業なんてとんでもない」
 本当は扱えるが、わざわざ話す必要など無く、ジャラジャラと鳴く手錠ごと両手を左右に振る。
 しかし男は何が面白かったのか、ふんと鼻を鳴らし、口角を持ち上げた。
「嘘をつくな。お前のツレがずっと、賢者と何度も名前を呼び叫んでいたぞ。賢者と言えば、勇者一行の一人を指す言葉だ」
「彼女はまだ幼く、かつ私が賢者様に憧れていますから、そう呼んでくれているだけです」
 今後カメリアには、賢者と呼ばせるのは控えよう。
「それに、勇者様一行は、五十年も前の英雄ですよ?私のような若造が、あの賢者様な訳が無い」
 五十年も前の若者が生きていれば、今は程良い老人だ。
 対して私の見た目は多く見積もっても二十代後半。
 全くもって計算が合わない。
「どうかな?魔法を極めた者のやる事など俺には見当がつかんが、不老不死になる事も可能なのではないか?あるいは彼の子供、孫という線もある」
 なんて疑り深い男なんだ。しかも何気に
 残念ながら私に子供はいないが、不老不死ではある。
 いや、正確にはちょっと違うか。
 自分の死後に魔王が蘇るという事を知り、それを阻止する為に見つけたとある対策のおかげで、私の姿は魔王を討伐した当時のままだ。
 勿論自分が不老不死である事を話す義理など無く、その気も無いのでそれを否定する。
 すると男は、そもそもそんな事に興味は無かったかのように、背もたれに体重を預けながら続けた。
「まあ、そんな事はどうでもいい。この辺りをうろついていたという事は貴様、我が国の所属か?それともピーリエンの者か」
 ピーリエン?はて?
 正直、世界各地を気ままに歩き回っているわりには人との関わりを極力避けている為、世界情勢には疎い。
 彼の言う我が国とは、恐らく軍事国家ギルガロッソだ。
 三本の剣が獣の首を討つようなその紋章は、かの国の証だった筈。
 対してピーリエンという名は聞いた事が無い。
 新たに生まれた国だろうか。
 そしてもう一つの質問の、所属国。
 魔法を扱える者は、基本的に国に囲われるのだが、放浪者である私には当然仕える国は無い。
「私は魔法使いとしては末端の未熟者ですし、見ての通り旅の途中ですので、所属国はありません」
 そう答えると男は「ほう?」と嬉しそうな声を上げ、目を細めた。
 さっきから嫌な予感がする。
 そういう予感は大抵当たるものだ。
「所属国を持たないのならばちょうど良い。貴様、本日より俺の専属魔導士となれ」
 ほらね、やっぱり。
 はあ、と誰から見ても分かる大きな溜め息が漏れる。
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