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調合
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「それで?材料には何が必要なのだ?」
乙姫の病気を治すべく、材料を探すため宮殿内を歩き回るのに何故かくっついてきたトビアスが質問してきた。
ぽっと出の人間が長年病に苦しんでいる者を治せると言い出したのだから、怪しまれても当然だが、もう少し離れて付いて来て欲しい。
「まずは海藻ですね」
「かいそう?あの海藻か?」
「ええ。海に生えてる、あの普通の海藻です。乙姫様は、普段海藻を食べられていましたか?」
「……まあ、病を発症されてからも多少なりとも食してはいたが、良くなる気配は見られなかったぞ」
以前の乙姫の様子を思い返し、唸るように答えるトビアス。
「海藻だけでは特に効果はありませんからね。ああ、あの辺りのがいいな。モドキガメ、ちょっと採ってきてくれるかい?」
「あいさー!」
宮殿の外廊下から海を眺め、程良く海藻が群れをなして生えている場所を見つけ、それを採ってくるようモドキガメにお願いする。
「なるべく鮮度の良いやつを頼むよ」
「ほーいダンナ。任せて下さい」
「よし。じゃあ次は、調理場は何処ですか?」
「こっちだ」
海藻の回収はモドキガメに任せて、私達はトビアスの案内の元、調理場へと向かう。
「あの、トビアスさん。一つお伺いしたいのですが、ここに住んでいる元人間の方は、どれくらいいるんですか?」
「……元?」
情報収集のついでに尋ねてみたのだが、トビアスにはその質問が引っかかったようだ。
「ここには元々人間だった人が何人かいるのでしょう?けっこう多いんですか?」
「何故そんな事を?」
「先ほど話した通り、乙姫様が患っている病は毒物によるものです。まず海中で手に入るような物では無いですから、元々人間だった誰かの仕業の可能性が高い」
「……なるほど」
簡単に説明すると納得してくれ、トビアスは顔を少し歪めながら教えてくれた。
「正直なところ、どれほどの人間がここを訪れ留まっているかは私も把握しきれていないが、宮殿を離れた者も含めれば百は越えているだろう。そして、その者全員が望んでこうなったわけではない。乙姫一家を怨む者もいよう」
「そうですか。やっぱり……」
こうなった、か。……彼も望まずにして成ってしまった一人か。
「しかし、それを見つけてどうする?」
「どうって?」
続けて放たれたトビアスの言葉は、なんとも意外なものだ。
「犯人を見つけて、処罰するのか?彼らは元々被害者だ。乙姫に騙され、この暗闇の海底に閉じ込められてしまったのだからな」
「……不思議な事を言いますね。乙姫様の副官である貴方が、乙姫様を毒殺しようとしている者を庇うんですか?もしかして、犯人を知っていて、見逃しているのですか?」
「さあな。ただ、私も同じ立場だからな。彼らの気持ちは理解出来る。それに、乙姫様も同じ考えだ」
「乙姫様も……?」
確かに彼女からは、諦めのような物を感じたけど……。
「そうだとしても、先人の罪を、彼女が背負う理由はありませんよ」
「……一つ疑問に思うのだが、ここまで話を聞いていて、それでも乙姫を助けようとするのは何故かね?」
トビアスは心底不思議そうな目をして、顎に手をやりながら質問する。
「人間に友好的とは言われているが、所詮彼女は魔族。彼女達のせいで被害にあっている人間がいると知りながら、何故助ける?人間の味方をしようとは思わないのかね?」
ほんの五十年前まで、人間と魔族は熾烈な戦いを繰り広げていた。
その火種はまだ、各地に残っている。
しかしだからといって、そんなものは魔族を助けない理由にはならない。
特に、私にとっては。
「私は、どちらの味方でもありません。ただ助けたいと思った者を、助けるだけです。もし貴方が、人間に戻りたいと言うのであれば、力を貸しますよ」
「!治せるのか?」
「可能だと思います。貴方達のそれは、呪いの類ですから」
海底の物を食べて数日で変化するのであれば、自然の変化とは言えない。
それに今は亡き海王も、多くの人間を怪物へと堕としていた。
当時の人間達は海王を倒した事によって無事元の姿へと戻ったが、彼らも同等の呪いを受けているのだろう。
「可能ならば、是非お願いしたい。出来ればそれを望む者全員を助けて欲しい」
「分かりました。でもまずは、乙姫様を治すのが先です。急ぎましょう」
食い気味に頼んでくるトビアスを制し、目的地である調理場へと向かう。
「うーん……」
海底に住んでいる者達が調理をする場だ。
火を扱える場所なんてものは無く、食材も混ぜ合わせて終わるようなものばかりが並んでいる。
「ま、いっか。カメリア。ここにある物の中で、一番酸っぱい物ってどれか分かるかい?」
カメリアに尋ねると、彼女は鼻をひくひくと動かし、食材へと近寄って行く。
「うーんと……これ!」
指差した物は甲羅のような模様が入った、拳大ほどの茶色い固形物。
固い場所に叩きつけても割れず、トビアスに開け方を教えてもらい、割ってみると、中からは黄色い粘り気のある液体が詰まっていた。
「う、これは……」
私の鼻でも分かる程の酸味で、思わず咽せそうになる。
「それは味付け程度に使う物だ。直に食す物ではない」
トビアスは殻を割った際、手に匂いが付いてしまったのか、自身からなるべく両手を遠ざけて説明してくれた。
「そうでしょうね。でもこれなら、良い薬が出来そうです。道具もお借りしますね」
放置されていたすり鉢やのべ棒を手に取り、そこに液体を流し入れてごりごりとすり潰す。
すり続けるとだんだんと粘り気が強く、匂いもきつくなるがしばらくの我慢だ。
「う~、カメリア無理っ」
「あ、あんまり遠くに行ったらダメだからね!」
匂いに敏感なカメリアはそう叫びながら調理場を出て行ってしまうので、そう声だけは掛ける。
するとカメリアと交代するようにモドキガメがやってきた。
「ダンナぁ、これとかどうで……うわくっさ!!何すかこの臭い!」
モドキガメも部屋に入るやいなやそう騒ぐ。
いやいや、一番臭い思いをしてるのは私なんだけどな。
「ああ分かったから。それを置いて、好きな所に行きなさい」
モドキガメから海藻を受け取り軽くあしらう。
海藻を千切り入れ、更にに荷袋から取り出した薬草や粉末をぽいぽいと入れてさらにすり、魔法で少しずつ加熱していく。
さあ、あとは薬を完成させるだけだ。
一人で黙々と作業を続けていると、部屋からは出ず、遠くから私の様子をじっと観察していたトビアスが不意に話し掛けてきた。
「君は調合士なのか?」
「いえ。私はしがない魔法使いですよ。あちこち旅をして回っていますから、これはその時に得た知識です」
この調合方法は、大きな港にいた医者から教わった物だが、色んな地域で特有の薬の作り方を教わっている。
仲間が病気に罹った時に治すのが、私の役目の一つだったからだ。
「それはどれくらいで出来る?」
「これならすぐに出来ますよ。乾燥させるのに半日程時間がかかりますけど」
「そうか。ならその間に、私の呪いを解いてもらいたいな」
この匂いの中、わざわざ突っ立ってた理由はそれか。
調合方法を覚えるには微妙な距離で見ていると思っていたら、彼の目的は自身の呪いの事だったようだ。
「そうですね。もう少しだけ待っててもらえますか?今一番難しいところなので」
「分かった」
こちらの要望を素直に聞き入れたトビアスは、そのまま踵を返して調理場から出て行った。
部屋から出た直後、むせたような咳が聞こえてきて、よほど我慢していたのだろうと気の毒に思う。
一人残された私は最後の仕上げを施すべく、薬の調合に集中する。
「……よし。あとはこれを入れて、完成っと。さて、あとは固まるのを待つだけだ」
上手く仕上がった薬を器から取り出し、乾燥させる為土台に丸めて並べる。
「……念の為に」
私は一つだけ薬を拾い上げ、魔法で急速に乾燥させて自身の薬入れへと仕舞う。
誰が狙ってるか分からないからね。用心は大事だ。
「……さて、と。……うーん、だいぶ染み付いたな」
鼻はだいぶ慣れてしまったが、くんくんと衣服に染み付いてしまった匂いをかぎつつ部屋を出ると、少し離れた所で三人が待っていた。
「お待たせ。それじゃ、トビアスさんの呪いを解く方法を……探す前に、身体を洗ってきても良いかな?」
「勿論!」
私が近付いただけで一斉に口を覆われたのもショックだが、こちらが言いきる前に同意を被せられたのもまたショックだ。
乙姫の病気を治すべく、材料を探すため宮殿内を歩き回るのに何故かくっついてきたトビアスが質問してきた。
ぽっと出の人間が長年病に苦しんでいる者を治せると言い出したのだから、怪しまれても当然だが、もう少し離れて付いて来て欲しい。
「まずは海藻ですね」
「かいそう?あの海藻か?」
「ええ。海に生えてる、あの普通の海藻です。乙姫様は、普段海藻を食べられていましたか?」
「……まあ、病を発症されてからも多少なりとも食してはいたが、良くなる気配は見られなかったぞ」
以前の乙姫の様子を思い返し、唸るように答えるトビアス。
「海藻だけでは特に効果はありませんからね。ああ、あの辺りのがいいな。モドキガメ、ちょっと採ってきてくれるかい?」
「あいさー!」
宮殿の外廊下から海を眺め、程良く海藻が群れをなして生えている場所を見つけ、それを採ってくるようモドキガメにお願いする。
「なるべく鮮度の良いやつを頼むよ」
「ほーいダンナ。任せて下さい」
「よし。じゃあ次は、調理場は何処ですか?」
「こっちだ」
海藻の回収はモドキガメに任せて、私達はトビアスの案内の元、調理場へと向かう。
「あの、トビアスさん。一つお伺いしたいのですが、ここに住んでいる元人間の方は、どれくらいいるんですか?」
「……元?」
情報収集のついでに尋ねてみたのだが、トビアスにはその質問が引っかかったようだ。
「ここには元々人間だった人が何人かいるのでしょう?けっこう多いんですか?」
「何故そんな事を?」
「先ほど話した通り、乙姫様が患っている病は毒物によるものです。まず海中で手に入るような物では無いですから、元々人間だった誰かの仕業の可能性が高い」
「……なるほど」
簡単に説明すると納得してくれ、トビアスは顔を少し歪めながら教えてくれた。
「正直なところ、どれほどの人間がここを訪れ留まっているかは私も把握しきれていないが、宮殿を離れた者も含めれば百は越えているだろう。そして、その者全員が望んでこうなったわけではない。乙姫一家を怨む者もいよう」
「そうですか。やっぱり……」
こうなった、か。……彼も望まずにして成ってしまった一人か。
「しかし、それを見つけてどうする?」
「どうって?」
続けて放たれたトビアスの言葉は、なんとも意外なものだ。
「犯人を見つけて、処罰するのか?彼らは元々被害者だ。乙姫に騙され、この暗闇の海底に閉じ込められてしまったのだからな」
「……不思議な事を言いますね。乙姫様の副官である貴方が、乙姫様を毒殺しようとしている者を庇うんですか?もしかして、犯人を知っていて、見逃しているのですか?」
「さあな。ただ、私も同じ立場だからな。彼らの気持ちは理解出来る。それに、乙姫様も同じ考えだ」
「乙姫様も……?」
確かに彼女からは、諦めのような物を感じたけど……。
「そうだとしても、先人の罪を、彼女が背負う理由はありませんよ」
「……一つ疑問に思うのだが、ここまで話を聞いていて、それでも乙姫を助けようとするのは何故かね?」
トビアスは心底不思議そうな目をして、顎に手をやりながら質問する。
「人間に友好的とは言われているが、所詮彼女は魔族。彼女達のせいで被害にあっている人間がいると知りながら、何故助ける?人間の味方をしようとは思わないのかね?」
ほんの五十年前まで、人間と魔族は熾烈な戦いを繰り広げていた。
その火種はまだ、各地に残っている。
しかしだからといって、そんなものは魔族を助けない理由にはならない。
特に、私にとっては。
「私は、どちらの味方でもありません。ただ助けたいと思った者を、助けるだけです。もし貴方が、人間に戻りたいと言うのであれば、力を貸しますよ」
「!治せるのか?」
「可能だと思います。貴方達のそれは、呪いの類ですから」
海底の物を食べて数日で変化するのであれば、自然の変化とは言えない。
それに今は亡き海王も、多くの人間を怪物へと堕としていた。
当時の人間達は海王を倒した事によって無事元の姿へと戻ったが、彼らも同等の呪いを受けているのだろう。
「可能ならば、是非お願いしたい。出来ればそれを望む者全員を助けて欲しい」
「分かりました。でもまずは、乙姫様を治すのが先です。急ぎましょう」
食い気味に頼んでくるトビアスを制し、目的地である調理場へと向かう。
「うーん……」
海底に住んでいる者達が調理をする場だ。
火を扱える場所なんてものは無く、食材も混ぜ合わせて終わるようなものばかりが並んでいる。
「ま、いっか。カメリア。ここにある物の中で、一番酸っぱい物ってどれか分かるかい?」
カメリアに尋ねると、彼女は鼻をひくひくと動かし、食材へと近寄って行く。
「うーんと……これ!」
指差した物は甲羅のような模様が入った、拳大ほどの茶色い固形物。
固い場所に叩きつけても割れず、トビアスに開け方を教えてもらい、割ってみると、中からは黄色い粘り気のある液体が詰まっていた。
「う、これは……」
私の鼻でも分かる程の酸味で、思わず咽せそうになる。
「それは味付け程度に使う物だ。直に食す物ではない」
トビアスは殻を割った際、手に匂いが付いてしまったのか、自身からなるべく両手を遠ざけて説明してくれた。
「そうでしょうね。でもこれなら、良い薬が出来そうです。道具もお借りしますね」
放置されていたすり鉢やのべ棒を手に取り、そこに液体を流し入れてごりごりとすり潰す。
すり続けるとだんだんと粘り気が強く、匂いもきつくなるがしばらくの我慢だ。
「う~、カメリア無理っ」
「あ、あんまり遠くに行ったらダメだからね!」
匂いに敏感なカメリアはそう叫びながら調理場を出て行ってしまうので、そう声だけは掛ける。
するとカメリアと交代するようにモドキガメがやってきた。
「ダンナぁ、これとかどうで……うわくっさ!!何すかこの臭い!」
モドキガメも部屋に入るやいなやそう騒ぐ。
いやいや、一番臭い思いをしてるのは私なんだけどな。
「ああ分かったから。それを置いて、好きな所に行きなさい」
モドキガメから海藻を受け取り軽くあしらう。
海藻を千切り入れ、更にに荷袋から取り出した薬草や粉末をぽいぽいと入れてさらにすり、魔法で少しずつ加熱していく。
さあ、あとは薬を完成させるだけだ。
一人で黙々と作業を続けていると、部屋からは出ず、遠くから私の様子をじっと観察していたトビアスが不意に話し掛けてきた。
「君は調合士なのか?」
「いえ。私はしがない魔法使いですよ。あちこち旅をして回っていますから、これはその時に得た知識です」
この調合方法は、大きな港にいた医者から教わった物だが、色んな地域で特有の薬の作り方を教わっている。
仲間が病気に罹った時に治すのが、私の役目の一つだったからだ。
「それはどれくらいで出来る?」
「これならすぐに出来ますよ。乾燥させるのに半日程時間がかかりますけど」
「そうか。ならその間に、私の呪いを解いてもらいたいな」
この匂いの中、わざわざ突っ立ってた理由はそれか。
調合方法を覚えるには微妙な距離で見ていると思っていたら、彼の目的は自身の呪いの事だったようだ。
「そうですね。もう少しだけ待っててもらえますか?今一番難しいところなので」
「分かった」
こちらの要望を素直に聞き入れたトビアスは、そのまま踵を返して調理場から出て行った。
部屋から出た直後、むせたような咳が聞こえてきて、よほど我慢していたのだろうと気の毒に思う。
一人残された私は最後の仕上げを施すべく、薬の調合に集中する。
「……よし。あとはこれを入れて、完成っと。さて、あとは固まるのを待つだけだ」
上手く仕上がった薬を器から取り出し、乾燥させる為土台に丸めて並べる。
「……念の為に」
私は一つだけ薬を拾い上げ、魔法で急速に乾燥させて自身の薬入れへと仕舞う。
誰が狙ってるか分からないからね。用心は大事だ。
「……さて、と。……うーん、だいぶ染み付いたな」
鼻はだいぶ慣れてしまったが、くんくんと衣服に染み付いてしまった匂いをかぎつつ部屋を出ると、少し離れた所で三人が待っていた。
「お待たせ。それじゃ、トビアスさんの呪いを解く方法を……探す前に、身体を洗ってきても良いかな?」
「勿論!」
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