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冥婚
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いつもより豪華な夕食を済ませた後、残りの業務を済ませてくると言ったレオンティーヌが応接室に現れたのは、二時間ほど経ってからの事だった。
久しぶりに肉にありつけたカメリアは大変ご機嫌で、レオンティーヌを待っている間も食後のデザートに夢中になっていて、それを眺めている私としても退屈はしなかった。
「済まない先生、随分と待たせてしまったな」
謝罪と共に入ってきたレオンティーヌは、昼間の軍服とは打って変わってとてもラフな姿となっていた。
寝間着と言っただろうか、どこにも締め付けが無いゆったりとしたワンピース形の服に、結わえていた髪を下ろしていて、雰囲気がだいぶ丸くなった気がする。
「いや、別に構わないよ。それにしてもティーナ、随分と雰囲気が変わるね」
「ふふ。公務の間は常に気を張っているからな。見ての通り、今は完全にオフモードだ。さて……」
席に着いたレオンティーヌは、出されたコーヒーを一口含み、側に控えているセザールを見る。
「本題に入る前に、セザール。今日の小言を聞こうか」
小言?
「はい。それじゃあ失礼して」
言われたセザールは一度咳払いを挟んで口を開いた。
「レオちゃん、今日のはやりすぎだよ。カハヨラ男爵なんか骨にヒビが入ってて大変だったんだから。それと書類を整理してっていつも言ってるよね?未処理の物がいくつか処理済みの束に混じってたよ。それから、ご飯くらいちゃんと食べてよ。お昼、果物しか食べて無かったでしょ?」
レオ、ちゃん?
まくし立てるセザールの言葉使いが明らかに変わっているのに仰天していると、言われた本人は眉根を寄せて唸る。
「むぅ、今日はいつにも増して厳しいな。先生の前でそこまで言わなくても良いじゃないか」
「発言を許したのはレオちゃんだからね。僕はいつも通り、思った事を口にしたまでだよ」
ふん、と鼻を鳴らしてセザールは更に追い討ちをかける。
「あ、あの、ティーナ?そのやりとりはいったい……?」
置いてけぼりを食らっている私がおずおずと質問すると、レオンティーヌは「ああ、すまない」と説明してくれた。
「彼は私の幼なじみなんだ。ここで住み込みしているんだが、公務の後は昔と同じ様に接する事にしているんだよ。一応線引きはしておかないといけないからな」
「こうやって毎夜僕が注意してあげないと、レオちゃんはすぐに気を抜いちゃうからね」
やれやれと肩を竦めるセザールを見る限り、似たような小言が毎日繰り返されているのだろう。
「ん?幼なじみで住み込み……。私の記憶違いでなければ、ここにいた時に見た子供は、ティーナしかいなかったと思うけど」
「セザールは先生と入れ違いでやってきたからな」
「なるほどね。まあ、それよりも、そろそろ話を聞かせてもらえないか?この子も退屈そうだし」
私の横に座ってうとうとし始めているカメリアを出汁に、本題へ移る。
だらだらと無駄話をしていては、夜が更けてしまう。
「そうだな。それじゃ早速、これを見てくれるか?」
言いながら彼女は立ち上がり、私に背中を向けたかと思うと……。
「うぇええっ!?ちょ、ティーナ!いきなり何をっ!?」
おもむろに服を脱ぎだした彼女に驚き、私はばっと自分とカメリアの目を手で覆った。
「わっ、なにー?」
唐突に視界を奪われたカメリアが手を払いのけようとするが、頑としてそれを許さない。
「ティーナ、馬鹿な事をやってないでちゃんと服を着なさい!」
「いや、先生にはちゃんと見て欲しいんだ。そのために呼んだんだから」
「と、年頃の娘が、大人をからかうんじゃない!」
「……さっきから何を言ってるんだ?私も背中が寒いから、早くこの痣を見てくれないか?」
「痣……?」
ちら、と指の間からレオンティーヌを見ると、彼女は髪を掻き分けて背中の素肌を見せていた。
「これは……」
手を下ろして、まじまじと眺める。
綺麗な八の字を描いた肩甲骨の中心に、花のような模様と、そこから左右一直線に伸びた痣があった。
この模様……あわじ結び?
「それから最近は、ここにこんな物まで現れてな」
胸元を上手く隠しながらこちらを向いたレオンティーヌが手を当てて示す場所は左鎖骨。
そこには星柄のような、心臓のような形の痣がある。
「……アイビー」
その形は、アイビーというツル植物を連想させ、背中のあわじ結びの模様と合わせると、とある儀式が思い浮かぶ。
私はレオンティーヌに服を正すよう伝えて、席につく。
「カメリア、ティーナから感じる匂いはいくつある?」
カメリアに尋ねると、彼女は鼻をひくひくと動かしてから「ふたつ!」とぶいの字を指で示す。
「どんな香りだい?」
「甘酸っぱいのと……うーん、水っぽい!」
二つでそれなら、憑いているのは一人だけ……。
「一体、何の話をしているのだ?私の体臭が二つあると何か問題なのか?」
寝間着を正して席に着くレオンティーヌと、その隣で「体臭とか軽々しく言わないでよ、恥ずかしい」と小言を零すセザール。
「いくつか質問だけど、この痣はいつから?」
「胸元のはごく最近だが、背中は随分昔からある。子供の頃に負ったものらしいが、最近になって痣が濃くなってな」
「痛みはあるかい?」
「基本的には無い。……だが、何かの夢を見た時、決まって痛むんだ。何の夢を見ているのかは、残念ながらいつも覚えていない」
「そうか。やっぱり」
その返答を受けて確信に変わる。
「ティーナ。君、冥婚をしているね?」
「冥婚?」
言葉自体に馴染みが無いようで、レオンティーヌは首を傾げる。
「元々は死者同士、あるいは死者と架空の人物が執り行う婚儀の事なんだけど、君はその死者を婿として認める儀式を行っているんだ。その背中の痣の模様が証拠だよ」
「この模様は何なのだ?」
「お祝い事に用いられる模様だよ。水引きと言ってね。ティーナの背中に浮かび上がってるそれは、あわじ結びと言われる物だ。一度結ぶと解けにくい結び方みたいだね」
「ふむ、模様の意味は分かった。しかし冥婚か……。死者との婚礼に、覚えが無いんだがな」
考え込むレオンティーヌだが、冥婚は本人が知らない所で執り行われる可能性もある。
痣が出来たのが小さい頃だと言うのであれば、大人達が勝手に話を進めたのかもしれない。
「ティーナに覚えはなくても、多分この冥婚相手は、君の身近な人物だったと思うんだ。子供頃に亡くなってしまった男の子とかいなかったかい?あるいは祝い事でも無いのに、厳かな服を着せられたとか」
「……テオ」
「テオドールだな……」
セザールとレオンティーヌ、二人が同時にとある人物の名前を口にする。
「聞いてもいいかな?」
二人の顔に陰が差したのを見て、控えめに尋ねる。
「……テオドールは私達の幼なじみで、私の、婚約者だった子だよ」
暫くの沈黙の後、セザールの様子を横目で伺いながらレオンティーヌがそう口を開いた。
「私より二つ年上でな、三人でよく遊んだものだ。けれど、事故に巻き込まれて死んでしまったんだ」
「そう……」
多くを語ろうとしないレオンティーヌ。
こちらと視線を合わせようとしないセザール。
二人にとってその幼なじみは大切な存在で、今もなお傷を抱えていそうだ。
「事故で亡くなってしまったのなら、もしかしたら彼は自分の死を理解出来ていないのかもしれないね。許嫁である自分がいながら、ティーナが婚約者を探し始めた事で怒ったんだと思うよ」
「そうなのか?」
「おそらくね。胸元に浮かび上がった痣の形が、アイビーというツル植物に似ている。それは冥婚相手が君に嫉妬している事を知らせているんだ」
「テオドールが、嫉妬……」
痣がある辺りを抑えて呟くレオンティーヌの表情は、得体の知れない物の正体が分かった事でいくらか柔らかくなっている。
けれど私は、そんな彼女に伝えなけれざならない事がある。
「安心している場合じゃないよ。今のそれは、君の命を脅かす呪いみたいな物になっている」
「呪い?テオがレオちゃんを殺そうとしているの?」
焦ったように反応したのはセザールだった。
「平たく言えばそうなるね。自分以外の男に渡したくないという想いから、あちらへ引きずり込もうとしているんだから」
「そんな……。どうすれば良いの?レオちゃんを助ける方法、あるんだよね?」
ガバッと私の両腕を掴んでせがむセザール。
それをレオンティーヌが「落ち着け」と言葉だけで制する。
「すまない先生。私にはまだ、やるべき事がある。テオドールには悪いが、死ぬわけにはいかないんだ」
「分かってる。君が助かる道は二つある。一つは確実で、かつ簡単な方法だ」
私は人差し指を立てて一つ目の案を定時する。
確実だが、お勧めしない方法だ。
「このまま、生涯独身を貫けばいい。冥婚相手をただ一人の花婿として受け入れれば、痣の進行は止まる」
「それは出来ない相談だな。私にはここの領主として、跡取りを残す義務がある。死者とでは子は成せない」
うん、まあごもっとも。
ズバッと斬り捨てるレオンティーヌに思わず苦笑する。
「まあ、今のは言ってみただけだよ。本題はもう一つなんだけど……これは明日話すとしよう」
「え?何勿体ぶってるんですか?今教えて下さいよ」
セザールが食い付くが、それには応じられない。
「この提案をしていいか、まだ確信が持てないんだ。それに、この子ももう限界みたいだし」
隣にいるカメリアは既に夢の入口に立っているようで、ぐらぐらと船を漕いでいる。
「ティーナ。悪いけど、今日はこの子と一緒に寝てあげてくれないかい?私はちょっとやりたいことがあるんだ」
「別に構わないが、私も朝は早いぞ?」
「起こさなくて大丈夫だよ。むしろ起こさない方が身の為だ」
カメリアをレオンティーヌに渡し、
「それじゃ、また明日ね」
と挨拶を交わして私は自分の部屋へと戻った。
久しぶりに肉にありつけたカメリアは大変ご機嫌で、レオンティーヌを待っている間も食後のデザートに夢中になっていて、それを眺めている私としても退屈はしなかった。
「済まない先生、随分と待たせてしまったな」
謝罪と共に入ってきたレオンティーヌは、昼間の軍服とは打って変わってとてもラフな姿となっていた。
寝間着と言っただろうか、どこにも締め付けが無いゆったりとしたワンピース形の服に、結わえていた髪を下ろしていて、雰囲気がだいぶ丸くなった気がする。
「いや、別に構わないよ。それにしてもティーナ、随分と雰囲気が変わるね」
「ふふ。公務の間は常に気を張っているからな。見ての通り、今は完全にオフモードだ。さて……」
席に着いたレオンティーヌは、出されたコーヒーを一口含み、側に控えているセザールを見る。
「本題に入る前に、セザール。今日の小言を聞こうか」
小言?
「はい。それじゃあ失礼して」
言われたセザールは一度咳払いを挟んで口を開いた。
「レオちゃん、今日のはやりすぎだよ。カハヨラ男爵なんか骨にヒビが入ってて大変だったんだから。それと書類を整理してっていつも言ってるよね?未処理の物がいくつか処理済みの束に混じってたよ。それから、ご飯くらいちゃんと食べてよ。お昼、果物しか食べて無かったでしょ?」
レオ、ちゃん?
まくし立てるセザールの言葉使いが明らかに変わっているのに仰天していると、言われた本人は眉根を寄せて唸る。
「むぅ、今日はいつにも増して厳しいな。先生の前でそこまで言わなくても良いじゃないか」
「発言を許したのはレオちゃんだからね。僕はいつも通り、思った事を口にしたまでだよ」
ふん、と鼻を鳴らしてセザールは更に追い討ちをかける。
「あ、あの、ティーナ?そのやりとりはいったい……?」
置いてけぼりを食らっている私がおずおずと質問すると、レオンティーヌは「ああ、すまない」と説明してくれた。
「彼は私の幼なじみなんだ。ここで住み込みしているんだが、公務の後は昔と同じ様に接する事にしているんだよ。一応線引きはしておかないといけないからな」
「こうやって毎夜僕が注意してあげないと、レオちゃんはすぐに気を抜いちゃうからね」
やれやれと肩を竦めるセザールを見る限り、似たような小言が毎日繰り返されているのだろう。
「ん?幼なじみで住み込み……。私の記憶違いでなければ、ここにいた時に見た子供は、ティーナしかいなかったと思うけど」
「セザールは先生と入れ違いでやってきたからな」
「なるほどね。まあ、それよりも、そろそろ話を聞かせてもらえないか?この子も退屈そうだし」
私の横に座ってうとうとし始めているカメリアを出汁に、本題へ移る。
だらだらと無駄話をしていては、夜が更けてしまう。
「そうだな。それじゃ早速、これを見てくれるか?」
言いながら彼女は立ち上がり、私に背中を向けたかと思うと……。
「うぇええっ!?ちょ、ティーナ!いきなり何をっ!?」
おもむろに服を脱ぎだした彼女に驚き、私はばっと自分とカメリアの目を手で覆った。
「わっ、なにー?」
唐突に視界を奪われたカメリアが手を払いのけようとするが、頑としてそれを許さない。
「ティーナ、馬鹿な事をやってないでちゃんと服を着なさい!」
「いや、先生にはちゃんと見て欲しいんだ。そのために呼んだんだから」
「と、年頃の娘が、大人をからかうんじゃない!」
「……さっきから何を言ってるんだ?私も背中が寒いから、早くこの痣を見てくれないか?」
「痣……?」
ちら、と指の間からレオンティーヌを見ると、彼女は髪を掻き分けて背中の素肌を見せていた。
「これは……」
手を下ろして、まじまじと眺める。
綺麗な八の字を描いた肩甲骨の中心に、花のような模様と、そこから左右一直線に伸びた痣があった。
この模様……あわじ結び?
「それから最近は、ここにこんな物まで現れてな」
胸元を上手く隠しながらこちらを向いたレオンティーヌが手を当てて示す場所は左鎖骨。
そこには星柄のような、心臓のような形の痣がある。
「……アイビー」
その形は、アイビーというツル植物を連想させ、背中のあわじ結びの模様と合わせると、とある儀式が思い浮かぶ。
私はレオンティーヌに服を正すよう伝えて、席につく。
「カメリア、ティーナから感じる匂いはいくつある?」
カメリアに尋ねると、彼女は鼻をひくひくと動かしてから「ふたつ!」とぶいの字を指で示す。
「どんな香りだい?」
「甘酸っぱいのと……うーん、水っぽい!」
二つでそれなら、憑いているのは一人だけ……。
「一体、何の話をしているのだ?私の体臭が二つあると何か問題なのか?」
寝間着を正して席に着くレオンティーヌと、その隣で「体臭とか軽々しく言わないでよ、恥ずかしい」と小言を零すセザール。
「いくつか質問だけど、この痣はいつから?」
「胸元のはごく最近だが、背中は随分昔からある。子供の頃に負ったものらしいが、最近になって痣が濃くなってな」
「痛みはあるかい?」
「基本的には無い。……だが、何かの夢を見た時、決まって痛むんだ。何の夢を見ているのかは、残念ながらいつも覚えていない」
「そうか。やっぱり」
その返答を受けて確信に変わる。
「ティーナ。君、冥婚をしているね?」
「冥婚?」
言葉自体に馴染みが無いようで、レオンティーヌは首を傾げる。
「元々は死者同士、あるいは死者と架空の人物が執り行う婚儀の事なんだけど、君はその死者を婿として認める儀式を行っているんだ。その背中の痣の模様が証拠だよ」
「この模様は何なのだ?」
「お祝い事に用いられる模様だよ。水引きと言ってね。ティーナの背中に浮かび上がってるそれは、あわじ結びと言われる物だ。一度結ぶと解けにくい結び方みたいだね」
「ふむ、模様の意味は分かった。しかし冥婚か……。死者との婚礼に、覚えが無いんだがな」
考え込むレオンティーヌだが、冥婚は本人が知らない所で執り行われる可能性もある。
痣が出来たのが小さい頃だと言うのであれば、大人達が勝手に話を進めたのかもしれない。
「ティーナに覚えはなくても、多分この冥婚相手は、君の身近な人物だったと思うんだ。子供頃に亡くなってしまった男の子とかいなかったかい?あるいは祝い事でも無いのに、厳かな服を着せられたとか」
「……テオ」
「テオドールだな……」
セザールとレオンティーヌ、二人が同時にとある人物の名前を口にする。
「聞いてもいいかな?」
二人の顔に陰が差したのを見て、控えめに尋ねる。
「……テオドールは私達の幼なじみで、私の、婚約者だった子だよ」
暫くの沈黙の後、セザールの様子を横目で伺いながらレオンティーヌがそう口を開いた。
「私より二つ年上でな、三人でよく遊んだものだ。けれど、事故に巻き込まれて死んでしまったんだ」
「そう……」
多くを語ろうとしないレオンティーヌ。
こちらと視線を合わせようとしないセザール。
二人にとってその幼なじみは大切な存在で、今もなお傷を抱えていそうだ。
「事故で亡くなってしまったのなら、もしかしたら彼は自分の死を理解出来ていないのかもしれないね。許嫁である自分がいながら、ティーナが婚約者を探し始めた事で怒ったんだと思うよ」
「そうなのか?」
「おそらくね。胸元に浮かび上がった痣の形が、アイビーというツル植物に似ている。それは冥婚相手が君に嫉妬している事を知らせているんだ」
「テオドールが、嫉妬……」
痣がある辺りを抑えて呟くレオンティーヌの表情は、得体の知れない物の正体が分かった事でいくらか柔らかくなっている。
けれど私は、そんな彼女に伝えなけれざならない事がある。
「安心している場合じゃないよ。今のそれは、君の命を脅かす呪いみたいな物になっている」
「呪い?テオがレオちゃんを殺そうとしているの?」
焦ったように反応したのはセザールだった。
「平たく言えばそうなるね。自分以外の男に渡したくないという想いから、あちらへ引きずり込もうとしているんだから」
「そんな……。どうすれば良いの?レオちゃんを助ける方法、あるんだよね?」
ガバッと私の両腕を掴んでせがむセザール。
それをレオンティーヌが「落ち着け」と言葉だけで制する。
「すまない先生。私にはまだ、やるべき事がある。テオドールには悪いが、死ぬわけにはいかないんだ」
「分かってる。君が助かる道は二つある。一つは確実で、かつ簡単な方法だ」
私は人差し指を立てて一つ目の案を定時する。
確実だが、お勧めしない方法だ。
「このまま、生涯独身を貫けばいい。冥婚相手をただ一人の花婿として受け入れれば、痣の進行は止まる」
「それは出来ない相談だな。私にはここの領主として、跡取りを残す義務がある。死者とでは子は成せない」
うん、まあごもっとも。
ズバッと斬り捨てるレオンティーヌに思わず苦笑する。
「まあ、今のは言ってみただけだよ。本題はもう一つなんだけど……これは明日話すとしよう」
「え?何勿体ぶってるんですか?今教えて下さいよ」
セザールが食い付くが、それには応じられない。
「この提案をしていいか、まだ確信が持てないんだ。それに、この子ももう限界みたいだし」
隣にいるカメリアは既に夢の入口に立っているようで、ぐらぐらと船を漕いでいる。
「ティーナ。悪いけど、今日はこの子と一緒に寝てあげてくれないかい?私はちょっとやりたいことがあるんだ」
「別に構わないが、私も朝は早いぞ?」
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―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
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