賢者様は世界平和の為、今日も生きてます

サヤ

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★ワラーラ

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 ガラガラと音を立てて走る馬車。
 時折振動で身体をピョコピョコと跳ねさせながら、私とセザールは二人、向かい合わせに座っている。
 他に乗っている人はおらず、セザールは剣を杖に頭を垂れていて、コルスタンを出てからずっと黙ったままだ。
    昨晩、ティー姉さんがアデリーとメイド長がいるであろう街を割り出し、翌日早朝から私とセザールの二人で探しに行く事になった。
 最初はセザールが一人で行くと聞かなかったが、ティー姉さんがなんとか説得して今に至る。
「セザール?」
 馬車に乗り込んでから何度目かの呼びかけ。
 セザールは一度も反応してくれない。
「……ぷう」
 いいかげん嫌になって、私は窓から外を眺めた。
 今向かっている街、ワラーラに二人はいるとティー姉さんは言っていた。
 その根拠はカメリアが向かった方向、距離、匂いが途絶えた場所から、馬車を利用した場合の最高移動範囲内にある街が二つ。
 その中でワラーラに的を絞ったのは、そこにメイド長の息子が住んでいるからだ。
「彼女の目的が何なのかは分からないが、戦闘の経験も無く、所持金もあまり持たなかったようだから、傭兵を雇ってまで夜通し移動する事はない」という言葉も添えて、メイド長は息子の家にいると仮説を立てた。
 ワラーラはコルスタンほど栄えてはおらず、大人が多く住んでいるのどかな街だそうだ。
 門番が聞いた通り、メイド長が何かを届ける為にワラーラへ来たのだとしても、誰にも言わずに来たのはよくない。
 セザールは、メイド長に会ったら何て言うんだろう?
 さっきからそればかりが気になって、それでもセザールが私に反応してくれないから聞けないでいる。
 昨日のセザールの様子を見ていた私は、彼が手に持つ剣が視界に入る度、ぞわりと背中に寒気が走る。
「……ねえ、セザール。メイド長を見つけけても、何もしないよね?ちゃんと一緒に、帰るよね?」
 おそるおそる聞いてみる。
 セザールは変わらず下を見たままだ。
「……殺したり、しないよね?」
 ぴくり、と剣を持つ指が僅かに反応した。
 そして少しの間の後で、セザールは下を向いたまま答えた。
「今回の最重要任務は、アデライドの保護。そしてメイド長の捕縛だ。……彼女の処遇については、お嬢様が決める」
「ティー姉さんが、メイド長を連れてきてって言わなかったら、どうしてたの?」
 セザールの答えは、執事としての答え。
 今回の件を、彼自身はどう感じているのだろう?
 その質問で、ようやくセザールは顔を上げて私を見た。
「彼女がどういう理由で娘を連れていったのかは知らないけれど、ただでは済まさない。状況によっては、斬ったかもしれないね」
 彼の鋭い眼光は、普段からは想像出来ないくらい冷たく、私に向けられているわけでは無いと分かっていても寒気が走るくらい、怖い。
 ティー姉さんが一人で行かせなかった理由、なんとなく分かったかも。
「斬らないでね?」
「斬らないよ」
 念押しすると、いつもの声色に近くなるが「でもね」と再び声が低くなった。
「大切な人が危険な目にあったなら、カメリアにも僕の今の気持ちが、分かると思うよ」
「……分かるよ。カメリアは、止まれなかったもん」
 セザールの気持ちは、私にはよく分かる。
 たぶん、彼以上に。
 私の言い方に何かを察したのか、セザールは「そう」とだけ答えて窓の外へ視線を送る。
「……見えてきたよ」
 彼の声につられて私も窓の外に目をやる。
 平地のど真ん中に、大きな丸太の柵で囲われた街、ワラーラが見える。
「街に着いたら直ぐにメイド長の息子の家に行きたい。案内をお願いするね」
「うん」
 この街にメイド長の息子が住んでいるというのは知っていても、セザールもティー姉さんもその場所までは知らない。
 私がお供に選ばれた理由も、その為だ。
「ふう……」
 馬車から降り、まずはひと呼吸。
 うん、と身体を伸ばして固まった筋肉をほぐす。
 視界の端でセザールが「早く」と鋭い視線を送ってくるので軽めに済まして、早々にアデリーの匂いを探し始める。
「……うん。メイド長とアデリーの匂い、ちゃんとするよ」
「場所は?」
「……こっち」
 鼻を鳴らしながら、アデリー達の匂いを辿る。
 朝が早いとはいえ、神妙な面持ちをした男性と鼻を鳴らして道のど真ん中を進む少女の姿は、通り過ぎる街の住人から見ればさぞ異様に映っただろう。
 それを続けて十数分、私の足はとある民家の前でピタリと立ち止まる。
 他の家と代わり映えしない一軒家だが、二人の匂いは確かにこの中へと続いている。
「ここ?」
「うん。間違いないよ」
 こくりと自信を持って頷けば、セザールは「分かった」と答えて一歩前に出る。
「後は僕に任せて。二人が何処かに移動していたら教えてほしい」
「まだここにいるよ」
 もう一度伝えると、セザールは民家の扉を叩いた。
「……はい?」
 扉の向こうから、少し眠たそうな男の顔が現れる。
「朝早くに申し訳ありません。私、コルスタン領の執事頭をしております、セザールと申します。昨日、こちらにケイ・フォレット様と、小さな女の子が訪ねて来てはいませんか?」
セザールは平静を装って、とても柔らかな口調でそう質問する。
 男は頭をがしがしと掻きながら一つ大きな欠伸をする。
「ああ、おふくろなら来てますよ。女の子もいます。昨日突然来てしばらく泊めてくれーって。何かあったんですか?」
「その女の子は、領主様のご息女です」
「え……!?何でそんな子を、うちに?」
 どうやらメイド長の息子である彼も、なんの内容も聞かされていないようだ。
「事情は私達もはかりかねます。とにかく、二人をこちらに引き渡してもらえますか?」
「あ、ああ……。そりゃまあ……どうぞ」
 突然の事で頭が追いついていない男はしどろもどろしながらも扉を開けて中へ通してくれた。
 二人の匂いは動いていない。
 セザールが先に家の中へと入り、ずんずんと居間へと向かって行く。
 私はセザールのすぐ後ろを付いて行き、程なくしてアデリー達を見つけた。
 ちょうど朝食が終わった所のようで、アデリーの口元には食べカスが付いている。
「あ、パパ!」
 随分と言葉を覚えたアデリーが、父親セザールを見つけて嬉しそうにそう呼ぶ。
「アデリー!」
 アデリーを見つけるなりだっと駆け寄り、セザールは彼女の頬に触れる。
「ああ、良かった。無事だったんだね。怖い思いはしなかったかい?」
「……?パパ、こわいの?」
 状況を理解していないアデリーがきょとんとした表情で、セザールの頭をよしよしと撫でる。
 良かった、元気そうで。
 アデリーが無事な事を確認した私もほっと胸を撫で降ろす。
 そして、今回の事件の発端であるメイド長は、アデリーの朝食の世話を焼いていたのだろう、手にふきんを持ったまま固まっていた。
 その目は驚きと諦めに満ちていて、しばらく目を閉じたと思えば、そのまま脱力したようにうなだれる。
 しばらくアデリーを抱き締めていたセザールは、きっとメイド長を睨みつけて低い声で言い放つ。
「メイド長。娘は返してもらいます。今回の件について、領主様が説明を強く求めておいでです。私達と一緒にコルスタン領に戻り、説明してください。その後の処遇については、また追って沙汰があるでしょう」
「……かしこまりました。従います。ご迷惑を、おかけ致しました」
 深々と頭を下げてメイド長は謝罪し、私達はそのままスグにティー姉さんが待つコルスタン領へと戻った。
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