賢者様は世界平和の為、今日も生きてます

サヤ

文字の大きさ
46 / 62

★不死者

しおりを挟む
 不死者アンデッド
 彼、エイサーの通り名として知られている言葉。
 でもその名の通りだとは限らない。
「一般的な不死者アンデッドって言うのは、基本的には動くガイコツなんだよ。死霊術士ネクロマンサーが、生命が失われた肉体に、一時的に生気を注入して動かしているヤツだね」
 昼間、賢者様が不死者について軽く教えてくれた。
「それじゃあ、なの?」
 何気なくした質問に、賢者様はにっこりと笑って即答する。
「そうだよ。私は一度、自分の魂を肉体から引き剥がして再び定着させている。彼に肉体を奪われないようにする為にね。だから私は、賢者で、不死者で、死霊術士なのさ」
 賢者と不死者と死霊術士……。
 それはとてもすごい事なんだろうけど、ずっと側にいる私にとってはただの言葉の羅列にしか聞こえなかった。


「アンデッド、なんて言われているみたいだけど、君のその身体を見る限り、それは不正解だね」
 確かめるように、責めるように、賢者様は質問を投げかける。
「色々な人の肉体の一部をロブして自分の物と入れ替える。それを繰り返して出来上がった継ぎ接ぎの身体。死を経験していない君は不死者なんかじゃない。合成獣キメラと呼ぶ方がよほど相応しい。違うかい?」
 けれどエイサーは特に動じず、むしろ気にも止めていないように虚ろな目を返す。
「他人が俺をどう言おうが関係ない。俺の意思がここにある限り、俺は俺だ。実力で奪い取った物は全て、俺の力だ。この力で、俺は頂点に立つ」
「だから、君には無理だって。それが君の力なのは認めるけど、それじゃあ私に勝てないんだよ。
「ほざけ!」
 突如、エイサーが剣先を構えたまま一足飛びで賢者様へと襲いかかる。
「させない!」
 私は即座に反応して、賢者様の前で応戦の構えを取る。
「邪魔だっ」
「っく、うわ!?」
 相手の攻撃を刀の峰でいなそうとしていたのだが、エイサーの暴力的な力の前では何の役にも立たず、ほんの数秒凌いだだけで私は身体事横へとふき飛ばされてしまった。
 かなり遠くまで飛ばされたけれど、賢者様の防御魔法のおかげで痛みはほとんどなく、私自身上手く受け身をとれたので、すぐに状況確認に移る。
「賢者様!」
 見れば賢者様は、私にしてくれた防御魔法を壁のようにしてエイサーの剣を受け止めていた。
「大丈夫だよー、カメリア。君はそこで見ていなさい。刀も折れてしまったみたいだし」
「あ……」
 にっこりとこちらに微笑みかけてくれる賢者様に言われて、自分が握り締めている物を見る。
 エイサーの攻撃を受けた際、悲鳴のような音は聞えていたが、受け身を取った時に折れてしまったようで、刃は中腹辺りから先が無くなっていた。
 あれだけティー姉さんに訓練をつけてもらったのに、あっという間にただのガラクタとなった刀。
 賢者様は見ていろと言うが、エイサーの攻撃が激しすぎて、私が間に飛び込んでも賢者様の邪魔をしてしまうのは分かりきっている。
 だから私には、見ている事しか出来無い。
「威勢が良いのは口だけか。この壁が無くなれば俺の勝ちだ!」
 賢者様を護る壁を破壊すべく、エイサーは幾度となく剣を振り下ろす。
 身体が震える程の振動がこっちにも伝わる中、それを一身に受けている賢者様は涼しい顔をしたままだ。
「エイサー君。君の攻撃は単調すぎる。力任せにこの障壁を破壊しようだなんて、うちのテリーみたいだね」
「そう見えるか?」
「!」
 瞬間、賢者様はエイサーに向かって突風を放ち、強制的に距離を取る。
「……ふうん?」
「賢者様っ」
 私が賢者様の異変に気付いたのは、彼が確かめるように手を伸ばした脇腹に視線を移してからだ。
 賢者様が纏っているマントの左脇腹部分がして無くなり、内側の黒衣が見えている。
「障壁ごとロブするとは……。随分と手癖が悪い。それに、テリーよりも幾分頭が回るみたいだね」
 さっきから出てくるテリーというのは、賢者様の昔の仲間で、メンバーきっての単細胞な切込み隊長らしい。
「ふん。この力で、お前の中にある魔王の魂を引きずり出してやる」
「そうして自分の物にするって?やめておきなさい。数日と持たずに、暗黒時代の再来だ」
「だったら俺を、止めてみろっ!」
 変わらず挑発を続ける賢者様に向かって、エイサーは剣を振りかぶって突進していく。
 ……しかし。


「がっ!?」
 賢者様に向かっていったエイサーは、途中で石にでもつまずいたかのようにバランスを崩し、転倒した。
「くっ……」
 エイサー自身、何が起きたのか把握出来ていないのか、起き上がるのに時間が掛かっている。
「……足が、
 二人の戦いを見ていた私は、彼の身に起きた事を思わず呟く。
 エイサーが賢者様に向かっていく途中、彼の右足が、膝から下が破裂して消えた。
 そのせいでエイサーは今、右足を失った状態で地に伏している。
「キサマ……奪ったのか」
「いやいや、いらないよ。そんな腐った足なんて。土に返しただけさ。私は死霊術士ネクロマンサーなんでね。君とは相性が良いんだ」
「ちぃ」
 涼やかに答える賢者様をきっと睨みつけた後、エイサーは辺りをさっと見渡し手を伸ばす。
!」
 彼が叫ぶと、その視線の先に転がる遺体がビクンと跳ね上がり……右足が消えた。
「うらぁっ!」
 直後、エイサーが立ち上がり、賢者様に攻撃を仕掛ける。
 さっきの人から足を……!
「無駄な事を」
 エイサーの攻撃は賢者様には届かず、またも足を消されて地に伏せる。
 けれどもまたすぐに足をつけ直して立ち上がる。
「エイサー君。適応者を瞬時に見定めるその能力は評価するけど、これ以上の冒涜は許さないよ?」
 エイサーから足を消し去る行為を何度か行った後、賢者様は周りの遺体に火を放つ。
「肉体は土に、魂は天に、還るべき場所へ、還りなさい」
 祈るように、謳うように言葉を紡げば、火葬される人々の中から魂が現れ、天へと登っていく。
「……っ。賢者様!」
 私はそこでようやく意を決して走り出し、賢者様の前でエイサーと対峙する。
 刀は折れてしまったが、私にはまだ爪も牙もある。
「さて。これでもう替えは無い。その片足で、まだやるかい?」
「くっ……」
 何度も土に塗れたエイサーは、傷こそないがボロボロで、こちらを睨みつけてくるだけだ。
「本当は君の土に還してあげたいところだけれど、大人しく退くというのなら、止めてあげよう」
「……っ!」
 エイサーは悔しさで言葉も出ないのか、爪に土を食い込ませながら握り拳を作り唸る。
「……良いだろう。今回はここまでだ。次はこうはいかないぞ」
 そう捨て台詞を吐き、エイサーは座標交換ポータルを使ってこの場から消えた。
 後には火葬されていく者達の輝きと、森の中特有の静寂だけが残された。
「終わった、の……?」
「うん。どうやらそうみたいだね」
    辺りを見渡しても、耳を済ませてみてもエイサーの気配は感じられず、賢者様の頷きでふっと力が抜けた。
「お疲れ様。大丈夫だったかい?」
「……うん。大丈夫、ありがとう」
 賢者様に背中を支えられるがその手を払い、自分の足で踏ん張る。
「なら良かった。ここからティーナ達の様子は分かるかな?」
 そう言われてハッとする。
 私達の戦いは終わっても、ティー姉さん達がどうなったかはまだ分からない。
 コルスタンの方角に意識を集中させると、賢者様の魔力によって強化された耳が、皆が勝利の喝采を挙げてるのを拾う。
「コルスタンが勝ったみたい!」
「上出来だね。それじゃあ私達も、後片付けをしてからゆっくり戻るとしようか」
「うん!」
 賢者様の微笑みに頷き返し、私達は森に転がる遺体を埋葬してから、皆が待つコルスタンへと帰還した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

処理中です...