賢者様は世界平和の為、今日も生きてます

サヤ

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★行動で示す

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「ふむ……。と言う事は先生は、エイサーは暫く、ここには攻めて来ないという見解なのだな?」
 コルスタンに戻り、賢者様がティー姉さんに先の戦いの報告をすると、姉さんはそう確認してきた。
「ああ。確証は無いけど、おそらく大丈夫だろう」
「随分と適当な答えだな。それでは少々、心許ないぞ」
 す、と目を細めてこちらを見据えてくるティー姉さんに対して、賢者様は特に気にする事無く「ははは」と軽い笑いを零す。
「そんなに怖い顔をしないでおくれよ。一戦を交えた限り、エイサー君は馬鹿では無かった。今の自分では私に手も足も出ないと知ったからには、実力が着くまで大人しくしているよ。妙な所でプライドは高そうだったからね」
 確かに、傍から見ていた私でも、エイサーの諦めの良さは分かった。
 単に賢者様の脅しが効いたのかもしれないけれど、彼が仲間を守れる確信を持つまでは、私達の前には現れないのではと思う。
「姉さん。カメリアも賢者様の意見に賛成するよ。エイサーはもう、ここには来ない。だから、安心して?そんなに怖い顔をしなくて良いんだよ」
「カメリア……」
「それに、もしまた来ても、カメリア達がちゃんと追い払うから。ね?賢者様」
 隣に立つ賢者様に同意を求めれば、彼もにこりと微笑む。
「そうだね。彼との決着はまだ着いていないし、彼を止めるのは私達の役目だろう。エイサー君はポータルを扱えるみたいだったけど、周辺に残っていたは全て破壊したから、安心してくれて良い」
「……」
 ティー姉さんはしばらく値踏みをするように私達を見ていたが、やがて「分かった」と目を伏せる。
「では本日付けで、警戒態勢を解き、避難者を呼び戻そう。それが終わったら、皆で宴だ。先生達も、ゆっくりとしていってくれ」
「うん、ありがとうティーナ。そうさせてもらうよ。それじゃあ私は、損傷した家屋なんかの修理でも手伝って来るとしよう」
「それは助かる。後で私も行くと、皆に伝えておいてくれ」
「りょーかい」
「あ、じゃあカメリアも……」
 そう言って賢者様に付いて行こうとするが「いーよいーよ」と手を振り返される。
「さっき見た感じ、そこまで酷い箇所も無かったし、すぐに終わるよ。カメリアはティーナの手伝いをするといい」
「あ……うん。分かった」
 そのまま賢者様は出て行ってしまい、何だか若干の虚しさを感じる。
「ふふふ」
 私達のやりとりを見ていたティー姉さんが、何故かおかしそうに笑う。
「先生は、お前の事には特に敏感だな」
「どういう事?」
 首を傾げつつ尋ねると、ティー姉さんはいつもの優しい顔をして言う。
「先の戦いで、何か思う事でもあったのだろう?」
「あ……。実は……」
 そう言われて思い当たる点はいくつかあり、最初に腰に提げている刀を抜いた。
 ほぼ根本から折れてしまった刀はスルッと鞘から抜け、鞘をひっくり返して残りの刀身を振り落としてティー姉さんの前の机に広げる。
「ごめん、姉さん。あれだけ言われたのに、こんなにすぐに折っちゃって」
 あれだけ刀で攻撃を受けてはならない、折ってはいけないと注意を受けたのにも関わらず、簡単に真っ二つにしてしまい、本当に申し訳ない。
 姉さんは柄がついた方を持ち上げてしげしげと眺める。
「完璧に真横から攻撃を受けたな……。まあそもそも、脇差で戦うのには限度があった。仕方が無いさ。だがすまないカメリア。ここには刀を打ち直せる技術者はいないんだ。そういう意味もあって、折るなと言っておいたんだが……」
「や、大丈夫だよ!ティー姉さんが謝る事じゃないよ。武器が無くてもカメリアは戦えるし、やっぱりその……ちょっと使い難いから、もういらないかな」
 何故か申し訳なさそうに謝るティー姉さんに、急いでそう頭を振る。
「使わないのか?」
「うん。元々、ちょっと使ってみたいなって思っただけだから」
 それは嘘じゃない。刀を使い始めた理由は、ただの珍しい物見たさだ。
「そうか」
 ティー姉さんは納得したように刀を机に置き、手の甲を台にして顎を乗せる。
「それで?他にもっと言いたい事があるんじゃないか?」
「……」
 にっこりと、私の考えなどお見通しだと言わんばかりの笑顔。
 叶わないなぁ……。と、思わずため息が漏れる。
「……ねえ、姉さん。カメリア、賢者様の役に立ってるのかな?」
 ほんの少し、躊躇い気味に心の底に溜まる感情を吐き出す。
「今回の戦いでもちっとも役に立てなかったし、むしろ邪魔になってた……。カメリアは、賢者様の役に立ちたいのに、全然上手くいかなくて。どうすれば賢者様の力になれるかな?」
「……力になる、か……」
 ティー姉さんは考え込むように伏し目になり、そしてまた私を見る。
「それが戦闘面を指しているのなら、まず無理だろう。あの人は世界を救った伝説の賢者だ。私達なんぞが隣に立とうなどと考えるのが間違っている」
「……そう、だよね」
「だが、精神面でと言うのなら、今のままで充分だと、私は思うぞ」
「……精神面?」
  思わず首を傾げるが、ティー姉さんは変わらずの微笑みを浮かべている。
「どういうこと?」
「分からないのか?先生は、お前がいるから戦えるんだよ」
「?……それって、カメリアが役に立ってないから?」
「違う違う。先生は元々、争い事は嫌いな人だ。それをこんなに積極的になっているのは、カメリアに幸せになって欲しいからだろう」
 私に幸せになってもらう為……?
「あとは、そうだな……。やはり、魔王をその身に宿しているあの人が平静を保っているのは、カメリアの影響が大きいだろう」
「カメリアは別に、何もしてないよ?」
「何もする必要は無いだろう。カメリアはカメリアらしく、先生の傍にいればいい。まだ不安なら、本人に直接聞いてみるんだな」
「……。きっと何も教えてくれないよ」
 賢者様は、本人の事になるとすぐに話をごまかす。
 私が賢者様の事を知りたいと思っても、肝心な事はほとんど教えてくれない。
「言葉にするだけが答えじゃない。行動で示す事しか出来無い生き物もいるんだ」
「それが賢者様?」
「どうだろうな?……カメリアは、先生が好きなんだな」
「うん。大好き」
「そうか。だったらカメリアも、先生への想いを行動で示してみたらどうだ?」
「行動?」
 何を言われているのか分からないまま、私はティー姉さんからその行動を教わった。


「本当に、もう行ってしまうのか?」
 コルスタン全土を挙げて開かれた宴は三日続き、その余韻も引いた一週間後、私達は再び宛の無い旅へと向かう為荷支度を整えていた。
「ああ。この件も一旦片付いたからね。そろそろ散歩に出掛けるよ。また何かあったら呼んでくれ」
「分かった。またの来訪、楽しみにしている。……カメリア」
 ティー姉さんは私を手招きし、耳元で囁く。
「さっそく、あれが試せるんじゃないか?」
「!?……も、もう姉さん!何言ってるの?」
「ふふ。カメリアも元気でな。二人とも仲良く、しっかりやれよ」
「け、賢者様!カメリア先に行ってるね!」
 ニヤニヤと笑いながら手を振るティー姉さんをまともに見れず、キョトンとしている賢者様も置き去りに門をくぐり、坂を一気に駆け下りる。
 もう、姉さんったら。変な事思い出させないでよ!……でも、確かにチャンス、かも……。
「カメリア。急にどうしたんだい?」
「ひっ!な、何でも無いよ!」
「随分と赤いけど、もしかして熱でもあるのかい」
「う、あ、いや……」
 いつの間にか後ろにいた賢者様がかがみ込み、私に顔を寄せる。
「……少し熱いかな。もう一晩、厄介になるかい?」
 額を当てて熱を測る賢者様と、目が合う。
 ……っ。
 私はぎゅっと目を瞑り、彼の頬に手を当て、そのまま互いの唇を重ねた。


「…………へ?」
 何が起きたのか理解出来無い賢者様に、私は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「こ、これが、カメリアの気持ちだから!戦いじゃ役に立てないかもしれないけど、カメリアが賢者様を支えるからね!」
 その後はまともに顔を見れず、顔の熱が冷めるまで平野を見つめたまま歩き続けた。
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