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魔界への扉 序
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サラサゴの村を出発して三日後の昼頃、カオス達は遂に目的地であるネティックスへと辿り着いた。
魔界へ続く扉を守る国なだけあって、かなり大きな国だ。
「……うん?」
観光地としても有名な国の筈だが、妙に静まり返っている。
「これは……」
近くまで来て、ようやく全貌が見えた時、理解した。
国は既に、崩壊していた。
付近の大地は干からびてひび割れ、草木は枯れ果て、壁や家のあちこちが溶かされたり、焼き払われている。
「あ……」
だいぶ溶けてはいるが、かろうじて形を保っている門付近に、兵士の物と思われる武器や衣服が取り残されていた。
這いつくばって逃げようとしたのか、その形のまま放り出され、人型のような灰が残っている。
「中身だけ消されたみたいだな。相当な魔力の持ち主だ」
カオスが冷静に観察しながら言う傍ら、レミナがその兵士の服を拾い上げようとした。
しかしちょっと触れただけで、服は粉々に崩れてしまい、そのまま風に流されて消えてしまった。
まるで、何百年もかけて風化していたかのように……。
「……どんな最期だったのか、考えたくもないわ」
やるせない気持ちで両手を組み、兵士達の為にレミナは祈りをささげる。
「この辺りには、魔族の気配はありませんね」
「ああ。しかし、扉を守る最後の砦が、こんな有り様になるとはな……」
「とにかく、辺りを見回してみましょ。誰か生存者がいるかもしれない」
祈りを捧げ終えたレミナが立ち上がりそう述べた。
「そうだな。俺は王宮の方を見てくるから、ハザードは東、レミナは西を頼む」
二人に指示を出すと、どちらも真剣な面もちで頷く。
「承知しました」
「分かった。怪我人がいたら、すぐに呼んでね」
そう言い残して、それぞれは探索を始める。
レミナは遂に、賢者としての力を開花させた。
彼女はその能力を、完璧に物にしている。
不完全だった治癒能力は完璧なものとなり、以前カオスおハザードが行ったように、魔力の波長を合わせた会話も軽々とやってのける。
そして彼女が最も得意としたのが、魔力を調節する結界能力。
そのおかけで、カオスはあの新月の夜、日が明けるまで己を失わずに済んだのだ。
しかし、能力に目覚めてからのレミナは、どことなく違っていた。
今まで以上に責任感が強くなったのは言うまでもなく、なんとなく自分達に対して素っ気なくなったような……。
「寂しいのではないのですか?」
「なっ!?ハザード?」
突如頭の中に響いた乱入者に驚くが、すぐにため息が出る。
「お前、いつから繋げていた?」
「最初からです。有事の際、すぐに御連絡出来るようにと」
「はあ……。寂しいって、この旅の終わりが近いからか?」
ハザードの回答に何とも言えない気持ちを抱えながら、王宮に入っていく。
「いえ。カオス様との別れが近いからですよ。他に何があるんです?」
「どっちも同じだろ。……うん?」
「どうかされましたか?」
客間らしき広間をざっと見渡していた視界の端で、何かが微かに動いた。
そこに目を留めると、倒れた棚の下から手が覗いていた。
近付いてみると、一人の男性が棚の下敷きになっている。
「人だ。……まだ息がある。ハザード、急いでレミナを寄越してくれ」
「御意」
そこでハザードとの通信は途絶え、カオスは一人で男の救出作業をする。
「……ひどいな」
棚をどかしてみると、男は全身傷だらけで、左足は奇妙な方向に曲がっていた。
こんな身体で、よく生きていられるな。
関心しつつ、男に刺激を与えないよう安全な場所まで運ぶ。
すると、タイミングよくレミナとハザードが駆けつけてくれた。
「レミナ、こっちだ」
カオスは男の脇に退いてレミナに場所を譲る。
「酷い傷……。火傷もしてるし、足まで」
「あれの下敷きになってたからな。無理もない」
先ほどどかした棚を顎でしゃくると、それを見たレミナは顔を歪ませた。
その時、男が微かに呻き、うっすらと目を開けた。
「大丈夫ですか?今治しますから!」
レミナは両手を左足にかざして治療を開始する。
淡い光が発せられ、みるみるうちに脚部の怪我が治っていく。
今まで朦朧とした目つきをしていた男はそれを見た途端目を丸くする。
「この、力は……。もしかしてアナタは、賢者様の……」
「はい」
レミナは治療を止める事なく答える。
「レミナ・グローバルと言います。あなたは、この国に仕えている方ですか?」
「ああ。僕はクルス。魔界の扉を守護していた者だ。……う」
肩が痛むようで、クルスはそこを掴んで小さく呻く。
すぐにレミナが治療を施すと「ありがとう」と言ってクルスは一息つく。
「この百年もの間、国は扉を守り続けていたけれど、時が経つにつれて綻びから現れる魔族が増え、前の新月でこの有り様だ。……すまない」
「そんな!」
クルスの謝罪に、レミナは強く被りをふった。
「謝るのは私の方です。こんなに長い間待たせてしまって……本当に、ごめんなさい」
「それは仕方がないさ。後継者が現れなかったんだから」
その言葉に、カオスは首を傾げる。
「後継者?ラグナには息子のオロナがいたじゃないか」
会話に入るきあは無かったが、思わず尋ねてしまった。
するとレミナが「そうじゃなくてね」と説明してくれた。
「確かにお祖父ちゃんは賢者としての力を受け継いでいたよ。もちろん、私のお父さんも。でもね、扉を封印する力は、賢者ラグナと同じ意志を持つ者じゃないと、本当の効果は発揮されないの。それにお祖父ちゃんは、自分が村を開けている間にカオスの封印が解けてしまったらって、それが原因で村を離れる事が出来なかったの」
「なるほどな」
ラグナと同じ意志、か……。人間と魔族の共存。確かにオロナのじじいは、そんな考えは持ち合わせていなかったな。
「あの、よろしければそろそろ本題に入りませんか?」
とハザードが屈託のない笑顔を挟ませてきて、それにクルスも同意した。
「ああ、そうだね。時間も無い事だし、魔界の扉がある場所を教えよう。俺は、そのためにここにいたんだから」
魔界へ続く扉を守る国なだけあって、かなり大きな国だ。
「……うん?」
観光地としても有名な国の筈だが、妙に静まり返っている。
「これは……」
近くまで来て、ようやく全貌が見えた時、理解した。
国は既に、崩壊していた。
付近の大地は干からびてひび割れ、草木は枯れ果て、壁や家のあちこちが溶かされたり、焼き払われている。
「あ……」
だいぶ溶けてはいるが、かろうじて形を保っている門付近に、兵士の物と思われる武器や衣服が取り残されていた。
這いつくばって逃げようとしたのか、その形のまま放り出され、人型のような灰が残っている。
「中身だけ消されたみたいだな。相当な魔力の持ち主だ」
カオスが冷静に観察しながら言う傍ら、レミナがその兵士の服を拾い上げようとした。
しかしちょっと触れただけで、服は粉々に崩れてしまい、そのまま風に流されて消えてしまった。
まるで、何百年もかけて風化していたかのように……。
「……どんな最期だったのか、考えたくもないわ」
やるせない気持ちで両手を組み、兵士達の為にレミナは祈りをささげる。
「この辺りには、魔族の気配はありませんね」
「ああ。しかし、扉を守る最後の砦が、こんな有り様になるとはな……」
「とにかく、辺りを見回してみましょ。誰か生存者がいるかもしれない」
祈りを捧げ終えたレミナが立ち上がりそう述べた。
「そうだな。俺は王宮の方を見てくるから、ハザードは東、レミナは西を頼む」
二人に指示を出すと、どちらも真剣な面もちで頷く。
「承知しました」
「分かった。怪我人がいたら、すぐに呼んでね」
そう言い残して、それぞれは探索を始める。
レミナは遂に、賢者としての力を開花させた。
彼女はその能力を、完璧に物にしている。
不完全だった治癒能力は完璧なものとなり、以前カオスおハザードが行ったように、魔力の波長を合わせた会話も軽々とやってのける。
そして彼女が最も得意としたのが、魔力を調節する結界能力。
そのおかけで、カオスはあの新月の夜、日が明けるまで己を失わずに済んだのだ。
しかし、能力に目覚めてからのレミナは、どことなく違っていた。
今まで以上に責任感が強くなったのは言うまでもなく、なんとなく自分達に対して素っ気なくなったような……。
「寂しいのではないのですか?」
「なっ!?ハザード?」
突如頭の中に響いた乱入者に驚くが、すぐにため息が出る。
「お前、いつから繋げていた?」
「最初からです。有事の際、すぐに御連絡出来るようにと」
「はあ……。寂しいって、この旅の終わりが近いからか?」
ハザードの回答に何とも言えない気持ちを抱えながら、王宮に入っていく。
「いえ。カオス様との別れが近いからですよ。他に何があるんです?」
「どっちも同じだろ。……うん?」
「どうかされましたか?」
客間らしき広間をざっと見渡していた視界の端で、何かが微かに動いた。
そこに目を留めると、倒れた棚の下から手が覗いていた。
近付いてみると、一人の男性が棚の下敷きになっている。
「人だ。……まだ息がある。ハザード、急いでレミナを寄越してくれ」
「御意」
そこでハザードとの通信は途絶え、カオスは一人で男の救出作業をする。
「……ひどいな」
棚をどかしてみると、男は全身傷だらけで、左足は奇妙な方向に曲がっていた。
こんな身体で、よく生きていられるな。
関心しつつ、男に刺激を与えないよう安全な場所まで運ぶ。
すると、タイミングよくレミナとハザードが駆けつけてくれた。
「レミナ、こっちだ」
カオスは男の脇に退いてレミナに場所を譲る。
「酷い傷……。火傷もしてるし、足まで」
「あれの下敷きになってたからな。無理もない」
先ほどどかした棚を顎でしゃくると、それを見たレミナは顔を歪ませた。
その時、男が微かに呻き、うっすらと目を開けた。
「大丈夫ですか?今治しますから!」
レミナは両手を左足にかざして治療を開始する。
淡い光が発せられ、みるみるうちに脚部の怪我が治っていく。
今まで朦朧とした目つきをしていた男はそれを見た途端目を丸くする。
「この、力は……。もしかしてアナタは、賢者様の……」
「はい」
レミナは治療を止める事なく答える。
「レミナ・グローバルと言います。あなたは、この国に仕えている方ですか?」
「ああ。僕はクルス。魔界の扉を守護していた者だ。……う」
肩が痛むようで、クルスはそこを掴んで小さく呻く。
すぐにレミナが治療を施すと「ありがとう」と言ってクルスは一息つく。
「この百年もの間、国は扉を守り続けていたけれど、時が経つにつれて綻びから現れる魔族が増え、前の新月でこの有り様だ。……すまない」
「そんな!」
クルスの謝罪に、レミナは強く被りをふった。
「謝るのは私の方です。こんなに長い間待たせてしまって……本当に、ごめんなさい」
「それは仕方がないさ。後継者が現れなかったんだから」
その言葉に、カオスは首を傾げる。
「後継者?ラグナには息子のオロナがいたじゃないか」
会話に入るきあは無かったが、思わず尋ねてしまった。
するとレミナが「そうじゃなくてね」と説明してくれた。
「確かにお祖父ちゃんは賢者としての力を受け継いでいたよ。もちろん、私のお父さんも。でもね、扉を封印する力は、賢者ラグナと同じ意志を持つ者じゃないと、本当の効果は発揮されないの。それにお祖父ちゃんは、自分が村を開けている間にカオスの封印が解けてしまったらって、それが原因で村を離れる事が出来なかったの」
「なるほどな」
ラグナと同じ意志、か……。人間と魔族の共存。確かにオロナのじじいは、そんな考えは持ち合わせていなかったな。
「あの、よろしければそろそろ本題に入りませんか?」
とハザードが屈託のない笑顔を挟ませてきて、それにクルスも同意した。
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