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転の流星
再構築
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ボレアリスがベイドに腕を診てもらっている間、ルクバット達はシェリアクからもてなしを受けていた。
とは言っても、彼の指示の元、シェアトが飲み物を作ってくれたので、その表現は間違っている気もする。
その後もシェアトは荷物は無事か、乾いたかと休む事なく忙しなく動き回っている。
ふとグラフィアスを見ると、大剣の手入れをしていた。
「お前も水気くらいは拭っておけ。使い物にならなくなるぞ」
「あ、うん」
言われてルクバットも武器を取り出す。
「へへ」
真新しい武器はまだ傷一つ無く、刃の一本一本が鈍い輝きを放つ。
まだルクバットの手には馴染んでおらず、ずっしりとした重みが掛かるが、これを使いこなせるようになった自分を想像しつつ、一生懸命に水気を拭い窓の外を眺めた。
外は相変わらずのどしゃ降りで、森の様子が全く伺えない。
雨、いつ止むかな?
ため息混じりにじっと見つめていると、機械音が声を掛けてきた。
「ドウカシタカイ?外ニ何カアルノカイ?」
振り返るとそこに誰かがいるわけではなく、光るモニターに向かって答える。
「雨止まないかと思ってさ。新しい武器の練習をしたいんだ」
手入れを終えた武器を悲しげに見つめる。
するとシェリアクは、不思議な事を言い出した。
「ナルホド。雨ガ邪魔ナワケダ。小範囲デ良ケレバ、雨ヲ封ジヨウカ?」
「封じる?」
「入口ノ脇ニ、三色ノレバーガアルダロウ?赤イノヲ引イテゴラン」
何を言っているのか理解出来ないまま、入口まで行くと、確かにレバーが三色、赤、黒、青とあり、その下には黄色と白色もあった。
「これ?」
言われた通り赤いレバーを下まで押し引くと、部屋の外が急に明るくなり、僅かに日射しが差し込んできた。
「え、晴れた?」
急いで窓辺に近寄ると、身体中に暖かい日射しが当たる。
しかし、横目で見ていたグラフィアスが更に奥を見つめながら言った。
「……少し向こうはどしゃ降りのままだ。止んだのはこの周辺だけみたいだな。一体どういう仕掛けなんだ?」
それを説明してくれたのは、台所付近で遠巻きに見ていたシェアトだった。
「カメロパダリスの能力ね。彼等は天候を操るの。それを技術に応用したんじゃないかな?」
「操ルト言ッテモ、雲ヲ誘ウ程度サ。今ハ此処ヲ中心ニ、五十メートル程雲ヲ退ケタンダ」
シェリアクは何でもなさそうにそう説明する。
「すっげー!ね、他のはどうなるの?」
「雲ノ質ガ変ワルンダ。黄色ハ雷、白ハ雪ダヨ」
「格好いい!」
理屈は全く分からないが、凄いという事だけはよく分かる。
「晴レタトハ言エ、地面ハソノママダカラ、気ヲツケルンダヨ」
そう言われてルクバットは、晴れにしてもらった本来の目的を思い出す。
「あ、うん!ありがとう。グラン兄も行こうよ」
相手の了承を待たず、武器を片手に外へと飛び出す。
確かに向こうの方は未だに豪雨で、雨の音すらも聞こえてくるが、上を見上げれば切り取られたように雲が無く、晴れ間が広がる。
「まぶしー!」
「晴れたくらいで騒がしい奴だな」
後ろには武器を持ったグラフィアスが立っていた。
「グラン兄。俺の稽古に付き合ってよ」
「何で俺が、お前の面倒見なきゃいけねーんだ?一人でやってろ」
「だってこれ、まだ上手く使えないんだもん。グラン兄が作ったんだから、ちょっとくらい付き合ってくれても良いじゃんか」
グラフィアスの冷たい態度に口を尖らせて抗議するが、彼はそれを鼻で一蹴する。
「ふん、甘えるな。俺がお前くらいの頃は、ずっと一人で鍛錬していた」
「ケチ!いいよもう。一人でやるから」
何だよ。ちょっとくらい一緒にやってくれたって良いじゃんか。
ふてくされてずかずかとグラフィアスから離れようとすると、背中に声が掛かる。
「お前の稽古に付き合う気は無いが、俺の相手くらいはさせてやってもいいぞ」
「え?」
「怪我して痛い目見たくないなら、一人で稽古するんだな」
「俺がグラン兄の相手?武器だって慣れてないのに?」
「嫌なら良いんだ」
いや、でも……。
「えーい、こうなりゃヤケクソだ。よろしくお願いします!」
ルクバットが円月輪を構えると、すぐさまグラフィアスの重い大剣が振り下ろされた。
†
研究所内に一人残されたシェアトがシェリアクと談笑していると、外から金属がぶつかり合う激しい音が聞こえてきた。
何事かと窓から覗くと、ルクバットとグラフィアスが組み手をしていた。
状況はグラフィアスが圧倒的有利で、ルクバットは防戦一方のようだ。
「危ないなぁ。怪我しないと良いけど」
既に、顔にいくつもの切り傷を作っているルクバットを、はらはらした気持ちで見守る。
それ以上見ていると心臓が保ちそうに無いので、グラフィアスを信じて窓から離れると、ちょうどボレアリスが戻ってきた。
行きとは違って、今はマントを羽織っている。
それに、心無しか顔色が悪いようにも見える。
「どうしたの?マントなんか着けて。なんか顔色も悪いけど、大丈夫?」
「ああ。義手を外したら、ちょっとね。シェリアクさん。弟君がお呼びでしたよ」
彼女が疲れた声で言うと、
「ソノヨウダネ。デハ悪イケド、少シ席ヲ外サセテモラウヨ」
とだけ残してシェリアクはモニターから消えた。
それを見届けたボレアリスは、軽く息を吐きながら椅子に腰を下ろした。
「そんなに疲れる検査だったんだ。何か飲む?」
身動きが出来ないシェリアクに変わってみんなに飲み物を作ったので、台所の勝手が分かっておりそう提案する。
「ありがとう。義手を外すのが、あんなに神経に障るとは思わなかったよ。……ルクバットは外?」
「うん。シェリアクさんがこの辺一体を晴れにしてくれて、グラフィアスと稽古してる。後で行ってみる?」
ボレアリスと自分、それぞれの飲み物を手に聞くと、
「いや、今は休むよ」
ボレアリスはありがとう、と礼を言いながらカップを受け取る。
シェアトはボレアリスと机を挟んで正面の席に座った。
ボレアリスは飲み物を一口し、カップの中身をまじまじと見つめている。
「これは?」
「フラットホワイト。疲れた時はこれが一番よ。昔お父さんがよく作ってくれたの。あ、苦かった?」
苦味のある深いコクが特徴的な物なのでそう尋ねたが、彼女は笑顔で答える。
「いや、すごく美味しいよ。へえ、これをシェアトのお父さんがね」
「当時の私はまだ子供だったから、これに砂糖を沢山入れて、ほとんど違う物にしてたけどね」
懐かしげに微笑むと、ボレアリスは小首を傾げる。
「当時って?」
「……ああ、アリスには話してなかったっけ?お父さん、私が小さい頃にバスターを目指して家を出てるの」
「父親が、バスターに?」
「あ、でも別に、身内に邪竜が出たとかじゃないの。ただお父さん、正義感の強い人だったから、苦しんでる人を放っておけなかったんだと思う」
「……そう」
ボレアリスはフラットホワイトをまた一口飲み、静かに言う。
「水の王国出身のバスターは多くないから、もしかしたら会った事があるかもしれないね」
「本当に?お父さん、ヴェガって名前なんだけど」
「ヴェガ。ヴェガ・サダルスード……」
「知ってる、かな?」
恐る恐る尋ねると、ややあってボレアリスはゆっくりと首を横に振った。
「……いや。悪いけど知らないや。ごめんね」
「そっか。ううん、謝らなくていいよ。アリスは世界中を旅してるんだから、会う確率は低いだろうし」
ぎこちなく笑うシェアトに対し、ボレアリスは申し訳なさそうに言葉を付け加えた。
「次土の天地に戻ったら、心当たりに聞いてみるよ」
「うん、ありがとう」
そう言うが、心の内は以前グラフィアスに言われた事で一杯だ。
バスター承認試験では、お互いを討ち取りあう。
彼の言った事が本当なら、父はもう、この世にはいないのかもしれない。
暗い気持ちが渦巻き始めた時、再びモニターに光が宿り、喧騒な声が響いた。
「大変ダ!大発見ダヨ!」
興奮のあまり音割れしており、耳が痛い。
「す、少し落ち着いて下さい。耳が」
「落ち着ク?ソレドコロデハナイ!大発見ナンダ!」
「う……。何が、大発見なんですか?」
ボレアリスとシェアト、二人が耳を抑えながらそう聞くと、奥の部屋からドタバタとベイドが息を切らして走ってきた。
「ぼ、ボレアリスさん……。貴女ほんとに、この作品の作者が誰か、ご存知ないのですか?」
息も絶え絶えに、片手に握り締めた義手を示しながら言う。
「ええ。友人の話だと、その職人は、誰も見たことが無いそうです。貴方までどうしたんです?何か分かったんですか?」
シェリアクの騒動は何度か見たが、ベイドの慌てようは初めて見る。
ベイドは呼吸を整え、上擦った声で答えた。
「これは、私達が求めていた物そのものなんですよ」
「原子分解再構築、のですか?」
「そうです。私達は数年前に装置を作り、兄がその被験者となりました。しかし結果は再構築は成らず、兄はあの状態のまま」
言われて、モニターに映る光を見つめ、シェアトは納得したやように頷く。
「そうか。白龍を宿すシェリアクさんの原子は電子。だから電子機器を通して会話が出来るのね」
「ええ。調べた結果この義手は魔力を使って再構築を行っているようなのです。これを解明する事が出来れば、兄を元の姿に戻せるかもしれない。ですからボレアリスさん。これの修理は是非私にやらせてください。半年、いや三ヶ月もあれば必ず直してみせます。勿論、お代も要りません」
今までの穏やかさからは想像出来ない、鬼気迫る勢いに、数瞬きょとんとしたが、ふっと笑って答えた。
「頼まれるまでもなく、私は貴方達を頼りに此処へ来たんです。こちらこそ、よろしくお願いします」
「ありがとうございます!早速取り掛かりますね。直るまでは此処を自由にお使い下さい。兄さん行きましょう!」
意気揚々と二人は奥へと引っ込む。
「三ヶ月か。けっこうかかるね」
シェアトがため息気味に言うと、ボレアリスは静かに同意する。
「うん。でも、それだけ難しい物なんだろうね。待つしかないよ。……さて、と。それまでは徹底的に、ルクバットを扱いてやるとするか」
にや、と悪戯っぽく笑い、ボレアリスは残っていたフラットホワイトを一気に飲み干し、外へ出て行った。
とは言っても、彼の指示の元、シェアトが飲み物を作ってくれたので、その表現は間違っている気もする。
その後もシェアトは荷物は無事か、乾いたかと休む事なく忙しなく動き回っている。
ふとグラフィアスを見ると、大剣の手入れをしていた。
「お前も水気くらいは拭っておけ。使い物にならなくなるぞ」
「あ、うん」
言われてルクバットも武器を取り出す。
「へへ」
真新しい武器はまだ傷一つ無く、刃の一本一本が鈍い輝きを放つ。
まだルクバットの手には馴染んでおらず、ずっしりとした重みが掛かるが、これを使いこなせるようになった自分を想像しつつ、一生懸命に水気を拭い窓の外を眺めた。
外は相変わらずのどしゃ降りで、森の様子が全く伺えない。
雨、いつ止むかな?
ため息混じりにじっと見つめていると、機械音が声を掛けてきた。
「ドウカシタカイ?外ニ何カアルノカイ?」
振り返るとそこに誰かがいるわけではなく、光るモニターに向かって答える。
「雨止まないかと思ってさ。新しい武器の練習をしたいんだ」
手入れを終えた武器を悲しげに見つめる。
するとシェリアクは、不思議な事を言い出した。
「ナルホド。雨ガ邪魔ナワケダ。小範囲デ良ケレバ、雨ヲ封ジヨウカ?」
「封じる?」
「入口ノ脇ニ、三色ノレバーガアルダロウ?赤イノヲ引イテゴラン」
何を言っているのか理解出来ないまま、入口まで行くと、確かにレバーが三色、赤、黒、青とあり、その下には黄色と白色もあった。
「これ?」
言われた通り赤いレバーを下まで押し引くと、部屋の外が急に明るくなり、僅かに日射しが差し込んできた。
「え、晴れた?」
急いで窓辺に近寄ると、身体中に暖かい日射しが当たる。
しかし、横目で見ていたグラフィアスが更に奥を見つめながら言った。
「……少し向こうはどしゃ降りのままだ。止んだのはこの周辺だけみたいだな。一体どういう仕掛けなんだ?」
それを説明してくれたのは、台所付近で遠巻きに見ていたシェアトだった。
「カメロパダリスの能力ね。彼等は天候を操るの。それを技術に応用したんじゃないかな?」
「操ルト言ッテモ、雲ヲ誘ウ程度サ。今ハ此処ヲ中心ニ、五十メートル程雲ヲ退ケタンダ」
シェリアクは何でもなさそうにそう説明する。
「すっげー!ね、他のはどうなるの?」
「雲ノ質ガ変ワルンダ。黄色ハ雷、白ハ雪ダヨ」
「格好いい!」
理屈は全く分からないが、凄いという事だけはよく分かる。
「晴レタトハ言エ、地面ハソノママダカラ、気ヲツケルンダヨ」
そう言われてルクバットは、晴れにしてもらった本来の目的を思い出す。
「あ、うん!ありがとう。グラン兄も行こうよ」
相手の了承を待たず、武器を片手に外へと飛び出す。
確かに向こうの方は未だに豪雨で、雨の音すらも聞こえてくるが、上を見上げれば切り取られたように雲が無く、晴れ間が広がる。
「まぶしー!」
「晴れたくらいで騒がしい奴だな」
後ろには武器を持ったグラフィアスが立っていた。
「グラン兄。俺の稽古に付き合ってよ」
「何で俺が、お前の面倒見なきゃいけねーんだ?一人でやってろ」
「だってこれ、まだ上手く使えないんだもん。グラン兄が作ったんだから、ちょっとくらい付き合ってくれても良いじゃんか」
グラフィアスの冷たい態度に口を尖らせて抗議するが、彼はそれを鼻で一蹴する。
「ふん、甘えるな。俺がお前くらいの頃は、ずっと一人で鍛錬していた」
「ケチ!いいよもう。一人でやるから」
何だよ。ちょっとくらい一緒にやってくれたって良いじゃんか。
ふてくされてずかずかとグラフィアスから離れようとすると、背中に声が掛かる。
「お前の稽古に付き合う気は無いが、俺の相手くらいはさせてやってもいいぞ」
「え?」
「怪我して痛い目見たくないなら、一人で稽古するんだな」
「俺がグラン兄の相手?武器だって慣れてないのに?」
「嫌なら良いんだ」
いや、でも……。
「えーい、こうなりゃヤケクソだ。よろしくお願いします!」
ルクバットが円月輪を構えると、すぐさまグラフィアスの重い大剣が振り下ろされた。
†
研究所内に一人残されたシェアトがシェリアクと談笑していると、外から金属がぶつかり合う激しい音が聞こえてきた。
何事かと窓から覗くと、ルクバットとグラフィアスが組み手をしていた。
状況はグラフィアスが圧倒的有利で、ルクバットは防戦一方のようだ。
「危ないなぁ。怪我しないと良いけど」
既に、顔にいくつもの切り傷を作っているルクバットを、はらはらした気持ちで見守る。
それ以上見ていると心臓が保ちそうに無いので、グラフィアスを信じて窓から離れると、ちょうどボレアリスが戻ってきた。
行きとは違って、今はマントを羽織っている。
それに、心無しか顔色が悪いようにも見える。
「どうしたの?マントなんか着けて。なんか顔色も悪いけど、大丈夫?」
「ああ。義手を外したら、ちょっとね。シェリアクさん。弟君がお呼びでしたよ」
彼女が疲れた声で言うと、
「ソノヨウダネ。デハ悪イケド、少シ席ヲ外サセテモラウヨ」
とだけ残してシェリアクはモニターから消えた。
それを見届けたボレアリスは、軽く息を吐きながら椅子に腰を下ろした。
「そんなに疲れる検査だったんだ。何か飲む?」
身動きが出来ないシェリアクに変わってみんなに飲み物を作ったので、台所の勝手が分かっておりそう提案する。
「ありがとう。義手を外すのが、あんなに神経に障るとは思わなかったよ。……ルクバットは外?」
「うん。シェリアクさんがこの辺一体を晴れにしてくれて、グラフィアスと稽古してる。後で行ってみる?」
ボレアリスと自分、それぞれの飲み物を手に聞くと、
「いや、今は休むよ」
ボレアリスはありがとう、と礼を言いながらカップを受け取る。
シェアトはボレアリスと机を挟んで正面の席に座った。
ボレアリスは飲み物を一口し、カップの中身をまじまじと見つめている。
「これは?」
「フラットホワイト。疲れた時はこれが一番よ。昔お父さんがよく作ってくれたの。あ、苦かった?」
苦味のある深いコクが特徴的な物なのでそう尋ねたが、彼女は笑顔で答える。
「いや、すごく美味しいよ。へえ、これをシェアトのお父さんがね」
「当時の私はまだ子供だったから、これに砂糖を沢山入れて、ほとんど違う物にしてたけどね」
懐かしげに微笑むと、ボレアリスは小首を傾げる。
「当時って?」
「……ああ、アリスには話してなかったっけ?お父さん、私が小さい頃にバスターを目指して家を出てるの」
「父親が、バスターに?」
「あ、でも別に、身内に邪竜が出たとかじゃないの。ただお父さん、正義感の強い人だったから、苦しんでる人を放っておけなかったんだと思う」
「……そう」
ボレアリスはフラットホワイトをまた一口飲み、静かに言う。
「水の王国出身のバスターは多くないから、もしかしたら会った事があるかもしれないね」
「本当に?お父さん、ヴェガって名前なんだけど」
「ヴェガ。ヴェガ・サダルスード……」
「知ってる、かな?」
恐る恐る尋ねると、ややあってボレアリスはゆっくりと首を横に振った。
「……いや。悪いけど知らないや。ごめんね」
「そっか。ううん、謝らなくていいよ。アリスは世界中を旅してるんだから、会う確率は低いだろうし」
ぎこちなく笑うシェアトに対し、ボレアリスは申し訳なさそうに言葉を付け加えた。
「次土の天地に戻ったら、心当たりに聞いてみるよ」
「うん、ありがとう」
そう言うが、心の内は以前グラフィアスに言われた事で一杯だ。
バスター承認試験では、お互いを討ち取りあう。
彼の言った事が本当なら、父はもう、この世にはいないのかもしれない。
暗い気持ちが渦巻き始めた時、再びモニターに光が宿り、喧騒な声が響いた。
「大変ダ!大発見ダヨ!」
興奮のあまり音割れしており、耳が痛い。
「す、少し落ち着いて下さい。耳が」
「落ち着ク?ソレドコロデハナイ!大発見ナンダ!」
「う……。何が、大発見なんですか?」
ボレアリスとシェアト、二人が耳を抑えながらそう聞くと、奥の部屋からドタバタとベイドが息を切らして走ってきた。
「ぼ、ボレアリスさん……。貴女ほんとに、この作品の作者が誰か、ご存知ないのですか?」
息も絶え絶えに、片手に握り締めた義手を示しながら言う。
「ええ。友人の話だと、その職人は、誰も見たことが無いそうです。貴方までどうしたんです?何か分かったんですか?」
シェリアクの騒動は何度か見たが、ベイドの慌てようは初めて見る。
ベイドは呼吸を整え、上擦った声で答えた。
「これは、私達が求めていた物そのものなんですよ」
「原子分解再構築、のですか?」
「そうです。私達は数年前に装置を作り、兄がその被験者となりました。しかし結果は再構築は成らず、兄はあの状態のまま」
言われて、モニターに映る光を見つめ、シェアトは納得したやように頷く。
「そうか。白龍を宿すシェリアクさんの原子は電子。だから電子機器を通して会話が出来るのね」
「ええ。調べた結果この義手は魔力を使って再構築を行っているようなのです。これを解明する事が出来れば、兄を元の姿に戻せるかもしれない。ですからボレアリスさん。これの修理は是非私にやらせてください。半年、いや三ヶ月もあれば必ず直してみせます。勿論、お代も要りません」
今までの穏やかさからは想像出来ない、鬼気迫る勢いに、数瞬きょとんとしたが、ふっと笑って答えた。
「頼まれるまでもなく、私は貴方達を頼りに此処へ来たんです。こちらこそ、よろしくお願いします」
「ありがとうございます!早速取り掛かりますね。直るまでは此処を自由にお使い下さい。兄さん行きましょう!」
意気揚々と二人は奥へと引っ込む。
「三ヶ月か。けっこうかかるね」
シェアトがため息気味に言うと、ボレアリスは静かに同意する。
「うん。でも、それだけ難しい物なんだろうね。待つしかないよ。……さて、と。それまでは徹底的に、ルクバットを扱いてやるとするか」
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