流星痕

サヤ

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転の流星

きょう

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「明日、イヨイヨ発ツンダネ」
「ええ。次はいつ帰ってこれるか分かりませんが、その時こそ、必ず兄さんを元に戻してみせますよ」
「ソウカ。ナラ祝イノ酒ハ、ベイドガ帰ッテ来ルソノ時マデ、大事ニ保存シテオクトシヨウ」
「きっと、良い具合に熟しているでしょうね」
「アア。……ナア、ベイド」
「何です?」
「コレカラ君ハ、数多クノ刺激ヤ感銘ヲ各地デ受ケル事ニナルダロウ。ダカラソロソロ、自分ノ道ヲ、切リ拓イテモ良イ頃合イジャナイカナ?」
「……そうですね。それも良いかもしれません。ですが、もうしばらくは後ろを、兄さんの隣を、歩かせて下さい」


     †


 ベイドを仲間として加えた一行は、ジェミニの月になってから研究所を発ち、その数日後に帝都入りし、ボレアリスはそのまま巡礼へと向かった。
 内容としてはカメロパダリスらしく、何かを創造する、という物であった。
 よその国の巡礼者はここで躓く事が多いようだが、ボレアリスは、義手でハルピュイアやアイリスを作り出しその技を披露し、ものの数分で巡礼を終わらせた。
 あまりにも早く終わった為、そのまま謁見に臨もうとすると、ベイドも天皇に用事があるという事で、全員で謁見する事になった。
 謁見の間には、壇上に御簾で隔てた更に奥、そこにエクレール天皇と思われる人物の影と、御簾のすぐ横に控える一人の側近。
 広間の脇に、対をなして整列する兵士が数人いた。
「バスターボレアリスは、何処か」
「私です」
 御簾の向こうより天皇の声が飛んできて、ボレアリスが一人、皆より一歩前へ進み出る。
「先程の巡礼、余もここから見物しておったが、実に見事な創造であった。そなた、あのような技術を一体どこで習得したのだ?」
「お褒めの御言葉、ありがとうございます。しかし申し訳ありませんが、私には陛下の問にお答え出来る言葉を持ち合わせておりません」
「どういう意味だ?」
 ボレアリスは先に詫びをし、その理由を述べる。
「御覧頂いたとおり、私はこの義手で、あらゆる物を創造出来ますが、これは友人を通して得た物なので、作成者とは何の接点も持ち合わせていないのです」
「恐れながら陛下。その件について一つ、私からお願いがあります」
 後ろで控えていたベイドがボレアリスの横に並び、帽子を脱ぎ胸に当て、恭しく一礼すると、天皇が反応する。
「ベイドか。その義手に、そなたが関与していると報告を受けているが?」
「はい。つい二ヶ月程前に、縁あってこの義手の修理に携わらせて頂きました。そこで判明したのが、この技術は、私達の研究には欠かせない物だったのです。本当は研究所でこれの解析をしたいのですが、彼女を引き留める訳にもいきません。ですからフィールドワークとして、国を空ける許可を戴きたいのです」
 それだけの事を一息に述べると、天皇はしばらく考え込むように黙る。
「……そなたらの研究対象は、原子分解再構築であったな。この者について行けば、それを解明出来ると?」
「現段階で、私達の研究は暗礁に乗り上げてしまっています。ですが彼女の義手からは、無限の可能性を感じました。これは雷の帝国カメロパダリスにとっても、大変貴重な技術だと思います」
「なるほど。バスターよ」
「はい」
 名を呼ばれ、背筋を正す。
「そなたの事は水の王国サーペンからあらかた聞いておる。望みは、祖国の復興、であったな?」
「はい。陛下もどうか、この小さな逆風を、見過ごしていただけないでしょうか?」
「崩れた均衡を戻す点については、余も賛成しよう。しかし国を建て直すには蒼龍を宿した者が必要不可欠。そちらの方はどうなっている?」
 雷の帝国カメロパダリス風の王国グルミウムの同盟国では無かったが、国の復興には賛成してくれるようだ。
 しかし、どこの王も危惧するのは同じ問題。
「そなたは、かの国の最後の王女が生きておると信じているようだが、その説を唱えたのはそこにおるベイドの兄だ。彼も大変優れた人物であるから、可能性は零とは言い切れないが」
「そうですか。それを聞いて安心しました。王女様の件については、私の方でも心当たりを探っています。ですから陛下には、国の復活を認めて下さるだけで十分です」
 心当たりなんていうのは勿論嘘だが、天皇はそれで快諾した。
「そのような要望ならば、否決する必要は無かろう。確か水の王国サーペンからは、使者が出ていると聞いた。然るに、我が雷の帝国カメロパダリスからは、そこのベイドを使者として遣わそう」
「分かりました」
 ボレアリスはそう了承するが、当の本人は何か引っ掛かる物があったようで、不意に声が低くなる。
「わざわざ使者扱いですか?余計な人数が増えるよりは妥当かと思いますが……まさか、これに乗じて、あの件を無理に通すつもりではないでしょうね?」
 ……あの件?
「何をそんなに毛嫌いする必要がある?兄弟共に勲章を貰うだけであろう」
「何度も申し上げましたが、私は兄の助手として、研究に携わっているだけです。そんな私が、兄と同じ爵位を戴く訳にはまいりません。どうしてもと仰るなら、兄には更に上の、准男爵ぐらい与えてもらわないと納得出来ません」
 功労者に与える爵位の話か。確かに優秀な人物ではあるけど、妙な所に拘るな。よほど兄を尊敬しているのか、それとも自分を卑下しているのか。
 そんな自分とは関係のない押し問答を黙って見ていると、先に折れたのは天皇の方だった。
「分かった。ならばこうしよう。まずは二人に騎士の位を与える。そしてシェリアクが人の形を取り戻したその時に、准男爵にしよう。それでどうだ?」
「ああ、それならば確実ですね。分かりました。お受け致します」
 決まったか。
 ベイドの快い返事と天皇の疲れきったため息と共に、ボレアリスも小さく息を吐く。
「いらぬ時間をとらせてしまってすまない、バスターよ。聞いた通り、ベイドを使者としてそなたの旅の支援を致そう。それと、見事な創造を見せてもらった礼だ。風の王国グルミウムが立ち直った際、我が国に滞在しているグルミウム国民の、帰国支援を約束しよう」
「本当ですか?それはとても助かります。ありがとうございます」
 思わぬ報酬に声が弾む。
 国が戻っても、民がいなくては意味が無いのだから、これは大きな収穫だ。
「ではこれにて、バスターボレアリスによる巡礼を終了する」


「はぁ~。やっと終わったぁ」
 城から出てすぐ、ルクバットがそう大きく息を吐いた。
「随分早く終わったな。どうしますベイド卿?一度研究所に戻って、兄上に報告しますか?」
 ボレアリスがそう提案すると、ベイドは目を丸くしてかぶりを振った。
「卿だなんで止めてください。私は一介の研究者に過ぎません。それと、兄への報告は不要です。陛下から直に聞いた方が嬉しいでしょうし」
「分かりました」
 そう頷くと、ルクバットがシェアトに声を掛けた。
「ねえ、シェアト姉。准男爵と騎士ってどの辺?」
「准男爵っていうのは騎士より一つ上の爵位で、貴族入り出来る五段階級の一番下の勲功爵位よ。貴族の階級は知ってる?」
「うん。上から公、侯、伯、子、男だよね?」
「正解。その男爵の下にあるのが准男爵、その下に騎士、卿士とあって、この三つは勲功爵位、下級貴族とも呼ばれて、正式な貴族とは認められてないの」
「正式な貴族と何が違うの?」
「貴族の特権は国によって様々だけど、共通して言えるのは、下級貴族は一代限りの爵位で、家督のように引き継げないのと、国への発言権が一般人と変わらないところかな」
「そうなんだ。だからベイドさん、爵位貰ってもあんまり嬉しくなかったんだね」
 シェアトの説明で納得したルクバットがベイドに声を掛けると、ベイドはいえいえと首を振る。
「そんな事はありませんよ。一代であっても貴族に変わりはありませんからね。概評会で、国の一存だけで研究に取り掛かれるのは非常に楽ですよ」
 朗らかに笑うベイドを見る限り、他の研究者のやっかみの強さが伺える。
「ところでボレアリスさん。時間が余っているのなら、武器屋によっても構いませんか?」
「ええ。武器でも新調されるんですか?」
「私じゃありませんよ。貴女の腕はまだまだ改良の余地がありますからね。いつでも改良出来るように、準備をしておきたいだけです」
「そう、ですか」
 この人、私のことを実験動物か何かと思ってないか?これじゃ、ベイド狂だな。
 多少引っ掛かる所はあるものの、一行はとりあえず武器屋へと向かった。
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