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結の星痕
確執
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土の天地の港から火の帝国へと入国したアウラ達一行は、港町ロルカでラクダを三頭借り、帝都フォボスへと繋がる海岸砂漠、ラビ砂漠を渡った。
ラビ砂漠の特徴は、時期によっては洪水が起きる程の豪雨がある事だ。
砂漠は、一日の寒暖差が激しいのは言うまでもないが、この地域は霧が発生する事も珍しくなく、体温の調節が難しい。
交代でラクダを使用しているが、旅慣れしていないベイドやシェアトは疲れきっているし、いつもは元気なルクバットも口数が少ない。
そんなメンバーを気遣って冷たい風を作り出しているアウラや、ゴーレムで影を作っているフォーマルハウトにも同じように疲弊の色が伺える。
唯一歩調を変えずに砂漠を歩き続けているのは、この国を故郷とするグラフィアスのみ。
それでも全く平気というわけではない。
火の帝国出身といえど流浪の身。
各地を渡り歩いている時間の方が長いグラフィアスにとっても、この暑さは流石に堪える。
久しぶりに来たが、砂漠とはいえこの季節でもこんなに暑かったか?……他のやつらも、だいぶ参ってるな。
後方を歩く一行を見ると、その足取りは徐々に遅くなってきている。
「しっかりしろ。もう少し行けば、オアシスと宿舎があるはずだ」
そう励ますと、ルクバットが顔を上げてほんの少し顔を輝かせた。
「オアシスって事は、水がある……?」
「ああ。そこで一旦、身体を休めよう」
「おおー……」
にこ、と笑ってルクバットは再び下を向き、砂に埋もれる足を引き抜くように歩き続ける。
それと入れ替わるように、シェアトを乗せたラクダを引率しているアウラが、グラフィアスの横へと並ぶ。
「なあ。私はこの国には滅多に来ないからあれだけど、この暑さは異常じゃないか?真夏ならまだしも、今は冬だぞ。夜は流石に冬らしい寒さだけど、前に来た時は、昼間はこんなじゃなかった」
「……どの季節だろうと、砂漠越えの厳しさは承知の上だろ?けど、この暑さが異常だって事には、俺も反論しない」
「……もしかして、あいつがまた何か企んでいるのか?」
アウラの顔付きが鋭くなるのを見れば、誰の事を指しているのかは聞かなくても分かる。
「さあな。皇帝が何を考えてどう行動するかなんて、きっと本人ですら分かってないと思うぜ。あの人は本能で生きている、野獣そのものだ」
「野獣か……。嫌な予感がするよ」
「あんまり考えない方が良いぞ。そういう予感は、決まって当たるからな」
それっきり、一行はオアシスに到着するまで黙々と歩き続けた。
†
炎天下の中を黙々と歩き続けて、ようやくオアシスにたどり着いた者にとって、そこはまさしく天国と言えるだろう。
渇きで張り付いた喉を潤す冷たい水。
火照った身体を癒やすように吹き抜ける涼しげな風。
そして、簡素ではあるが、安心して休める宿。
ラクダを指定の場所に繋ぎ留め、シェアトとベイドを宿で休ませた後、動ける者は体力回復の為に動いた。
ルクバットは真っ先に水を買いに走り、己の喉を存分に潤してから皆の分を持ってきた。
グラフィアスは肉類を中心に食材を買い揃え、フォーマルハウトに共に調理をする。
そしてアウラは宿内部に設置された更衣室で衣服に着いた砂や埃を払い、身体を清潔にし、ルクバットから受け取った水を持ってシェアト達の介抱へ向かった。
水を渡された二人はまだぐったりとしてはいるが、自ら身体を起こし、水を飲む事が出来た。
吐き気等の症状も無いようなので、暫く休めば元気になるだろう。
料理の準備が整うまで休んでもらい、それから皆で食事にした。
「ここから帝都までまだ丸一日かかる。今日ここで休んだらまた砂漠だ。しっかり体力を回復させろ。そして無理はするな。逆に迷惑だからな」
焼いた肉や野菜を鉄串に刺した料理を皆に振る舞いながらグラフィアスが言う。
受け取った食べ物を噛み締めるように、ゆっくりと口にする。
「それにしても、砂漠越えがこれほど厳しい物だとは思いませんでした」
暫くして、体調の戻ったベイドがため息と共に口を開き、それにシェアトも続く。
「私も。夜は平気なんだけど、昼間がこんなに暑いなんて思ってもみなかった」
「先ほど宿で耳にしたんですが、今年のラビ砂漠は冬になってもなかなか気温が下がらず、雨も例年に比べてかなり少ないそうです。このような気候が今後も続くようであれば、このオアシスもいずれ、砂に呑まれるのではと心配していました」
「やっぱり、今年は異常なんだね。……帝都で何か起きているのかな?」
何気なく放った一言。
しかしその答を知る者は無く、しばし重い沈黙が流れる。
その沈黙を取り払ってくれたのはグラフィアスだった。
「そんな分からない事考えてもしょーがないだろ?今は砂漠を越える事だけを考えろ」
「……うん、そうだね。私、明日は頑張るから、アウラがラクダを使ってよ。今日も歩き通しだったでしょ?」
「私は平気だよ。さっきグラフィアスが言ったろ?無理はするなって。だからシェアトは変な気を使わなくて良いから」
「でも……。じゃあ、ルク君かフォーさんは……」
「俺も平気だよ。沢山水飲んだし、肉もいっぱい食べたからね」
「僕も大丈夫です。これでも軍人ですから、それなりに鍛えていますし、火の帝国には何度も足を運んでいますから、この砂漠にも慣れてます。ですからどうぞ、遠慮なさらず」
そうやんわりと断られ、それでも食い下がろうとするシェアトにベイドが笑って言う。
「シェアトさん、ここは甘えさせてもらいましょう。代わりに我々は、帝都に着いてからやれる事をやれば良いんですよ」
「そういう事だ。今お前達がやるべき事は、身体を壊さないよう、体調管理をしっかりとする事だ」
「グラフィアス……。うん、分かった。ならそうするね。ありがとう」
命令にも似たグラフィアスの気遣いに、シェアトは微笑んで礼を言う。
そんな会話をしていると、他に砂漠越えをしているキャラバン隊や旅人が、ここで一夜を明かそうと続々と集まりだして、一層賑わしくなってきた。
他の人に席を譲ろうと片付けをしている折り、どこかのキャラバン隊の護衛だろうか。
恰幅の良い三人の男がちらちらとこちらを見ては何かこそこそと話し合っている。
見た目からして、火の帝国の人間にまず間違いないだろう。
「あの人達、さっきからこっち見て何を言ってるんだろう?」
男達に気付き、感じが悪いとシェアトは小さくぼやく。
それに反応したのが、物凄く嫌そうな顔をしたルクバット。
「ほっときなよシェアト姉。あーいうのには関わらない方がいいって。……向こうから来るかもだけど」
「え?」
そう呟くルクバットの思惑が見事に的中し、三人の男達はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながらこちらに近付いてきた。
「よお、あんたら。なかなか面白いメンバーだな。旅芸人か何かか?」
真ん中の、一番背が高く筋肉質な男が口を開く。
「いえ。私達は、仲間が巡礼の最中でして」
「巡礼?ははっ。五国全部回れないってのに、そんな事やってんのか?やっぱり変な連中だぜ」
「まーまー、待てよ。ほら見ろ。エルタニンの軍人さんまでいるんだ。特別待遇があるのかもしれんぞ?なあ、軍人さん?」
「いえ、僕はただの見届け人ですから。そのような事はありませんよ」
右隣の男の質問に、フォーマルハウトは冷静に答える。
男は納得したのかしてないのか、それとも最初さらどうでも良かったのか、大げさに頷く。
「へー、そうかい。……いやところでさ。なんかここ、変な匂いがしないか?」
「変な匂い、ですか?……いえ、特に気になるようなものは……」
「いーや、匂うぜ!向こうにいても匂ったくらいだ」
シェアトの言葉を遮って左の一番小さな男が悲鳴をあげる。
そのままわざとらしく鼻をひくつかせ、一行の周りをうろうろし、やがてルクバットの前で立ち止まり、意地汚そうに笑った。
「あ~そうか。この臭いはお前からしてるんだな?腐った葉っぱの臭いだ!」
「……は?何だよそれ」
「あー、どおりで臭いわけだ。あんたらこんなの連れて歩いて、良い趣味してんな?」
ルクバットが言い返そうとすると、真ん中の男がそれをかき消す。
そして同時に、グラフィアスに目を留めた。
「んん?なんだ、よく見たら同胞もいるじゃねーか。あー、もしかしてこの葉っぱ、お前の奴隷か?」
「……」
「おいおい、だんまりはひでーな。あ、もしかして巡礼してるのはこの葉っぱか?ははは!だとしたら傑作だ。よくこんな奴の為、に……?」
「……?兄貴。どうしたんで?」
気持ちよさそうに声を張り上げていたが急に黙り込み、子分二人が声をかけても反応しない。
男は何かを訴えるように喉元を抑えたり、喘ぐように必死に口をパクパクさせている。
「……そんなに臭うんなら、息をしなきゃいいだろ?今みたいにさ」
明らかに様子のおかしい彼にそう冷ややかに言い放ったのは、宿から戻ってきたアウラだった。
「……っ……!?」
男は何かを言い返そうとアウラの胸ぐらを掴むが、その顔色は赤を越えて蒼白になりつつあり、アウラを突き放して何処かへと走り去って行った。
「ええ、兄貴?ちょ、何処行くんすか?」
置いていかれた二人は訳が分からないまま彼の後を追い、束の間の騒動が過ぎ去った。
「……今の、アウラの仕業?」
彼の喘ぎっぷりは、まるで地上に打ち上げられ、酸素を求め苦しむ魚そのものだった。
少し咎め口調でシェアトが聞くと、アウラは何でもなさそうに肩を竦める。
「よくあるんだよ、ここに来るとね。それよりルクバット、よく怒らなかったな?」
「うん。すげームカついたけどさ、こんな所で暴れたら他の人の迷惑だからね」
「その通りだ。ちゃんと学習してるな。偉いぞ」
褒められ頭を撫でられるルクバットは嬉しそうに笑う。
「それにしても、おかげで明日は早めの出発になりそうだな。お前ら、完全に目付けられたっぽいからな」
グラフィアスが意地悪く笑うと、アウラも鼻で笑い返す。
「あれで懲りないんなら、ヤツらの実力もタカが知れてる」
「ねーアウラ。明日また来た時、周りに誰もいなかったらやってもいいよね?」
「ああ、勿論」
「けれど、早朝に出発というのは賛成です。何事も、穏便に済ませた方が楽ですから」
ベイドの意見に、フォーマルハウトも頷く。
「僕もそう思います。残念ながら、ポエニーキスのグルミウムに対する態度は、未だにあまり良くない物が目立ちますから」
「なら、明日は夜明けと共に出発しよう。それまでに、各自体調を整えておくように」
ラビ砂漠の特徴は、時期によっては洪水が起きる程の豪雨がある事だ。
砂漠は、一日の寒暖差が激しいのは言うまでもないが、この地域は霧が発生する事も珍しくなく、体温の調節が難しい。
交代でラクダを使用しているが、旅慣れしていないベイドやシェアトは疲れきっているし、いつもは元気なルクバットも口数が少ない。
そんなメンバーを気遣って冷たい風を作り出しているアウラや、ゴーレムで影を作っているフォーマルハウトにも同じように疲弊の色が伺える。
唯一歩調を変えずに砂漠を歩き続けているのは、この国を故郷とするグラフィアスのみ。
それでも全く平気というわけではない。
火の帝国出身といえど流浪の身。
各地を渡り歩いている時間の方が長いグラフィアスにとっても、この暑さは流石に堪える。
久しぶりに来たが、砂漠とはいえこの季節でもこんなに暑かったか?……他のやつらも、だいぶ参ってるな。
後方を歩く一行を見ると、その足取りは徐々に遅くなってきている。
「しっかりしろ。もう少し行けば、オアシスと宿舎があるはずだ」
そう励ますと、ルクバットが顔を上げてほんの少し顔を輝かせた。
「オアシスって事は、水がある……?」
「ああ。そこで一旦、身体を休めよう」
「おおー……」
にこ、と笑ってルクバットは再び下を向き、砂に埋もれる足を引き抜くように歩き続ける。
それと入れ替わるように、シェアトを乗せたラクダを引率しているアウラが、グラフィアスの横へと並ぶ。
「なあ。私はこの国には滅多に来ないからあれだけど、この暑さは異常じゃないか?真夏ならまだしも、今は冬だぞ。夜は流石に冬らしい寒さだけど、前に来た時は、昼間はこんなじゃなかった」
「……どの季節だろうと、砂漠越えの厳しさは承知の上だろ?けど、この暑さが異常だって事には、俺も反論しない」
「……もしかして、あいつがまた何か企んでいるのか?」
アウラの顔付きが鋭くなるのを見れば、誰の事を指しているのかは聞かなくても分かる。
「さあな。皇帝が何を考えてどう行動するかなんて、きっと本人ですら分かってないと思うぜ。あの人は本能で生きている、野獣そのものだ」
「野獣か……。嫌な予感がするよ」
「あんまり考えない方が良いぞ。そういう予感は、決まって当たるからな」
それっきり、一行はオアシスに到着するまで黙々と歩き続けた。
†
炎天下の中を黙々と歩き続けて、ようやくオアシスにたどり着いた者にとって、そこはまさしく天国と言えるだろう。
渇きで張り付いた喉を潤す冷たい水。
火照った身体を癒やすように吹き抜ける涼しげな風。
そして、簡素ではあるが、安心して休める宿。
ラクダを指定の場所に繋ぎ留め、シェアトとベイドを宿で休ませた後、動ける者は体力回復の為に動いた。
ルクバットは真っ先に水を買いに走り、己の喉を存分に潤してから皆の分を持ってきた。
グラフィアスは肉類を中心に食材を買い揃え、フォーマルハウトに共に調理をする。
そしてアウラは宿内部に設置された更衣室で衣服に着いた砂や埃を払い、身体を清潔にし、ルクバットから受け取った水を持ってシェアト達の介抱へ向かった。
水を渡された二人はまだぐったりとしてはいるが、自ら身体を起こし、水を飲む事が出来た。
吐き気等の症状も無いようなので、暫く休めば元気になるだろう。
料理の準備が整うまで休んでもらい、それから皆で食事にした。
「ここから帝都までまだ丸一日かかる。今日ここで休んだらまた砂漠だ。しっかり体力を回復させろ。そして無理はするな。逆に迷惑だからな」
焼いた肉や野菜を鉄串に刺した料理を皆に振る舞いながらグラフィアスが言う。
受け取った食べ物を噛み締めるように、ゆっくりと口にする。
「それにしても、砂漠越えがこれほど厳しい物だとは思いませんでした」
暫くして、体調の戻ったベイドがため息と共に口を開き、それにシェアトも続く。
「私も。夜は平気なんだけど、昼間がこんなに暑いなんて思ってもみなかった」
「先ほど宿で耳にしたんですが、今年のラビ砂漠は冬になってもなかなか気温が下がらず、雨も例年に比べてかなり少ないそうです。このような気候が今後も続くようであれば、このオアシスもいずれ、砂に呑まれるのではと心配していました」
「やっぱり、今年は異常なんだね。……帝都で何か起きているのかな?」
何気なく放った一言。
しかしその答を知る者は無く、しばし重い沈黙が流れる。
その沈黙を取り払ってくれたのはグラフィアスだった。
「そんな分からない事考えてもしょーがないだろ?今は砂漠を越える事だけを考えろ」
「……うん、そうだね。私、明日は頑張るから、アウラがラクダを使ってよ。今日も歩き通しだったでしょ?」
「私は平気だよ。さっきグラフィアスが言ったろ?無理はするなって。だからシェアトは変な気を使わなくて良いから」
「でも……。じゃあ、ルク君かフォーさんは……」
「俺も平気だよ。沢山水飲んだし、肉もいっぱい食べたからね」
「僕も大丈夫です。これでも軍人ですから、それなりに鍛えていますし、火の帝国には何度も足を運んでいますから、この砂漠にも慣れてます。ですからどうぞ、遠慮なさらず」
そうやんわりと断られ、それでも食い下がろうとするシェアトにベイドが笑って言う。
「シェアトさん、ここは甘えさせてもらいましょう。代わりに我々は、帝都に着いてからやれる事をやれば良いんですよ」
「そういう事だ。今お前達がやるべき事は、身体を壊さないよう、体調管理をしっかりとする事だ」
「グラフィアス……。うん、分かった。ならそうするね。ありがとう」
命令にも似たグラフィアスの気遣いに、シェアトは微笑んで礼を言う。
そんな会話をしていると、他に砂漠越えをしているキャラバン隊や旅人が、ここで一夜を明かそうと続々と集まりだして、一層賑わしくなってきた。
他の人に席を譲ろうと片付けをしている折り、どこかのキャラバン隊の護衛だろうか。
恰幅の良い三人の男がちらちらとこちらを見ては何かこそこそと話し合っている。
見た目からして、火の帝国の人間にまず間違いないだろう。
「あの人達、さっきからこっち見て何を言ってるんだろう?」
男達に気付き、感じが悪いとシェアトは小さくぼやく。
それに反応したのが、物凄く嫌そうな顔をしたルクバット。
「ほっときなよシェアト姉。あーいうのには関わらない方がいいって。……向こうから来るかもだけど」
「え?」
そう呟くルクバットの思惑が見事に的中し、三人の男達はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながらこちらに近付いてきた。
「よお、あんたら。なかなか面白いメンバーだな。旅芸人か何かか?」
真ん中の、一番背が高く筋肉質な男が口を開く。
「いえ。私達は、仲間が巡礼の最中でして」
「巡礼?ははっ。五国全部回れないってのに、そんな事やってんのか?やっぱり変な連中だぜ」
「まーまー、待てよ。ほら見ろ。エルタニンの軍人さんまでいるんだ。特別待遇があるのかもしれんぞ?なあ、軍人さん?」
「いえ、僕はただの見届け人ですから。そのような事はありませんよ」
右隣の男の質問に、フォーマルハウトは冷静に答える。
男は納得したのかしてないのか、それとも最初さらどうでも良かったのか、大げさに頷く。
「へー、そうかい。……いやところでさ。なんかここ、変な匂いがしないか?」
「変な匂い、ですか?……いえ、特に気になるようなものは……」
「いーや、匂うぜ!向こうにいても匂ったくらいだ」
シェアトの言葉を遮って左の一番小さな男が悲鳴をあげる。
そのままわざとらしく鼻をひくつかせ、一行の周りをうろうろし、やがてルクバットの前で立ち止まり、意地汚そうに笑った。
「あ~そうか。この臭いはお前からしてるんだな?腐った葉っぱの臭いだ!」
「……は?何だよそれ」
「あー、どおりで臭いわけだ。あんたらこんなの連れて歩いて、良い趣味してんな?」
ルクバットが言い返そうとすると、真ん中の男がそれをかき消す。
そして同時に、グラフィアスに目を留めた。
「んん?なんだ、よく見たら同胞もいるじゃねーか。あー、もしかしてこの葉っぱ、お前の奴隷か?」
「……」
「おいおい、だんまりはひでーな。あ、もしかして巡礼してるのはこの葉っぱか?ははは!だとしたら傑作だ。よくこんな奴の為、に……?」
「……?兄貴。どうしたんで?」
気持ちよさそうに声を張り上げていたが急に黙り込み、子分二人が声をかけても反応しない。
男は何かを訴えるように喉元を抑えたり、喘ぐように必死に口をパクパクさせている。
「……そんなに臭うんなら、息をしなきゃいいだろ?今みたいにさ」
明らかに様子のおかしい彼にそう冷ややかに言い放ったのは、宿から戻ってきたアウラだった。
「……っ……!?」
男は何かを言い返そうとアウラの胸ぐらを掴むが、その顔色は赤を越えて蒼白になりつつあり、アウラを突き放して何処かへと走り去って行った。
「ええ、兄貴?ちょ、何処行くんすか?」
置いていかれた二人は訳が分からないまま彼の後を追い、束の間の騒動が過ぎ去った。
「……今の、アウラの仕業?」
彼の喘ぎっぷりは、まるで地上に打ち上げられ、酸素を求め苦しむ魚そのものだった。
少し咎め口調でシェアトが聞くと、アウラは何でもなさそうに肩を竦める。
「よくあるんだよ、ここに来るとね。それよりルクバット、よく怒らなかったな?」
「うん。すげームカついたけどさ、こんな所で暴れたら他の人の迷惑だからね」
「その通りだ。ちゃんと学習してるな。偉いぞ」
褒められ頭を撫でられるルクバットは嬉しそうに笑う。
「それにしても、おかげで明日は早めの出発になりそうだな。お前ら、完全に目付けられたっぽいからな」
グラフィアスが意地悪く笑うと、アウラも鼻で笑い返す。
「あれで懲りないんなら、ヤツらの実力もタカが知れてる」
「ねーアウラ。明日また来た時、周りに誰もいなかったらやってもいいよね?」
「ああ、勿論」
「けれど、早朝に出発というのは賛成です。何事も、穏便に済ませた方が楽ですから」
ベイドの意見に、フォーマルハウトも頷く。
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