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かくれんぼのおうち――いつもの明也とユイの隠れ家。
ユイが部屋に入るのを確認して、明也は扉を閉めた。
ユイは立ったまま、どこを見ていいかわからず視線を泳がせた。
背中に、壁の冷たさが触れる。
「鷹臣さんとケンカした?」
最初の問いは、優しく、的確だった。
「……えっと」
「怒られたんでしょ」
言葉が重なる。間を与えない。
「昨日、俺に会いたくないって言って今日は頼っちゃうの、可愛いね」
「鷹臣さん優しかった?」
「優しい人を怒らせたら、だめだよね」
ユイの喉が鳴る。
答えを探そうとして、順番が分からない。
「……ぁ、ごめ」
「謝る前に答えよっか。一個ずつ」
声は荒げない。
それが、余計に逃げ場をなくす。
明也はユイの腕を掴み上げ、壁に縫い付けた。
「どこを、どんなふうに触られた?
…嫌だった?それとも——」
わざと間を置く。
「……よかった?」
明也は言葉の合間にユイの服を捲り、汚れがないか確かめるように、胸や腹に鼻先を擦り寄せる。
ユイはくすぐったそうに、少し怯えながら、身じろぎした。
そして、記憶の断片を拾う。
「……あのね、だっこしてもらった」
ユイの腕を掴む明也の手に力がはいった。
「それだけ?」
「……ぁ、くち、さわった」
明也はユイの顎に指をかけ、深いキスをした。
「ん、…ふ、ぁ」
逃げ場を塞ぐ明也だが、胸の奥が苦しくなる。
「わるい子なんだ、ユイは」
感情のない声。
明也は首元に顔を寄せる。
触れない距離で、匂いだけを確かめる。
「……匂いつけてる?これ」
独り言みたいに。
「ヒートきたの?」
「鷹臣さんにしてもらったの?」
「気持ちよかった?」
「俺のこと考えた?」
質問と質問の間に、指を一本ずつ開かせる。
ユイが質問に答えるたび、体の他の場所を触る。
「あっくん…?」
ユイの呼吸が段々と浅くなる。
明也の言うことがわからない。わからないが、怒っているように見えた。
「静かにして…ユイ、緊張してる?」
「……ん」
「俺のこと好きだよね?家族だもん」
「……わかんない」
「わかんない、は便利だね。
…でも、酷いなぁ、ユイ。前は好きって言ってたよ」
ユイの肩が、きゅっと縮む。
(ひーとで、ぐちゃぐちゃだったから…)
「ねぇ、鷹臣さんとセックスしたか訊いてるんだけど?」
名前が出た瞬間、頭の奥がじんと熱くなる。
「や…して、な…」
「嘘」
明也はユイのズボンと下着をおろし、片脚を持ち上げる。
「やっ」
空気に触れたユイ自身は重力に逆らわないまま少し震えた。
恥ずかしい格好のまま、明也に隅々まで見られる。
前と、後ろ。濡れ具合、匂い。
「……ふうん、してなさそう」
そのまま、解れていない後ろに明也の指が入った。
「っ…」
ユイの体がピクリと反応する。
何度もされてきた、Ωだから仕方ない行為。優しい声を求めた代償。
「低俗なαならさ」
ぽつりと。
「すぐ分かるんだけど」
ユイの額に、軽く唇が触れる。
意味を持たせないような、短い接触。
そして、指を出し入れされる。
すぐに濡れる、Ωの浅ましく思える体。
指を動かしながら明也は続けた。
「鷹臣さんは違うよね、頭がいい」
次は、キスをする。
頬に、それから、髪に。
「だから、厄介でしょ。
ユイから俺を遠ざけるし、正しいこと言ってる振りしてユイを傷付けるし、」
囁きが距離を詰める。そして、再び深いキスをした。
同時に舌で何かを押し込まれて、ユイはそれを不可抗力で嚥下してしまった。
「ん、あっくん、ゆい…な…んか、のんじゃった……」
ユイの瞳に涙が滲む。
(こわい、こわい…)
「あー、Ωのフェロモン誘発剤、わかる?
赤ちゃん欲しくなる薬」
「…??」
ドクドクと鼓動が脈打ち、体が熱くなる感覚。
「また、赤ちゃん作っちゃおう」
ユイの目が見開かれ、焦点が合わなくなった。
「ユイさ、放っておかれて寂しかったよね。
寂しかった分、ちゃんと可愛がらなきゃ。Ωだもんね」
何事もなかったかのように、慰める声と言葉が静かに重なる。
「ユイはセックスしないと、価値ないって思っちゃうだろ?」
ユイは揺れる脳で必死に考えた。
「あっくん、またってなに?…あっくん、ゆいの、あかちゃん…?」
(どうしよう、どうしよう…)
「あれ、まだ気付いてなかったんだ?」
その一言で、ユイの全身は脱力した。
「……ぁ、」
何か言おうとして、やめる。
胸の奥に、冷たいものが残った。
明也は、ユイの額にもう一度、軽く唇を当てる。
今度は、少し長く。
「大丈夫、今度は一緒に育ててみよう?」
その言葉に、ユイは頷かなかった。
(わるいこと…)
壁に背を預けたまま、視線を落とす。
明也はお構いなしに自身の昂ぶりでユイを貫いた。
「ぃや…」
何か大事なものが、遠くなった気がした。
でも、それが何かは、考えられなかった。
(ひーと、またきちゃう…)
嫌だったのに。
ヒートの熱が、フェロモンの香りが、すべてを押し流した。
響く水音と、肌が触れ合う音と、滴る互いの体液、白濁。
「あっくん、はなして…」
「いや…わるいこと…したくないのに、」
「ごめんなさい」
「ゆるして」
すべての言葉は宙を彷徨って全く届かなかった。
遮光カーテンの隙間から、光が、ゆっくり遠ざかる。
「こんなことなら、嘘でもとっとと噛んどけばよかったね」
項に走る痛みに、ユイの体は震えた。
噛まれたのだとわかったときには、もう遅かった。
苦しくて、汚れた薄布を掻き集めて巣のようなものを作ってたみたが、正しいやり方がわからなかった。
明也に嘲笑われて、ぐちゃぐちゃにされた薄布にくるまりながら。
もう他にすることがなくて、ユイは床に座り、何度も数を数えながら遠くの壁を見つめた。
胃液がせり上がって、飲み込んで、むせて、結局吐いて。
胸の奥が、ひりひりする。
言葉にならない遅れた違和感だけが残る。
(しかたない。しかたないって、だれが、いってたんだっけ…)
でも本能が満たされてしまう。
ユイはボロボロのシーツにくるまって、静かに眠った。
ユイが部屋に入るのを確認して、明也は扉を閉めた。
ユイは立ったまま、どこを見ていいかわからず視線を泳がせた。
背中に、壁の冷たさが触れる。
「鷹臣さんとケンカした?」
最初の問いは、優しく、的確だった。
「……えっと」
「怒られたんでしょ」
言葉が重なる。間を与えない。
「昨日、俺に会いたくないって言って今日は頼っちゃうの、可愛いね」
「鷹臣さん優しかった?」
「優しい人を怒らせたら、だめだよね」
ユイの喉が鳴る。
答えを探そうとして、順番が分からない。
「……ぁ、ごめ」
「謝る前に答えよっか。一個ずつ」
声は荒げない。
それが、余計に逃げ場をなくす。
明也はユイの腕を掴み上げ、壁に縫い付けた。
「どこを、どんなふうに触られた?
…嫌だった?それとも——」
わざと間を置く。
「……よかった?」
明也は言葉の合間にユイの服を捲り、汚れがないか確かめるように、胸や腹に鼻先を擦り寄せる。
ユイはくすぐったそうに、少し怯えながら、身じろぎした。
そして、記憶の断片を拾う。
「……あのね、だっこしてもらった」
ユイの腕を掴む明也の手に力がはいった。
「それだけ?」
「……ぁ、くち、さわった」
明也はユイの顎に指をかけ、深いキスをした。
「ん、…ふ、ぁ」
逃げ場を塞ぐ明也だが、胸の奥が苦しくなる。
「わるい子なんだ、ユイは」
感情のない声。
明也は首元に顔を寄せる。
触れない距離で、匂いだけを確かめる。
「……匂いつけてる?これ」
独り言みたいに。
「ヒートきたの?」
「鷹臣さんにしてもらったの?」
「気持ちよかった?」
「俺のこと考えた?」
質問と質問の間に、指を一本ずつ開かせる。
ユイが質問に答えるたび、体の他の場所を触る。
「あっくん…?」
ユイの呼吸が段々と浅くなる。
明也の言うことがわからない。わからないが、怒っているように見えた。
「静かにして…ユイ、緊張してる?」
「……ん」
「俺のこと好きだよね?家族だもん」
「……わかんない」
「わかんない、は便利だね。
…でも、酷いなぁ、ユイ。前は好きって言ってたよ」
ユイの肩が、きゅっと縮む。
(ひーとで、ぐちゃぐちゃだったから…)
「ねぇ、鷹臣さんとセックスしたか訊いてるんだけど?」
名前が出た瞬間、頭の奥がじんと熱くなる。
「や…して、な…」
「嘘」
明也はユイのズボンと下着をおろし、片脚を持ち上げる。
「やっ」
空気に触れたユイ自身は重力に逆らわないまま少し震えた。
恥ずかしい格好のまま、明也に隅々まで見られる。
前と、後ろ。濡れ具合、匂い。
「……ふうん、してなさそう」
そのまま、解れていない後ろに明也の指が入った。
「っ…」
ユイの体がピクリと反応する。
何度もされてきた、Ωだから仕方ない行為。優しい声を求めた代償。
「低俗なαならさ」
ぽつりと。
「すぐ分かるんだけど」
ユイの額に、軽く唇が触れる。
意味を持たせないような、短い接触。
そして、指を出し入れされる。
すぐに濡れる、Ωの浅ましく思える体。
指を動かしながら明也は続けた。
「鷹臣さんは違うよね、頭がいい」
次は、キスをする。
頬に、それから、髪に。
「だから、厄介でしょ。
ユイから俺を遠ざけるし、正しいこと言ってる振りしてユイを傷付けるし、」
囁きが距離を詰める。そして、再び深いキスをした。
同時に舌で何かを押し込まれて、ユイはそれを不可抗力で嚥下してしまった。
「ん、あっくん、ゆい…な…んか、のんじゃった……」
ユイの瞳に涙が滲む。
(こわい、こわい…)
「あー、Ωのフェロモン誘発剤、わかる?
赤ちゃん欲しくなる薬」
「…??」
ドクドクと鼓動が脈打ち、体が熱くなる感覚。
「また、赤ちゃん作っちゃおう」
ユイの目が見開かれ、焦点が合わなくなった。
「ユイさ、放っておかれて寂しかったよね。
寂しかった分、ちゃんと可愛がらなきゃ。Ωだもんね」
何事もなかったかのように、慰める声と言葉が静かに重なる。
「ユイはセックスしないと、価値ないって思っちゃうだろ?」
ユイは揺れる脳で必死に考えた。
「あっくん、またってなに?…あっくん、ゆいの、あかちゃん…?」
(どうしよう、どうしよう…)
「あれ、まだ気付いてなかったんだ?」
その一言で、ユイの全身は脱力した。
「……ぁ、」
何か言おうとして、やめる。
胸の奥に、冷たいものが残った。
明也は、ユイの額にもう一度、軽く唇を当てる。
今度は、少し長く。
「大丈夫、今度は一緒に育ててみよう?」
その言葉に、ユイは頷かなかった。
(わるいこと…)
壁に背を預けたまま、視線を落とす。
明也はお構いなしに自身の昂ぶりでユイを貫いた。
「ぃや…」
何か大事なものが、遠くなった気がした。
でも、それが何かは、考えられなかった。
(ひーと、またきちゃう…)
嫌だったのに。
ヒートの熱が、フェロモンの香りが、すべてを押し流した。
響く水音と、肌が触れ合う音と、滴る互いの体液、白濁。
「あっくん、はなして…」
「いや…わるいこと…したくないのに、」
「ごめんなさい」
「ゆるして」
すべての言葉は宙を彷徨って全く届かなかった。
遮光カーテンの隙間から、光が、ゆっくり遠ざかる。
「こんなことなら、嘘でもとっとと噛んどけばよかったね」
項に走る痛みに、ユイの体は震えた。
噛まれたのだとわかったときには、もう遅かった。
苦しくて、汚れた薄布を掻き集めて巣のようなものを作ってたみたが、正しいやり方がわからなかった。
明也に嘲笑われて、ぐちゃぐちゃにされた薄布にくるまりながら。
もう他にすることがなくて、ユイは床に座り、何度も数を数えながら遠くの壁を見つめた。
胃液がせり上がって、飲み込んで、むせて、結局吐いて。
胸の奥が、ひりひりする。
言葉にならない遅れた違和感だけが残る。
(しかたない。しかたないって、だれが、いってたんだっけ…)
でも本能が満たされてしまう。
ユイはボロボロのシーツにくるまって、静かに眠った。
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