新卒社畜、SS級ランカー御用達の娼館で肉体労働します。〜毎日俺を買う勇者たちが絶倫すぎる〜

さか様

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エステバンとの三日三晩の仕事が終わってから、娼館の空気が、目に見えないところで変わった。

廊下ですれ違うスタッフが、一瞬だけ俺を見る。
廊下はそんなに広くないから、見ないふりもしきれない。

「……元気、だよね」
「顔色、いい……」

ひそひそ声が、完全に隠れる気もなく耳に入ってくる。

俺はというと、普通に起きて、普通に歩いて、言われた仕事をこなしていた。
まぁたしかに終わった直後はドロドロできつかったけど。

体に違和感もなく、むしろよく寝て起きて、いつもより調子がいいくらいだ。

それが、どうやら問題らしい。

「……昴」

呼ばれて事務室に入ると、リーネが椅子に腰掛けたままこちらを見ていた。

表情が、いつもより真面目だ。

「健康診断、受けてほしい」

なんだこいつみたいな顔してる。

「……え?」

「お願い」

言い切り。

「頑丈なのは分かった。でも、ここでは普通じゃないかも」

視線が、頭から足先まで一度なぞられる。

「スタッフもちょっと引いてる」

え、引かれてるんだ。

「壊れなかったから良かった、で終わらせたくないから、ちゃんと確認」

冗談じゃないことだけは、はっきり伝わってくる。
リーネは、少しだけ間を置いた。

「……そもそも、エステバンが帰ってきた時点で、嫌な予感はした」

過去形なのが、逆に重い。

「ちゃんと、言うね」

なんだなんだ、勝手に始まる感じ?
リーネは淡々と続ける。

「エステバンは長期遠征を専門にしてる。
専属を付けないで、わざと欲を溜める。で、帰ってきて、時間をかけてその欲を解放する」

事実だけを並べる。
遅漏絶倫の…なるほど。

「私は、当時スタッフだったんだ。今みたいな慣らし役や受付はしてなかった」

……現場、か。
俺みたいなことしてたんだ。

「もしかして、体、壊しました?」

俺が聞くと、リーネは短く頷いた。

「あれは私の元彼というやつだ。
専属にならない代わりに大金を貰って度々相手をした。地獄だ、」

それ以上は語らない。
なんかやばそう、あんなのを何度も…?普通に無理なんだが。

「…まぁ、だから今、受付にいて、時々慣らし役もやってる」

理由としては十分すぎた。
リーネは、まっすぐ俺を見る。

「昴は確かに頑丈だ、でも、無敵じゃない」

……それはこの世界に来てから、何度か思い知らされている。

「健康診断、絶対受けること」

「……はい」

即答だった。

廊下に出ると、今度は別の視線に気づく。

ガルドとアルベルト。

二人とも、妙に近い距離で立っている。

言葉は少なく視線で何か訴える。
しょんぼりした大型犬…おっと失礼。

心配、なのか。
嫉妬、なのか。

三日三晩、自分たちの手の届かないところにいたことが単純に面白くなかっただけか。

それとも、自分の欲をぶつけそびれた反動?

……いや。
ふと思い出す。デートしたり談笑したり、なんだかんだで楽しい日々。

…好意、なのか?

考え始めると、候補だけが増えていく。

ガルドは何か言いかけて、やめる。
アルベルトも、口を開きかけて、閉じる。

二人とも、普段よりずっと分かりにくい。

(……よく分からん)

心配と、独占欲と、欲と、好意と。

どれか一つか、全部混ざってるのか。
経験に乏しい俺には、判別できない。

……まあ。

分からなくても、今すぐ困るわけじゃない。

とりあえず生きてるし、元気だし。
それで十分だ。

俺は、軽く息を吐いた。
まぁ鎌くらいかけてやろう。

「…むちゃするなって言われましたよ、」

事実だし。
二人が、同時に微妙な顔をする。
 
……いやいや、露骨だな。無理そうな顔。

でも、それ以上は考えない。

考え始めると、きっと面倒になる。
……それで。

ふと、一番根本的なことに気づく。

「……あれ?」

ガルドとアルベルトを、改めて見比べる。

装備、ない。
討伐帰り特有の血と土の匂いも、ない。

「……お二人」

声をかけると同時にこちらを見る。
反応、早っ。

「今日仕事は?」

俺は首を傾げた。
ほんの一瞬だけ、二人の間に沈黙が落ちた。

「……その、休みだ」

ガルドが答え、アルベルトも頷く。

「ええ、調整日です」

調整日。便利な言葉だな。

「……指名しに来てるっていうより、もう入り浸ってません?」

言った瞬間、二人とも視線を逸らす。
これは分かりやすすぎる。

「……結果的に、だ」

ガルドが言う。

「昴がいるので」

アルベルトも平然と続ける。

結果的にじゃないな?

「……あれー、仕事って、そんなに自由でしたっけ」

俺は天井を見上げた。少なくとも俺の世界では、そんなことないから。

「成果主義だ」

ガルドは真顔だ。

「はい、任務を達成していれば問題ありません」

アルベルトも真面目だ。

……なるほど。
この世界、ランカー自身のの裁量がでかすぎる。

「……俺の世界だったら、怒られてますね」

その一言に、二人とも同時に首を傾げた。

「なぜ?」
「成果は出しているが?」

……話が通じない。
まぁ、成果出してれば自由な会社もある…か?
フレックス?よくわかんないけど。

俺はため息混じりに笑った。

「……いえ、なんでもないです」

結局、境界が全部曖昧。
でも二人ともここにいて。それだけは、はっきりしている。

(……まあ、なんとなく…答え出てる気もするけど。
そんな要素が一体どこに…?)

俺は、深追いするのをやめた。

考え始めると、また面倒になる。

この世界、仕事と私情の境目がとことん緩そうだ。

……うらやましいような、そうでもないような。

俺は廊下の向こうをちらっと見てから、小さく息を吐いた。

「……入り浸るなら、せめて、邪魔しないでくださいね」

二人が、揃って微妙な顔をする。
あー、SS級にそんなことを言っていいのか?わからん。

……まぁたぶん、明日もこの人たちここにいるだろう。
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