新卒社畜、SS級ランカー御用達の娼館で肉体労働します。〜毎日俺を買う勇者たちが絶倫すぎる〜

さか様

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『健康診断』と聞いて、俺は完全に前の世界のそれを想像していた。

身長、体重、血圧。
はい深呼吸して、異常なし。

……違った。

案内されたのは、娼館の系列検査機関。

「ルーンに勤めている方ですね、」

白衣の検査員が俺を見て言った。

看板の装飾は控えめで、石造りの建物は静かで、どこか研究施設に近い雰囲気だった。

「……あ、はい」

あの文字、ルーンって読むんだ。
俺は自分の勤めている店の読み方を知らなかったことに気づく。

「職種別検査になりますので」

検査員が淡々と言う。

「……職種?」

「娼館勤務者用です」

ほう、そう来たか。

横を見ると、なぜかガルドとアルベルトがいる。

「……なんでついてきてるんですか」

「心配だからだ」
「当然です」

ほう、そう来たか。(二回目)

最初の部屋は、体力測定用の広い空間だった。

床には魔法陣、壁には計測器。

「持久力、回復力、反応速度を見ます」

走る。
止まる。
呼吸を整える。

「回復、早いですね」

検査員が記録を続けていく中で、負荷が段階的に上がる。

「……まだ行けます?」

「行けます。
通勤ラッシュ、終電ラッシュ、社内や外回りで走り回っていたので」

「…?」

検査員には意味がわからないのか、そうか。

結果、
体力:SS級。

備考欄には、
「長時間労働・不規則勤務適応済み」

次は、メンタル評価。

静かな部屋に通され、椅子に座らされる。

質問は淡々としていた。

「理不尽な要求を受けた場合は?」

「まず、対応します」

基本だろ。

「拒否は?」

「後回しにします」

そんなものはない。

「限界を感じたら?」

「……調整します」

検査員は、一切表情を変えず記録を続ける。

「…ちょっと試しにいいですか?"こんなこともできないのによく働いてるな"」

「…はい、申し訳ありません。明日までにはしっかりやらせてもらいます」

社畜テンプレートの受け答えだ。

メンタル:S級。

コメント:
「ストレス耐性高。
ただし自己後回し傾向あり」。

あー、コメントが刺さる。

次は、身体の柔軟性。

可動域の測定。関節の曲げ伸ばし、開脚角度。

「無理はしないでください」

「はい」

「……思ったより、柔らかいですね」

柔軟性:A級。

まあ、これは仕事のうちだから。

問題は、次の部屋だった。

「耐久検査です」

……耐久?

「局所と穴の、です」

局所と穴。

「反射、緊張度、順応性を確認します」

触診。
圧の変化。
拡張耐性。
達するまでの早さ。

「……ひゃ、んっ、」

思わず声が出て、自分で驚く。反射的に手で口を塞いだ。

検査員は動じない。

「緊張が抜けるの、早いですね」

記録、記録。
触れて、何かが出入りして、また記録。

ぬちゅ、ぐぽ、となんか聞いちゃいけない音がする。
なんか…頭ぼーっとしてきたな…

「はー、はーっ…ぁ、ふ…ん、」

これ以上は、やめてくれ。

耐久・柔軟性:SS級。

理由欄:
「順応が異常に早い。
負荷変化への対応が良好」。

……異常に良好?

最後は、香油耐性。

「微量です」

試験管から、ほんの一滴。

「……反応、確認」

数秒。
あー、なんかムズムズする。
これさっき触られたからかな?どうなっちゃってるの、俺の体は…。

「あ、効いてますね」

早いらしい。

「え、やっぱ弱いってことですか」

「はい、よわよわです」

即答。よわよわ。

香油耐性:E-。

マイナスって評価あるんだ。

総合評価。

検査員が端末を見ながら読み上げる。

「体は非常にタフで、精神的に折れにくく、後ろは受け入れ準備が常に整っています。
…男娼向けの逸材です」

言い切りだった。逸材て。

横を見る。

ガルドは、安堵しながらも露骨に嬉しそうな顔。
アルベルトは、満足そうに頷いている。

「……いや、お二人が何故喜んで…?」

「誇るべきだ」
「希少です」

…すぐ討伐行ってきてください。

検査員が、補足のように続ける。

「ルーンのポイント制度、聞きました?
こちら指名数、滞在時間、金額で加算されるんですが、」

……ポイント?
今日情報量多めだな。

「この間のエステバン様の指名で、かなり入っています。噂、耳に入ってますよ」

ここまで?

「このままだと…指名No.1の最短記録、更新しそうですね」

というかそれってリーネから聞く話では?
健康診断先でそんなこと聞く?
…指名No.1かぁ。いや、まだまだなんだろうけど。

――

なんやかんやで建物を出ると、空気が少し軽い。

「……健康でしたね」

アルベルトが言う。

「前の世界では不健康だったのがこっちでは一転してます」

…皮肉だ。

「だが…無事でよかった」

ガルドは少し目を細める。
え、そんな顔できるの?またビジュがいいことで。

それは、たぶん本音だ。
俺は少しだけ立ち止まった。

体力も、メンタルも、柔軟性(?)も。
全部、“仕事向き”として評価された。

前の世界と今の世界。

どこで人生を測られ、評価されるか本当に分からない。

「……まぁでも、社畜は世界を越えても社畜かぁ」

小さく呟くと、二人が同時に首を傾げた。

まあ、いい。
少なくとも自分が何者かは、少しはっきりしてきた。

それが良いかどうかは、まだ分からないけど。

検査結果の紙を眺めながら、ふと、素朴な疑問が浮かんだ。

「……あの」

紙をひらひらさせる。

「このSとかSSとかって、この世界だと普通なんですか?」

前の世界で言えば、成績、評価ランクとかそういうものに近い気はするけど。

ガルドとアルベルトが顔を見合わせる。

アルベルトが先に口を開いた。

「その値はまぁ、普通ではないですね…」

穏やかな口調。

「そもそも階級は、人にも、仕事にも割り振られるんですけど」

「仕事にも?」

優良企業とかそういうのかな?

「あー、あとは…武器、依頼、施設など」

…口コミ?レビュー?

「基準は統一されているが…運用にはかなり幅がある」

ガルドが続ける。

「SS級と呼ばれるランカーは人口比で言えば、0.05%程度だ」

……少な。貴重じゃん。

アルベルトが肩をすくめる。

「まぁ、登録していない人もいるので…正確な数字は、誰にも分からないんですけどね、」

「とりあえず、レアだ」

ガルドがまとめる。自分で言っちゃったよ。

……いやでも。
そのレアが、なんで俺の周りに三人もいるんだ?

ガルドは話を続けたそうにしている。

今までこういう話振られたことなかったのか。
まぁ、SS級ってなんか色々、畏敬というか距離置かれてそうだもんな。

「もっと聞かせてほしいです」

気には、なる。

「…そうか。
ちなみに、勇者のランクは実績と、家系で決まる」

家系、現実的だな。

「俺から見れば、勇者は代々続く家業だ」

ガルドは勇者が家業。
この世界、スケールが違う。マンホールで繋がってていい感じなの?これ。

「体格と、強さには恵まれた。それと――
昔、二日でドラゴンを五十体狩ったことがある」

……はい?

「ドラゴンスレイヤーの称号が付いた。
それで、SSにランクが上がった」

さらっと言うな。

俺は思わず、口をつぐんだ。

アルベルトが、気まずそうに咳払いする。

「……僕は少し、事情が違いますが」

少し?

「家は、めちゃくちゃ金持ちです」

家系…あー、お坊ちゃんの?

「ただ、“研究”の名目でスライムに資金を使いすぎて、勘当されまして」

あ、そうなんだ。
よくわかんないけど討伐対象に入れ込んでたらそりゃあ見限るだろ。

「でも、強さは本物です」

アルベルトは、なぜか胸を張り、ガルドが横で頷く。

「腕は確かだ。魔法も使えるんだ、アルベルトは」

新事実。

アルベルトは続ける。

「あとは、ガルドの討伐について行って、おこぼれ報酬をもらってます」

……それ、SS級の稼ぎ方?

「結果、実績が積み上がってランクが上がりました」

ヤブSS……?

いや、失礼か。
ちゃんと強いんだろう。

「……へぇ」

かけ離れたこの世界の仕組みに、俺の口から出たのはそれだけだった。

強さと、家と、金と、実績。
全部が絡み合って、SS級。

その隣で、俺は。

体力SS。
メンタルS。
穴SS。

「……そういう世界なんですね、」

思わず、呟く。

アルベルトが、面白そうに笑った。

「そういう世界です」

ガルドは、真面目な顔で言う。

「だから、昴の評価も間違ってはいない」

間違ってない、のか。

「……どこで評価されるか、分からないですね」

俺は、紙を折りたたんだ。

「まあ、なんとなく理解しました」

深追いはしない。
この世界のルールは、受け取った分だけ分かればいい。

「……とりあえず」

顔を上げる。

「討伐、行ってきてください。
入り浸ってないで。俺を指名するのにお金が必要だとお見受けします、」

ガルドとアルベルトが、同時に微妙な顔をした。

……あ。

やっぱり、入り浸ってる自覚はあるんだ。

自分の立ち位置が少しずつ見えてきたきはする。

建物の中が静かすぎたせいか、街の音がやけに現実的に聞こえる。

「……この健康診断って、今までの人生を点数で殴られた気分ですね」

ガルドは前を向いたまま答える。

「評価は、指標だ。だが、絶対ではない」

アルベルトは微笑んだ。

「気にしすぎる必要はありません。
……と言いたいところですが、昴の結果は…ちょっと、話題になりそうです」

……でしょうね。

俺は思い出したように聞いた。

「ところでエステバンさんも、SS級なんですよね、」

アルベルトが、少し遠い目をする。

「あー、はい、まぁ、」

……あ、えっと、地雷?

「……説明、しますか」

「覚悟は?」

ガルドが横目で聞く。
なにそれ怖い。

「いりますか?」

思わず俺は質問してしまう。

「まぁ、少し」

嫌な予感しかしない。
ただ、俺の覚悟とやらを受け取ったらしいガルドが話し始める。

「戦闘能力そのものは、正直に言えば、S級相当だ」

……ん?

「じゃあ、どうしてSSに?」

アルベルトが、少し言いにくそうに続ける。

「評価されているのは、継続任務適性です」

継続。

「極限環境」
「補給不足」
「睡眠制限」
「精神的圧迫」 
「対戦闘能力」

並べられる条件が、どれも重い。
エステバンだけ違う世界に生きてたりする?

ガルドが言う。

「普通はどこかで撤退するなり、任務を切り上げるだろう」

アルベルトが続ける。

「でもエステバンは、いかなる状況でも撤退しません」

ガルドが、少し嫌そうに言う。

「限界を越えるのではく、限界を、引き延ばす」

……やっぱり、そういう。
いや、なんかねちっこかったもんなぁ。

アルベルトは率直だった。

「あの人は我慢すること自体に、価値を見出している人です。疲労も、恐怖も、欲求も…全部溜めますね」

ガルドが、低く付け足す。

「で、解放のタイミングを自分で決める」

……三日三晩を共にした姿が、脳裏をよぎる。

「結果、任務成功率が異常に高いです。
途中で投げない、倒れるまで前に出る。
だから、“使える”と判断されます。」

アルベルトは肩をすくめた。

…ん、これはエステバンのことで合ってます?
最後の方めちゃくちゃ俺と被って正直動揺してる。

評価軸が、冷静すぎて怖い。

「……変態ですよね」

俺は正直に言った。自己紹介ではない、断じて。

二人とも、一瞬黙る。

「……否定はしない」

ガルドが答えた。

「……まあ。なんにせよ、エステバンさんがいないなら、しばらくは平和…ですかね」

ガルドとアルベルトが、同時に微妙な顔をした。

「……帰ってきたときは、また、溜めてると思いますけど」

アルベルトが小声で言う。
……ですよね。

健康診断の帰り道で、俺は一つ確信した。

この世界のSS級と呼ばれるものは、だいたいおかしい。

そして、その“おかしさ”の方向性が俺の社畜根性とどこかで重なっている気がする。いや、重なっている。

そんなシンパシー感じたくないですが。
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