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ガルドが戻ってきたのは、スライム事件の翌日、夜もだいぶ深くなってからだった。
扉が開いた瞬間空気が変わって、重たい気配が部屋に戻ってくる。
「……昴」
名前を呼ばれただけで、胸が少し跳ねた。
「ガルドさん…」
ガルドは一歩近づくなり、すぐに異変に気づいたらしい。
視線が、俺の顔から、立ち姿、呼吸の浅さへと落ちていく。
「……つらそうだな。アルベルトから聞いた。
その……“結腸がどうとか”言っていたが」
出た、考えないようにしてたのに。
やっぱ入ってましたよね…?
俺が言葉を探している間に、ガルドはもう距離を詰めていた。
抱きしめる腕は強いのに、乱暴じゃない。
「無茶をしたな」
責める口調じゃない。
確認に近い。
額に、短くキスが落ちる。
「今日は、無理するな」
そう言ってから、少しだけ間を置いて。
「……口だけでいい」
命令や提案ともまた違う、“決定事項”みたいな声。
指名してる以上、そういう流れなのは分かってる。
分かってる、けど。
「……俺、あんまり上手くないですよ」
正直に言うと、ガルドは小さく息を吐いた。
「上手さは要らない」
視線が、真っ直ぐ落ちてくる。
「俺が欲しいのは、昴だ」
……重い。
でも、嫌じゃないんだよなぁ。
抱きしめられたまま、逃げ場はないのに、不思議と安心する。
(同じもの、ついてるのに未だにこれはよくわからない…)
そんなことを考えている自分に、ちょっと笑いそうになった。
ガルドの手が、背中を撫でる。
「今日は、ゆっくり」
低く、静かに。
「俺が、そう決めた」
――反論の余地、ゼロ。
俺は小さく息を吐いて、頷いた。
「……はい」
その返事に、ガルドの腕が、ほんの少しだけ強くなる。
独占欲と、保護欲と、欲望が、全部混ざった抱擁。
(あー……)
アルベルトとは違う。
ガルドは、こういう人なんだと思い知らされた。
――
体を寄せたまま、しばらく言葉がなかった。
灯りは落としてあって、外の音も遠い。
ガルドの腕は、さっきよりも少しだけ力が抜けている。
「……今日は、やっぱりここまでで正解だったな」
ぽつりと、ガルドが言った。
「……はい」
そう返しながら、胸のあたりがじんわり温かくなる。
“してやった”でも
“我慢した”でもなくて、
“正解だった”って言い方が、ずるい。
ガルドの指が、ゆっくり俺の背中をなぞる。
「俺がいない間に、指名が入ると思うと……」
少し、言葉を選ぶ間。
「討伐に、力が入りすぎる」
……わぁ。
それ、嫉妬だと思う。自惚れてなければ。
アルベルトの名前は出てないのに、すぐ分かるし。
「……さっきも、本音を言えば結腸なんて言葉、」
低く、少しだけ苛立ちを含んだ声。
否定しない。
否定できない。
ガルドは小さく息を吐いた。
「…とにかく、隠す気はない」
視線が、まっすぐ落ちてくる。
「俺は、昴を他に触れさせるつもりはない。仕事柄今は我慢している」
胸の奥がきゅっとして、落ち着かなくなる。
「……だから、俺の専属になれ」
どこか不器用な言い方。
そんな目で見られたらかなりグラグラ来てしまう…。
俺にそんな趣味、なかったのになぁ。
「条件は、話し合う。金も、時間も、生活も、自由も」
ガルドは、視線を逸らさない。
「俺は、昴の全部を引き受けるつもりだ」
……いや、これ、完全にプロポーズでは?
心臓がうるさい。
「……急ですね」
そう言うと、ガルドは少しだけ眉を動かした。
「そうか?」
本気で分かってない顔。
「俺は、ずっと考えていた」
……ずるい、顔が良すぎる。
真っ直ぐで、逃げ道がなくて、重くて。
でも、ちゃんと刺さる。
「……少し、考えさせてくださいね」
正直な答え。
ガルドは、少しだけ目を細めた。
「いい」
そして、額に静かにキスを落とす。
「逃げないなら、それでいい」
そのまま、また抱き寄せられる。
(……だめだ)
完全に乙女になってしまう。
俺はシーツにくるまって忙しなく鳴る鼓動をやりすごした。
扉が開いた瞬間空気が変わって、重たい気配が部屋に戻ってくる。
「……昴」
名前を呼ばれただけで、胸が少し跳ねた。
「ガルドさん…」
ガルドは一歩近づくなり、すぐに異変に気づいたらしい。
視線が、俺の顔から、立ち姿、呼吸の浅さへと落ちていく。
「……つらそうだな。アルベルトから聞いた。
その……“結腸がどうとか”言っていたが」
出た、考えないようにしてたのに。
やっぱ入ってましたよね…?
俺が言葉を探している間に、ガルドはもう距離を詰めていた。
抱きしめる腕は強いのに、乱暴じゃない。
「無茶をしたな」
責める口調じゃない。
確認に近い。
額に、短くキスが落ちる。
「今日は、無理するな」
そう言ってから、少しだけ間を置いて。
「……口だけでいい」
命令や提案ともまた違う、“決定事項”みたいな声。
指名してる以上、そういう流れなのは分かってる。
分かってる、けど。
「……俺、あんまり上手くないですよ」
正直に言うと、ガルドは小さく息を吐いた。
「上手さは要らない」
視線が、真っ直ぐ落ちてくる。
「俺が欲しいのは、昴だ」
……重い。
でも、嫌じゃないんだよなぁ。
抱きしめられたまま、逃げ場はないのに、不思議と安心する。
(同じもの、ついてるのに未だにこれはよくわからない…)
そんなことを考えている自分に、ちょっと笑いそうになった。
ガルドの手が、背中を撫でる。
「今日は、ゆっくり」
低く、静かに。
「俺が、そう決めた」
――反論の余地、ゼロ。
俺は小さく息を吐いて、頷いた。
「……はい」
その返事に、ガルドの腕が、ほんの少しだけ強くなる。
独占欲と、保護欲と、欲望が、全部混ざった抱擁。
(あー……)
アルベルトとは違う。
ガルドは、こういう人なんだと思い知らされた。
――
体を寄せたまま、しばらく言葉がなかった。
灯りは落としてあって、外の音も遠い。
ガルドの腕は、さっきよりも少しだけ力が抜けている。
「……今日は、やっぱりここまでで正解だったな」
ぽつりと、ガルドが言った。
「……はい」
そう返しながら、胸のあたりがじんわり温かくなる。
“してやった”でも
“我慢した”でもなくて、
“正解だった”って言い方が、ずるい。
ガルドの指が、ゆっくり俺の背中をなぞる。
「俺がいない間に、指名が入ると思うと……」
少し、言葉を選ぶ間。
「討伐に、力が入りすぎる」
……わぁ。
それ、嫉妬だと思う。自惚れてなければ。
アルベルトの名前は出てないのに、すぐ分かるし。
「……さっきも、本音を言えば結腸なんて言葉、」
低く、少しだけ苛立ちを含んだ声。
否定しない。
否定できない。
ガルドは小さく息を吐いた。
「…とにかく、隠す気はない」
視線が、まっすぐ落ちてくる。
「俺は、昴を他に触れさせるつもりはない。仕事柄今は我慢している」
胸の奥がきゅっとして、落ち着かなくなる。
「……だから、俺の専属になれ」
どこか不器用な言い方。
そんな目で見られたらかなりグラグラ来てしまう…。
俺にそんな趣味、なかったのになぁ。
「条件は、話し合う。金も、時間も、生活も、自由も」
ガルドは、視線を逸らさない。
「俺は、昴の全部を引き受けるつもりだ」
……いや、これ、完全にプロポーズでは?
心臓がうるさい。
「……急ですね」
そう言うと、ガルドは少しだけ眉を動かした。
「そうか?」
本気で分かってない顔。
「俺は、ずっと考えていた」
……ずるい、顔が良すぎる。
真っ直ぐで、逃げ道がなくて、重くて。
でも、ちゃんと刺さる。
「……少し、考えさせてくださいね」
正直な答え。
ガルドは、少しだけ目を細めた。
「いい」
そして、額に静かにキスを落とす。
「逃げないなら、それでいい」
そのまま、また抱き寄せられる。
(……だめだ)
完全に乙女になってしまう。
俺はシーツにくるまって忙しなく鳴る鼓動をやりすごした。
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